りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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【全ステージレビュー】バーチャル・ツール・ド・フランス2020

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今年のバーチャルレースの集大成とも言えるレースが、ツール・ド・フランスを主催するA.S.O.とZwiftとのタッグで実現した。

その名も「バーチャル・ツール・ド・フランス」。今年のツール・ド・フランスが「本来」開催されるはずだった期間の土日を利用して、全6ステージで開催された。

男子は23チーム、女子は17チームが参加。男子は全部で19あるワールドツアーチームのうち、UAEチーム・エミレーツとモビスター・チームを除く17チームが参戦するなど、非常に豪華。

出場選手もクリス・フルーム、ゲラント・トーマス、エガン・ベルナルのツール覇者に加え、ジュリアン・アラフィリップ、マチュー・ファンデルポール、世界王者マッズ・ピーダスン、グレッグ・ファンアーフェルマート、サム・ベネットなどまさに世界最高峰の布陣である。

 

今回は、そんな「バーチャル・ツール」の全6ステージの展開を振り返っていきたいと思う。

※本記事では男子レースのみを対象としております。

 

 

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↓各ステージのプレビューなど詳細はこちらの記事をチェック↓

chariyorum.com

 

 

第1ステージ ワトピア・ヒリー・ルート 36.4㎞(丘陵)

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第1ステージは中盤に登坂距離2km、平均勾配4.5%、最大勾配8%の3級山岳「ズイフト・KOM」を擁する1周9.2kmの周回コースを4周するレイアウト。総獲得標高は432m。

各周回のスプリントポイントではミッチェルトン・スコットのダリル・インピーが、KOMポイントではアルペシン・フェニックスのフィリップ・ワルスレーベンが積極的な動きを見せてポイントを収集。

最終周回のズイフト・KOMの登りでは各選手が「ライトウェイト(15秒間、体重が9.5kg軽くなる)」を使用してペースを上げるも、決定的な分断が起きることなく、最後は集団スプリントでの決着となった。

残り600mを切ってミハウ・クウィアトコウスキが「エアロブースト(15秒間、自分の空力特性が向上)」を使用して先頭に躍り出るが早すぎた。

残り400mを切ってギヨーム・ファンケイルスブルクが同じくエアロブーストを使用して先頭を奪い取るが、これも時期尚早だった。

最も完璧なタイミングでエアロブーストを使用したのが「バーチャル最強チーム」NTTプロサイクリングからの刺客ライアン・ギボンス。

残り250mを切ったタイミングでのエアロブーストの使用で一気に先頭を突き抜けていき、その後にエアロブーストを使用したピエール=アンドレ・コテ(ラリー・サイクリング)を寄せ付けず、フィニッシュラインを先頭で通過した。

Embed from Getty Images

今年の南アフリカロード王者ギボンス。現実のレースではまだあまりお披露目できていなかったが、一足先にこのバーチャルレースでの映像で見せびらかしてくれた。

 

最後にイスラエル・スタートアップネーションのフレディ・オベットもエアロブーストを使っていたが、これは完全にタイミングが遅すぎて、4位フィニッシュしたマチュー・ファンデルポールにすら届かず5位でのゴールとなった。

 

エアロブーストの使用が勝敗を決める重要なポイントとなったものの、そのタイミングが最終的な優劣を分ける結果となった。

NTTプロサイクリングは6位にもエドヴァルド・ボアッソンハーゲンを入れていたことでマイヨ・ジョーヌを獲得。

ポイント賞は途中まではミッチェルトン・スコットがリードしていたものの、最終的にフィニッシュでのポイントによってNTTプロサイクリングが逆転。山岳賞はアルペシン・フェニックス、新人賞は2位にコテを入れたラリー・サイクリングが獲得した。

 

 

第2ステージ ワトピア・マウンテン・ルート 29.5㎞(山岳)

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第2ステージは前回の舞台となったヒリー・ルートのある島から南下。海底トンネルを潜り、「エピックKOM」と呼ばれる雪の降り積もった長い長い登りを登っていく。

この登りは2級山岳となっており、登坂距離は10km前後。平均勾配は4%とされているがこれは平坦部分なども含んだ数字であり、勝負どころでは7%前後の厳しい勾配が続く。

 

このエピックKOMの先頭を取ったのはイスラエル・スタートアップネーションのジェームス・ピッコリ。昨年のツアー・オブ・ユタで頭角を現し、今年からワールドツアーとなったイスラエルに移籍。

先日開催された「ズイフト・ツアー・フォー・オール」でもステージ1勝するなど、バーチャルレースへの適性を見せるクライマーだ。

 

そしてエピックKOMを超えたあと、さらにプロトンは「ラジオ・タワー」と呼ばれる電波塔に続く急勾配の登りを登らされることに。

平均勾配13%超のこの激坂で集団はバラバラに。登り切った時点で先頭集団はテイオ・ゲイガンハート(チーム・イネオス)、フレディ・オヴェット(イスラエル・サイクリングアカデミー)、ニコラ・エデ(コフィディス・ソルシオンクレディ)、マイケル・ウッズ(EFプロサイクリング)の4名に絞り込まれた。

しかし、その後の長い下りを経て、追走の10名とのタイム差が徐々に縮まっていく。

結局、残り6.7km地点で先頭4名は追走集団に吸収され、14名の小集団でフィニッシュに向かうこととなる。

 

最後のスプリントでは、残り500mで「ブレイクアウェイ・ブリトー(10秒間、自分の後ろに付くライダーのドラフティングを無効にする)」を使用したパトリック・ベヴィン(CCCチーム)が抜け出す。

世界トップクラスのTTスペシャリストであるベヴィンがそのまま逃げ切る可能性すら感じさせていた中で、集団から数名がエアロブーストを使用して追撃。残り200mでベヴィンは吸収されてしまう。

最後はスプリント勝負。ここで勝利を掴んだのが、今年プロ初勝利を遂げたばかりのジュリアン・ベルナール(トレック・セガフレード)。

チームにバーチャルレース初の勝利をもたらした。

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英雄ジャン=フランソワ・ベルナールの息子としての重圧も大きかったであろうジュリアン。しかし今年のプロ初勝利とこのバーチャルでの活躍を皮切りに、彼自身の伝説を創り上げていってほしい。 

 

TOP5には入れなかったものの、6位にステファン・デボード、8位にルイ・メインチェスを送り込んだNTTプロサイクリングが前日の貯金と合わせマイヨ・ジョーヌとマイヨ・ヴェールをキープ。

山岳賞はピッコリの2級山岳先頭通過とオヴェットの4位通過を成功させているイスラエル・スタートアップネーションが獲得。

NTTとイスラエルという、「バーチャル巧者」が着実に結果を残しつつある。

 

 

第3ステージ フランスR.G.V 48㎞(平坦)

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今回新たに発表された新コース「フランスR.G.V」(TGVをもじってる?)。

モン=サン=ミシェルや「Aqueduc(水道橋)KOM」の舞台として登場するポン=デュ=ガールなど、フランスを代表する世界遺産やひまわりの風景などが再現されている。「走ってみたい!」と強く想わせる新コースだ。

今回の第3ステージではフラットなレイアウトを使用。上述の水道橋KOMも厳しい登りでは決してなく、1周24㎞・獲得標高133.3mの周回コースを2周する。

 

Zwiftのレースでの一つの特徴として、「逃げ」がなかなか生まれないという特性がある。周回途中でのポイントも勝利に重要になるという要素が理由なのかもしれないが、同じようなルールをもつハンマー・シリーズでは普通に逃げが生まれるあたり、リアルとバーチャルの違いの一つの形なのかもしれない。

途中のスプリントポイントに向けてチャールズ・クォーターマン(トレック・セガフレード)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン、アレックス・キルシュなどが抜け出す場面なども見えたが、いずれもポイントに到達する前に集団に吸収されるなど、試行錯誤の場面も多く見られる。

(強力なアイテムはフィニッシュまで保持しておきたいという気持ちが、途中での激しい展開を生み出されない理由になってしまっているのかもしれない)

 

全体的には非常に落ち着いた展開を見せたうえで、最後は30名程度の集団でのスプリントに。

残り500mでマイヨ・ヴェールを切るエドヴァルド・ボアッソンハーゲンが早めのエアロブーストを使用。他チームの選手たちもこれに釣られて何名かエアロブーストを使用していくが、このタイミングはあまりにも早すぎる。

NTTプロサイクリングはほかにマイヨ・ジョーヌを着るライアン・ギボンスやマイヨ・ブランを着るラスムス・ティレルなども先頭に躍り出てくるも、二人ともエアロブーストは持っておらず「ドラフトブースト(30秒間、人の後ろについた際の空気抵抗を50%削減)」でなんとかもがくしかない。だが、これでは勝てない。

最終的には、焦らず最高のタイミングでエアロブーストを使用したカラム・スコットソン(ミッチェルトン・スコット)、ジェイク・スチュワート(グルパマ・エフデジ)ら若手選手たちが抜け出すも、そのずっと後方から一気に10人近くをごぼう抜きしていったマッテオ・ダルシン(ラリー・サイクリング)が最後に勝利を掴み取った。

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2018年ツール・ド・ランカウイ時のダルシン。当時、カナダロードチャンピオンのジャージを着用していた。

 

ラリー・サイクリングはバーチャルレースで頭角を現しているチームの1つであり、ダルシンはその中でもよく名前の挙がる選手である。

第5ステージの解説で栗村さんが語っていたように、ラリー・サイクリングはアメリカのズイフトチャンピオンをアドバイザーとして雇用して、完璧な戦略で臨んでいたようで、チームとしての本気度が伺える。そして、その投資がしっかりと結果に結びついたわけだ。

今後、バーチャルレースがプロ選手たちの間でどれだけの存在感を持つことになるかわからないが、同じ盛り上がりが継続していくとしたら、ラリーとダルシンは引き続き注目していくべき人物だろう。

 

 

第4ステージ フランス・キャス=パッツ 45.8㎞(丘陵)

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第4ステージは第3ステージとほぼ同じコースを使用しているものの、「アキュデューク・KOM」を通過したあと2つ目のスプリントポイントには向かわず、登坂距離2.4km・平均勾配4%の3級山岳「プチKOM*1」を登る。

1周の距離は第3ステージよりも少し短い22.9km。これを2周するレイアウトである。

 

プチKOMの存在で第3ステージよりかは集団のセレクションがかかる可能性のあるステージ。実際、1周目のフィニッシュ地点に到達した段階で、集団は18名に。そして2周目に突入した直後に集団かライアン・ミューレン(トレック・セガフレード)が単独でするりと抜け出し、今大会では珍しい「単独逃げ」を仕掛けるシーンも見られたが、最大でもプロトンに11秒差しかつけることができず、残り17㎞を切ったところであえなく捕まった。

やはりズイフトのレースでは逃げが難しい。

 

そしてやがて集団も30名以上の人数に膨れ上がり、迎えた最後の「プチKOM」。平均勾配4%とはいえ、勝負所では5%以上の勾配がだらだらと続く。

ここで「ライトウェイト(15秒間、体重が9.5kg軽くなる)」を使用してマイヨ・ジョーヌのミケル・ヴァルグレンを始めとした数名が飛び出し、最終的にはヴァルグレン、ミヒャエル・ゴグル(共にNTTプロサイクリング)、ダニエル・テュレク、フレディ・オベット(共にイスラエル・スタートアップネーション)、ローソン・クラドック(EFプロサイクリング)、ウィリアム・クラーク(トレック・セガフレード)、ニック・シュルツ(ミッチェルトン・スコット)、ヴァランタン・マデュアス(グルパマFDJ)の8名に。

あとは、この中のどの選手が「エアロブースト(15秒間、自分の空力特性が向上)」を持っているかだが・・・マイヨ・ジョーヌのヴァルグレンは早々に持っていないことが判明。頼みの綱はチームメートのマイヨ・ヴェール、ゴグルであった。

しかしそのゴグルもエアロブーストを持っていなかった!

だが彼は残り1.2㎞。フラム・ルージュを目前にして、一旦集団の後方に。

そこから持っていた「ドラフトブースト(30秒間、人の後ろについた際の空気抵抗を50%削減)」を発動。

一気にするすると集団の前の方に飛び出していき、しかもそこに、ヴァルグレンが食らいついていった。

 

だが、結局彼らはそれ以上伸びることはできず、アイテムも使用していない集団にいとも簡単に捕まえられてしまう。

そしてダニエル・テュレクが集団の先頭に出てきたと同時に「ブレイカウェイ・ブリトー(10秒間、自分の後ろについた選手にドラフティングが発生しない)」を使用。

少し前に飛び出す形となるが、勝利に直結するものではなかった。

 

だが、もしかしたらこれがイスラエル・スタートアップネーションの戦略だったのかもしれない。

テュレクのこの動きに釣られるようにして、トレック・セガフレードのウィリアム・クラークが「ドラフトブースト」を使用。

そのまま一気にテュレクを追い抜いて単独で集団から抜け出し、すわそのまま逃げ切りか、といった可能性を感じさせた。

だが、やはり残り500m弱からの飛び出しは早すぎた。

懸命にこれを追いかけるミケル・ヴァルグレンの背中についていたテュレクのチームメート、フレディ・オベットが、絶妙なタイミングでエアロブーストを発動。

同じく最適なタイミングまでエアロブーストを保持していたニック・シュルツも加速するものの、これを振り切ってオベットがツアー・フォー・オール第1ステージに続くバーチャルレース2勝目を記録する。

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2018年はBMCレーシングチームのトレーニーだったオベット。

 

第1ステージ以降積極的な動きを見せ続けて現在山岳賞ジャージもキープしているオベットはまさに「脚質・デジタル」。

今回も山岳賞に集中するかと思っていた中でしっかりとエアロブーストを保持して最後の集団スプリントに賭けてきて、それを見事に結実させた形だ。

 

だがやはりNTTプロサイクリングは強い。この日も3位にヴァルグレン、8位にゴグルをしっかりと入れてきて、マイヨ・ジョーヌやマイヨ・ヴェールを保持。

「デジタル」チームとしての威厳を見せ続けている格好だ。

 

 

第5ステージ  フランス・ラ・レーヌ 22.8㎞(山岳)

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La Reine、「女王」の名を冠した今大会文句なしのクイーンステージ。

新MAP「フランス」の南方に用意されたモン・ヴァントゥを中腹まで登るレイアウトである。

 

第4ステージでも登場した「プチKOM」を通過した直後からモン・ヴァントゥの11.6㎞登坂が開始される。8%以上の勾配がいきなり始まり、後半は10%を常に超えるような厳しい登り。

この登りが開始された時点で22名程度に絞り込まれていた集団の中から、まずはマイケル・ウッズ(EFプロサイクリング)がエアロブーストを使用して?抜け出していく。

ここに食らいついていったのがマイヨ・ヴェールのドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(NTTプロサイクリング)とヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィズマ)。

さらに残り10㎞を切って9~10%の急勾配が始まってくると、先頭はウッズ、ポッツォヴィーヴォ、マイヨ・ジョーヌのルイ・メインチェス(NTT)、マイヨ・ブランのステファン・デボード(NTT)、エディ・ダンバー(イネオス)の5名に。

さらに後続からはNTTプロサイクリングのベン・オコーナーも追い上げてきており、今大会絶好調のNTTプロサイクリングがクイーンステージでも強さを見せつけている。

 

そんな中、終始展開を作り続けていたのがマイケル・ウッズ。

ダンシングを多用し、常に400Wを超える高出力を出し続けているウッズのハイ・ペースによってさらに集団は分裂していき、残り7.5㎞で先頭はウッズ、ポッツォヴィーヴォ、メインチェスの3名だけに。

3月のパリ~ニースで大腿骨骨折という大怪我を負い、今年のツール・ド・フランスも絶望的かと言われていたウッズが、そこからわずか4か月でこの走りである。

そして残り4.5㎞を切って、12%の最も厳しい勾配の区間に突入していく。

なおもウッズのペースは衰えず、いよいよマイヨ・ジョーヌかつズイフト・ツアー・フォー・オールのクイーンステージ勝者のルイ・メインチェスも、どうしようもなく遅れていった。

 

残り4㎞を切って、さらにウッズがペースを上げてポッツォヴィーヴォも突き放していく。

ここでポッツォヴィーヴォ、「ライトウェイト(15秒間、体重が9.5kg軽くなる)」を使用。

本来であればこのあとの勝負所で使いたいところであったが、ここで使わなければウッズとのタイム差が決定的なものになってしまう・・・!

一気に加速したポッツォヴィーヴォだったが、しかし、淡々とペダルを回すウッズには結局追いつくことができず、ライトウェイトの効果が切れたあとは再び、ポッツォヴィーヴォとのタイム差を広げていくこととなった。

 

マイケル・ウッズ、圧巻の走り。残り2.2㎞でダメ押しのライトウェイトも使用し*2、その勝利を確実なものとした。

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パリ~ニース第5ステージでのウッズ。この後、彼の身に悲劇が巻き起こることとなる。 

 

大怪我からの復活。すでに、8/29から開催予定のツール・ド・フランスのロングリストには名前が載っており、この走りをツール本番でも見せてくれる可能性もある。

遅咲きの新星は、まだまだ輝きを残し続けている。

 

そして、この日もチームとしての最強の走りを見せてくれたのが NTTプロサイクリング。

2位から4位をポッツォヴィーヴォ、メインチェス、デボードで独占。そして7位にもベン・オコーナーを入れており、唯一保持していなかった山岳賞ジャージも奪い取り、4賞独占のまま最終ステージへと突入していく。

 

 

第6ステージ フランス・シャンゼリゼ 42.8km(平坦)

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ツール・ド・フランスの最終日はやはりこのステージ。スプリンターの世界選手権「シャンゼリゼ」を完全再現。

ジャンヌダルク像を越えて、石畳の登り基調のシャンゼリゼ通りを抜けて、凱旋門の周りを周回していく。

1周6.6kmの周回コースを6周するレイアウトである。

 

スプリンターのための最終日とは言え、ズイフトの特性上、あるいはチームによっては高地トレーニング中で不利な状況ということもあり、サム・ベネットを始めとしたトップスプリンターたちは序盤から脱落。

最終盤は結局今大会常に絶好調だったNTTプロサイクリングのライアン・ギボンス(マイヨ・ジョーヌ)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(マイヨ・ヴェール)などが優勢と見られる中、30名程度の集団による最後のスプリントに突入していく。
残り1.3㎞でバンジャマン・トマ、ブルーノ・アルミライルのグルパマFDJ若手コンビが抜け出す。集団から1秒差をつけてフラム・ルージュを通過! しかし集団はこれを落ち着いて追撃。

そして残り500mを通過してブライアン・コカールの動きに誘われる形でエドヴァルド・ボアッソンハーゲンが早めのエアロブーストを使用。加速する彼の背中に乗って、マイヨ・ジョーヌのライアン・ギボンスが、「ドラフトブースト(30秒間、人の後ろについた際の空気抵抗を50%削減)」で加速。先頭に躍り出る。

が、ドラフトブーストでは後続を突き放すまでにはいかない!

その後ろから、エアロブースト祭り。最後にギボンスを差してゴールラインを先頭で潜り抜けたのは、第4ステージでは敗北に終わってしまっていたウィリアム・クラークだった。

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過去にはチャンピオン・システム・プロサイクリングやドラパック・プロフェッショナル・サイクリングの一員としてツアー・オブ・ジャパンなどにも参戦し、2勝もしている35歳のオーストラリア人。 

キャノンデール=EFを経由して昨年からトレック入り。いわゆる「バーチャル世代」と比べると一回り年齢はいっているベテラン組だが、第4ステージから積極性を見せ続け、最後にしっかりと勝利を掴んだ。2016年のポルトガルのレース以来の勝利である(?)。

 

今回のフィニッシュは、これまでと比べても、各チームのエアロブーストの使いどころが統一されており、アイテムがありながらも実力で鎬を削る白熱のスプリントを見ることができたように思う。

また、FDJやNTTのチームワークを生かした戦術など、エアロブーストがない状態でもいかに戦略的に勝つかという模索も見られたような気がする。

今後、どれだけ(少なくともプロ選手の間で)このバーチャルレースが盛り上がるかはわからないが、このレーススタイルの発展のスピードを感じさせる展開であった。

 

 

 

いかがだったろうか。

バーチャル・ツール・ド・フランス。現実のレースと比べればもちろん、そのスプリントの迫力や選手たちの本気度など、かけ離れた部分も多いであろう。

だが、ある意味で本物のツール・ド・フランス以上にSNS上で小さな盛り上がりを見せたり、自転車ロードレースというスポーツの可能性を感じさせる一つのきっかけにはなったのかもしれない。

現状のバーチャルレースの課題や今後の可能性については、あきさねゆうさんが下記のブログでも語っているため、ぜひ読んでいただきたい。

cycleroadrace.net

 

 

今後、このバーチャルレースがどのような発展を遂げていくかはわからないが、より面白く感じさせる・盛り上げるフォーマットを開発していき、私たちの前に届けられていくことを楽しみにしている。

 

バーチャル・ツール・ド・フランスの全レースについて、下記の公式YouTubeチャンネルからすべて(ハイライトなども含め)無料で見られる。

www.youtube.com

 

また、Jsportsでは日本語実況・解説付きで見られるので、記事中でもお話した栗村さんによるラリー・サイクリングの強さの秘密や、辻啓さんならではの現地情報なども確認したい人は、そちらもチェックすること。

 

そしていよいよ来週からブエルタ・ア・ブルゴスやストラーデビアンケなど、いよいよリアルレースも大きなものが再開!

このブログでも次回以降、いよいよリアルレースについての記事を書いていく予定なので、引き続き皆さん、宜しくお願い致します。

 

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*1:第5ステージで登るモン・ヴァントゥの登り口にあたる。

*2:あれ? さっきの登り口でエアロブーストを使用してなかった?気のせい?

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