読み:ユーエーイー・チーム・エミレーツ
国籍:アラブ首長国連邦
略号:UAD
創設年:1991年(ただし、1997-1998は一時消滅)
GM:ジュゼッペ・サロンニ(イタリア)
使用機材:コルナゴ(イタリア)
2019年UCIチームランキング:4位
(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります)
参考
UAE-Team Emirates 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
UAE-Team Emirates 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
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2020年ロースター
※2019年獲得UCIポイント順。
総合勢ではマーティンを失った代わりにフォルモロとデラクルスを獲得。いずれもツールで総合エースを張れるような存在ではないため・・・2019年ブエルタ総合3位のポガチャルが、いきなりツールに挑戦する。果たして奇跡はまたしても起こるのか、それとも。
スプリンター勢においては、2019年不調に苦しんだガビリアのために、盟友リケーゼが合流。こちらは果たして復活を見せられるか。北のクラシックは、クリストフの引き続きの好調に期待。
そして第4の軸は若手。ポガチャルとフィリプセンで成功した2019年。しかしそのすべてが良かったわけではなく、フアン・モラノやオリヴェイラ兄弟は(もしかしたらトラックにリソースを割いていたのかもしれないが)イマイチ目立ちきれなかったのは事実だ。
2020年も、マクナルティ、ビョーグと期待の若手を積極的に採用。この才能を果たして、チームは生かしきれるのか。
注目選手
タデイ・ポガチャル(スロベニア、22歳)
脚質:オールラウンダー
2019年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間3勝、総合3位
- ツアー・オブ・カリフォルニア区間1勝、総合優勝
- ヴォルタ・アン・アルガルヴェ区間1勝、総合優勝
- イツリア・バスクカントリー総合6位
- ツアー・オブ・スロベニア総合4位
- 年間8勝
- 世界ランキング15位
2018年ツール・ド・ラヴニール覇者。とは言え、過去のラヴニール覇者でも、たとえば2010年覇者キンタナがグランツールで結果を出したのは2013年、2011年覇者のチャベスが結果を出したのは2015年、2015年覇者のソレルも、2016年覇者のゴデュも、翌年からいきなり結果を出すなんてことはまずなかった。
その意味で、2017年覇者のベルナルとこのポガチャルというのは、これまでのラヴニール覇者と比べても規格外である。ベルナルは結局、ツール・ド・フランスで類稀なる結果を出したとはいえ、自身のリザルトを残せたわけではないので、1年目でブエルタのステージ3勝と表彰台を手に入れたポガチャルは、もしかしたらベルナル以上の実績を出したとも言えるのかもしれない。しかも、ほぼ山岳アシスト不在の状況で、なのだから。
ただ、だからこそこれからが重要だ。才能は間違いないにしても、それをサポートできる体制がチームにしっかりとあるのか。また、本人の想像すら超えた結果を出したシーズンの次の年は、うまくいかないことも往々にしてある。
若くして成功した選手がその後、幸福に過ごせないこともままある事例である。慎重に見守っていきたいし、たとえ多少の不調に直面したとしても、本人も周りも、それを過度に気にすることのないように、しなければならない。
フェルナンド・ガビリア(コロンビア、26歳)
脚質:スプリンター
2019年の主な戦績
- ジロ・デ・イタリア1勝
- ツアー・オブ・グアンジー2勝
- UAEツアー1勝
- ドリダーフス・ブルッヘ〜デパンヌ2位
- ミュンスターラント・ジロ4位
- ミラノ〜サンレモ16位
- 世界ランキング89位
2018年も彼にとって決して良い年とは言い切れない部分もあったが、それ以上に2019年は苦しいシーズンだった。ジロ・デ・イタリアの怪我がすべての発端? ツールは回避し、ブエルタでも結局、勝てなかった。そうこうしているうちに、かつて差をつけたはずの同年代のライバル、ユアンに、ツール・ド・フランスでの3勝やシャンゼリゼといった記録も先に奪われてしまった。
しかし、それこそ若くして成功するとはこういうことなのだ。挫折が必要以上に大きく見えてしまう。良い時もあれば、悪い時もある。あとはそれを乗り越えて、確固たるものを形作っていけるかどうか。
2019年の最終戦グアンジーでは、やや復活の兆し。軽やかに2勝を掴み取る。
そして、2020年は2年前のツールで彼にもマイヨ・ジョーヌを着させた盟友、マキシリミアーノ・リケーゼがやってくる。
ガビリアの復活がなければ、「最強」スプリンター決定戦も盛り上がらない。楽しみに待ってるぞ、ガビリア。
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、28歳)
脚質:クライマー
2019年の主な戦績
- リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位
- ツール・ド・ポローニュ総合7位
- UAEツアー総合11位
- ジロ・デ・イタリア総合15位
- イタリア国内選手権ロードレース優勝
- 東京オリンピックテストイベント2位
- 世界ランキング77位
キャノンデールでデビューし、ボーラを経て2020年からこのチームに。UAEとは言え実質的にはランプレ・メリダの流れを汲むイタリアチームのため、このイタリア若手きってのステージレーサーかつワンデースペシャリストがキャリア最盛期を過ごすにはもってこいのチームである。
実際、ロードレーサーが最も結果を出しやすい2年間に突入する。ここで、歴史にその名をはっきりと刻むことのできる結果が求められる。まずは、テストイベントで2位になった東京オリンピックと、同じく2位となったリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを始めとするワンデーレースに力を入れたいところ。もちろんその流れでスイスの世界選手権や、できればイル・ロンバルディアなども狙っていきたいだろう。
もう1つの目標はもちろんジロ・デ・イタリアである。ポガチャルは2020年はツールに集中するようなので、フォルモロはダビ・デラクルスと共にジロをエースで走らせてもらえる。過去の総合最高位は2017年と2018年の10位。この2020年の走り次第で、来期、総合優勝まで目指せるかどうかが決まってくる。
このチームは決して、グランツールを組織力で戦えるチームではない。やるなら、一人で走り抜く必要もある。
決して簡単ではない。だが、最大のチャンスとなるフォルモロの2年間が始まる。
その他注目選手
ヤスペル・フィリップセン(ベルギー、22歳)
脚質:スプリンター
元ハーゲンスバーマン・アクセオン所属の若手スプリンター。2019年は開幕戦ツアー・ダウンアンダーでいきなりの勝利。もちろん、カレブ・ユアン降格の影響ではあるが、アクセオン時代のカリフォルニアでガビリアに対して見せたような「怯まないアグレッシブさ」をしっかりと発揮して、ユアンに押し退けられたあとも冷静にその後を追って行ったのは凄い。勝つべくして勝った。
ただ、勝利はそれ1回だけ。すなわち、先頭でゴールラインを突き抜けた経験は2019年はなし。それでも、クラシックを中心に強さを見せつけ続け、ベルギー・ツアーではボニファツィオやアモリー・カピオ、トム・ファンアスブルックなどのスプリンターたちが生き残れないようなステージでも、しっかりメイン集団に残ってスプリントする姿などを見せた。
そしてツール・ド・フランスでも一流スプリンターたちに混じってステージ5位。ガビリア、クリストフに次ぐチームのエース候補として、2020年も期待できる男だ。
ブランドン・マクナルティ(アメリカ、22歳)
脚質:オールラウンダー
2018年のドバイ・ツアーで「残り50m」まで逃げ続けた男。そしてその年のツール・ド・ラヴニールのクイーンステージで、タデイ・ポガチャルとイバンラミーロ・ソーサというその世代の「最強」2人と並んで逃げ、最後は実質的に勝利した男ーーちょっと手を上げるのが早過ぎて、ソーサに差されてしまったのだけれど。
そんな実力者であるにも関わらず、2019年はラリーUHC・サイクリングに留まり続けた。理由は、アメリカ人ライダーがあまりにも早くヨーロッパに行くと、環境への適応に苦しんでその芽を潰しかねないから。そうして1年間、落ち着いて経験を重ねたうえで、彼はいよいよ、世界の舞台へと身を委ねる。
2020年も焦らずじっくりと過ごす予定。幸いにもこのチームはすでにポガチャルという若き才能が活躍しており、過度なプレッシャーはやってこないはず。最初のグランツールはブエルタ・ア・エスパーニャ。しかもエースはスペイン人のデラクルスが担う予定で、まずは経験を積むことに集中ができそうだ。
ミッケル・ビョーグ(デンマーク、22歳)
脚質:TTスペシャリスト
U23世界選手権個人タイムトライアルを3連覇。また、ツアー・オブ・カリフォルニアの個人タイムトライアルでは、エリートの選手たちに混じって6位。将来の世界最強が約束されたような男である。
ただ、気になるのは、同じく才能豊かな男だったフィリッポ・ガンナが、イネオスに移籍してからその成績を一気に世界トップクラスのものにし始めたこと・・・。
ファビオ・アル(イタリア、30歳)
脚質:クライマー
2015年にジロ・デ・イタリア総合2位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を果たした男は。その後苦しい時期を過ごし始めた。ここ1〜2年は、身体的な不調に苦しみ、そこからの回復を果たしたと思ったら、またも原因が定かではない不調に苦しむ・・・となかなか復活に辿り着けずにいる。
2020年はポガチャルと共にツールに出場する予定。ポガチャルはアルの調子が良ければ100%彼をアシストすると宣言しているが、果たして。
ただ、個人的には、あの時代、デュムランやチャベスと共に「次の時代」を想像させてくれた男の1人。彼らと共に復活に期待したい。せめてステージ優勝を。
総評
中東マネーの賜物か、タレントは十分に揃っており、どんな結果も期待できはする。あとは、そのタレントを支えるチーム力だけがとにかく問題。今のままでは、2019年の成功した部分を同じように期待できる安定感はないようにも思える。
あとは若手の成長がとにかく楽しみ。
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