りんぐすらいど

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Team Arkéa Samsic 2020年シーズンチームガイド

 

読み:チーム・アルケア・サムシック

国籍:フランス

略号:PCB

創設年:2005年

GM:エマニュエル・ヒューバート(フランス)

使用機材:キャニオン(ドイツ)

2019年UCIチームランキング:26位

(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります) 

 

参考 

Fortuneo - Samsic 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Arkéa Samsic 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

 

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2020年ロースター

※2019年獲得UCIポイント順。

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ブルターニュの首府レンヌを本拠として発足したこのチームは、2020年に初のワールドツアー昇格を明確に志向した。結果、集めたのはナイロ・キンタナにナセル・ブアニ、ディエゴ・ローザといったワールドツアー級の選手たち。そしてチーム人数もワールドツアー級の28人に膨れ上がらせ、いつでも昇格する準備ができるように整えていた。

しかし、結果として、彼らはワールドツアーに上がれなかった。

 

もちろん、今やフランス最強プロチームの一角となった彼らは、パリ~ニース、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、ツール・ド・フランスのワイルドカードを危なげなく獲得。キンタナもブアニもバルギルも、無事にツール・ド・フランスに出ることはできそうだ。

あとはその投資に見合うだけの成績を積み上げられるか・・・2018年は2勝。2019年は5勝。まずはこの燦燦たる勝利数の改善が急務だ。

ヒューバートGMはその課題をよく理解している。この状況の打開のため、彼は2020年のロースターにおける最大のテーマを「スプリンターの強化」に置いた。

スーパースターのブアニだけでなく、コツコツと1クラス~HCクラスでの勝利を重ねられるトマ・ブダも獲得。

果たして「進化」を見せられるか。

 

 

注目選手

ナイロ・キンタナ(コロンビア、30歳)

脚質:クライマー

Embed from Getty Images

2010年ツール・ド・ラヴニール覇者。2013年に初出場したツール・ド・フランスでいきなりの総合2位。2014年にはあえてツールを回避し、代わりにジロ・デ・イタリアで総合優勝。2015年に再びツールに挑み、またも総合2位となるが、クリス・フルームまでわずか1分12秒差にまで迫った。

2016年にはツール総合3位、そしてブエルタ・ア・エスパーニャにてついにフルームを打ち破って総合優勝。最後は、フルームの度重なるアタックを全て抑え込み、彼に参ったとばかりの拍手をさせるほどであった。

 

確実に一時代を築いた男。クリス・フルームを倒すことのできる唯一の存在だと信じられた男。コロンビアに初のマイヨ・ジョーヌをもたらすと信じられていた男。

 

そんな彼が、2017年の夏以降、一度もグランツールの総合表彰台に立てずにいる。

山岳ステージの勝負所では必ず遅れる姿が映し出されていた。総合TOP10には入り続けるという意味で安定感はあるが、かつての彼に感じた圧倒的なものは、今や全く感じられなくなってしまった。

 

そして、2012年以来在籍し続けたモビスター・チームを、彼は去ることに決めた。

選んだのは、まさかのフランスチーム。セカンドカテゴリの「UCIプロチーム」である、アルケア・サムシックであった。

 

「自分の目標は変わることはない。僕自身としても、チームとしても、ツール・ド・フランスでの勝利を狙って戦い続ける。これは僕のキャリアにおけるターニングポイントとなるだろう。でもそれがポジティブなものであると確信している。

 フランス語を覚えることなどは大変だと思うけれど、大好きなことを続けたいんだ。僕はバイクにまたがっているときはとても幸せで安心する。アルケア・サムシックのジャージを着て、僕たちは共に、ベストな走りをしてみせる」

 

キンタナにとっても、数多くの悩みと共に、最終的にベストな選択肢としてこのチームを選んだはずだ。

彼はまだ今年で30歳。キャリアの、ちょうど真ん中に至ったあたりである。ここで「ターニングポイント」を迎えることは決して悪くない。

彼がフランスのチームを選んだことは驚きではあるが、それは彼があくまでもツール・ド・フランスを諦めていないことを示している。

 

また、チームとしてもキンタナの存在は非常に大きな意味を持つ。注目したいのは、彼がここ2年のツール・ド・フランスで、いずれもステージ優勝を遂げていることだ。

また、直近で出場した7回のグランツールのうち、5つでステージ優勝を遂げている。

 

ツールで総合表彰台を得られなかったとしても、総合TOP10には高い確率で入れる安定感の高さと、ステージ優勝率の高さは、フランス籍で毎年勝利数に苦しむこのチームにとっては、これ以上ないほどの「お得な買い物」であることだろう。

 

あとは、それを支える体制を十分に用意すること。モビスターから「盟友」ウィネル・アナコナを、イネオスからディエゴ・ローザを、そして後々のダイェル・キンタナも合流することはキンタナにとっては朗報だ。

ただ、それだけではもちろん十分ではない。キンタナという大いなる武器を生かすも殺すもチーム次第だ。

 

 

ナセル・ブアニ(フランス、30歳)

脚質:スプリンター

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彼もまた、キンタナ同様に、かつての栄光から失墜を続ける中で辿り着いた場所がここである。

かつてはFDJに所属し、同年代のアルノー・デマールと肩を並べていた。2014年のジロ・デ・イタリアではステージ3勝を成し遂げ、一躍注目の選手となった。

しかしチームがデマールを選んだことでブアニはコフィディスに。高い給与を貰いながら、チームの悲願であるツールのステージ優勝の担い手として、大きな期待を集めた。

 

だが、パリ〜ニースやクリテリウム・ドゥ・ドーフィでは勝てても、ツールではなかなか勝てなかった。ある年にはホテルで暴力沙汰を起こし初日から不出場となった。

そんな中、チームの指導者も変わり、ブアニへの風当たりは強くなり、かつての彼のアシストであったクリストフ・ ラポートの台頭もあり、彼はついに居場所をなくした。

 

そうして訪れた新たなチームで、彼は彼の栄光を再び取り戻すことを強く願っている。チームは彼のために、ダニエル・マクレー、クリストフ・ノッペなどの発射台候補たちもかき集めた。

このチームにとってももちろん、ツール勝利は悲願。昨年はアンドレ・グライペルでなし得なかったその栄光を、掴み取ることができるか。

シーズン初戦はツアー・オブ・オマーン。さすがそこでは、勝ってほしい。

 

 

ワレン・バルギル(フランス、29歳)

脚質:クライマー

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2013年にわずか22歳でブエルタ・ア・エスパーニャ区間2勝を成し遂げ、ピノ、バルデと並ぶフランス人期待の星として注目を集め続けた。その後はしばらく低迷するが、2017年のツールで区間2勝&山岳賞獲得を経て大復活。

www.ringsride.work

 

と、同時に、彼を若手時代から育ててくれたドイツチームを去り、地元ブルターニュの現チームへと移籍した。このチームでならツール・ド・フランスへの出場はほぼ確約されているし、絶対のエースとして走れる。その狙いはその通りとなったが、しかし肝心のバルギル自身の調子は再び低迷することとなった。

 

2019年も絶望のシーズンを過ごしていた。シーズン序盤のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでいきなりの落車骨折。「引退も考えていた」と後に彼は明かした。

しかし、復帰戦となったフランス国内選手権で彼は見事、勝利を掴み取った。

 

「自転車を辞めようかと思っていたこともあったけど、妻がいつも僕を支えてくれていたので、それをせずにいられた。人生とはタフな瞬間と良い瞬間との連続で、それを理由に辞めるべきではないと今の僕は理解している。いつも僕を助けてくれている妻、家族、チームに感謝したい。今、僕は自分に、『もし自転車を辞めれば、1週間後、そしてその先の人生の全てにおいて、お前は後悔するぞ』と言い聞かせているよ」

 

そして、ステージ優勝を最大の目標としたツール・ド・フランスで、勝利こそなかったものの、絶好調だった2年前と同様の総合10位。

チームとの3年の契約更新も果たし、今、バルギルは再び前向きな気持ちでシーズンを迎えようとしている。

 

 

 

その他注目の選手

トマ・ブダ(フランス、26歳)

脚質:スプリンター

2015年のデビュー当時から在籍し続けたヴァンデのチームを去り、同じくツール・ド・フランス常連のブルターニュのチームへ。与えられたのは、ナセル・ブアニの発射台役? いやいや、2019年の獲得UCIポイントでは、ブアニを超える。実際、彼はブアニと並ぶ新星アルケアのエーススプリンター候補となるだろう。

2019年はシルキュイ・ドゥ・ワロニーで勝利。ほか、グランプリ・デュ・カントン・ダルゴヴィ6位、クラシカ・ド・アルメリア6位、コクサイデ・クラシック9位など、HCクラスの有名レースでワールドツアーのスプリンターたちと対等に渡り合うリザルトを披露。

2020年も、ワールドツアーレースは経験豊富なブアニに任せつつ、ブダはこれまで同様、1クラスやHCクラスでコツコツとポイントを重ねていくことになりそうだ。

もちろん、2018年の、ツール・ド・フランス6位という彼史上最高の成績も、忘れられない。2019年も、ツール・ド・スイスで9位なんて日もあった。

 

 

クリストフ・ノッペ(ベルギー、26歳)

脚質:スプリンター

スポートフラーンデレン・バロワーズで3年間を過ごしてきた若きベルジャンスプリンターは、ここまでプロ勝利は1度もなし。ただ、直近のロンド・ファン・ゼーラントではフルーネウェーヘンやヴィヴィアーニと並んで5位。ミュンスターラント・ジロではホッジ、アッカーマン、ワルシャイド、ガビリア、テウニッセンらと並んでの7位だ。勢いは、間違いなくある。

2020年の彼に与えられた最初のミッションはブアニ、もしくはブダの発射台役。経験を重ね、数年後のエースを目指せ。 

 

 

エリ・ジェスベール(フランス、25歳)

脚質:クライマー

2017年のツール・ド・フランスに当時最年少で出場し、終盤まで積極的に逃げ、第19ステージでは区間7位。そして完走した。

この瞬間に、彼の才能は間違いのないものとなった。その成長の速度は決して劇的なものではないが、年を重ねるごとに着実に大きくなってきている。

2019年はツアー・オブ・オマーン総合5位。ツール・ド・ラン総合4位。そして、初開催のモンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジで、終盤まで残って最終的には5位。

数年以内には確実にツール・ド・フランスで区間優勝ができる男だ。

 

 

総評

主軸に据えたのはスプリンターの強化。ブアニ、そしてブダの2枚のエースで勝利を目指していく。

一方で、キンタナ、バルギル、ローザ、そしてジェスベールといったクライマー陣で、ステージレースの総合成績や区間優勝を積極的に狙っていく。

たしかにワールドツアーチームには昇格できなかったが、実際、今昇格したとしても、この面子では十分に結果を出すのは難しいだろう。

まずはプロチーム首位を目指すこと。そのポテンシャルは十分にあるはずだ。

 

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