アルプス3連戦、そしてラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山岳TT決戦――ツールらしからぬ厳しさで始まった今年のツール・ド・フランスは、やがて実にツールらしい第3週へと突入していく。
果たして逆転はあるのか。それとも――。
各ステージの最後には、自転車ロードレースシミュレーションゲーム「Pro Cycling Manager 2020」を用いて「予習」したレース動画へのリンクを貼ってある。
出場選手は実際のものとは異なるものの、展開の予習には十分使えるものになっているはずなので、ぜひ参照してほしい。
関連リンク
ツール・ド・フランス2020 コースプレビュー 第1週 - りんぐすらいど
ツール・ド・フランス2020 コースプレビュー 第2週 - りんぐすらいど
目次
- 第16ステージ ラ・トゥール=デュ=パン〜ヴィラール=ド=ラン 164㎞(山岳)
- 第17ステージ グルノーブル〜コル・ド・ラ・ローズ(メリベル) 170㎞(山岳)
- 第18ステージ メリベル〜ラ・ロシュ=シュル=フォロン 166.7㎞(山岳)
- 第19ステージ ブールカン=ブレス〜シャンパニョル 166.5㎞(平坦)
- 第20ステージ ルアー~ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ 36.2㎞(個人TT)
- 第21ステージ マント=ラ=ジョリー~パリ・シャンゼリゼ 122㎞(平坦)
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第16ステージ ラ・トゥール=デュ=パン〜ヴィラール=ド=ラン 164㎞(山岳)
山岳ポイント最大値:23pt
いよいよ第3週に突入。そして山岳ステージ3連戦が始まる。
その第1戦は、「新しき伝統」たるグラン・コロンビエやラ・プランシュ・デ・ベルフィーユと対照的な、1980年代にペドロ・デルガドやローラン・フィニョン、ジャンフランソワ・ベルナールなどの名選手たちが活躍した伝統の登りヴィラール=ド=ランである。
しかし、2004年の「勝者なきツール」での登場以来、長く表舞台に出てこなかったこの登りが、今回久々に山頂フィニッシュとして登場する。
とはいえ、総合争いの舞台になるかといえば微妙。
前半から1級山岳などが登場はするものの、ゴール前20㎞地点に1級山岳山頂に到達。以後は緩やかな下りと平坦、そして小さな3級山岳でのフィニッシュとなる。
1級山岳もボーナスタイムポイントが設置されているとは決して厳しい登りとは言い切れず、翌日に控えるクイーンステージに向けた静かな前哨戦が繰り広げられることになりそうだ。
↓第16ステージのYouTube実況はこちらから↓
第17ステージ グルノーブル〜コル・ド・ラ・ローズ(メリベル) 170㎞(山岳)
山岳ポイント最大値:60pt
2つの大きな登りだけが登場するシンプルなレイアウトながら、超級山岳が2つ。この日は間違いなく、今大会の最難関(クイーン)ステージである。
1つ目の超級山岳はツールお馴染みの「マドレーヌ峠(登坂距離17.1km、平均勾配8.4%)」。
1969年の初登場以来、26回もツール・ド・フランスに登場している伝統的な山で、ラルプデュエズとセットで使われることも多い。
直近では2018年に使用しており、その際に先頭で山頂を通過したのが、その年の山岳賞を受賞することとなるジュリアン・アラフィリップだった。
そしてマドレーヌの長く雄大な下りを越えたあと、フィニッシュまでの22㎞を駆け上がるのが、ツール・ド・フランス初登場の超級山岳「ラ・ローズ(登坂距離21.5km、平均勾配7.8%)」。
フィニッシュ地点の標高2,304mは文句なしの今大会最標高地点。
この登りで得られる山岳ポイントは特別に2倍のポイントがもたらされるため、山岳賞を決める最も重要な登りとなるだろう。
この最標高地点に至る道のりは、舗装されたばかりの自転車専用道路であり*1、森林限界を超えた荒れ果てた風景の中に佇む。
実は昨年のツール・ド・ラヴニールのあの「登り一発勝負」ステージ(第8ステージ)で使われた登りでもあり、トビアス・フォスが圧倒的な強さを見せつけたあのときの風景を思い出してもらえれば幸いだ。
ここを乗り越えれば、あとは実質的な最終日ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山岳TT決戦が残るのみ。
いくら何でもTTで数分差の大逆転が難しいだろうと思うと、ここでほぼほぼ大勢が決すると考えていいだろう。
・・・本当に?
いや、もう1ステージ、山岳ステージが残っている。
山頂フィニッシュではないにしても、それでも「大逆転」の可能性を残す、難易度の高いステージが。
↓第17ステージのYouTube実況はこちらから↓
第18ステージ メリベル〜ラ・ロシュ=シュル=フォロン 166.7㎞(山岳)
山岳ポイント最大値:47pt
今大会最後の山岳カテゴリステージ。
山頂フィニッシュではないものの、2つの1級山岳と1つの超級山岳を含む計5つの山岳ポイントを擁する十分に厳しいステージ。序盤以外に平坦部分はほぼなく、登っては下ってを繰り返すジェットコースターのようなレイアウトだ。
まずスタート直後に登場するのが、昨年の第20ステージにも用意されていたものの、土砂崩れによってキャンセルされてしまった1級「ロズラン峠(登坂距離18.6km、平均勾配6.1%)」である。
勾配はある程度一定ではあるもののひたすらに長いこの1級山岳で、おそらくはこの日のステージ優勝を争うことになるであろう逃げ集団が確定する。元々は総合上位を目指しながらもここまでのステージでその順位が絶望的な位置にまで落ち込んでしまった選手たちなどが、せめてもの勝利(と場合によっては山岳賞ジャージ)を求めて逃げに乗り、実に豪華な逃げ集団が生まれる可能性も。
そして、終盤がややイージーなレイアウトであるがゆえに、ゴールまで40㎞近く残っているにも関わらず、最後の総合逆転のチャンスを狙って激しい攻撃が繰り広げられかもしれないのが、今大会最後の超級山岳「プラトー・デ・グリエール(グリエール高原)」である。
登坂距離6㎞。平均勾配は・・・なんと11.2%。
ブエルタかと見紛うばかりの「第1週からの山岳ラッシュ」で象徴的に開始された今年のツール・ド・フランスは、第3週においてもまた、ブエルタ味のある急勾配山岳を用意してきた。
この山頂からゴールまではまだ30㎞以上残っている。
それでも、その先にもはや逆転の可能性があるような登りが用意されていない以上、ここで最後の戦いが繰り広げられる可能性は高い。
そして、そのアグレッシブな動き如何では、逃げ切り確実と思われていた選手たちが思いもかけず捕まってしまうおそれもある。
なお、このグリエール高原の山頂から1,800mは未舗装路(Secteur empierre)。思いがけぬトラブルがまたドラマが生まれる可能性も。
最後の瞬間まで何が起こるかわからないのがツール・ド・フランス。
最後に笑うのは、誰だ?
↓第18ステージのYouTube実況はこちらから↓
第19ステージ ブールカン=ブレス〜シャンパニョル 166.5㎞(平坦)
山岳ポイント最大値:1pt
最後の山岳TTを前にして、シャンゼリゼを除く今大会最後の平坦ステージ。まあ、平坦という名の丘陵っぽいレイアウトなのはいつも通りだが。
ただ、終盤も終盤のこのタイミングで登場する平坦ステージは波乱を巻き起こすのが常。昨年のジロ・デ・イタリアの第18ステージや2018年のブエルタ・ア・エスパーニャの第18ステージもまさかの結末だったわけで・・・。
今回のこのステージでも、同様のドラマが描かれる可能性は十分にあるだろう。逃げに乗ったメンバーに注意。
↓第19ステージのYouTube実況はこちらから↓
第20ステージ ルアー~ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ 36.2㎞(個人TT)
今大会唯一の個人タイムトライアル。
そして、総合優勝争いに大きな影響を及ぼしうる、「キングメーカーの山」ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山岳TTである。
2012年にツール・ド・フランスに初登場し、当時はクリス・フルームによる鮮烈な勝利が描かれたこの「新しき伝統」の山。
2014年にはヴィンツェンツォ・ニバリ、2017年にはファビオ・アル、2018年にはそれまでの山頂からさらに奥、未舗装路の激坂区間も加えてディラン・トゥーンスの勝利、そしてジュリオ・チッコーネのマイヨ・ジョーヌを演出した。
今回はその未舗装路部分は使わないものの、最終盤には20%の激坂区間が。
そこまでも、思わず足が止まってしまうような勾配の連続で、通常のTTスペシャリストではとてもではないが太刀打ちできないだろう。麓でのバイクの交換も重要な戦略の1つとなりそうだ。
なお、第1計測地点は完全なる平坦の先にあり、第2計測地点は3~4%の緩やかな登りは含まれるものの、ここもほぼほぼ平坦と言えるだろう。
よって、最初の2つの計測地点における順位は、最終的な順位とは大きく異なる可能性もある。最後の最後までどうなるかわからないのもこのステージの特徴だ。
とはいえさすがに2分3分を逆転できるほど総合上位勢の力の差があるわけではないだろう。
逆にここまで総合表彰台のメンバーがすべて1分以内とかに収まっていれば・・・この日は激熱な最終決戦場となるはずだ。
優勝候補はもちろん、プリモシュ・ログリッチ。ただ、ツール・ド・ランやクリテリウム・ドゥ・ドーフィネのときの絶好調ぶりを、ここまで残しているかどうか・・・。
↓第20ステージのYouTube実況はこちらから↓
第21ステージ マント=ラ=ジョリー~パリ・シャンゼリゼ 122㎞(平坦)
山岳ポイント最大値:1pt
マイヨ・ジョーヌ含む4賞はほぼ間違いなくこの日までに確定しており、最後はシャンパンを掲げての凱旋と、そしてミラノ~サンレモと並ぶ全てのスプリンターたちにとっての栄光のフィニッシュとなるシャンゼリゼ決戦だけが残されている。
やや登り基調の石畳の先にあるゲートをこれまで先頭で通過してきた選手たちはたとえば以下のような選手たちだ。
マーク・カヴェンディッシュ(2009~2012)
マルセル・キッテル(2013・2014)
アンドレ・グライペル(2015・2016)
ディラン・フルーネウェーヘン(2017)
アレクサンドル・クリストフ(2018)
カレブ・ユアン(2019)
かつては連勝が当たり前だったり、初日のラインステージで勝利した選手が最多勝と合わせこのシャンゼリゼも獲ってしまうパターンも多かったが、ここ数年はスプリンター勢の戦国時代ぶりを反映するかのように混沌としてきている。
今年も、まったくこれまでと傾向の違う新たなヒーローが生まれるのか。
個人的には、2015年のシャンゼリゼで2位に入り込みつつも、移行、2017年~2019年とツールに出場すらできずにいたブライアン・コカールに期待したい。
今年もルート・ドクシタニーで1勝していたりと、決して調子は悪くないはずだ・・・。
そして、斜陽に照らされる――あるいはいつもよりもシーズンが後ろ倒しになっているために夕闇が近づいているかもしれない?――シャンゼリゼの表彰台で、栄光を掴み取っているのは果たして誰か。
ドーフィネにおける混乱の結果、何が起きてもおかしくない状況になりつつある今年のツール・ド・フランス。
今年も最後の最後まで、見逃せない展開が続くだろう。
↓第21ステージのYouTube実況はこちらから↓
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*1:ゲームでもそこは再現されており、道路の色が律義にも変わる(舗装されたばかりのような色になる)。