「ラ・プリマヴェーラ」とも呼ばれるシーズン最初のモニュメントは、今年は「ラ・エスターテ」とでも言うべきか。1週間前のストラーデ・ビアンケに続く「夏のクラシック」第2弾、ミラノ~サンレモについて、3つの観点でプレビューしていく。
↓幻となった「2020年春のミラノ~サンレモ」についてはこちらから↓
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コース変更は波乱を呼ぶか?
ミラノ~サンレモは他の主要なクラシックレース同様、例年ほぼ同じコースレイアウトで開催されてきた。
しかし今年は、新型コロナウイルスの影響もあり、終盤の勝負所こそそのままではあるものの、そこまでに至るアプローチが大きく変更されることとなった。
詳細については以下の記事を参照のこと。
要約すると、
- 例年は中盤にちょっとだけ登りがある程度だったのが、今年は中盤から後半にかけて2つの大きめな登りが登場。
- 最後の登りの山頂からゴールまではまだ距離があるとはいえ、例年よりもピュアスプリンターたちを振るい落とすための動きが起こる可能性はある。
- さらに、例年と違い8月という酷暑の時期であること、各チームの人数が6名に減らされていることから、組織的な動きが抑えられる可能性も?
といった理由から、例年とは違った展開、波乱に満ちた展開が巻き起こる可能性がある、注目のミラノ~サンレモとなるのである。
例年、ラスト30㎞だけ見ればいいと言われてきたミラノ~サンレモ。
今年は、そんなことない、クラシックレースらしい展開を期待できるかもしれない。
とはいえ、あくまでもこの登りはフィニッシュまで70㎞以上離れた地点でのこと。
最も可能性が高いのは、例年通りのラスト30kmで巻き起こる攻防戦だろう。
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残り27.2kmで登り始める「チプレッサ」
登坂距離5.6km、平均勾配4.1%、最大勾配9%。
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残り9.2kmから登り始める「ポッジョ・ディ・サンレモ」
登坂距離3.7km、平均勾配3.7%、最大勾配8%。
いずれも、通常のロードレースにおいてはさして脅威にはならないレベルの登りではあるが、何しろこのミラノ~サンレモは他に類を見ない長距離・長時間レース。
ここまで蓄積されてきた疲労が、本来であれば容易に登れるはずの丘を、厳しい激坂のように変えてしまうことになるだろう。
以下では、この残り30㎞で巻き起こった近年のレース展開を振り返っていく。
4年連続の逃げ切り勝利となるか?
ミラノ~サンレモは「スプリンターズクラシック」とも呼ばれ、過去にもマーク・カヴェンディッシュなど、稀代のスプリンターたちによる勝利がもたらされてきた。
しかし一方で、本当の意味でのピュアスプリンターのためのクラシック、とは言い難い。たとえばピュアスプリンターの代表格とも言えるマルセル・キッテルやディラン・フルーネウェーヘンは、ほとんどこのレースに出場していないうえに、成績もほとんど出ていない。
逆に過去の優勝者としてはサイモン・ゲランスやアレクサンダー・クリストフ、ジョン・デゲンコルプやアルノー・デマールなど、比較的起伏に強い登れるスプリンター寄りの選手たちの名前が目立っている。
それはやはりゴール前の「チプレッサ」「ポッジョ・ディ・サンレモ」の存在が大きいことを意味しているだろう。
一方で、その別名に反して、集団スプリントではなく逃げ切りで勝負が決まってしまうことも多い。
特に直近の2017年~2019年の3年間は、いずれも最後の登り「ポッジョ・ディ・サンレモ」でのアタックからの小集団スプリントでの決着となっている。
2017年はポッジョで飛び出したペテル・サガンとそれに追随したミカル・クウィアトコウスキー、ジュリアン・アラフィリップとが、3つ巴の激しいスプリントを繰り広げた。
2018年はチームメートのアシストのつもりで飛び出したヴィンツェンツォ・ニバリが、得意のダウンヒルテクニックを駆使して逃げ切りを果たし、イタリア人としては実に12年ぶりのサンレモ制覇を果たした。
2019年はフィリップ・ジルベールの猛烈な牽引からアタックしたジュリアン・アラフィリップをきっかけに、サガンやクウィアトコウスキー、ワウト・ファンアールトといった強力なライダーたち10名による小集団が形成され、最後にこのスプリントをアラフィリップが制することとなった。
3年連続の、ポッジョ・ディ・サンレモからの抜け出しによる小集団スプリントもしくは逃げ切り。
今年もまた、4年連続のそのような展開になるのか。
それとも今度こそ集団スプリントによる決着がつくのか。
最後に、そんな予想のつかない今年のミラノ~サンレモの、注目選手たちを紹介していく。
ジルベールは史上4人目のモニュメント完全制覇者となるか? 注目の選手たち
今回のミラノ~サンレモは、シーズンを通してのレース、とくに1クラスなどの小さなレースの数が減ってしまっていることを受けて、UCIプロチームの出場枠を通常より増やした計27チームの参戦を決めた。
代わりにプロトンの総数を抑えるため、各チームの出場選手を6名に削減。合計で162名の選手が出場することとなった。
集団スプリントになるのか、小集団スプリントになるのかによっても予想される優勝候補は変わってくるが、以下、5名の選手を注目選手としてピックアップしていく。
※年齢表記はすべて、2020/12/31時点のものとなります。
フィリップ・ジルベール(ロット・スーダル)
ベルギー、38歳
勝つかどうか、以上に注目されるのがこのフィリップ・ジルベールによる「史上4人目のモニュメント完全制覇者」になれるかどうか。
ある意味、そのために移籍した、という側面があってもおかしくはない。もちろん、ロット・スーダルにもミラノ~サンレモを勝てる男カレブ・ユアンもいるが、ポッジョ・ディ・サンレモなどでの飛び出しという展開においてはこのジルベールに可能性があるだろう。
とはいえ、他に数名抜け出した中で純粋なスプリントで勝負するにはやや不利なのは間違いない。
できれば、2年前のニバリのような単独抜け出しか、あるいはラスト1㎞手前での不意をついたアタックなどに期待したいところだが・・・。
ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィズマ)
ベルギー、26歳
1週間前のストラーデビアンケでの勝利も記憶に新しい元シクロクロス世界王者だが、今週水曜日の世界トップスプリンターたちが鎬を削ったミラノ~トリノにおいても3位と、かなり絶好調。
このファンアールトの強みは、集団スプリントでも抜け出しの小集団スプリントでもどちらでも可能性があるということ。実際、ミラノ~サンレモ初出場となった昨年も、勝ち逃げ集団に入り込み、6位という成績であった。
先述したYouTubeでの「春のミラノ~サンレモ」実況においても、ポッジョでのアタックのきっかけを作ったのはこのファンアールト。
果たして、昨年のアラフィリップのような、「ストラーデビアンケ&ミラノ~サンレモ両制覇」を果たせるか?
ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
スロバキア、30歳
かつて世界を驚かせ続けてきた「悪童」も、ここ最近は鳴りを潜めている? モチベーションキープも不安になるこの頃ではあるものの、「みんなが注目しなくなった頃が一番怖い」とはあきさねゆうさんの言葉。実際、ファンアールトの項でも言及した「前哨戦」ミラノ~トリノでもさりげなく4位。足は十分に、準備が整いつつある。
もちろん、ミラノ~サンレモとの相性は抜群。2011年の初出場以来9年間毎年出場し続けているが、その9年で7回のTOP10入り。2位も2回経験している。
とくに近年の「ポッジョ」抜け出しでは常に勝ち逃げ集団に入り込み、上位に食い込む走り。あらゆる展開で強く、安定感の高いこの男が、今度こそ栄光を掴めるか。
マッテオ・トレンティン(CCCチーム)
イタリア、31歳
昨年も勝ち逃げ集団にしっかりと乗って10位。サガン同様に色々なパターンで戦えるアグレッシブライダー。
もちろん、集団スプリントの展開でも十分に勝機がある。その根拠は1週間前のブエルタ・ア・ブルゴス。第2ステージの集団スプリントでガビリア、デマール、 サム・ベネットに続く4位となっているのだ。
もちろん、このときは単純な集団スプリントというよりは、落車やカーブによる混戦の中での結果だ。だが、混戦というのはミラノ~サンレモでもお馴染み。ファンアールトとファンデルポールの二人をスプリントで退けた2018年のヨーロッパ選手権のような勝ち方をぜひまた見てみたい。
チームメートのグレッグ・ファンアーヴェルマートもまた、ストラーデビアンケ8位、グラン・トリティッコ・ロンバルド3位と、直近のイタリアンレースでの好調が目立つ。
ファンアーヴェルマートはポッジョでの抜け出しという展開でないと勝つのは難しそうだが、ファンアーヴェルマートとトレンティン。この2人の見事なコンビネーションによる勝利にぜひ期待したいところ。
フェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)
コロンビア、26歳
昨年のジロでの落車以降、イマイチ調子が上がり切らない時期を過ごし、昨年のシーズンの終盤のツアー・オブ・ターキーで復活の兆しを見せたかと思えば、今年のUAEツアーで新型コロナウイルスの陽性が発覚。
まさに踏んだり蹴ったりの壁にぶち当たっていたガビリアだったが、先日のブエルタ・ア・ブルゴスで見事な復活勝利を果たした。
そもそもミラノ~サンレモは初出場の2016年から優勝候補筆頭の一人に数えられていた。しかしそのときはゴール前に落車してチャンスを失う。翌年はサガンやクウィアトコウスキーに逃げられ、追走した集団の中で2着。そして2018年は直前のティレーノ~アドリアティコで落車負傷により欠場となった。
勝てる素質は十分にあるのに、常に不運や巡り合わせの悪さでその勝ちを逃し続けてきた男ガビリアが、ブルゴスでの勝利の勢いを背景に、今度こそ掴み取れるか。
チームメートには2014年の覇者アレクサンデル・クリストフもいて、チームとしての選択肢も1つではない。ダヴィデ・フォルモロやタデイ・ポガチャルあたりがポッジョで抜け出して独走からの逃げ切り勝利なんて展開も、全然ありうるかも・・・?
さてさて、今年のミラノ~サンレモは予想通り混沌とした展開となるのか、過去3年と同様にポッジョでの抜け出しで決まるのか、それとも4年ぶりの集団スプリントで「最強スプリンター」が決まるのか。
例年以上に結末を予想できない7時間の戦いの果てには一体どんな風景が待ち構えているのか。
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