りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

イル・ロンバルディア2020 プレビュー

f:id:SuzuTamaki:20200813173816p:plain

Class:ワールドツアー

Country:イタリア

Region:ロンバルディア州

First edition:1905年

Editions:114回

Date:8/15(土)

 

「ラ・プリマヴェーラ(春)」開催から1週間後、「落ち葉のクラシック」ことイル・ロンバルディアが開催されるーー2020年においては。

もちろん、プリマヴェーラが春ではなかったように、今回もまた、秋のクラシックなんかではない真夏の開催。

普段であればシーズン最終盤のレースという、どこか寂しさを漂わせながら開催されるこのイル・ロンバルディアも、今年はむしろ、シーズンの本格的な開幕を告げるレース群の1つとなっている。 

そしてもちろんそれは、この先に待ち受けるツール・ド・フランスやその他グランツールの前哨戦としての位置付けも持ち合わせる。

 

今回はいつもと違ったこのクライマーズクラシックを徹底的にプレビューしていこう。

 

自転車ロードレースシミュレーションゲームで実況プレイ

レース展開の予習にどうぞ!

youtu.be

 

 

スポンサーリンク

 

 

コースについて

イル・ロンバルディアは先週開催されたミラノ〜サンレモと同じく、「モニュメント」と呼ばれる5つの最高位ワンデーレースの1つである。

モニュメントの中では最も純粋なクライマー向けレースであり、過去にはダニエル・マーティンやヴァンツェンツォ・ニバリ、エステバン・チャベスやティボー・ピノ、そして昨年はバウケ・モレマが優勝を飾った。

www.ringsride.work

 

今年は新型コロナウイルスの影響により、ツール・ド・フランス開幕直前のこの時期に設定されたものの、本気でツールを狙う選手は裏開催のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネに出場しているため、どちらかというとジロやブエルタを狙っている選手たちが中心となって参戦している。

 

もちろん、それがすなわち層の薄さを意味するわけではない。

むしろ、過去2回この大会を制しているニバリや、ストラーデビアンケでも好調さを示していたヤコブ・フルサン、そして今年出場したすべてのレースで総合優勝を果たし続けている前代未聞の男レムコ・エヴェネプールなど、ジロで総合優勝を競い合うだろう有力選手たちがバチバチの鍔迫り合いを見せてくれること間違いなしといった状況である。

 

もちろん、昨年の優勝者モレマも、ドーフィネを蹴って参戦。

ニバリ、そしてこれまた可能性しか感じさせない男チッコーネと共に出場しており、前回のミラノ〜サンレモでの積極的な動きに続き、トレックの動向には注意が必要だ。

 

 

そんなイル・ロンバルディアの今年のルートだが、開催直前に多少のコース変更が行われ、当初の予定より12㎞ほど全長が短くなった。

とはいえ、勝負所には全く影響しない変更であり、ほぼ無視していいだろう。

f:id:SuzuTamaki:20200813174152j:plain

 

展開が動き始めるのは、残り75kmあたりから始まるマドンナ・デル・ギザッロの登りからである。

f:id:SuzuTamaki:20200811115700j:plain

二段階に分かれたこの登りは、いずれにも10%を超える急勾配区間を擁している。

とはいえ、この段階ではまだ、決定的なセレクションがかかることはない。

この登りの頂上には「サイクリストの聖地」マドンナ・デル・ギザッロ教会が置かれており、逃げ集団やプロトンが通過する度に鳴らされるその鐘の音がこの大会の象徴であり、この後にくる本格的な攻防戦の開幕を告げるものとなるだろう。

 

そうして訪れる、今大会最初の重要な勝負所ムーロ・ディ・ソルマーノ(ソルマーノの壁)。

f:id:SuzuTamaki:20200811123059j:plain

2㎞という短い登りながら、その平均勾配は15%超。

最大勾配は25%とも27%とも言われており、「不可能の怪物」という異称すらある、まさに最凶の登り。

その路面には登坂距離がペイントされていて、懸命に駆け上がる選手たちを視覚的にも苦しめる仕様となっている。

 

2018年はここでロベルト・ヘーシンクにリードアウトされたプリモシュ・ログリッチがアタック。これに反応した2015年・2017年の覇者ヴィンツェンツォ・ニバリと、これに追随したティボー・ピノが一時抜け出し、フィニッシュまで逃げ続ける格好となった。

一方で、このソルマーノの壁の頂上からゴールまでは50㎞。下りの終端から次の登りまでの平坦区間だけでも15㎞も残っている。

この距離が絶妙なところで、ソルマーノで抜け出した選手たちが最後まで逃げ切れず次の登りまでの間に捕まえられてしまうパターンも多々存在する。

2015年のティム・ウェレンスやミハウ・クフィアトコフスキはそのパターンだし、2018年もニバリとピノはのちにログリッチとエガン・ベルナルには追いつかれてしまっている。

昨年はそもそもユンボ・ヴィズマがソルマーノの壁から支配的にコントロールし抜け出す選手を作らないような動きを展開。

ソルマーノの壁は「誰が勝てないか」を炙り出すセレクションの舞台にはなっても、ここだけで勝てる選手を完全に絞り込むような働きはなかなか起こらない。

 

 

そのため、数多くの決定的な動きはゴール前20㎞地点から登り始めるチヴィリオで巻き起こっている。

f:id:SuzuTamaki:20200811115909j:plain

登坂距離4.2km・平均勾配9.7%・最大勾配14%。

短くも破壊力満点なこの登りと、その後の非常にテクニカルな下りとが、このイル・ロンバルディアの最も勝負所となるポイントである。

2017年はこのチヴィリオでニバリがピノを突き放してフィニッシュまで続く独走を開始した。2018年は逆にピノがこのチヴィリオでニバリを突き放して勝利を掴んだ。

昨年もバウケ・モレマが抜け出したのがこのチヴィリオだった。2015年のニバリ初優勝の際は、登りでは集団から抜け出すことができなかったが、チヴィリオのテクニカルな下りでわずかに抜け出すことに成功した。

 

とにかく、このラスト20㎞~15㎞のチヴィリオの登りがすべてを決める重要なポイントである。

まずはソルマーノの壁で耐え抜いてここまで残ること。

そして、このチヴィリオでライバルたちを突き放すか、あるいは彼らの動きをしっかりと抑え込むこと。

 

そして最後にやってくるのが、ゴール前5㎞地点に頂上が置かれたサン・フェルモ・デッラ・バッターリアである。

f:id:SuzuTamaki:20200811120004j:plain

登坂距離2.7km・平均勾配7.2%・最大勾配10%。

決して難易度の低い登りではないものの、ソルマーノの壁やチヴィリオに比べるとまだ幾分か緩やか。

すでに述べているように大体においてチヴィリオで勝負が決まるため、ここが重要になることはほとんどない。

あえて言えば、昨年ProCyclingManager2019でシミュレートした際に、チヴィリオを経てなおも12名も残っていた集団の中から、このサン・フェルモ・デッラ・バッターリアで抜け出した2名が最後の勝負権を得る、という展開になったくらいか。

www.ringsride.work

 

基本的にはソルマーノの壁のと残り20㎞地点のチヴィリオとに注目をすべきイル・ロンバルディア。

果たして今年は、どんな展開が待ち受けるのか。

次に、注目のチームを紹介していく。

 

 

注目チーム

トレック・セガフレード(TFS)

昨年覇者バウケ・モレマと、過去2回優勝しているヴィンツェンツォ・ニバリのダブルエース。そこに、2019年ジロ山岳賞&ステージ優勝者で、ツールでも一時マイヨ・ジョーヌを着た男ジュリオ・チッコーネや、マリア・ローザ着用経験もあるジャンルカ・ブランビッラが加わり、かなり強力な布陣で挑むこととなる。モレマは本来ツール出場予定のためクリテリウム・ドゥ・ドーフィネに出場する選択肢もありえた中での参戦だけに、気合はかなり高いものと思われる。

Embed from Getty Images

 

彼らに注目すべき理由はその布陣だけでなく、1週間前のミラノ~サンレモで見せた積極性にもある。

www.ringsride.work

 

クーン・デコルト以外のスプリンターを連れてきておらず、集団スプリントでの決着という選択肢を最初から捨てていたトレックは、ゴール前30㎞地点のチプレッサから延々とアタックを繰り返す積極的な攻勢に出ていった。

結果としてそれが勝利に結びつくことはなかったものの、十分にレース展開に混乱をもたらし、カレブ・ユアンやフェルナンド・ガビリアといった優勝候補たちを早々に脱落させた点でかなり意味のある動きをやってのけていた。

 

同じような積極性がこのロンバルディアでも発揮されれば、その可能性は十分にある。ニバリ、モレマ、チッコーネといった選択肢が複数あることはこのレースではかなり高い価値を持ち、特に過去優勝者が2人もいると、ソルマーノの壁とチヴィリオ、どちらの動きもライバルチームたちは警戒せざるを得なくなる。

ぜひ、彼らにはこのロンバルディアでもレース全体をかき回すアグレッシブな動きをしてもらいたいところ。

 

 

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)

大注目はもちろん、昨年のクラシカ・サンセバスティアン覇者レムコ・エヴェネプール。「さすがにジュニア卒業から2年目の20歳がいきなりモニュメント制覇はありえないでしょ」は過去の話。今年出場した4つのレースすべてで総合優勝、本格的な山頂フィニッシュでもベテランライダーたちをいとも簡単に振り切って優勝してしまう彼はもはや世界トップクラスのクライマーと言っても良い。イル・ロンバルディアを獲れない理由はないのだ。

そして、前回のツール・ド・ポローニュと違って、今回は同じく絶好調の超強力アシスト、ジョアン・アルメイダとアンドレア・バジョーリも合流。彼らもワールドツアー初年度の20代頭の選手たちということで本当に恐ろしいけれど、その強さは下記の記事でも言及している通りホンモノ。アルメイダは「あの」ツール・ド・ランで総合7位だしね。

www.ringsride.work

 

もちろん、ベテランとして過去幾度となくジュリアン・アラフィリップのアルデンヌ勝利を支えてきたドリス・デヴェナインスも連れてきていて、若手中心のメンバーを精神的にもしっかりと支えている。

デヴェナインスを発射台にしてのソルマーノの壁アタックでエヴェネプールが独走を開始し、そこからの50㎞独走勝利なんて展開が、一番エヴェネプールらしい勝ち方なんじゃないかなと思うし、実際、そうなってしまいそうな怖さがある。

Embed from Getty Images

 

 

チーム・ユンボ・ヴィズマ(TJV)

今最も勢いのあるチーム。ツール・ド・ランやクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでの圧倒的なトレイン力は言うに及ばず、裏開催のグラン・ピエモンテにおいても、ジョージ・ベネットが残り7㎞からの一発のアタックでプロトンを完全にぶち抜いていった。

Embed from Getty Images

 

このチームの凄いところは、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネにあれだけ豪華なメンバーを連れていっているにも関わらず、こっちのロンバルディア組にもまだまだ有力な選手たちが揃っていること。

とくにアントワン・トールクやクーン・ボウマンは過去にもクラシカ・サンセバスティアンやイル・ロンバルディアで良い走りをすでに見せている選手たちだし、昨年のツアー・オブ・ジャパン総合優勝者クリス・ハーパーも今年のアンダルシアで総合14位など実力の高さを伺わせている。昨年のツール・ド・ポローニュで優勝しているヨナス・ヴィンゲゴーは、今年のポローニュでも総合8位と着実に成長しつつある。

ジロの山岳でも安定した強さを見せつけていたいぶし銀ポール・マルテンスに、巧みな運び屋としての実績があるレナード・ホフステーデと脇を固める選手たちも確かな実力者たち。

ただ、確かにいい選手は多いのだが、モニュメントを制するには決定力がやはり足りないか。最後に重要になるのは、ピエモンテのときのような爆発力をベネットが見せられるかどうか。そのためには、チヴィリオまで彼をしっかりと万全な状態で残すための、ソルマーノの壁とそれ以降でのアシストが鍵となる。

 

 

アスタナ・プロチーム(AST)

個人的に今回チーム総合力において最も優れているのはこのアスタナだと思っている。

ブエルタ・アンダルシア総合優勝にツール・ド・ポローニュ総合2位、ストラーデビアンケでも5位と絶好調すぎるヤコブ・フルサンに、ツール・ド・ラ・プロヴァンス総合2位、ルート・ドクシタニー総合3位、グラン・ピエモンテ4位、そしてモン・ヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジでリッチー・ポートをぶち抜いて勝ったロシアチャンピオンのアレクサンダー・ウラソフ。そしてグラン・トリティッコ・ロンバルド2位にミラノ~サンレモ7位、グラン・ピエモンテ6位と直近の前哨戦レースで安定した成績を叩き出してきているアレックス・アランブルなど、注目すべき選手たちで溢れかえっている。23歳のネオプロコロンビア人、ハロルド・テハダも、モン・ヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジでウラソフの優勝を支えるアシストをしながら自らも6位と、驚異的な走りを見せている男だ。

そして脇を固めるのがヨン・イサギレにマヌエーレ・ボアーロ、ユーゴ・ウルと信頼できるアシスト勢(ヨンをアシストというには贅沢すぎるが)。

今年のジロの総合優勝候補であり、それを止められるとしたら・・・エヴェネプールくらいしか、思いつかない。

Embed from Getty Images

 

 

ボーラ・ハンスグローエ(BOH)

2013年のイル・ロンバルディアで3位、2年前も7位と上位に何度か入っているラファウ・マイカはもちろん、個人的に注目したいのがマクシミリアン・シャフマン。

本来はこのイル・ロンバルディアほどピュアクライマー向けのレースになると厳しいんじゃないかと思うところだが、今年はパリ~ニースで総合優勝しており、本人も将来はグランツールライダーになりたいと宣言している。ストラーデビアンケでも3位とコンディションも良さそうなので、期待したい。チヴィリオまでいければ十分狙えると思うので、ソルマーノの壁をいかに乗り越えていけるか。

アシストもパトリック・コンラッドやチェーザレ・ベネデッティなど、安心できる布陣。

今年はきっとシャフマンの年。旋風を巻き起こせ。

Embed from Getty Images

 

 

 

  

もちろん、上記以外にもジロ覇者リチャル・カラパスと今年のブエルタ・ア・ブルゴスで1勝しているイバン・ソーサ、先日のグラン・ピエモンテの終盤でもジョージ・ベネットのアタックに食らいつこうとしていたジャンニ・モスコンなどがいるチーム・イネオス、そして来年のイスラエル・スタートアップネーション行きを表明したばかりのEFプロサイクリングのマイケル・ウッズなどにも注目したいところ。

UAEチーム・エミレーツのディエゴ・ウリッシも、ツール・ド・ポローニュ総合5位にグラン・ピエモンテ2位と最近調子は良いが・・・やはりイル・ロンバルディアレベルになるとさすがに厳しすぎるのか、過去の実績はそこまででもない。

最後にもう1人挙げるとしたらやはりマチュー・ファンデルポールか。本来はシクロクロスシーズンと重なることもあり、ロンバルディア出場などありえないことだっただろうに、今年はこの先のクラシックシーズンに向けた調整も含め驚きの参加。前哨戦グラン・ピエモンテでも3位と注目すべきリザルトを残してはいるが・・・ウリッシと同じ理由で、さすがにロンバルディアは厳しいのではないか?と予想。

とはいえ、予想を軽々と超えてくるのがマチューだったりワウトだったりエヴェネプールだったり。

そういう、滅茶苦茶に裏切ってくるような激烈に熱い展開を期待したい。

 

今年2つ目のモニュメント。

果たしてその栄光を掴み取るのは、誰か。

 

スポンサーリンク

 

 

スポンサーリンク