Class:ワールドツアー
Country:フランス
Region:ドーフィネ地方
First edition:1947年
Editions:72回
Date:8/12(水)~8/16(日)
毎年恒例の「ツール前哨戦」。
今年は全8ステージのところ、新型コロナウイルスへの対応による過密日程に配慮して、全5ステージに短縮。
しかしその短縮の仕方がまた雑で、バランスよく平坦風味のステージが配置されていた前半3ステージをすべて奪い取り、ラスト4日連続の山頂フィニッシュは丸々残すという大味な再設定。
結果、スプリンターが活躍できるステージが本気で1つもないという、とにかく総合争いに的を絞った「前哨戦」となってしまった。
出場する選手たちはもちろん、完全なるツール・ド・フランスシフト。例年なら並行して行われるツール・ド・スイスもないので、その純度は100%に近い。
果たして、今年もこのドーフィネの覇者がツールの覇者になれるのか。
全5ステージの詳細プレビューと、注目すべき10名の総合優勝候補たちをピックアップして解説していく。
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コースプレビュー
第1ステージ クレルモン=フェラン〜サン=クリスト=アン=ジャレ 218.5㎞(丘陵)
5ステージ中唯一の非山岳カテゴリのステージとなるが、だからといってスプリンターが活躍できるステージでは決してない。
むしろ、パッと見この日も山頂フィニッシュのようにすら思える。
実際には下の通り、登坂距離3.3km・平均勾配4.6%の4級山岳(と言いつつその前の4級山岳からは下りなしでつながっているため実際には11㎞に及ぶ長い緩やかな登り)の山頂からフィニッシュまでは一旦の下りを含んだ1㎞が横たわっている。
とはいえ、短い下りを経た後の登り返しの勾配は厳しそうで、目測で500m/50m――すなわち、勾配10%くらいの激坂になってそうなフィニッシュプロフィールだ。
よって、この日勝つのはジュリアン・アラフィリップやペリョ・ビルバオなど激坂に強いパンチャータイプの可能性が高い。
さらに言えば、この日から総合勢が動きだす可能性も・・・ツール・ド・ランの積極性を見ていると、プリモシュ・ログリッチとかが普通にスプリントしてくる場合も考えられるだろう。
結局、今年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネは一息つく暇など与えてくれそうにない。
激しすぎる5日間が始まる。
第2ステージ ビエンヌ〜ポルト峠 135㎞(山岳)
第2ステージからいきなりの超級山岳山頂フィニッシュが待ち構えている。一応、このポルト峠(登坂距離17.5km・平均勾配6.2%)は今年のツール・ド・フランス本戦の第16ステージ道中に登場する登りで、まだ公式には山岳カテゴリが付与されていないものの、これを予想したProCyclingManager2020の判定では1級山岳の扱いとなっている。
(以下の動画の5:57~あたりからポルト峠を登っていますのでご参考までに)
ポルト峠の詳細プロフィールは下記の通り。
ここから先のステージはラストよりもその手前の方が厳しかったりと、ややトリッキーなレイアウト。
純粋に最後の山頂フィニッシュですべてを決めるという意味ではこの第2ステージが最もその可能性が高いため、ほぼ確実にここで重要な総合優勝争いが巻き起こることになるだろう。
目を離せないステージだ。
第3ステージ コラン〜サン=マルタン=ド=ベルヴィル 157㎞(山岳)
第2ステージでは第16ステージに登場したポルト峠が用意されていたが、この第3ステージでは第17ステージに登場する超級山岳マドレーヌ峠が配置されている。
ツール・ド・フランス本戦でのマドレーヌ峠の様子については下記の動画を参考に。
そしてラストは1級山岳山頂フィニッシュだが、この山岳は昨年のツール・ド・フランスの最終決戦の舞台、第20ステージ「ヴァル・トランス」の一部。33.4kmもの長距離登坂だったあのスキーリゾートの途中までを登る。
それこそ今年のツール・ド・フランスのクイーンステージである第17ステージのように、「2つの大きな登り」を抱えたこの日は、ある意味今回のドーフィネの最難関ステージとも言えるかもしれない。
第4ステージ ユジーヌ〜メジェーヴ 153.5㎞(山岳)
今年のツール・ド・フランスは第17ステージで「2つの大きな登り」によるクイーンステージを迎え、その翌日に山頂フィニッシュではないものの激しいアップダウンが繰り返されるやはり厳しい山岳ステージが用意されている。
【参考:ツール・ド・フランス2020 第3週コースプレビュー】
そしてこのクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも、「2つの大きな登り」の第3ステージの後、7つもの山岳ポイントが用意された総獲得標高4,700mの難関山岳ステージが待ち受けている。
フィニッシュ地点は緩やかな2級山岳山頂フィニッシュであり、ここで決定的な動きが起こることは考えづらいが、そこまでの厳しいアップダウン(そしてここまでの連続山頂フィニッシュ)で傷つけられたプロトンの足が、どのようにこの日の最後に作用するかは予想がつかない。
しかも、ゴール前30㎞地点に用意された超級山岳モンテ・ド・ビザンヌがまた強烈。
登坂距離12.4㎞・平均勾配8.2%。
とくにラスト6.4㎞は9%以上の勾配が続き、ラスト3㎞は10%前後がキープされている激坂だ。
フィニッシュまでまだ距離がある地点で登場するこの勝負所は、逆転などのドラマを演出しかねない。
ツール・ド・ラン第2ステージでもかなり早い段階で仕掛けたユンボ・ヴィズマや、2018年ジロでの大逆転も記憶に新しいイネオスの動きには注意が必要だ。
第5ステージ メジェーヴ〜メジェーヴ 153.5㎞(山岳)
激しい頂上フィニッシュの続いた今年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネのフィナーレは、それまでのステージと比べるとやや落ち着いたレイアウトのように感じてしまう。
それでも2級以上の山岳ポイントが全部で8つも登場する、登るか下るかの連続のレイアウトという意味では、決してイージーではない。
また、60㎞地点には今年のツール・ド・フランスで初の山頂フィニッシュとして用意されているコロンビエ―ル峠の一部を利用した登りにもなっている。
ただ、やはり決定的なポイントは終盤には少なそう。あるとしたら、ゴール前25㎞地点の2級山岳(登坂距離2.5km・平均勾配9.4%)とゴール前15㎞地点の2級山岳(登坂距離4.6km・平均勾配8.2%)の2つの短い急勾配。
果たして逆転はあるのか、それともここまででマイヨ・ジョーヌを着ていた選手が守り切るのか。
注目選手
※年齢表記はすべて2020/12/31時点のものとします。
プリモシュ・ログリッチ(チーム・ユンボ・ヴィズマ)
スロベニア、31歳
最初にツールのメンバーが発表されたときから、これは今年はユンボがイネオスを破るのではないか、と噂されていた。
しかし今回のこのツール・ド・ランでの走りで、その可能性がもはや可能性ではなく最も有力な見通しとなってしまったようにも感じる。
最終日グラン・コロンビエ登坂で見せた、圧倒的なトレイン力。トム・デュムラン、ジョージ・ベネット、ステフェン・クライスヴァイクに守られて、最後は総合TOP5にベネットもクライスヴァイクも残すという余裕ぶり。
そうして貯めに貯めた足は、最後に力を振り絞ってスプリントしたベルナルをいとも簡単にかわして、第2ステージに続く圧巻の勝利を見せつけた。
いよいよ今年、時代は変わるのか? 急速にその力を伸ばしてきた黄色の挑戦者は、帝王イネオスを破るのか?
おそらくは、このドーフィネでもその調子は決して傾くことはないだろう。
ただ、ツールの第3週まではどうなるかわからないけれど。
エガン・ベルナル(チーム・イネオス)
コロンビア、23歳
その実力が間違いなく、調子も決して悪くないことは、ルート・ドクシタニーでの圧倒的な勝利と、そしてツール・ド・ランにおいても、最後の最後できっちりとスプリントする余力を残せていたことからも明らか。
ベルナルは今年も十分に強い。ただ、それ以上にログリッチが――あるいはユンボが、ひたすらに強かった。
とはいえ、イネオスがこのまま黙って敗北するとは思えない。あの早すぎるゲラント・トーマスの脱落は、決して実力だとは思えないし、代わりにヨナタン・カストロビエホがかつてのキリエンカのように最終盤まで完璧な働きを見せてくれている。
今回はユンボに軍配が上がった。もしかしたらドーフィネでもユンボが勝つかもしれない。ツールの第2週を終えるまでは、ユンボがマイヨ・ジョーヌを着続けるかもしれない。
それでも、最後にはイネオスがやってくる。そんな怖さがある。
最後までわからない。
ミケル・ランダ(バーレーン・マクラーレン)
スペイン、31歳
2月のブエルタ・ア・アンダルシア総合3位、8月頭のブエルタ・ア・ブルゴス総合2位。 最も厳しい局面で必ず前にいる、高い安定感が今年のランダの売りである。
よって、今回も、正直、総合優勝するとは思っていない。ただ、総合TOP5には必ずいるような、そんな気がする。
バーレーン・マクラーレンにはダブルエースと言ってもいいポジションにペリョ・ビルバオがいる。彼もブエルタ・ア・アンダルシア総合6位。
第1ステージの激坂フィニッシュなんかも彼が得意としているレイアウトのため、状況によっては彼がエースとして走る可能性もなくはないだろう。
山岳アシスト筆頭のダミアーノ・カルーゾも、8/2のシルキュイ・ド・ゲチョで7年ぶり2度目のプロ勝利を遂げたばかりで、調子はかなり上がってそうだ。
ナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)
コロンビア、30歳
シーズン序盤のツール・ド・ラ・プロヴァンス、ツール・ド・オー・ヴァル総合優勝、パリ~ニースでも総合6位、モンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジでも8位、そして今回のツール・ド・ランでも総合3位と、かなり安定した走りを見せている。
ランダ同様、勝てはしないけれど、確実に上位には入ってきそうな調子のよさだ。
ただ、かつてはツール制覇も確実と思われていたような男だけに、「勝てない」のはやっぱり寂しい。
今回のドーフィネからツールにかけて、どのようにしてコンディションを整えていくか・・・。
ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
フランス、28歳
フランスの革命児は、再び夢を見させてくれるのだろうか?
今のところ本人は否定している。
「ツール・ド・フランスについては、何か特別な目標を設定しているわけではない。昨年は間違いなく特別なツールだった。今年、総合を狙いにいくようなメンバーで臨むわけではないし、僕自身もそれを考えてはいない。だからその準備をするつもりはないよ*1」
だが、ツールと、そしてその先にあるスイスの世界選手権を見据え、この夏、彼はドロミテの厳しい山岳地帯でのトレーニングを積んでいた。
目標として掲げていなくとも、身体はそれを狙うのに十分なモノにもなっている。もちろん、ツール終了から世界選手権までの日取りも短いので、無理は決してしないだろうし、ステージ優勝かもしくは山岳賞くらいで留めるかもしれないが、その前哨戦にあたるたった5日間のこのドーフィネならば、総合優勝も決してありえない話ではない。スプリンターに厳しすぎるコース設定ゆえに、登りに重点を置いたメンバーを揃えられている点も彼にとっては追い風だ。
とくに第1ステージの激坂フィニッシュは彼が狙うのに最適なレイアウト。ここでタイムを稼ぎ、そのまま終盤まで守り切っての総合TOP5入り・・・期待しておきたいところである。
なお、チームメートで注目したいのが7/1からチームに合流したばかりのネオプロ、マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー、21歳)。昨年のツール・ド・ラヴニール総合6位の新鋭で、現在すでにその実力を明らかにしているエヴェネプール、アルメイダ、バジョーリと共に、2020年代のクイックステップ総合系ライダー陣営の一角を支える存在として、今回の走りにも注目をしておきたい。
ティボー・ピノ(グルパマFDJ)
フランス、30歳
昨年のツール・ド・フランスでジュリアン・アラフィリップと共に総合優勝の可能性すら感じさせた男であり、当然今年もかなりの期待を寄せられているに違いない。チームとしても、2年連続でアルノー・デマールをジロ送りにし、ピノのためのメンバーを揃える予定だ。
しかし、正直に言って今現在のピノの様子には不安しかない。3月のパリ~ニースでは総合5位。そして直近の前哨戦「ルート・ドクシタニー」でも、クイーンステージとなった第3ステージで、エガン・ベルナル、パヴェル・シヴァコフ、アレクサンダー・ウラソフという、若手の有望株3人組に完全に遅れをとってしまった。
それでも総合4位。安定感はあるとはいえる。とはいえ、この面子の中でのこの成績は、ドーフィネやツールのメンバーの中でどれだけの走りが果たしてできるのか、という不安にしかつながらない。
まずは総合TOP5に入って安心させてほしい。
ミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ・プロチーム)
コロンビア、26歳
2018年にジロとブエルタの両方で総合3位に入り込んだ「スーパーマン」ロペス、今年いよいよツール・ド・フランス初挑戦。
だが、2月のヴォルタ・アン・アルガルヴェこそエヴェネプールを出し抜いてステージ優勝を飾り総合でも3位につける活躍を見せたが、直近のルート・ドクシタニーでは総合26位、そしてモンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジでも、早々に遅れ12位フィニッシュと、まったく振るわない。
フルサンの方がずっと調子がよさそうで、でも彼は出場しないということで、果たしてロペス、そしてアスタナはどうなってしまうのか・・・
とにかくこのドーフィネでの走りが勝負だ。
リッチー・ポート(トレック・セガフレード)
オーストラリア、35歳
ダメだダメだと思われていたリッチーが、ここに来て驚きの復調モード。
まずはルート・ドクシタニーでしっかりとベルナルやピノたちに食らいつく走りを見せて、モンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジでは勝ちすらも見えた走り。そして今回のツール・ド・ランでも、総合こそ落としたものの、最終日グラン・コロンビエの登りで最終局面まで残り続け、2度の果敢なアタックすらやってのけた。
間違いなく、ここ数年の苦しい状態から脱しつつある。
その走りを支える参謀の1人が、2018ジロの奇跡の立役者、ケニー・エリッソンド。
ドクシタニーでもモンヴァントゥーでも終始集団を牽引し続けてくれていたうえに、エリッソンド自身もドクシタニー総合13位、モンヴァントゥー7位と結果を出している。
今回のドーフィネはモレマ不在の中でポートが単独エースで走れるチャンス。
ここでの走り次第では、ツール本戦における立場もまた変わってくるだけに、かなり重要なレースとなるだろう。
果たしてポートは、本当に復活するのか?
エマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)
ドイツ、28歳
実は滅茶苦茶未知数なのが、この男である。昨年のツール総合4位。しかし今年は開幕戦のトロフェオ・セッラ・デ・トラムンターナで優勝したのち、UAEツアーにも出場するも途中リタイア。
それ以来、リアルレースは一切走っていないのだ。
では状態はどうなのかというと、レース再開前の時期に、少し流行っていた「エベレスティング」で、ルール逸脱があったために公式記録にはならなかったものの、世界新に匹敵する記録を叩き出しているという話もある。
再開後のレースに一切出ていないのは不安要素ではあり、今回のドーフィネではあくまでも調整に終始するかもしれないが、そこでの走り次第では、今年のツールでも十分に化ける可能性はある。
さあ、どうなるか。
タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)
スロベニア、22歳
昨年、驚きのブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位を記録し、今年早くもツール初挑戦となるネオプロ2年目。
あのブエルタの走りがフロックでなかったことは、今年のUAEツアーでの1勝と総合2位が証明してくれている。
ただ、レース再開後は、ストラーデビアンケやミラノ~サンレモなど、直接はツールに繋がらないようなレースしか出ておらず、そのコンディションは未知数。
ただ、少なくともスロベニア国内選手権では登坂レイアウトのロードレースでログリッチに食らいつく2位を記録しており、TTではログリッチを上回るという驚異のリザルトに。
今回のドーフィネもデラクルスとフォルモロを連れてきているだけに、何が起こるかわからない。
少なくとも、ユンボとイネオスに次ぐチーム総合力を持ち合わせていそうな今年のUAE。
それがしっかりと噛み合っているのかどうか、まずはこのドーフィネで確かめたい。
アダム・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)
イギリス、28歳
彼もまた、レース再開後は一切走っていないため、未知数である。
ただ一つ言えるのは、UAEツアーでそれこそ勢いのあるポガチャルを抑え込んで、しっかりと総合優勝を果たした、その一点において信頼を寄せたい。
あとは、チームメートのダミアン・ホーゾンが直近のチェコ・ツアーで総合優勝。ジャック・ヘイグも今年バレンシア1周とアンダルシア1周で総合2位。ブレント・ブックウォルターも、先日のストラーデビアンケで素晴らしい走りをしてみせてくれていた。
そんな、チームの力も借りながら、たぶんあまり期待されていない中で、鋭い一手を見せてくれる・・・そんな気がしている。
これ以上は語らず、ただ静かに待とう。
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