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2020シーズン 8月主要レース振り返り(前編)

 

新型コロナウイルスによる中断期間を経て、いよいよ再開されたロードレースシーズン。

早速、各種レースが過密日程で繰り広げられていく、この8月の中旬までのレースを振り返っていく。

(記事中の年齢は全て、2020/12/31時点のものとなります) 

 

↓過去の「主要レース振り返り」はこちらから↓

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

 

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ブエルタ・ア・ブルゴス(2.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:7/28(火)~8/1(土)

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スペイン北部、ブルゴス県で行われた5日間のステージレース。例年、ブエルタ・ア・エスパーニャの前哨戦の1つとして多くのクライマーたちがこぞって参加し、過去にはアルベルト・コンタドール、ナイロ・キンタナ、ミケル・ランダ、そしてここ2年はイバン・ソーサが総合優勝している、レベルの高いレースである。

それが今年、シーズン再開後最初の本格的なステージレースということで、約1ヶ月後に控えたツール・ド・フランスを見据えた有力チームの有力選手たちが集中。

過去2年の覇者イバン・ソーサに3年前の覇者ランダ、昨年ジロ覇者のリチャル・カラパスに2年前のブエルタ覇者サイモン・イェーツ、そしてモビスターはアレハンドロ・バルベルデにマルク・ソレル、エンリク・マスとツール以上の豪華さ。

その中で、総合優勝を果たしたのはわずか20歳のレムコ・エヴェネプール。

そして、そのアシストとして参戦した22歳のWT1年目ジョアン・アルメイダが総合3位となるなど、驚きの最終リザルトとなった。詳細は以下の記事にて。

www.ringsride.work

 

一方、スプリンターたちの足も見ることのできた5日間だった。

まずは第2ステージ。

ゴール前300m地点にゆるやかな右カーブが設置され、基本的にはトレインの力が重要になると思われていたこのステージで、集団を支配したのはグルパマFDJだった。サム・ベネット率いるドゥクーニンク・クイックステップもその背後につけて、FDJの残り200mでの攻撃に備えて準備を整えている様子だった。

しかし、この残り300m地点のカーブで、フェルナンド・ガビリアが動いた。FDJがカーブの外側ギリギリを目いっぱい使っていたにも関わらず、そのフェンスとの間のわずかな隙間を狙って、ガビリアは一気にポジションを上げてきた。

まるで、彼がマリア・チクラミーノを獲得した2017年のジロ・デ・イタリアのときのような、全盛期さながらの走りだった。

そうして残り200mの「本来勝負するはずだった」ポイントよりも先に前に飛び出してしまったガビリアを追って、準備不足だったデマールも慌ててスプリントを開始。同様にタイミングを見計らっていたサム・ベネットもたまらずその背中から飛び出す。

しかし、結局、ガビリアを捉えることはできなかった。

両手を広げた、余裕に満ちた堂々たるガッツポーズ。昨年ジロ・デ・イタリアでの落車以降、振るわない時期が続いていた彼の、復活を象徴するかのような勝利だった。

Embed from Getty Images

 

一方の第4ステージ。ゴール前1㎞地点で集団先頭付近にいたヤコポ・グアルニエーリとミケル・モルコフが落車したことで集団の大部分がストップ。

その一瞬の隙を突いて「独走」を開始したのがサム・ベネット。かつて勝利を稼いだツアー・オブ・ターキーや昨年のブエルタ・ア・エスパーニャのように、登りを含んだスプリントレイアウトで単純な一瞬の爆発力以外を活用する勝ち方は彼の得意とするところだったが、今回はそれが存分に発揮された形だった。

勝ち方の選択肢があるということは強い。サム・ベネットという男がトレインだけではない部分を見せてくれた。

Embed from Getty Images

 

エヴェネプールという今年の注目株の強さを見せてくれたと同時に、ガビリアとベネットというプロトン最高峰のスプリンター2名の調子の良さも感じさせてくれたこのブエルタ・ア・ブルゴス。

「シーズン開幕戦」に相応しい、激熱の5日間だった。

 

 

ストラーデビアンケ(1.WT)

UCIワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:8/1(土)

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「白い道」を意味するこのレースは、その名の通り白い未舗装路を特徴とするレース。

とはいえ、パリ~ルーベのような北のクラシックスペシャリストのためのレースというわけでもなく、激しいアップダウンも特徴とする、どちらかというとアルデンヌ・クラシックスペシャリスト向けの丘陵レースである。

例年3月の前半に開催されるこのレースも、新型コロナウイルスの影響でこの真夏の季節に。40度近くに達する高温と、春先とはまったく違う路面コンディションによって優勝候補のヴィンツェンツォ・ニバリ、ジュリアン・アラフィリップ、マチュー・ファンデルポールなどが次々とメカトラブルに襲われ、戦線から離脱した。

勝負が動いたのは残り55㎞の最初の勝負所「モンテ・サンテ・マリエ」(コースの詳細な解説はこちら→新?真?ストラーデビアンケ2020 プレビュー - りんぐすらいど)。

昨年2位のヤコブ・フルサンのアタックを皮切りに、マキシミリアン・シャフマン、グレッグ・ファンアーヴェルマート、アルベルト・ベッティオル、ダヴィデ・フォルモロ、そしてワウト・ファンアールトといった優勝候補たちが追随し、精鋭集団が形成される。

さらに残り23㎞の2つ目の勝負所「モンテ・アペルティ」でシャフマンがアタック。ファンアールトのみがこれに食らいつき、一時は10秒近いタイム差を追走集団につけることに成功した。

追走集団からはファンアーヴェルマートが脱落。残りのベッティオル、フォルモロ、フルサンは残り19㎞「ピンズート」で2人を吸収。

そして残り13㎞、最後の勝負所「レ・トルフェ」で、ついにファンアールトが決定的なアタックを繰り出した。

Embed from Getty Images

 

暑さの中、常に補給は忘れなかったというファンアールト。度重なる不運が原因で補給を忘れるほど焦り、最後は失速してしまった1年前のパリ~ルーベへのリベンジを見事果たした形だ。

最終的に集団から抜け出したフォルモロとシャフマンが追走をかけ続けたが、最後までファンアールトのペースが落ちることはなかった。

Embed from Getty Images

 

一昨年・昨年と3位続きだったこのレースで、ついに掴み取った表彰台の頂点。

また、ちょうど1年前のツール・ド・フランスで選手生命すら危ぶまれるほどの大事故を被った彼の、見事な復活を告げる勝利でもあった。

 

2018年のストラーデビアンケから今回のストラーデビアンケまでを振り返ったワウト・ファンアールトの物語については、以下の記事を参照のこと。

www.ringsride.work

 

 

ストラーデビアンケ・ドンネ(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:8/1(土)

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男子レースよりも50㎞ほど距離を短縮しつつも、その勝負所はすべて詰め込まれた女子版ストラーデビアンケ。

女子ワールドツアーにとっては2月頭のカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース以来のワールドツアーレースであり、今回から本格的にレース参戦する選手も少なくない。

そんな中、動きが起きたのは男子と同じ残り50㎞を切ってから。メイン集団から11名が抜け出し、その中からさらにマビ・ガルシアが単独で抜け出し、独走を開始。

追走集団からは3分、メイン集団からは5分のタイム差が広がったことで、少なくとも勝負は先頭の11名だけで決まるものだと、そう感じていた。

 

しかし、その後、勝負権を完全に失ったと思われていたメイン集団から、世界王者アネミエク・ファンフルーテンがアタック。

あっという間に追走集団に追い付き、やがてこれをいとも簡単に切り捨て、そして遥か先を進んでいたはずのガルシアにも追いついた。

次元の違う、圧倒的な走りであった。

 

ガルシアもなんとかファンフルーテンにツキイチの態勢を取り、振り落とされないようにしがみつく。

最後のカンポ広場への激坂で、意地を見せてアタックする姿も見せたガルシアだったが、結局最後には完全に足を止めてしまった。

それでも、これほどの走りをしてみせたファンフルーテン相手に22秒差は素晴らしい走りだったと言える。

そして衝撃的な勝ち方を見せたファンフルーテンは、レース後、息も絶え絶えでゴールするガルシアを横目に、実に余裕のある様子でインタビューに答えていた。

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これにて、今シーズン5戦目にして5勝。

あまりにも圧倒的過ぎる女王ファンフルーテンは、この後どれだけの戦績を残してくれるのだろうか。 

 

 

グラン・トリティッコ・ロンバルド(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:8/3(月)

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「三連祭壇画」を意味するTrittico。この「トリティッコ・ロンバルド」は元々、トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ、コッパ・アゴスティーニ、コッパ・ベルノッキという同じロンバルディアで行われる3つのレースの総称として使われ、「総合優勝」も毎年決められていた。

今年については新型コロナウイルスの影響でスケジュール的に3レースとも開催することが難しくなった結果、この3つのレースのコースと特徴とを合わせた1つのレースとして開催されたのがこの「グラン・トリティッコ・ロンバルド」である。

フィニッシュ地点はヴェレーゼの街。すなわち、昨年プリモシュ・ログリッチが勝ったトレ・ヴァッリ・ヴァレジーネのフィニッシュを使用する。

大雨に見舞われたヴァレーゼの周回コースで、最終的に先頭に残ったのはファンアーヴェルマートやクフィアトコフスキ、そしてヴィンツェンツォ・ニバリといった錚々たるメンバーであった。

そして、その中から、最終周回のモンテーロの丘の頂上(残り6.5㎞)でアタックしたゴルカ・イサギレが、そのままフィニッシュまで逃げ切り、1年半ぶりの勝利を掴んだ。

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2位にはチームメートで今年ワールドツアーデビューのアレックス・アランブル。

アスタナがフルサンだけでなくチーム全体で調子が上がってきていることを象徴するようなリザルトであり、その強さは2週間後に再度証明されることになる。

 

 

ミラノ~トリノ(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:8/5(水)

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例年、イル・ロンバルディアの前哨戦として、ある意味本家イル・ロンバルディア以上のピュアクライマー向けのレイアウトを用意してくるワンデーレース。

しかし新型コロナウイルスの影響によりスケジュールが変更され、(一時はイル・ロンバルディアが10月開催予定だったこともあり)ミラノ~サンレモの前哨戦として完全なるピュアスプリンター向けレースとして今年は開催された。

ちょうど前後にこういったスプリンター向けのレースが少なかったこともあり、世界のトップスプリンターたちが一堂に集結。その中で勝ったのが、アルノー・デマール。意外といえば意外な勝者だったが、この後の彼の快進撃を思えば、納得のいく勝利だった。

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そしてこの面子にて3位につけたワウト・ファンアールト。スプリンターとしても間違いなく一流であることの証明を、彼はこの3日後に示すこととなる。

 

 

ツール・ド・ポローニュ(2.WT)

UCIワールドツアー 開催国:ポーランド 開催期間:8/5(水)~8/9(日)

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1年前、若き才能の哀しき死に彩られてしまったこのツール・ド・ポローニュは、今年もまた、悲劇に見舞われてしまった。

第1ステージ。例年、批判が集まっていたその下り基調フィニッシュにて、ディラン・フルーネウェーヘンによる進路妨害の煽りを受けて、ファビオ・ヤコブセンがコース脇のバリアに押し付けられてしまった。

結果、大落車が発生。ヤコブセンは勝者として記録されたものの、そのまま病院に運び込まれる事態となってしまった。

フルーネウェーヘンに対してはUCIが懲罰委員会の開催を決め、チームとしてもその結果が出るまではレース出場停止の措置を発表。

何とも後味の悪い開幕となってしまった。

 

ただ、その後のスプリントステージでは意外かつ鮮烈な勝利が続く。第2ステージでは、勝利確実と思われていたパスカル・アッカーマンが、まさかの世界王者ピーダスンに敗れる事態に。

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ピーダスン自身今年の頭から非常に調子の良い状態だったのは間違いないが、一方でアッカーマンがこの後も「2位」を繰り返すことから、彼自身の不調――2位や3位を取れる時点でその言葉は相応しくないかもしれないが、いずれにせよ「勝ちきれない」という状態――に不安を覚える瞬間だった。

そして、第4ステージのレムコ・エヴェネプールによるヤコブセンのゼッケンを掲げた勝利のあと、その流れに続くかのように勝利したドゥクーニンク・クイックステップのダヴィデ・バッレリーニ。

昨年秋のブリュッセル・サイクリング・クラシックの「横一線スプリント」の中にただ一人混ざるアスタナのジャージに「誰だ!?」と驚いた記憶がある。その才能を、このクイックステップにおいて見事に咲かせつつあるようだ。

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最終的な総合優勝は第4ステージで鮮烈な逃げ切り勝利をしてみせたエヴェネプールが獲得し、今年出場した4つのステージレースすべてで総合優勝を果たしてみせたわけだが、一方で、第3ステージで勝利したリチャル・カラパスも、落車さえなければどこまでの走りができたのか楽しみに思うところはあった。

クリス・フルームとゲラント・トーマスが不出場となったツール・ド・フランスで、この落車と直後のジロ・デッレミリアでもリタイアを喫しているカラパスが選ばれたことは、彼のコンディションに関するチームとしての何かしらの確信があるはず。

リチャル・カラパス。昨年のジロ覇者は果たして今年のツールでどんな役割を担うことになるのか? 

 

 

ミラノ~サンレモ(1.WT)

UCIワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:8/8(土)

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↓レースの展開については下記の記事で詳細に書いております↓

www.ringsride.work

 

 

グラン・ピエモンテ(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:8/12(水)

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毎年コースと特徴が大きく変わることで有名な「イル・ロンバルディア前哨戦の1つ」グラン・ピエモンテ。今年は例年以上にしっかりとロンバルディア前哨戦。

葡萄畑が広がる丘陵地帯を舞台に、総獲得標高3,000m超えの難ステージが用意された。

 

フィニッシュ地点の登りを前にした最後の登りとなる最終周回のラ・モラ(登坂距離2.9km、平均勾配6.1%)に突入した時点で集団の数は40名以下に。

トレック・セガフレードのヴィンツェンツォ・ニバリが自ら集団の先頭を牽いて若きジュリオ・チッコーネをアシストするが、このハイペースの中から残り6㎞でジョージ・ベネットが抜け出した。

これに反応したのがチーム・イネオスのジャンニ・モスコン。しかし頂上に至る前にベネットはこのモスコンを突き放し、独走を開始。

マチュー・ファンデルポールを含む追走集団の中からは最後の登りでディエゴ・ウリッシが飛び出してベネットに迫るが、ベネットはこれを辛くも振り切った。

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ツール・ド・ランにおけるログリッチへの完璧なアシストに続く、絶好調。

この調子の良さはこのあとのイル・ロンバルディアへとつながっていく。

 

そして、もしかしたらツール・ド・フランスにも・・・?

 

後編へ続く

 

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