りんぐすらいど

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ツール・ド・フランス2018 コースプレビュー3週目

いよいよ今年のツールも最終週を迎える。

ピレネーで巻き起こる、厳しい山岳ステージの数々。

その中でも注目の的となるのは、第17ステージ。60km超短距離山岳ステージだろう。

何が起きるかわからない。これまでにない新しいツールの姿を、私たちは見ることができるかもしれない。

近年「つまらない」と言われることも多いツール・ド・フランスが、今年は大きな変革を迎えることになるのか。どうか。

suzutamaki.hatenablog.com

suzutamaki.hatenablog.com

 

 

 

 

 

第16ステージ カルカッソンヌ~バニエール・ド・リュション 218km(山岳)

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最後の休息日を終え、プロトンはいよいよ決戦の地・ピレネーへと向かう。カルカッソンヌからバニエール・ド・リュションというコース設定は4年前の大会の第16ステージと全く一緒。最後の休息日後というシチュエーションまで一緒だ。

最初にポルテ・ダスペ峠を越えるというところまで一緒だ。だが、その先の展開が少し違う。

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ポルテ・ダスペを越えた一行は、今度は昨年のツール第12ステージに登場したモンテ峠を登る。平均勾配8%。延々と厳しい登りが続く難所である。

4年前も昨年も、このあとバレ峠という超級山岳を登るレイアウトを用意していたが、今年は違う。4年前ツールの別ステージの途中に用意されていたポルティヨン峠に挑む。ここも厳しい勾配が続く、それなりの山岳だ。

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しかし、この日のステージの肝となるのは、登りではない。下り、ダウンヒルだ。

 

たとえば1つ目の1級モンテ峠の下りは9kmで800mを下る。8~9%の勾配の下りということで、非常に急勾配であることがわかる。

昨年のツール第12ステージでは全く同じ下りを使用したが、道幅は2車線あって比較的広いものの、小刻みなカーブが連続し、単独で山頂通過を果たした先頭のマイケル・マシューズは時速80kmを超える速さで駆け下りていった。

危険な下りというわけではないが、テクニックが反映されやすい下りと言え、単独で抜け出すことでライバルたちに差をつけることが可能そうだ。逃げ集団においても、総合勢においても。

 

とはいえ下ってからの平坦部分も長いため、あまりこのモンテの下りで勝負を仕掛ける選手は多くないだろう。

問題は、最後の1級ポルティヨン山頂を通過してからの10kmの下りだ。

フラム・ルージュに到達するまで下りが続く純粋なダウンヒルフィニッシュで、重大な動きが巻き起こりそうな臭いがぷんぷんする。

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総合勢でやはり気になるのはロマン・バルデ。

昨年の第9ステージ、モン・デュ・シャの下りでは、フルームすら引き離す強烈なダウンヒルを見せてくれた。

しかしそのあとの10kmに及ぶ平坦区間で捕まえられてしまったバルデ。今年は、この日のように純粋なダウンヒルでフィニッシュに到達するステージがいくつか用意されている。

そういった点でもバルデにとってはチャンスの大きい年なのだ。

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昨年の第9ステージのダウンヒルでフルームらを引き離したバルデ。今年も下りで勝負を仕掛けるか。

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ルートは違うが、2年前のツール第8ステージでも、バニエール・ド・リュションに至るダウンヒルフィニッシュが用意された。このときは「宇宙的ダウンヒル」を見せたフルームが圧勝した。

 

 

そしていよいよ、問題の第17ステージに到達する。

 

 

 

第17ステージ バニエール・ド・リュション~ポルテ峠 65km(山岳)

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もはや改めて説明する必要もないだろう。「短距離山岳ステージ」の極みとなるこのステージ。しかも、単なる3つの山が盛り込まれています、というだけでなく、そのいずれもが凶悪な難易度を誇る厳しい峠道なのである。

 

まずは1つ目。ペイラギュード。

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ペイラギュードと言えば、やはり思い出すのは昨年、フルームを苦しめ、バルデに勝利をもたらしたあの激坂フィニッシュ。

しかし、飛行場の滑走路を利用した昨年のあの激坂を今年も使うわけではない。ペイラギュードと必ずセットになるペイラスルドの峠を越えたあと、プロトンは進路を左手にとって飛行場を通り過ぎる。そして、昨年の激坂に比べれば緩い登りを登って山頂に到達するのである。

昨年ほどの厳しさではない。それでも、全長15kmの長い登りが、スタートダッシュを決めた総合勢たちの足を確実に奪っていく。激坂ではない分、ペースは激しいはずだ。ここでの足の使い方が、のちのちに大きく関わってきそうな予感がする・・。

 

2つ目はヴァル・ルーロン・アゼ峠

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他2つと比べると距離は短いが、その分厳しい勾配がぎゅっと詰まっている。9~10%近い勾配が続く黒い区間で早くも脱落していく選手は多いことだろう。

 

そして最後に待ち構える、超級ポルテ峠。

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まず、長い。16km。

それでいて勾配がキツい。

60km超短距離山岳ステージを越えてきた選手たちにとってはあまりにも厳しい登り。短いからといって序盤から飛ばしまくっていた選手たちをなぎ倒していくかのようなレイアウトだ。

しかも、この山の頂上が標高2215mと、今大会の最高標高地点(アンリ・デグランジュ賞対象地点)。気圧の低さなどが選手に及ぼす影響も無視できないだろう。

ここまで脱落者を出しながら先頭が少数に絞られていたとしても、この登りでまたリセットがかかりかねない。

本当にこれまで経験したことのないような戦いが繰り広げられそうな予感がある。

 

なお、この登り、元々は15kmにわたる未舗装路となっていたようだ。

しかし、さすがに今回のツールに合わせて舗装されるという。さすがにこの日の最後の15kmを未舗装路で戦わせるというのはあまりにもひどいとは分かっているが、少し残念な気持ちがないわけではない。

↓参考リンク↓
bikenewsmag.com

 

いずれにせよ、ヒートアップ間違いなしの今大会最大注目ステージ。

しかもこの日は、ツール初の「グリッドスタート方式」が取られるとの噂。

正確なルールがどうなるかはまだわからないが、いずれにせよこれも、スカイのチーム戦略を無効化し、キンタナやコンタドールがかつてブエルタでやってのけたような展開を生み出す可能性が十分にある。

この日が原因で、フルームのツール4連勝が失われるかもしれない。

やはり最大の注目ステージだ。

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2016年ブエルタ第15ステージ。118.5kmの短距離山岳ステージで、スタートと同時にコンタドールとキンタナが飛び出した。フルームは後続集団に取り残され、アシストも失い、バルベルデにも翻弄され、ボーナスタイムを含め2分43秒を失った。このタイム差はタイムトライアルでも挽回することはできず、初めてキンタナに敗北を喫したグランツールとなった。

 

 

 

第18ステージ トリ・シュル・ベーズ~ポー 171km(平坦)

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ピレネーの超級山岳に挟まれた、平穏なるステージ。今年は例年以上にスプリンターの戦国時代といった様相だが、今年、ここまでで4勝を挙げられるスプリンターはいるのだろうか。そして、ポイント賞は誰の手に?

逃げ名手たちにとっても残された数少ないチャンス。昨年は似たような状況の第19ステージで、勝ちきれなかったボアッソンハーゲンが逃げに乗ってなんとか勝利を掴んだ。そのときよりも山岳の難易度は低いものの、今回もまた、劇的な勝利を見てみたいものだ。

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昨年のスプリントではほんのわずかの差でキッテルに敗れていたボアッソンハーゲン。最後の最後で、勇気ある逃げの末に勝利を掴んだ。

 

 

 

第19ステージ ルルド~ラランス 200.5km(山岳) 

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アスパン! トゥールマレー! そしてオービスク!!

ピレネーの誇る美しくも険しい名峰たちが勢ぞろいする豪華絢爛たる一戦。

総合勢たちによる争いはもちろん、山岳賞を望む勇士たちによる最後の決戦の舞台ともなりそうだ。過去にもヴォクレールやマイカヴィランクなど、山岳賞職人たちが山頂の先頭通過を果たしている。

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広々とした景観と、美しき稜線。ドロミテの峻厳な風景とはまた違った、穏やかで雄大なるトゥールマレー。

 

全ての決戦は最後のオービスクで演じられることとなるだろう。だが、大逆転劇が演じられるほどには、厳しすぎる登りではない。

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ポイントとなるのは、このオービスク山頂から20kmにわたって続くダウンヒル

たとえばフルームがマイヨ・ジョーヌを失っていた場合、この下り坂ではほぼ確実に勝負を仕掛けてくるだろう。ジロ第19ステージのように。

あるいは、バルデがわずかの差でフルームを追いかけている場合は、チーム一丸となってこの登りと下りに挑むはずだ。いや、もしも彼がマイヨ・ジョーヌを着ていた場合でも、翌日に控える個人タイムトライアルを見据えて、戦いを放棄するわけにはいかないはずだ。

期待したいのは、パリ~ニースでよく見られる、最後のダウンヒルでの手に汗握る追走劇。単発の破壊力ではそこまででもないステージではあるものの、歴史に残る名勝負が生まれる可能性は十分にある。

 

 

 

第20ステージ サン・ペ・シュル・ニヴェル~エスプレット 31km(個人TT)

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昨年に続き、総合優勝争いの最後の舞台は個人タイムトライアルに委ねられた。今大会唯一の個人TT。ただし距離は31kmとやや長め。昨年は第20ステージの個人TTで総合2位と3位とが入れ替わった。しかも、総合3位に転落したバルデは、わずか1秒の差で総合表彰台すら失いかねなかった!

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苦手な個人TTにバッドデイが重なり、フルームとのタイム差を一気に2分近く広げてしまったバルデ。ゴール後、憔悴しきった表情で壁にもたれかかる。

 

だが、今年は距離は長くなったとはいえ、昨年ほどの悲劇には見舞われないはずだ。

何しろ、舞台はフレンチ・バスク。山岳TTと見まがうばかりに激しいアップダウンに加え、終盤には勾配10%の激坂区間が。

さすがにノーマルバイクの使用を推奨されるほどではないものの、昨年よりはクライマーにもまだチャンスはあるレイアウトとなっているはずだ。

バルデが総合優勝を飾るためには、この日、マイヨ・ジョーヌを着用していることが絶対条件なのは変わらない。そのうえで、最低でも、総合2位の選手に1分以上はタイム差をつけておきたいところ。

あとは、バルデの執念次第だ。

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エスプレットの名産品はトウガラシ。毎年秋になると、トウガラシ祭りとして、各々の家にトウガラシが飾りつけられる。ツール開催期間中はさすがにこういう風景は見られないだろうが、映像くらいは流してくれそうだ。

 

 

 

第21ステージ ウイユ~パリ・シャンゼリゼ 116km(平坦)

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ついに第105回目のツール・ド・フランスが幕を閉じる。

この日、黄色のジャージを身に纏い、シャンパンのグラスを傾けるのは誰か。

もちろん、「王者」クリス・フルームの5回目の勝利を祝いたい気持ちもある。

一方で、毎年代わり映えのしない風景からの脱却を図りたい気持ちもある。

フランスの誇る貴公子がこの日、栄光のジャージを身に着けているのであれば、シャンゼリゼの観衆は暴れ回らんばかりに熱狂に包まれることだろう。

コロンビアの若き天才、あるいはベテランの苦労人が、それぞれのチームメートと共に凱旋するのであれば、それもまた新たな時代の幕開けを感じることだろう。

かつて王者の相棒であった小さなオーストラリア人が、2011年以来の快挙を母国にもたらしてくれるかもしれない。

いずれにせよこの日は、3週間の全てが詰まった感極まる時間を過ごすことができるだろう。

 

そしてもちろん、最後の石畳の登りを舞台とした最強スプリンター決定戦も、見逃すことはできない。

2009年~2012年はマーク・カヴェンディッシュが4連勝を成し遂げた。

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2013年・2014年はマルセル・キッテルが2連勝を果たし、新たな時代を感じさせた。

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2015年・2016年はアンドレ・グライペルが2連勝し、稀代の重量級スプリンターの底力を見せつけた。

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しかし時代は変わる。

かつての最強は、新たに台頭してくる若者に、少しずつ座を奪われていく。

 

2017年は、そんな新時代のスプリンターの代表格、オランダのディラン・フルーネヴェーヘンが力強い「先行逃げ切り型スプリント」で初勝利を飾った。

彼は今年もヴィヴィアーニに次ぐ勝利数を誇るスプリンターとして、注目を集めている。

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ジンクスで言えば今年もフルーネヴェーヘンが連勝をするか?

しかし、昨年は悔しい途中リタイアで終わったアルノー・デマールや、ヨーロッパチャンピオンジャージを身に纏うアレクサンドル・クリストフ、そして、今年ツール初挑戦、どんな成績を残してくれるか予想のつかない男、フェルナンド・ガビリアもいる。

シャンゼリゼの表彰台」という栄光を掴み取るのは誰か。

個人的にはここに、カレブ・ユワンやブライアン・コカールがいないことが非常に悔やまれる。

 

 

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