いよいよ開幕する、「クラシックの王様」ことロンド・ファン・フラーンデレン。
またの名をツール・デ・フランドル。
5大クラシックである「モニュメント」の1つであり、1913年に初開催。
今年で102回目を迎える。
最大の特徴は東フランドル「黄金のトライアングル」に位置する18の急坂の存在。
伝説の急坂「カペルミュール」が昨年復活し、勝負に影響を与えたほか、最大勾配22%のコッペンベルフや、最大20.3%で3回登り、毎年のように勝負所となっている「パーテルベルフ」などがとくに有名。
レース終盤での激しいアタックが繰り広げられ、最後はわずか数名での決着になるのが通例。
本当に実力のある者しか生き残れない、まさに「王」の名に相応しいクラシックレースである。
今回はこの「クラシックの王」についてプレビュウを行う。
コース詳細
コース全長は265.5km。グランツールではまず使われない超長距離。
ロンドに近いレイアウトとなる「オンループ・ヘット・ニウスブラット」や「E3ハレルベーケ」でも200km程度の距離を使用するため、それら以上に厳しく激しい戦いとなるのは必至。
距離に合わせ、急坂の数も増えている(オンループは13個、E3は15個、ロンドは18個)。
ベルギー最大の都市アントウェルペンをスタートしたプロトンは、そのままアントウェルペン州を南西に進み、いよいよ決戦の舞台オースト=フランデレン州に。
2012年から新たなゴール地点として採用されたオウデナールデの街はすっかりおなじみに。
残り150kmを切って全長2km超えの終盤の勝負所でもある「オウデクワレモント」が最初の急坂としても登場し、いよいよレースが本格的に開始される。
残り100kmを切った段階で、伝説の坂「カペルミュール」が登場する。
昨年、およそ6年ぶりの復活となったこの急坂は、ゴールまであまりにも距離があるために、勝負所になることはないだろう、と予想された。
しかしその予想に反し昨年、この急坂でトム・ボーネンがペースアップ。
クイックステップ3名を含む11名の逃げが出来上がり、結果として数の利を活かしたジルベールが勝利を掴んだ。
残り60kmを切って、いよいよレースは終盤戦に突入する。
2週目のオウデクワレモント、最大勾配20.3%のパーテルベルフ、そして最大勾配22%のコッペンベルフが立て続けに登場する。
昨年はここで、ジルベールが独走を開始した。
そして残り30kmを切って、2.5kmのクルイスベルフ、3回目のオウデクワレモント、そして2回目のパーテルベルフを越えて、最後は10kmの平坦での勝負となる。
2015年は、このクルイスベルフでアタックして抜け出したテルプストラとクリストフの一騎打ちとなった。
2016年はクルイスベルフ手前でサガン、ファンマルケ、クファトコフスキがメイン集団から抜け出してカンチェラーラが置き去りに。
3週目オウデクワレモントでカンチェラーラが追走集団から抜け出すものの、サガン、ファンマルケには追い付けず、最後のパーテルベルフでファンマルケを切り離したサガンがそのまま独走勝利を決めた。
残り100kmのカペルミュール。
残り60kmのオウデクワレモント、パーテルベルフ、コッペンベルフ3連戦。
そして残り30kmのクルイスベルフ、オウデクワレモント、パーテルベルフ3連戦。
この辺りが今年も、注目すべき勝負所となるだろう。
注目選手
参考までに、過去3年間のTOP10を確認しておく。
こうやって見てみると、やはり実力者は残るべくして残るといった感じである。
ただし、実際には上記表の中の上位数名だけが終盤に抜け出して勝利しているため、勝負所で他を圧倒して抜け出す爆発力と、その後逃げ続けるだけの独走力が勝利の絶対条件となる。
また、最後はほぼエース同士での睨み合いとなるため、遅れたときに追走を仕掛けて復帰するためにも、アシストがどれだけ終盤に残っていられるかも勝負の鍵となる。
絶対的なエースの強さがモノを言いそうなクラシックではあるが、想像以上にチーム力が重要となる。
先日のE3ハレルベーケも、クイックステップがチーム力を活かし切ったがゆえの勝利であったのだ。
逃げ、追走、メイン集団全てに選手を送り込んだクイックステップ。
特に終盤、ファンアフェルマートとベノートが抜け出したとき、飛びついてかき回し役に徹したジルベールの動きはまさに職人技であった。
急坂対応力と独走力、そしてエースを支えるチーム力を総合的に判断し、注目選手を確認していく。
フィリップ・ジルベール(ベルギー、35歳)
昨年優勝者。今年もここまで絶好調。
彼自身の勝利はないが、ル・サミンおよび先日のE3それぞれでテルプストラと共にワンツーを獲っている。
とくにE3での、ファンアフェルマートやベノートの動きに即座に反応する動きが絶妙であった。昨年のドワーズドール・フラーンデレンなどと同様に、とにかくチームのための走りができるのが強い。
ということで、ジルベールによってジルベール自身の勝利ではなく、テルプストラ、ランパールト、スティバールといったチームメートたちの勝利を導きうるという意味で、いずれにせよ勝利に大きな役割を果たしそうな人物である。
ペテル・サガン(スロバキア、28歳)
2年前、強烈な走りと独走力を見せつけてカンチェラーラを圧倒し、世代交代を印象付けて100人目のロンド覇者となった男。昨年は終盤に落車して勝利を流す。
今年はここまでクラシックで良いところなし・・・と思っていたところで、先日のヘント~ウェヴェルヘムでついに勝利。
実は2016年のロンドも、直前にヘントで勝利している。これはもしかして?
また、ヘントでは、マーカス・ブルグハートが終盤まで残ってくれていたことが大きな役割を果たしていたように思う。
ブルグハートはミラノ~サンレモでも最後のポッジョ・ディ・サンレモで先頭に出る積極的な動きを見せていた。そういう動きこそが、サガンを救うのである。
また、E3ハレルベーケでは常に先頭を牽き、何度遅れても復活してサガンをアシストし続けていたダニエル・オス。
このオスとブルグハートが共に揃う今回のロンド。サガンが再び王位を獲得する可能性は、十分に存在する。
グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、32歳)
今期クラシックではイマイチな状況だったファンアフェルマートだったが、今回のE3では3位と悪くない結果に。
とくに終盤、勇気をもって自ら飛び出したのが功を奏した。逆にサガンはここについていけなかったがゆえに勝機を逃した。
しかし、クイックステップの数の利には敵わず。
BMCレーシングとしても、ステファン・クーンやユルゲン・ルーランツなどのルーラーたちの活躍が光っており、ロンド本戦に向けたチーム力に関しても期待はできる。
クイックステップの次に可能性をもったチームであることは間違いない。あとは最後の最後で、勝ちきるだけの独走力をファンアフェルマート自身が持てるかどうか。スプリント勝負になれば可能性は高いのだけれど。。。
ティシュ・ベノート(ベルギー、24歳)
3年前、プロデビュー初年度にまさかのロンド5位を記録した天才。しかしそれゆえに過剰な期待を抱かれ続けてきた。
本人としてはステージレースでの総合成績も追い求められるタイプであるだけに、迷いもあったようだが、今年ストラーデビアンケで優勝。さらに先日のE3でも終盤まで粘る走りを見せて5位。改めてロンドに再挑戦できる準備が整った。
クファトコフスキに似た、真の意味でのオールラウンダーとなれる素質を持つ男。今年はまず、クラシックで獲れるだけの成績を獲っていきたいところ。
セップ・ファンマルケ(ベルギー、29歳)
クラシックの勝負所で残る力は十分にある。あとは、他を圧倒するほどの爆発力がないため、勝ちきれないことが続いている。今回もヘントもそう。
とはいえ、スプリント争いになっても勝てる見込みが薄いので、厳しくても終盤でアタックするしかないのだけれど・・・その意気込みだけは非常に男らしいのだけれど・・・。
とにかく、絶妙なタイミングを突く奇襲をしないと、勝つのは難しそう。
そんな奇襲をするためにも、チーム力が非常に大事。
昨年6位のサッシャ・モドロなんかがうまく最後まで残ってファンマルケと共に珍しい「チーム力」を見せてほしいところ。
ミハウ・クフャトコフスキ(ポーランド、28歳)
アルガルヴェ1周&ティレーノ~アドリアティコ両方で総合優勝と、ステージレーサーとしての実績を着実に積み重ねつつある今年のクファトコフスキ。しかし2年前サガンが勝ったときのロンドでも勝負所でしっかりと喰らいつく走りを見せたりと、北のクラシックでも十分期待ができそう。
そしてチームとしても楽しみな選手が多い。ディラン・ファンバールレ、イアン・スタナード、大怪我から復活したルーク・ロウ、そして、先のE3でも終盤まで残りアタックする姿も見せていたジャンニ・モズコン。とくにモズコンが、今回も何かやってくれるんじゃないかと期待してしまう。
ワウト・ファンアールト(ベルギー、23歳)
3年連続、シクロクロス世界チャンピオンに輝く。昨年から少しずつロードレースにも参加しているが、今年から本格的にクラシックレースに挑戦。
3月頭のストラーデビアンケではいきなりの3位と、才能を見せつけた。
直前のヘント~ウェヴェルヘムでも終盤まで常に先頭集団に残り、ワールドツアーチームの大ベテランに負けない走り。
目指すはベスト5。
今年もまた、ロンドは伝説を生み出すのか。
新たな「王」になるのは誰か。