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ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ2018 プレビュー

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別名「バレンシア1周」。その名の通り、スペイン・バレンシア州を舞台にして開かれる5日間のステージレースである。

「ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ」はバレンシア語による表記であり、スペイン語では「ブエルタ・ア・ラ・コムニダード・バレンシアナ」となる。

 

UCIヨーロッパツアー1クラスにカテゴライズされているレースではあるが、歴史は古く1929年から開催されていた。

しかし2009年~2015年の間は休止しており、2016年より復活を果たした経緯を持つ。

 

プロチームの多くが冬季合宿地として選ぶマヨルカ島に近いこともあり、例年多くのトップ選手が出場し、シーズン入りを果たしている。昨年はナイロ・キンタナが総合優勝を果たしたほか、トニー・マルティンやブライアン・コカールなどのお馴染みの選手が勝利しており、はっきり言って1クラスのレースとは思えない様相を呈している。

 

事実、UCIワールドツアー18チーム中、11チームが出場を決めており、その中身に関してもフレッヒ・ファンアフェルマート、ヤコブ・フールサン、イェーツ兄弟、デラクルス&クフャトコフスキ、プリモシュ・ログリッチなど、名だたるライダーたちがこのバレンシア1周を2018シーズンのデビュー戦に位置付けている。

また、昨年ツール初日の大クラッシュ以降、公式戦の出場を控えていたアレハンドロ・バルベルデが、デビュー戦となったマヨルカ・チャレンジに引き続き出場することも、注目の要素である。

 

 

そんな、ヨーロッパ自転車シーズンの本格的な幕開けを告げるレースが、今年はDAZNにて1/31(水)よりライブ放送が行われる。

いつでも見逃し視聴もできるということで、今年から多くの日本人視聴者がしっかりと見ることができるようになった。

 

今回は、このバレンシア1周レースのプレビューを行う。

 

 

 

ステージ詳細

第1ステージ オロペサ・デル・マール~ペニスコラ 191.5km

ゴール地点となるペニスコラは、ペニスコラ城(冒頭の写真)で有名なバレンシア州の主要観光地の1つである。ゴール地点も、ペニスコラ城を臨む海岸線でのゴールとなる。

バレンシア州北東部のカスティリョン県の、海岸部と内陸の山岳を越えて1周するコース。スタートゴールは海抜0mで、86km地点の2級山岳は781mまで登る。

とはいえ、基本的には平坦ステージとなるだろう。海岸部の横風に注意。

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バレンシア1周はどちらかというとクライマーの出場が多く、同時期にドバイ・ツアーが開かれることもありトップスプリンターはあまり出場していない。

昨年・一昨年の数少ないスプリントステージでの勝利者も、ディラン・フルーネヴェーヘン、スティン・ヴァンデンベルフ、マグヌスコルト・ニールスン、ブライアン・コカールなど、「最強」ではないけれど確実に実力のある選手たちである。

そういった点を考え、今大会の有力スプリンターを概観すると、実力・実績で抜きんでているのはディメンションデータのエドヴァルド・ボアッソンハーゲンと、ミッチェルトン・スコットのマッテオ・トレンティン。EFエデュケーションファーストはサッシャ・モドロとダニエル・マクレーのダブルエース体制である。どちらかというとモドロの方が経験は豊富かもしれないが、昨年同時期のマヨルカ・チャレンジで1勝しているマクレーも十分に可能性がある。

ほかにもツアー・オブ・ジャパンとジャパンカップで活躍したマルコ・カノーラなども気になるが、個人的に一番注目しているのはチーム・ロットNLユンボのダニー・ファンポッペルである。3年前のブエルタ・ア・エスパーニャ勝利に次ぐ大ブレイクの年となるべく、幸先の良いスタートを切っておきたいところ。

 

ちなみにバレンシア1周のゴール地点のボーナスタイムは、通常のレースとは違って6,4,2秒となっている。純粋な登り勝負では勝ちきれない選手がスプリントのボーナスタイムで稼ぐにはやや少ないボーナスタイムであると言えるだろう。

 

 

第2ステージ ベテラ~アルブイシェク 191.5km

第1ステージの舞台となったカスティリョン県から南下し、バレンシア州の中心地、バレンシア県に突入する。

バレンシア1周らしく、第2ステージから本格的な山岳ステージ。序盤から3つの3級山岳と、後半には1級山岳が2つ。

ただし最後の1級山岳ガルビ峠(登坂距離9.3km、平均勾配5.2%)山頂からゴールまでは緩やかな下り基調で30kmも残っているため、クライマーたちによる総合争いが巻き起こるか、粘り切ったスプリンターたちによる集団スプリント勝負になるか、微妙なところではある。

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参考までに、ほぼ同じコースレイアウトを使用した昨年ブエルタだの第6ステージを見てみると、このガルビ峠で逃げ集団から3名が抜け出して、最後にマッチスプリントの末、トーマス・マルチンスキーが勝利を決めた。

またメイン集団に関してもコンタドールが積極的な攻撃を仕掛け、最終的には20名程度の小集団での勝負となった。

同じような激しい展開が巻き起これば、スプリンターが勝負をするのは難しいかもしれない。とはいえ、ボアッソンハーゲンなど山にも強いスプリンターもいるため、本当にどうなるかわからない。

バルベルデや、フレッヒ・ファンアフェルマートなども優勝候補に挙げられるだろう。あるいは、ミッチェルトン・スコットのミヒャエル・アルバジーニ、同じチームで、下りでの勇気あるアタックを得意とするイェーツ兄弟や、ロットNLのログリッチェなども・・・。

 

 

第3ステージ ポーブル・ノウ・デ・ベニタチェイ~カルペ 23.2km

バレンシア県からさらに南下。バレンシア州で最も南に位置するアリカンテ県にて20km超の重要なチームTTが開催される。当初は30km以上のコースが発表されていたようだが、現時点の公式HPには下記のような短縮されたコースが掲載されている。

コースのほとんどが海岸線の直線路で、トリッキーさはないものの横風による影響がありうるかもしれない。2年前のブエルタ第19ステージではカルペでの37km個人TTが開催され、クリス・フルームが優勝を果たした。

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キューンやブックウォルターなどを抱えるBMCが最大の優勝候補。昨年の開幕チームTTでもBMCが勝利している。総合優勝候補のモビスター・チームも、TTスペシャリストこそ連れてきてはいないものの、バルベルデもアマドールもTTは速いので、上位をキープできる可能性は十分あるだろう。

逆に元世界チャンピオンのヴァシル・キリエンカを連れてきているチーム・スカイとしては、ここで出来る限り、モビスターに差をつけておきたいところである。

 

 

第4ステージ オリウエラ~コセンタイナ 184.2km

アリカンテ県のオリウエラは、バルベルデの故郷であるムルシアからもほど近い。また、チームメートのラファエル・バルスは、ゴール地点のコセンタイナが生まれ故郷である。

そんな、モビスターにとっては絶対に負けられないこのステージで、今大会の総合優勝争いに決着がつく。

7つの山岳ポイント。その4番目の1級山岳カラスケタ峠は、今大会最高標高となる1021m。そこを下ったのちに、3級山岳を2つ越えて、最後は1級アルト・デ・ラス・カンテラス頂上ゴールとなる。登坂距離は5kmと比較的短いが、平均勾配は7.8%、最大勾配12.3%と、十分に破壊力がある登りだ。

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もはや小手先は何もいらない。ただ純粋に、このとき最も調子の良いクライマーがこの日を制することになる。バルベルデか、デラクルスか、クフャトコフスキか、フールサンか、はたまたイェーツ兄弟か。アントン、プラサ、クネゴ、ログリッチェといった選手も、勝利を狙って攻撃を仕掛けることだろう。

そして最後は、もしかしたらチームTTでのタイム差が勝敗を分けるかもしれない。いずれにせよ、この日のゴール後の総合表彰台に登った選手が、今年のバレンシアナの勝者となる可能性は高いだろう。

 

 

第5ステージ パテルナ~バレンシア 135.2km

バレンシア1周の最終ステージは、毎年恒例となる州都バレンシアにゴールするフラットステージ。100km地点に3級山岳が控えているが、これが勝敗に影響する可能性はほぼなく、スプリンター同士のガチンコバトルとなるだろう。総合優勝争いも、山岳賞争いも、前日までで決着がついているはずだ。

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第2ステージに引き続き、ボアッソンハーゲン、トレンティン、モドロ、マクレー、そしてカノーラとファンポッペル辺りに期待を寄せる。初日ステージはエースのアシストに集中していた総合系チームのスプリンターたちも、最終日ということで全力を賭して勝負に挑んでくる可能性もあるだろう。 

 

 

 

 

注目選手

アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、37歳)

昨年、2月~4月に開催されたスペインの3つのステージレース全てで総合優勝を果たす。ツール・ド・フランス初日ステージで大クラッシュに見舞われ、残りのシーズンを棒に振ってしまったものの、復帰戦となった先日のマヨルカ・チャレンジでは、2日目のトロフェオ・セッラ・デ・トラムンターナで3位、3日目のトロフェオ・リュセタで4位とまずまずのコンディションを披露している。

既に準備は万端。昨年はキンタナが総合優勝を果たしたこのバレンシア1周で、今年はバルベルデが景気づけの総合優勝を果たしていけるか。チームメートも、2年前のジロ総合3位を支えてくれたアンドレイ・アマドールやホセホアキン・ロハスなど、最強クラスのアシストを揃えており、本気具合が見て取れる。スプリントでも上位に食い込む力を持つバルベルデこそが、今大会の総合優勝候補なのは間違いないだろう。 

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ダビ・デラクルス(スペイン、28歳)

2016年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合7位、2017年バスク1周総合4位と、ステージレーサーとしての実力を伸ばしつつあるスペイン中堅期待の星が、チーム・スカイ移籍後のデビュー戦としてこのバレンシア1周を選んだ。昨年も総合7位と、相性は悪くない。

さらに、アシストとして、昨年フルームのツール総合優勝を支えたミハウ・クフャトコフスキを連れてきている。状況によっては彼がエースとなる可能性もありそうだが、これだけ心強いアシストはいないだろう。

当然、プールスやローザ、モズコン、スタナードと、あらゆる局面で頼りになるスカイ最強クラスのアシストたちも控えている。チーム力で言えば今大会最強は間違いなさそうだ。

そして、平坦でも山岳でも頼りになり、今大会の勝敗を分ける重要なポイントになりそうなチームTTでも真価を発揮するヴァシル・キリエンカの存在。

この、最強のチームメートたちに支えられ、デラクルスは自身初のステージレース総合優勝を飾ることができるか。

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メルハウィ・クドゥス(エリトリア、24歳)

ディメンションデータでじっくりと育てられつつある、アフリカ勢期待の若手ステージレーサー。昨年はツアー・オブ・オマーンで新人賞を獲得したほか、バレンシア1周でも新人賞2位。しかも、そのとき1位だったセンニは今年は出場せず(そもそも新人賞対象から外れている)。クドゥスにとって、今回はバレンシア新人賞を獲得する最大のチャンスである。

そんな彼にとって、最大のライバルとなりうるのがチーム・ロットNLユンボのクーン・ボウマン。昨年ドーフィネ山岳賞の彼は、まだステージレースの総合争いでは頭角を現してはいないものの、爆発する可能性は十分に秘めている。

ロットNLはTTに強いメンバーも揃えており、チームTTで差を付けられる可能性もある。第4ステージでクドゥスがどこまでの走りを見せられるか。

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マッテオ・トレンティン(イタリア、28歳)

勢いだけで言えば、今大会最も期待できるスプリンターかもしれない。昨年ブエルタ・ア・エスパーニャで区間4勝。パリ~トゥールでも2回目となる優勝を果たした。マッチスプリントでも、アタックからの逃げ切りでも、どちらでも勝負できる万能タイプ。山も十分こなせるだろう。

ミッチェルトン・スコットとしては、よりパンチャーに近いタイプであるミヒャエル・アルバジーニもいるため、状況によってどちらが勝利を狙うかは変わってくるだろう。また、総合狙いのイェーツ兄弟もいるため、彼らのアシストとして働く可能性もありうる。

大きな期待を寄せられて、最強チームから引き抜かれたトレンティン。その移籍が成功であったことを示すためにも、今大会のスプリントステージ2つとも、奪い取ってしまいたいくらいだ。

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ダニー・ファンポッペル(オランダ、24歳)

トレック時代の2015年、22歳の頃にブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝を果たした。直前にパンクして遅れながら、そこから復帰してからの劇的な勝利だった。

翌年から2年間チーム・スカイに在籍し、ブエルタ・ア・ブルゴスやアークティックレース・オブ・ノルウェー、ツール・ド・ポローニュなどで勝利を獲得。しかし、ヴィヴィアーニも所属し、ステージレースでは総合が優先されてしまうチームでは、十分な活躍を果たせずにいた。

今年、母国オランダのチームに移籍を果たす。フルーネヴェーヘンがエーススプリンターではあるものの、ファンポッペル自身も、将来のオランダ人エースとして嘱望間違いない。選んでくれたチームに捧げる開幕戦勝利を、なんとしてでも獲得しておきたいところ。スペインのレースとの相性も、悪くないはずだ。 

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その他注目選手

アルがチームを去ったことで、今度こそ単独エースとしてツールに臨むこともできそうなヤコブ・フールサンが、今年こそ、の思いを込めて開幕戦を勝利で飾れるか。イェーツ兄弟は総合はもちろん、挑戦的なアタックからの逃げ切り勝利にも期待。イスラエル・サイクリングアカデミーのプラサは10年前のバレンシア総合優勝者であり、今年はヘルマンスと共に、プロコンチネンタルチームとしてジロに殴り込みにかかる。一方、ジロ出場を逃した引退シーズンのクネゴは、その悔しさを結果にして返したいところ。

短いステージレースであり、勝負どころが限られているだけに、誰が勝つかわからない。普段はアシストで活躍するような選手でも勝ちを獲れるチャンスもあるレースなので、バーレーン・メリダのヴィスコンティやペリゾッティにも期待ができるかもしれない。想像もしていないドラマを楽しみにしたい。

そして、今年からプロコンチネンタルチームに昇格して早速出場となったラリー・サイクリング。2016年ツアー・オブ・カリフォルニアで山岳賞を獲得し、昨年の同レースで区間2勝を飾ったエヴァン・ハフマンが、ヨーロッパでもその強さを見せつけるシーズンになるかどうか。

ほかにもエウスカディ・バスクカントリーやブルゴスBHなど、新プロコンチネンタルチームの活躍にも注目していきたい。 

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昨年のツアー・オブ・カリフォルニアでワールドツアーチームの選手たちを手玉にとって2勝を挙げたハフマン。今大会でも、かき回し役になってほしい。

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