来る1月14日日曜日*1、UCIワールドツアー緒戦となる「ツアー・ダウンアンダー」が開幕する。
今年はJsportsで初となる完全生中継を実現。1月から最高の盛り上がりでロードレースシーズンをスタートさせることができる。
新年一発目となる本記事では、早速このダウンアンダーをプレビュウしていくこととする。
2018年シーズンも、少しでも興味を持っていただけるような記事を送り届けていきたく思う。
今年もよろしくお願い致します。
↓出場する全19チームのスタートリストと簡単なプレビューはこちら↓
ダウンアンダーとは?
ツアー・ダウンアンダーとは、その名の通りDownunder=南半球で行われるレースである。舞台となるのは、南オーストラリア州のアデレード周辺。
初開催は1999年。今年で20回目を迎える、比較的新しいレースである。2008年よりUCIプロツアー(現・UCIワールドツアー)に組み込まれた。
ツアー・ダウンアンダーはいくつかの点で、その他のワールドツアーレースとは異なる特徴を持っており、シーズン最初の大きなレースという以外にも見るべき点が存在する。
1.観光PR映像がたくさん
ダウンアンダーはその放送の合間に度々、現地アデレードの観光映像が挿入される。豊かな自然やスポーツ・文化の映像もあるが、特に印象に残るのはやはり食。その中でもオーストラリアワインの映像が一段と魅力的に思える。
普段、ワインを買うときにオーストラリア産のものに手を伸ばす、ということはないのだが、この時期だけはどうしてもそれを買いに行ってしまう。その意味で、この映像は十分に効果を発揮していると言えるだろう。
皆さんも是非、ダウンアンダーを観る際にはオーストラリアワインを脇に置いておこう。観ている途中に飲みたくなっても飲めないのはなかなかに辛い。
2.オーストラリア人が強い
本来、地元国の選手に与えられるアドバンテージというのは大きくない。せいぜい、練習量の多いコースに対する情報量の多さとか、そのくらいか。
それでも、このダウンアンダーに関して言えば、オーストラリア人が常に優位に立っている。2016年・2017年ともにクリテリウムも含めた全ステージをオーストラリア人が勝利している(2017年はそもそも2名しか勝者はいなかったが・・・)。ステージの2位や3位を見ても、オーストラリア人の占める割合は非常に大きい。昨年、サガンがユワンに対してまったく歯が立たなかったのを見てもそれは明らかだろう。
なぜそうなるかというと、時期の問題が大きい。北半球のレーサーたちにとって、この時期はさすがにオフシーズンに近い時期で、むしろこのレースを調整として使用するワールドツアーの選手も多い。一方でオーストラリア人やニュージーランド人にとっては、この1月の第1週に国内選手権も控えており、この時期をピークの1つにもってくる選手も多い。そんな中で開催される以上、オーストラリア人たちがより優位な形でレースを走れるのは不思議でも何でもない。
そして、それはコンチネンタルの選手たちについても言える。このレースはワールドツアーレースではあるが、通常4チームほど出場するはずのプロコンチネンタルチームはほとんど出場せず、代わりにオーストラリア人の選抜チームであるUnisa(南オーストラリア大学)選抜というのが出場している。そこには、コンチネンタルチーム所属やアマチュアの若手オーストラリア人が登録されていることが多く、たとえば2017年はルーカス・ハミルトンやジャイ・ヒンドリー、2015年にもアレクサンダー・エドモンドソンやジャック・ヘイグ、マイルス・スコットソンなど・・・現在もワールドツアーチームで活躍する若手の有望株がこのダウンアンダーで最初の活躍を示している。
ここ十数年、確実に存在感を示しつつあるオーストラリア人ライダー。その卵を見出すチャンスという意味でも、このダウンアンダーは注目に値する。
3.適度な難易度で演出される接戦
最後の特徴は、このダウンアンダーが、単純にシーズン開幕戦としてだけでなく、1つのレースとして純粋に魅力的である理由となる。
元々、このアデレード近郊には大きな山はなく、昔からダウンアンダーと言えばそこまで厳しいレースではない、スプリンターでも総合優勝を狙えるレース、そんな風に思われていた。実際、純粋なスプリンターであるアンドレ・グライペルが、過去2回の総合優勝を成し遂げてもいる。
だが、2012年に「ウィランガ・ヒル」がゴールに設定されて以降、純粋なスプリンターでは決して勝利できないようなレースへと変貌した。かと言って、このウィランガ・ヒルも、そこまで厳しい山岳ではないことは事実のため、クライマーだけが突出してタイム差をつけて勝利できる、というわけでもない。
事実、ウィランガ・ヒルを4年連続で制しているリッチー・ポートも、総合優勝を成し遂げたのは昨年が初である。
2016年も2015年も、ウィランガ・ヒルを制しながらも10秒以内のタイム差で惜しくも総合優勝を逃している。とくに2016年は、決してクライマーとは言えないサイモン・ゲランスに9秒差で敗れているのだ。その原因は、ゲランスが途中のスプリントステージでしっかりと上位に食い込み、ボーナスタイムを稼いでいったことにある。コース途中の中間スプリントの数秒のボーナスタイムですら、アシストの力を使って全力で獲りにかかっていた。
だから、山を登る力だけが強くても、ダウンアンダーでは勝てない。かと言って、スプリント力だけでも、やはりウィランガ・ヒルや、昨年のパラコーム、そして今年のテリンギーのような山岳を乗り越えることはできない。
登坂力とスプリント力、勝負強さといった様々な要素が絡み合って、勝者を予想することを非常に困難にさせる・・・それがダウンアンダーの魅力なのである(個人TTが存在しないことも、その点において重要な要素である)。
事実、今年も一体誰が勝つのか、予想が難しい。ポートが連覇を果たすか、その他のクライマーか、パンチャーか、場合によってはサガンやグライペルにもチャンスがあるかもしれない・・・。そこにオーストラリア人有利という要素が加われば、これ、という確実な優勝候補を挙げることは非常に難しくない。
シーズン最初のレースでありながら、その他のレースと比べても遜色のない手に汗握る展開が待ち構えているのが、ツアー・ダウンアンダーというレースなのである。
その他にも、個人的にはOPやコース紹介時に流れるダウンアンダー公式のBGMも好きだったりする。
通例のワールドツアーレースと比べると少ないステージ数や距離の微妙な短さなども、日本のレースにとっても参考になる点も多く、見やすいし面白い。
単純にシーズン開幕戦というだけに留まらない魅力がこのレースにあることを、知っていただければ幸いだ。
では、続いてこの大会の今年のコースを紹介していく。
コース詳細
1月14日開催のUCI非公式クリテリウムから、16日~21日に開催される公式の6ステージ、計7ステージの紹介を行う。
すべて参考にしているのは以下のサイト。詳細な断面図や予想通過時間などは下記のサイトを参考にして頂ければ幸い。
1/14(日) ピープルズチョイスクラシック(50.6km)
例年、開催直前の日曜日にアデレード市内の周回コースで行われるクリテリウム形式のレース。UCI非公認の為、勝ってもUCIの記録には残らないしポイントもつかない(位置づけとしてはジャパンカップ前日のクリテリウムと同じ)。
しかし、2014年と2015年はマルセル・キッテル、2016年と2017年はカレブ・ユワンが勝利するなど、その年の最も勢いのあるスプリンターが常に勝利しているため、注目すべきレースであることは間違いない。
なお、ユワンが勝利した2016年と2017年は、同年の国内選手権クリテリウム部門(これもUCI非公認)で彼が優勝した年でもある。
そして今年、ユワンは見事に3連覇を果たした。
となれば、やはり今年のこのピープルズチョイスクラシックも・・・。
なお、周回コースの1周の長さは2.3km。これを22周する。一定の周回数ごとに特別表彰ポイントも設定されており、それを狙った逃げにも注目だ。
昨年はユワンが連覇を果たす。今年もこのクリテリウムではナショナルジャージを着ての参戦が決まった。
1/16(火) 第1ステージ ポート・アデレード~リンドック(145km)
38.6km地点に2級山岳(6.3km、4%)が1つ。中間スプリントポイントを含む25.7kmの周回コースを3周して最後は平坦ゴール。
過去2年も初日ステージでリンドックがゴールとなっているが、いずれもカレブ・ユワンが勝利している。国内選手権クリテリウムでも勝利したばかりで、幸先の良いスタートダッシュを切っているユワンが、今年も開幕勝利を挙げることができるか。
逃げのメンバーの中から初日の山岳賞獲得者が生まれることも確実。2016年は、熾烈な山岳ポイント争いを制したUnisaの若手ショーン・レイクがこの栄誉を手に入れた。
1/17(水) 第2ステージ アンリ―~スターリング(148.6km)
12.8km地点に2級山岳(2.5km、6.3%)。ラストはゴール地点のスターリングを含む21.1kmの周回コースを3周。総獲得標高が3000mを超えるタフなステージだ。
そしてこのスターリングの登りゴールが、ダウンアンダー伝統の難所となっている。ラスト8kmは延々と登りが続き、最後のストレートも3%程度の登りゴール。ユワンのような純粋なスプリンターでは絶対に残れないようなレイアウトとなっている。
その歴史は2009年から続く。ウィランガ・ヒルゴールよりも古い歴史を持ち、ほぼ毎年登場している名物ゴールだ。歴代の勝者にはマシューズ、スラフテル、ウリッシ、そしてゲランスといった、名うてのパンチャーたちがひしめいている。ダウンアンダーのダウンアンダーらしさを象徴するゴールだ。
昨年は珍しくゴール地点としては採用されず、代わりにパラコームの登りゴールが用意されてポートの総合優勝を導いた。それゆえにあまりにもクライマー向けになったと反省したのか、今年はしっかりと返り咲き。昨年よりは確実にパンチャー向けのコース設定となったため、ポートの連覇は簡単ではなくなった。
なお、2年前ゲランスが9秒差で総合優勝を決めた大会では、このステージの中間スプリントポイントを積極的に狙いに行き、合計5秒のボーナスタイムを獲得している。
起伏も多く、中間スプリントを獲りに逃げを捕まえに行きやすいレイアウトなのは確か。今年もその辺りを狙ってくる動きが見られるかもしれない。
1/18(木) 第3ステージ グレネルグ~ビクター・ハーバー(146.5km)
38km地点に、今大会最初の1級山岳である「ザ・レンジ」(2.8km、7.6%)が控えている。山岳賞ジャージを巡る争いも白熱することになるだろう。
今大会のコース設定的に、総合優勝争いをできる選手以外は、この日の1級山岳を獲れないと最終的な山岳賞ジャージ獲得は難しいように思える。この日の逃げは、要チェックだ。
後半はなだらかに下っていき、海沿いの周回コースを3周して平坦フィニッシュとなる。しかし海沿いゆえの横風と、カテゴリーのついていないアップダウンの連続により、ピュアスプリンターが最後まで残れない可能性も十分にあるレイアウトだ。
2012年と2014年に登場した際には、アンドレ・グライペルが勝利を掴んでいる。今年、4年ぶりのダウンアンダー復帰となるグライペルが、前年の不調を吹き飛ばすような派手な勝利を挙げることができるか。
2014年はこのステージを含め2勝しているグライペル。以来、ダウンアンダーの参戦はないが、今年、4年の沈黙を破って再度参戦を決めた。旋風を巻き起こせるか。
1/19(金) 第4ステージ ノーウッド~ウレイドラ(128.2km)
今大会、最も重要な存在となりうるステージと睨んでいる。
というのも、ゴールから8km手前の位置に、1級山岳「テリンギー」が存在しており、これが登坂距離5.8kmと、ダウンアンダーにしては長い登りとなるのだ。しかもその120km地点の山頂を越えたあとにももう一段階登り、最後の3~4kmを下ってのゴールとなる。
平均勾配は5%と難易度は低めではあるものの、合計で7~8kmはあると見ておいた方がいい登りだ。スプリンターはもちろん、優勝候補格であるパンチャーたちもまた、ここで振るい落とされる可能性は十分にある。
よって、昨年と同様に、今年もやはりクライマー向きのダウンアンダーとなるかもしれない・・・そんな風に感じさせるのがこの日のコースなのだ。
とはいえ、登りゴールでない、という意味で、やはりクライマー以外にもチャンスが残されている。その意味で、昨年のパラコームよりもずっと、誰が勝つのかをわからなくなせる絶妙な効果を持っている。
今年、ダウンアンダーにおいて初めて導入されるこのコースが、過去のダウンアンダーとは違った面白さを付け加える可能性は高い。ウィランガ・ヒル以上に注目度の高いこのステージ。決して、見逃すことはできない。
1/20(土) 第5ステージ マクラーレン・ヴェール~ウィランガ・ヒル(151.5km)
とはいえやはり、一番盛り上がるのはこのステージだろう。名物ウィランガ・ヒルは1級山岳で登坂距離3km、平均勾配7.5%である。
この3kmという短さが絶妙で、クライマーがこの登りだけで決定的な差をつけるには短すぎるし、かと言ってスプリンターたちが残るには長すぎる、というような丁度いいバランスなのだ。クライマーが逃げ切れるか、パンチャーたちが喰らいつけるか、ギリギリの攻防戦が例年、繰り広げられている。
そして見所は、ラストだけではない。このコースはウィランガ・ヒルを一度通過したのちにもう一度登る、すなわちウィランガ・ヒルを2回登るわけだが、総合優勝争いが白熱する最後のウィランガ・ヒルに対し、1周目のウィランガ・ヒルはほぼ間違いなく逃げ集団の選手が獲ることになる。
山岳賞を狙う選手にとって、この1周目ウィランガ・ヒルは重要なポイントとなる。2017年は「逃げ屋」デヘントが、この1周目ウィランガ・ヒルをしっかりと先頭通過したことで、ステージ終了後、ポートとポイントを並べることに成功した。
そのうえで最終日にもきっちりと逃げに乗り、山岳賞ジャージを確定させたデヘント。今年も、第3ステージで山岳賞を獲得できた選手などが、この日にどういう動きを見せるのか、注目していく必要があるだろう。
山岳賞の選手以外が1周目ウィランガを制した場合には、山岳賞の行方は総合争い勢に委ねられることになりそうだ。
毎年、力強いダンシングクライムでウィランガを制するリッチー・ポート。今年は5連覇なるか?
1/21(日) 第6ステージ キングウィリアムストリート~アデレード(90km)
最終日は、アデレード市内の1周4.5kmの周回コースを20周、合計90kmの平坦ステージとなる。
イメージとしてはシャンゼリゼやマドリードのような感じではあるが、例年数秒差で勝敗が決することもあるダウンアンダーにおいては、普通に中間スプリント(8周目と12周目)や最後のスプリントでのボーナスタイムを巡って総合争いが最後までもつれ込むことはありうる。
また、3級山岳ではあるが山岳ポイントも2つ設定されており(10周目と15周目)、状況によってはそれを狙って逃げる選手もいるだろう。昨年はデヘントがこれをもって山岳賞を確定させた。
そして最後は当然、集団スプリント。2年前はユワンが本戦2勝目を、昨年は同じくユワンが本戦4勝目を記録した。超低空飛行から放たれる、先手必勝の「ポケットロケット」が、今年も果たして炸裂するのか。
そして20人目のダウンアンダー総合優勝の栄光は誰の手に渡るのか。
注目選手(スプリンター)
クリテリウムも含めると7戦中、実に4戦が純粋なスプリント勝負になるダウンアンダー。必然的に出場するスプリンターに注目が集まる。
とくに第2ステージのスターリング登りゴールの存在もあるため、純粋なスプリンターよりもパンチャー的な特質をもつスプリンターに注目したいところ。スターリングもなかった昨年は全ステージをユワンが制したが、今年はそれを止められる選手はいるのか。
※年齢は全て、2018年シーズンにおける数え年表記となります。
アンドレ・グライペル(ドイツ、36歳)
ロット・スーダル所属。
かつて、今ほど登りが厳しくなかった時代のダウンアンダーで、合計16回のステージ勝利と2回の総合優勝を成し遂げている。ゲランスと並ぶ「キング・オブ・ダウンアンダー」と言って差支えのない存在だ。
しかし、そんな彼がここ数年、ダウンアンダーへの出場を避けてきた。原因は、あまりにも登りが厳しくなりつつあったからか? しかし今年、ついに4年間の沈黙を破って、このグライペルがダウンアンダーに帰ってきた! ユワンの独壇場を打ち破れるのはこの男しかいない! 昨年はやや調子の出し切れなかったシーズンを過ごしていたグライペルだが、今年はまずこのレースで幸先の良いスタートを切って、良いシーズンにしていきたいところだ。
純粋なスプリンターというよりは、石畳や登りもこなせるタイプではあるため、スターリングの登りフィニッシュくらいならこなしてしまえそうだ。
2008年・2010年の覇者グライペル。さすがにもう総合優勝というのは難しいだろうけれど、ステージの1つや2つは軽々と獲ってしまえそうだ。
ペテル・サガン(スロバキア、28歳)
ボーラ・ハンスグローエ所属。
昨年、7年ぶりの出場とあって注目を集めており、総合優勝すらあり得るのではないかと密かに期待していたものの、結局はアウトシーズンであったことも影響し、ハイシーズン状態のユワンには敵わなかった。
それでも、再度このオーストラリアをシーズン開幕レースとして選んだということは、(スポンサーの為という理由を無視すれば)今度こそ本気で勝利を掴んでみせる、という意気込みを感じとることができるのかもしれない。
なお、今期からボーラ入りするケノーとオスも参戦予定。春のクラシックで重要になる筈の彼らとのコンビネーションに向けて、今回のレースでしっかりと調整を進めていく、という理由もあるのだろう。
昨年最も注目を集めた男サガン。今年は走りで沸かせてくれるのだろうか。
カレブ・ユワン(オーストラリア、24歳)
ツアー・ダウンアンダーは2016年に2勝、2017年に4勝。クリテリウムも含めると合計8勝もしている。2年間で全14ステージの中の8勝なので、本当に圧倒的な結果である。
彼のスプリントにおける特徴は、元々小さな体をさらに自転車に押し付けるようにして生み出す超低姿勢である。自らに対する空気抵抗を減らすとともに、後ろにつこうとする選手へのスリップストリームを減らすというこの姿勢は、先手を獲れさえすれば、誰も追随できないロケットのようなスプリントを生み出す。
その小さな身体と、ロケットのような力強いスプリントから、ついた渾名は「ポケットロケット」。2017年は、その力でもって、集団スプリント勝利数でベスト3に入る活躍を見せた*2。
今年も、新年早々の国内選手権クリテリウムにて、3年連続となる優勝を成し遂げ、調子の良いユワン。今回のダウンアンダーも同様に大暴れしてくれることだろう。
とはいえ、さすがに毎年勝ちすぎており、さすがに周囲からの警戒も非常に大きくなることだろう。その中でどれだけの勝利を得ることができるのか。ある意味、今回のダウンアンダーこそ、ユワンにとっての正念場ともなるのかもしれない。
ダウンアンダー最強の名を欲しいままにするユワン。今年は変わらぬ強さを見せつけることができるのか。ライバルは少なくない。
リカルド・ミナーリ(イタリア、23歳)
アスタナ・プロチーム所属。
昨年のドバイ・ツアーでキッテルやカヴェンディッシュなどトップスプリンターたちに負けない走りを見せた、今最も期待されているイタリア人若手スプリンター。
今回も正直、勝利までは期待していない。それでも、各ステージ上位に食い込むような走りには期待したい。今年、少なくともどこかのワールドツアーで、勝利を得ることはできそうだ。
クリストファー・ローレス(イギリス、23歳)
クリストフェル・ハルヴォーシュン(ノルウェー、22歳)
いずれもチーム・スカイ所属のネオプロ。
ローレスは2017年U23英国王者であり、ハルヴォーシュンは2016年U23世界王者である。昨年のツール・ド・ラヴニールでは、ハルヴォーシュンが集団スプリントでローレスを下し、翌第4ステージではゴール手前で飛び出したローレスが逃げ切ってハルヴォーシュンを負かすなど、互いに良きライバルとして争い合っていた。
そんな2人が、このダウンアンダーではチームメートとして共闘する。ってか、どっちがエースを担うんだ? 色んな意味でドキドキな組み合わせである。
注目選手(総合優勝争い)
ウィランガ・ヒル単体で勝ちを決められるほど甘くはなく、昨年のパラコームのような山頂フィニッシュがもう1つ用意されているわけではない。それでも、新登場の「テリンギー」を含む第4ステージの存在は不気味で、全体としては昨年同様にクライマー有利なコース設定のように感じられる。
しかしシーズン開幕戦のこのダウンアンダーは、非オーストラリア人・ニュージーランド人がその実力を十分に発揮しづらい状況にあり、普段の戦績からだけでは総合優勝を占うのはなかなか難しい。
その意味で最右翼はやはりポート。対抗馬がどれくらいいるのか。
※年齢は全て、2018年シーズンにおける数え年表記となります。
リッチー・ポート(オーストラリア、33歳)
ウィランガ・ヒル4連覇中。そして昨年、ついに念願の総合優勝を手に入れた。要因は、パラコーム登りフィニッシュの存在。2015年はこのパラコームをローハン・デニスに奪われたことで、総合優勝も彼に獲られてしまったものの、昨年はパラコームとウィランガ両方で得意のダンシングクライムを発揮して総合優勝を手に入れた。2位チャベスとのタイム差は48秒と、2004年以来の大きさであった。
2017年はツールの下りで激しくクラッシュ。復帰戦となったジャパンカップでも早々にリタイアするなど、完全復帰とは言えない状態だった。その中でのデビュー戦となるのが今回のダウンアンダーだが、昨年もリオオリンピックでの落車以来の復帰戦で問題ないパフォーマンスを発揮していたので、その点は心配ないだろう。5日金曜日に行われる国内選手権個人タイムトライアル(昨年2位)の仕上がりも、本人の状態を見るうえで重要な指標となるだろう。
万が一、ポートの状態が悪くて総合優勝は狙えそうになくとも、2014年・2016年を含めた合計4回の総合優勝を経験しているサイモン・ゲランス。そして2015年総合優勝のローハン・デニスも同じチームにいるため、チームとしての選択肢は十分に多い。ってか、なんだよBMC。チートかよ!
昨年はついに栄冠を手に入れたリッチー・ポート。その勢いのままツール・ド・ロマンディ総合優勝、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合2位と良い結果を出していたのが昨シーズンだった。今年も勢いに乗れるか。
ゴルカ・イサギーレ(スペイン、31歳)
昨年はパラコーム山頂ゴールでまさかの2位。期待されていながら途中落車によって負傷し、最終的には総合28位に沈んだ。あの落車さえなければ、チャベスを破っての総合2位フィニッシュも十分あり得たかもしれない。その後のパリ~ニース総合4位やジロ区間勝利など調子の良さを予感させる出だしであった。
今年はリベンジを狙う。とはいえ、チームメートには弟のヨン・イサギレに、AG2R時代はエースとして出場し、総合6位の経験もあるドメニコ・ポッツォヴィーヴォなどもいる。ゴルカが昨年同様エースを担えるかというと、微妙なのは間違いないだろう。
いずれにせよ、ヨン、ゴルカ、ポッツォヴィーヴォという、バーレーンの総合狙い新体制の調整という点で、その走りには注目をしていきたいところだ。
2015年ダウンアンダーのスターリング登りゴールでは、勝者のフアンホセ・ロバトをアシストし、共に勝利を喜び合ったゴルカ。エースとしてもアシストとしても、力を発揮しうる頼れる存在だ。
ネイサン・ハース(オーストラリア、29歳)
カチューシャ・アルペシン所属。
今期よりチームを鞍替えし、その新チームのエースとして参戦することに。
実際、昨年は総合4位である。しかも、ウィランガ・ヒルを2位ゴールしており、その時点では総合3位。最終日にジェイ・マッカーシーに中間スプリントポイントでのボーナスタイムを奪われて、タイム差0秒での総合4位という、悔しい結果だった。
今年は、チャベスにタイム差をつけられてしまったパラコームの山頂フィニッシュは存在せず、新たな第4ステージはどちらかというとハースが得意なタイプのコースだ。総合表彰台を狙うことは十分に可能だろう。
新ジャージに身を包んだハース。どことなく、若返った感が・・・ある?
ジョージ・ベネット(ニュージーランド、28歳)
チーム・ロットNLユンボ所属
チームメートにはロベルト・ヘーシンクもおり、ベネットが本当にエースを担えるかはわからない。だが、オーストラリア人と同じく直近に国内選手権があり、ピークを持ってきているはずのニュージーランド人という意味で、彼に期待するところは大きい。2015年には総合10位。
どのみち今年は、彼にとって重要な1年となりうる。昨年はカリフォルニア総合優勝、そしてツールでも、最終的にはリタイアしてしまうものの、トップクライマーたちに喰らいつく走りを見せていた。他にもエースの多いこのロットNLにおいて優先的な地位について今後のレースを走っていくためにも、この大会での結果は重要なものとなるだろう。
エガンアルリー・ベルナル(コロンビア、21歳)
チーム・スカイ所属。
ローレス、ハルヴォーシュンと共に、今年の期待のルーキー枠としてスカイに移籍したメンバーの1人であり、ツール・ド・ラヴニール総合優勝者。そんな彼が、早速このダウンアンダーでデビューする。
一応、スカイのメンバー的には、彼が総合争いにおいてはエースを担いそうではある。さすがに総合表彰台というのは難しそうだが、せめて新人賞は獲得しておきたいところ。
実際、昨年のチャベス、2年前のセルヒオ・エナオのように、同じ南半球人という意味でコロンビア人は十分にオーストラリア人たちと張り合うだけのポテンシャルを発揮しうる。実績がまだ不十分でも、半ばオフシーズン状態の欧米選手よりも上位に食い込むことは、十分に可能なはずである。
ライバルは同じコロンビア人で、昨年新人賞のホナタン・レストレポ。
期待の新人が本当に期待に応えることができるのか。実に楽しみである。
最後に
ツアー・ダウンアンダーはほかのワールドツアーレースとは違った魅力があり、見ごたえのあるレースであるということが、十分に伝わっただろうか。
現状、出場予定のライダーたちもあくまでも暫定のもの。まだ全員は決まっていないし、今後出場予定が変更になるパターンもある(昨年も随分あった・・・)。
今後、ピープルズチョイスクラシックの当日あたりに、スタートリストと全チームプレビューを作成する予定。
今年も、プレビュー記事や総括記事、そして適宜コラム・特集などを掲載していきたく思う。
今後とも、よろしくお願いいたします。
【参考】昨年のダウンアンダーの記事一覧