りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

BMC Racing Team 2018年シーズンチームガイド

Embed from Getty Images

読み:ビーエムシー・レーシングチーム

国籍:アメリカ

略号:BMC

創設年:2007年

使用機材:BMC (スイス)

2017年UCIチームランキング:3位

(以下記事における年齢はすべて2018年における数え年表記となります) 

 

 

 

 

2018年ロースター

f:id:SuzuTamaki:20171127220116p:plain

f:id:SuzuTamaki:20171127220157p:plain

f:id:SuzuTamaki:20171127220241p:plain

f:id:SuzuTamaki:20171127220312p:plain

まず驚くべきことは、BMCというトップチームが、その人数を24名というごく少数に絞り込んできたことである。ここまで紹介してきたチームはいずれも28名。その中で、BMCだけがここまで減らしてきている。昨年は31名だったので、実に7名減。割合で言えば23%減である。グランツールが9名→8名、その他のレースが8名→7名で大体11%~12%減であることを考えても、驚きの数字である。

だからといって、チームとして大きな弱体化がもたらされるような人数の減少、というわけではなさそうだ。今年活躍したトップライダーたちは大体残り、チームの持ち味である独走力の高い選手たちもしっかりと残っている。弱点は一線級で戦えるスプリンターの不足だが、そこは今年も同様。むしろ、サイモン・ゲランスの加入で、その点は強化されたとは言えるかもしれない。

今年同様に、グランツールでの総合上位、そして各種クラシックでの勝利を中心に狙い、UCIランキングの上位を張れるような成績を出すことが目標となるだろう。この選手数の削減が影響をもたらさず、BMCの強さを維持することができるのか、それともやはり、何かしらの影響が出てしまうのか。

 

 

 

注目選手

リッチー・ポート(オーストラリア、33歳)

脚質:オールラウンダー

f:id:SuzuTamaki:20171127221609p:plain

2016年、ツール・ド・フランスでのエースの座を求め、スカイからBMCに移籍。ティージェイ・ヴァンガーデレンとのダブルエース体制に不安を覚えたものの、ヴァンガーデレンは不調に苦しみ、代わりにポートは絶好調。おそらく、この年のツールにおいて、フルームの次に登れていた選手はこのリッチー・ポートだと言ってよいだろう。序盤でのメカトラによる遅れさえなければ、総合表彰台は確実に思えた。

2017年、今度こそ、の思いで参戦したツール・ド・フランス。しかし、第9ステージ。苦手なダウンヒルを克服するためにチャレンジングすぎる走りをしてしまったのか、激しいクラッシュと共にリタイア。シーズンそのものを棒に振りかけた。

最大の敵は不運なのかもしれない。2018年は3度目の正直。実力だけで言えば、フルームを凌駕してもおかしくないものがあると信じている。今度こそ。少なくとも、総合表彰台には登ってほしい。

 

2017年が失敗の年だったかというと決してそんなことはない。ウィランガ・ヒル驚異の4連覇と共に、ついに悲願のダウンアンダー制覇を果たした。さらにはツール・ド・ロマンディの総合優勝。そしてクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは、フルームも、トニー・マルティンも下してのITT勝利と、総合2位。本当に、ツール・ド・フランスに向けて、考えられる限り最高の状態で進んでいたのだ。

Embed from Getty Images

念願のオークルジャージを着てアデレードの街を駆け抜けるポート。来年早々のダウンアンダーでは、連覇を目指せるか。ちなみに来シーズンのダウンアンダーは、デニス、ゲランス、ポートという、ここ数年のダウンアンダー覇者が勢揃いすることとなる。なんだそれ。

 

 

フレッヒ・ファンアフェルマート(ベルギー、33歳)

脚質:パンチャー

f:id:SuzuTamaki:20180108201609p:plain

2016年、マイヨ・ジョーヌ着用とオリンピック金メダル獲得。その勢いは2017年も止まず。手に入れた初のモニュメント、パリ~ルーベの勝利。

とにかく強い。激坂も、スプリントも、石畳も、登りすらも・・・パンチャーという分類はあくまでも便宜的なもので、北のクラシックからアルデンヌ・クラシックまで網羅する謎脚質。今年のUCIワールドランキング総合優勝も当たり前と思ってしまうほどの現代の最強ライダーの1人である。

そんなファンアフェルマートの次の目標は何か。1つはロンド・ファン・フラーンデレンの勝利。そして、それ以上に狙いどころとなるのが、インスブルックで行われる世界選手権ロード制覇である。リオ・オリンピックに似たような特徴のコースとなりそうなので、勝機は十分にありそうだ。

個人的に印象に残ったのは、ツール・ド・フランス第3ステージのロンウィ登りゴール。サガンの「クリート踏み外しからの勝利」や、マシューズの猛追などが印象的なこのステージだが、実はこのとき優勝候補の1人だったファンアフェルマートは、リッチー・ポートの総合タイム差獲得のために直前まで全力で仕事をこなしていたのだ。

結局のところポートのアタックも不発に終わり、ファンアフェルマートは改めて自らの勝利のために最後のスプリントを仕掛けたのだが、届くことはなく区間4位に終わった。もしも、彼がポートのために仕事をしていなかったら――。

チームのための働きもできる渋い男、それがファンアフェルマートなのだ。

Embed from Getty Images

万感の思いを込めて、「石畳トロフィー」に口づけをするファンアフェルマート。来年は世界チャンピオンになれるか?

 

 

ディラン・トゥーンス(ベルギー、26歳)

脚質:パンチャー

f:id:SuzuTamaki:20171127223756p:plain

この男の、今年の躍進の程度に関して、今更多くを語る必要はないだろう。フレッシュ・ワロンヌでの、まさかの3位入賞から始まり、リエージュ~バストーニュ~リエージュでも使用された「ウッファリーズ」頂上ゴールとなったツール・ド・ワロニー第3ステージでの勝利。その圧倒的強さから、ほとんど衝動的に以下の記事を執筆した。 

suzutamaki.hatenablog.com

このあとのワロニー総合優勝はまだわかるにしても、まさかこのあとあれほどの快進撃を見せるとは思わなかった。わずか3週間で、5つの区間勝利と3つの総合優勝。合計8勝。しかも、その3週間のスタート地点で、プロ初の勝利を飾った男が、である。

 

とはいえ、大事なのはこの勢いを本当に勢いだけで終わらせないこと。「期待の若手」で沈没せず、来年以降のBMCを引っ張っていくエースパンチャーとして活躍し続けること。それができるかどうかが全てだ。

Embed from Getty Images

2018年の目標は、ツール・ド・フランスの「ブルターニュの壁」制覇。そしてもちろん、フレッシュ・ワロンヌ制覇である。本当に最強の「激坂ハンター」になってほしい。

 

 

その他注目選手

ローハン・デニス(オーストラリア、25歳)

脚質:TTスペシャリスト

グランツール総合争いを狙うのは数年後だ」という話をしつつ、ティレーノ~アドリアティコでは総合2位。期待を抱かせたまま出場したジロ・ディタリアでは、他チームとの接触により、無念の序盤リタイア。ブエルタ・ア・エスパーニャでは調子を取り戻せず、大事なITTの直前にリタイアしてしまった。

「90年世代」においてデュムランの次にITTが得意なオールラウンダーとして、ポスト・フルームの最前線に立つべき存在。2018年は、総合力をどれだけ高めていけるか。常にその動向に注目が集まる選手だ。

 

ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、30歳)

脚質:オールラウンダー

長く苦しい暗黒時代を抜け出すようなジロでの勝利。しかしそれで自信を取り戻しすぎてしまったのか、「諦めかけてたけど、また総合で戦ってみようと思う」と。いや、それは、どうだろーーーう。ローランと同様に、あくまでもステージ優勝や山岳賞を狙うような走りの方がいいのでは・・・。

なんて茶化してはいるけれど、実際には本当に頑張ってほしいと思っている選手。彼の活躍こそが、アームストロングの呪いからアメリカのロード界を救いかけていたのだから。 

 

パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、27歳)

脚質:スプリンター

彼が注目を浴びたのは2016年のパリ~ニース初日プロローグ。いくら超短距離とはいえ、トム・デュムランに1秒差という成績を叩き出し、「どちら様系」TTスペシャリストとしての名を轟かせた。当時、ダウンアンダーで頭角を現したマイケル・ウッズの存在と共に、「無名だけど実力のある選手」を発掘するキャノンデールの凄さを感じた。

とはいえ、その後彼がTTスペシャリストとして期待された結果を出すことはなかった。そもそも、マシューズが優勝したこのプロローグは、TTスペシャリストだけでなくスプリンターにとっても有利なステージであった。そう、ベヴィンはスプリンターだった。そのことを思い知らせたのが、今年のツール・ド・スイスだった。

勝利はなかった。それでも、サガンやトレンティン、アルバジーニに喰らいつきながら、2位、4位、6位などを獲得。アルデンヌ風のアップダウンに満ちたコースでもお構いなしに走り切る強さも発揮した。

トップスプリンターとは決して言えない実力。それでも、純粋なスプリンターがほかにジャンピエール・ドラッカーくらいしかいないBMCであれば、活躍の機会は何度か訪れるかもしれない。いざというときの独走力も活かしつつ、ぜひともBMCに勝利をもたらす選手の1人に育ってほしい。

 

シュテファン・クン(スイス、25歳)

脚質:TTスペシャリスト

スイスITT王者に輝くと同時に、ツール・ド・フランスの初日ITTでは、優勝したゲラント・トーマスに次いで2位を獲得。そしてマイヨ・ブランを身に纏った。

ビンクバンクツアーのITTではツール第20ステージを制したマチェイ・ボドナールと、世界王者トム・デュムランを制しての勝利。強さを見せつけた。

今、若手TTスペシャリストの中で、間違いなく頭一つ抜けている成績を叩き出している男。それがこのクンである。

カンチェラーラの後継者、と言えるだけの結果を出すにはまだまだ足りないが、今後のBMCを支える重要な存在となり続けるだろう。

Embed from Getty Images

 

 

 

2018年ツール 出場メンバー案

1.リッチー・ポート(エース)

2.ダミアーノ・カルーゾ(山岳アシスト&準エース)

3.ローハン・デニス(TTT要員&平坦アシスト)

4.シュテファン・クン(TTT要員&平坦アシスト)

5.ニコラ・ロッシュ(山岳アシスト)

6.ミヒャエル・シャー(TTT要員&平坦アシスト)

7.ディラン・トゥーンス(山岳アシスト&アタッカー)

8.フレッヒ・ファンアフェルマート(石畳要員&アタッカー)

 

少なくともポート・クン・デニスの3名がいる限り、TTTでの優勝はかなり固いだろう。それと合わせ平坦アシストは充実の布陣である。石畳もファンアフェルマートが手厚いサポートをしてくれるはずだ。

問題は山岳アシスト。今年はロッシュもとくにブエルタでは強さを見せつけ、カルーゾも年間を通して良い走りを見せていた。だが、ヴァンアーヴェルマートなどを入れてさらに山岳力を高める必要もあるかもしれない。トゥーンスがどれだけ、その役回りで役に立てるか。

そして、ステージ勝利もトゥーンスとファンアフェルマートでしっかりと狙っていきたい。

 

 

総評

f:id:SuzuTamaki:20171128195649p:plain

グランツール、クラシック、そして(スプリントを除く)ステージ優勝いずれも高いレベルで実現できる間違いのない強豪チーム。しかし人数の少なさがネックになる可能性があって、それは今年のポートのように怪我や病気で戦線離脱する選手が出てしまったとき。ポート以外のセカンドエースが、実力はあるが結果を出せるかというとまだ実績がそれほどでもないのが難点である。

カルーゾやロッシュのさらなる強化、そしてヴァンガーデレンの復活が待たれる。

 

 

その他のチーム

AG2R La Mondiale 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Astana Pro Team 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Bahrain Merida Pro Cycling Team 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

BORA - hansgrohe 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Dimension Data 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

EF Education First-Drapac p/b Cannondale 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

FDJ 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Lotto Soudal 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Movistar Team 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Mitchelton-Scott 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Quick-Step Floors 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Team Katusha - Alpecin 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Team LottoNL-Jumbo 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Team Sky 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Team Sunweb 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Trek - Segafredo 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

UAE-Team Emirates 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

スポンサーリンク