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2017年シーズンを振り返る⑤ チーム勝利数ランキング(後編)

前編に引き続き、今回は後編を扱う。

9位以降のチームたちをレビューする。

 

ここから先は、1位のクイックステップの半分以下の勝利数のチームたちであり、今年勝利数という点では振るわなかったチームたちである。

中にはUCIランキングでは上位で、活躍自体は間違いなくしているチームもある。だが、UCIランキングと勝利数と、双方の結果を見つつ、反省点、来シーズンに向けての課題なども浮かび上がってくることだろう。

 

来シーズンそれぞれのチームの方針を予想するうえでも、この勝利数ランキングの分析は意味あることだと思っている。最下位までレビューしたあと、1位からと合わせて総合的な分析も行っていきたい。 

 

 

前編はこちら

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第9位 ディメンションデータ(25勝)

UCIワールドツアーチームランキング:18位

エドヴァルド・ボアッソンハーゲン 10勝

スティーヴン・カミングス 3勝

セルジュ・パウエルス 2勝

メクセブ・ディベセイ 2勝

ライアン・ギボンズ 2勝

ユーセフ・レグイグイ 1勝

ベン・オコナー 1勝

アドリアン・ニヨンシチュ 1勝

オマール・フライレ 1勝(移籍) 

マーク・カヴェンディッシュ 1勝

レイナルト・ヤンセファンレンスブルグ 1勝

 

ボアッソンハーゲン、自身初の年間10勝という大台に乗る。しかも内8勝が地元ノルウェーでの勝利。6年ぶりのツール・ド・フランス勝利も果たした。しかも、あのキッテルと数ミリ差で2位に沈んだステージもあり、全体的に好調だったと思う。

逆に言えばボアッソンハーゲン以外はてんでダメダメ・・・7勝分は国内選手権の勝利だし、アフリカ勢が多いのでクラスも低い。結果、UCIランキングは当然の如く最下位である。

スポンサーがスポンサーなのでワールドツアーを降格、とはならないのかもしれない。だがさすがに変わらなければという意識はあるのか、来期は総合上位を狙えるルイ・メインチェス、勝利数を稼げるアタッカーのトムイェルト・スラフテル、そしてツールでクイックステップを支えたヴェルモトなどの加入が決まっている。現在急成長中のスプリンターのギボンズ、総合系ライダーとしての成長が楽しみなアントンやモートンなどの活躍を期待したいところ。

ところで、アフリカ系の選手たちの多くが、来年の更新確定が決まっていない様子・・・そういう意味での変化も考えているのか? さすがに確定メンバーだけでは人数が少なすぎるので、これから発表はされるとは思うのだが。

アフリカの選手たちの可能性を広げていくチームとして、これからも存在感を示してほしいところ。

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第9位 ロット・スーダル(25勝)

UCIワールドツアーチームランキング:13位

ティム・ウェレンス 7勝

アンドレ・グライペル 5勝

ジャスパー・デブイスト 4勝

トーマス・デヘント 2勝

トマシュ・マルチンスキー 2勝

イェンス・デブッシェール 2勝

モレノ・ホフラント 1勝

サンデル・アルメ 1勝

トニー・ギャロパン 1勝(移籍) 

 

今年はグライペルが不調だったため、勝利数は伸びなかった。絶好調だった2015年はチームとしても40勝を記録していた。その代わり、とくにブエルタで、これまでなかなか勝利を得られなかったメンバーが大活躍。チームとしては可もなく不可もなくといった1年に終わった。

ウェレンスやデブイストといった若手の有望株が着実に育っているのは嬉しい。今年は昨年までと比べるとイマイチだったベノートも、短めなステージレースならば総合上位に入れるポテンシャルを見せてもいたので、UCIランキングを上げるためにも頑張ってほしい。ほかにもケウケレールやカンペナールツなど、実力者が入ってくる来年は、クラシックでの勝利も稼いでいきたいところである。

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第11位 チーム・サンウェブ(19勝)

UCIワールドツアーチームランキング:4位

トム・デュムラン 6勝

マイケル・マシューズ 4勝

TTT 2勝

ワレン・バルギル 2勝(移籍) 

マックス・ワルシャイド 1勝

ラモン・シンケルダム 1勝(移籍)

ゲオルグ・プライドラー 1勝(移籍)

フィル・バウハウス 1勝

セーレンクラーウ・アナスン 1勝

ニキアス・アルント 1勝

 

かつて、このチームはキッテルやデゲンコルブが集い、ザ・スプリンター・チームといった様相を呈していた。しかし今年はたった19勝でUCIランキング4位。一瞬のうちに総合系チームに早変わりしてしまった印象だ。

とはいえ、チーム全体がガチガチに総合系で固めているかと言えば決してそんなことはない。むしろ、マシューズを頂点としてバウハウスやアルントなど成長途上が集うスプリンター組は、来年改めて爆発してもおかしくない面子だ。来期はここにエドワード・トゥーンスも加わる。

そのマシューズはアルデンヌ・クラシックでの勝利も期待できるし、そのためのゲシュケ、アナスンなどアルデンヌ向きのライダーもそれなりにいる。

来期は総合だけでなく、ステージ勝利やクラシックなど、勝利数を稼ぐ方向への期待をしていきたいところ。総合というのは、うまくいくときはうまくいくのだが、それだけに依存していると、突然結果の出せないシーズンというのが生まれがちなので・・・。

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第12位 UAEチーム・エミレーツ(18勝)

UCIワールドツアーチームランキング:12位

ディエゴ・ウリッシ 4勝

サッシャ・モドロ  4勝(移籍)

ルイ・コスタ 3勝

マチェイ・モホリッチ 2勝(移籍)

ヤン・ポランツ 2勝

ユーセフモハメド・ミルツァ 2勝

クリスティアン・デュラセック 1勝

 

地味な実力者たちが地味に勝利しているといった印象。しかしその中の1人でもあるモドロやモホリッチがチームを去るのは不安も大きい。とはいえ来年は、中東マネーを駆使してクリストフやアル、ダン・マーティンなどの強力な布陣が揃うので、勝利数でもUCIランキングでも上位を狙うことは可能かもしれない。

また、今年のジロで活躍したポランツ、コンティあたりのさらなる成長が楽しみだ。個人的には、唯一のUAE籍選手ユーセフに頑張ってほしいと思ってる。今年の2勝も国内選手権のそれだけ。やっぱ、地元の選手が地元のチームで(できれば地元のレースで)勝てると感動するしね。

ちなみにPCSを見ると、今年はUAE Team Emiratesだった当チーム名が、来年はUAE-Team Emiratesになっている。え、これはマジで、そういう微妙な名前の変化があるの?

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第12位 アスタナ・プロチーム(18勝)

UCIワールドツアーチームランキング:15位

ミゲルアンヘル・ロペス 4勝

ヤコブ・フールサン 4勝

アレクセイ・ルツェンコ 3勝

ファビオ・アル 2勝(移籍)

ルイスレオン・サンチェス 1勝

オスカル・ガット 1勝

アルチョーム・ザハロフ 1勝

ザンドフ・ビズィギトフ 1勝

ミケーレ・スカルポーニ 1勝

 

シーズン当初は、キャノンデールと並んで勝利を挙げられないチームとしてずっと注目を浴びていた。待望のシーズン初勝利が、ツアー・オブ・ジ・アルプス第1ステージでの、ミケーレ・スカルポーニの勝利だった。ジロ・ディタリアで、アルの右腕として活躍することへの期待を感じさせる勝利だった。

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直後、アスタナは悲劇に見舞われる。スカルポーニの死、アルの負傷、そしてジロ期間中のカンゲルトの大落車。

 

だが、アスタナはその後、少しずつ復活を遂げていく。フールサンのクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝、ブエルタにおけるミゲルアンヘル・ロペスの飛躍。来年、アルは去るが、強力なスプリンターであるマグヌスコルト・ニールセン、ジロで活躍したヤン・ヒルト、そしてブエルタここ3年の山岳賞受賞者であるオマール・フライレとダヴィデ・ヴィレッラも来期は加わることに。

決して成功したシーズンではなかったが、名門チームの未来は暗いものではなさそうだ。

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第12位 トレック・セガフレード(18勝)

UCIワールドツアーチームランキング:5位

マッヅ・ペダースン 5勝

エドワード・トゥーンス 2勝(移籍)

マティアス・ブランドル 2勝

バウケ・モレマ 2勝

アルベルト・コンタドール 1勝(引退)

ジャスパー・ストゥイヴェン 1勝

ルーベン・ゲレイロ 1勝

TTT 1勝

ファビオ・フェリーネ 1勝

ジョン・デゲンコルブ 1勝

ハルリンソン・パンタノ 1勝

 

最多勝利のマッヅ・ペダースンは、今年ワールドツアーチーム入りしたばかりの今年22歳デンマーク人。レナード・ケムナなどと共にドイツのプロコンチネンタルチームに在籍していた昨年、ツアー・オブ・ノルウェーでステージ勝利を果たした。そして今年はデンマークロード王者に輝いたうえで、ツール・ド・ポワトゥー・シャラント(2.1)及びポストノルド・デンマークルント(2.HC)で総合優勝を果たす。

デンマーク人の躍進が目立つ昨今、若手の最注目期待株である。

若手という意味では元アクセオンのルーベン・ゲレイロも期待していたのだが、今年はベルギー・ツアー総合9位くらいか・・・。一応ポルトガルロード王者にはなったので、来年は特別ジャージを着てもう少し目立ってほしいところ。

あとは来年、モレマがどこまで総合で活躍できるか。ブエルタで見せたようなチーム力の高さを活かし、コンタドール・カンチェラーラ不在でも上位で活躍できるチームとして残ってほしい。

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第15位 チーム・カチューシャ・アルペシン(17勝)

UCIワールドツアーチームランキング:11位

アレクサンデル・クリストフ 9勝(移籍)

トニー・マルティン 2勝

ホセ・ゴンサルベス 2勝

シモン・シュピラク 2勝

イルヌール・ザッカリン 1勝

マウリッツ・ラメルティンク 1勝

 

勝利数の圧倒的な偏り。こうやって見てみるとかなりヤバいということが良くわかる。コンスタントに勝利していたタラマエや、期待されていた勝利にあと一歩届かないことの多かったマルティンの状態が主な要因か。他チームに比べ、「勝てる」選手が少ないようにも感じる。

その点、来年はキッテルが加入するため、少なくとも今年のクリストフ以上の活躍はしてくれるだろう。あとはそれを、どれだけのメンバーが支えることができるか、だ。

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第16位 AG2Rラ・モンディアル(16勝)

UCIワールドツアーチームランキング:9位

 アレクサンデル・ジェニエ 3勝

アレクシー・ヴュイエルモ 3勝

シリル・ゴチエ 1勝

ルディ・バルビエ 1勝

ブノワ・コヌフワ 1勝

アレクシー・グジャール 1勝

ロマン・バルデ 1勝

オリヴァー・ナーゼン 1勝

ピエール・ラトゥール 1勝

ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ 1勝

マッテオ・モンタグーティ 1勝

サミュエル・ドゥムラン 1勝

 

相変わらずツール・ド・フランスでの総合争いに振り切っている感のあるチーム。それでも昨年の8勝が随分こたえたのか変革は進んでおり、ナーゼンなどクラシックスペシャリストの獲得にも励んでおり、純フランスチームといった色は薄まってきた。それでもまだまだ、この程度の勝利数。

来年はディリエ、ギャロパンなどのアタッカーも新加入。なんとか結果に繋げていきたいところ。個人的に好きなチームなので頑張ってほしい。

あとドモン。アクセル・ドモン。来年こそツール山岳ステージでの勝利・・・がんばれ!

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第17位 キャノンデールドラパック・プロサイクリングチーム(14勝)

UCIワールドツアーチームランキング:10位

リゴベルト・ウラン 2勝

ワウト・ウィッパート 2勝(移籍)

アレックス・ハウズ 2勝

ライアン・ミューレン 2勝(移籍)

ピエール・ローラン 2勝

トムイェルト・スラフテル 1勝(移籍)

トムス・スクインシュ 1勝(移籍)

トーマス・スカリー 1勝

アンドリュー・タランスキー 1勝(引退)

 

シーズン序盤は、ダントツの最下位候補だったキャノンデール。チーム存続の危機すら騒がれたわけだが、そのブエルタでの頑張りもあり、蓋を開けてみればUCIランキング的にはそこまで悪くなく。3大グランツール全てでそれなりの存在感を発揮したという意味ではやはり名門チームである。

第2のホームとも言うべきカナダのツアー・オブ・アルベルタでの3連勝もあり、ギリギリで勝利数ランキング最下位を逃れた。

来年はダニエル・マクレーとサッシャ・モドロの加入もある。実力あるスプリンターである2人に、ぜひとも勝利数を稼いでもらいたいところ。

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第17位 バーレーン・メリダ・プロサイクリングチーム(11勝)

UCIワールドツアーチームランキング:14位

ヴィンツェンツォ・ニバリ 4勝

ソニー・コルブレッリ 3勝

ジョヴァンニ・ヴィスコンティ 1勝

ツカブ・グルメイ 1勝

ヨンアンデル・インサウスティ 1勝

ラムナス・ナヴァルダスカス 1勝

 

最有力候補のキャノンデールを押しのけて、見事勝利数ランキング最下位に輝いたのは今年創設されたばかりのバーレーン。まあ、その意味では仕方ないとも言える。しかしブレント・コープラントGMは初年度にしてはよくやったと自賛していたが、確かにニバリは頑張ってはいたが、それにしてもやっぱり寂しい結果と言わざるを得ない。ヨンイサギレ・インサウスティのツール初日まさかのリタイアがとても痛かったのは事実だが。

ただ個人的には結構応援している。ペリゾッティが想像以上の活躍をしてくれたり、アントニオやイヴァン・ガルシアコルティナ等の若手もいい動きをしている。地味に才能が発掘されつつあるスロベニアの選手たちを多く抱え、単純に中東マネーで強力な選手たちを集めました、というわけではない魅力がこのチームにはある。

来年はポッツォヴィーヴォやモホリッチの加入もある。今年活躍できなかったハウッスラーなどにも期待しているぞ。コルブレッリももっと勝ちたいね。2年前のように。

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まとめ

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1位から18位をあらためてまとめると上記表の通りとなる。

ランキング上位にいるチームは総合でもクラシックでもステージ勝利でもバランス良く取れているからか、UCIランキングでも上位にいる傾向がある。

一方、FDJ以下はそのバランスが崩れ、ステージレースでのステージ勝利は多いものの総合順位やクラシックでは中々勝利できず、UCIランキングが低めに出てしまっているチームや、逆に総合成績は良いがステージ勝利の数は稼げていないチームなどが現れている。

「チームに対する評価」というのはなかなか難しいところもあるが、上記表がその判定を考える上で参考になれば幸いである。

 

 

また、選手個人での勝利数ランキングも以下にまとめる。

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当然、スプリンターが多く上位に来るため、ある意味ではこれは「今年のスプリンターランキング」とも言えるのかもしれない。ここにグライペルやカヴェンディッシュ、デゲンコルブが入っていないことが悲しいが、概ね今年活躍したスプリンターの名前がしっかりと挙がっていると言えるだろう。

あれ、スプリンターじゃない人が、1人いる?

 

 

 

勝利数というのは非常にわかりやすい客観的な指標であると共に、その中にはレースの格だったり出場するライバルの状況だったりと色んな色を持ってもいる。逆に恣意性もないとも言える。

本当はプロコンチネンタルチームの状況や過去シーズンの状況との比較もしたいところだがさすがにそこまでは手が回らない。せめて来年以降も続け、データの蓄積をしていきたいところだ。

 

分析の観点や注目すべき別の数字など、何かアドバイスがあれば、ぜひ。

 

次はどんな企画をしようかなぁ。

 

前編はこちら

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