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ブエルタ・ア・エスパーニャ2017 総括(全チームレビュー)

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振り返ってみれば、実に劇的な3週間であった第72回ブエルタ・ア・エスパーニャ

その戦いを終えた、全22チームの簡単なレビューを書いていく。

 

 

 

今大会最も活躍した4チーム

1.チーム・スカイ

クリス・フルーム総合優勝

クリス・フルームポイント賞

クリス・フルーム複合賞

ワウト・プールス総合6位

ミケル・ニエベ総合16位

クリス・フルーム区間2勝(第9、第16ステージ)

クリス・フルーム、見事、ダブルツールを達成。ツールとブエルタのダブルツールはアンクティル、イノーに続く快挙。ブエルタが秋開催となってからは初の快挙である。

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蓋を開けてみればフルームとチームの圧倒的な強さが印象的だった。ニエベ、プールス、そして意外な形で実力を示したジャンニ・モズコン。彼らに支えられたフルーム自身も、唯一不安を感じさせたのは第17ステージのみで、あとは結局、ツール以上のコンディションを保ち続けた。タイムトライアルがなくとも勝利できたという結果が、全てを物語っている。

あとは、フルームに残された勲章は、ジロ制覇と、そしてツールの5勝目だ。来年はニエベもケノーもスカイを去るが、新たにベルナル、ハルヴォーシュン、ローレスなど若き才能も加入する。スカイ帝国の栄光はまだまだ続きそうだ。

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2.トレック・セガフレード

アルベルト・コンタドール総合5位

アルベルト・コンタドール区間1勝(第20ステージ)

個人的に、コンタドールという男はそこまで好きではなかった。自分がサイクルロードレースを見始めたのは2015年のツールからで、モルティローロ怒りの登坂すらリアルタイムでは見られていなかった。

それでも、2016年パリ~ニースの頃から、あるいはその年のツールの、リタイアすることになるステージでの決死のアタックを見てから、コンタドールのその果敢さ、執念、そういったものにどうしようもなく惹かれていくのを感じた。

コンタドールは間違いなく、伝説を作り続けた男であった。彼は、他のどの選手とも違う、唯一無二の選手だったと、自信をもって言える。

そんな男が、また新たな伝説を作ったのがこのブエルタだった。

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そんな彼の最後のブエルタを支えたのが、トレックというチームだった。もう1人のエースであったデゲンコルブは、残念ながら早期リタイアとなってしまったが、その後も、エドワード・トゥーンスの、2度にわたる献身的なアシスト。そして、アングリルでの、ハルリンソン・パンタノの、全てを出し切る走り。

たった1人の男の栄光のために、チームの全てがその男を支え、そしてまたその男も、チームの栄光のために、その全てを出し切って戦う。

まさに、サイクルロードレースの魅力を体現したチームであった。

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ありがとう、コンタドール

彼の走りが、この後の世代にも、強く影響を与え続けることを願う。

 

 

3.クイックステップ・フロアーズ

マッテオ・トレンティン区間4勝(第4、第10、第13、第21ステージ)

イヴ・ランパールト区間1勝(第2ステージ)

ジュリアン・アラフィリップ区間1勝(第8ステージ)

ジロのガヴィリアの4勝、キッテルのツールの5勝に続き、ブエルタでもこうして、他チームを圧倒する成績を残すことのできたクイックステップ。まさに、現在のサイクルロードレース界における最強のチームであることを証明した。

来年はそのキッテルとトレンティンがチームを去ることになるが、クイックステップの強さのDNAはきっと、継承され続けていくことだろう。

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そしてもう1人の英雄が、エンリク・マス。スペインの若手として、ブエルタ開幕前から注目していた選手だった。もちろん、勝利があったわけでもないし、総合順位が高かったわけでもない。ただ、コンタドール勝利を決めた第20ステージで、彼はチームの垣根を超えてコンタドールを牽引する役目を担った。かつて、コンタドールが運営する育成チームにマスが所属していたことなどが縁となったようだ。そして、そんな縁が帰ってくるような走りをするのが、コンタドールという男の魅力なのだと思う。

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マスは、コンタドールから直々に、「次代のスペインのエースを担う男」として指名されたらしい。

これからが楽しみだ。

 

 

4.ロット・スーダル

サンデル・アルメ総合19位

トーマシュ・マルチンスキー区間2勝(第6、第12ステージ)

サンデル・アルメ間1勝(第18ステージ)

トーマス・デヘント区間1勝(第19ステージ)

ほぼ最強のメンバーで挑んだツールでは大爆死。後がない状態で挑んだこのブエルタで、想像もできなかった結果をもたらした。マルチンスキー、アルメといった、正直言って地味な選手、という印象だった彼らがここまでの成績を出したという意味で、今大会最も衝撃的なチームだったと思う。

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ロット・スーダルといえば、グライペルのスプリントか、あるいはクラシックにおける各種パンチャー、ルーラーたちの活躍、というような印象だった。だが今大会活躍したデヘントもマルチンスキーも、いずれもクライマータイプの選手たちだ。今年はグライペルも振るわない様子で、少しずつチームとしても変化しつつあるのかもしれない。

となると、そろそろ総合エースの存在に期待したいところ。今回のアルメも総合19位と悪くない結果だったのと、デヘントもドーフィネ前半戦でいい走りをしていたので、今後のコンディションの調整次第では総合上位も狙っていけるかもしれない。

あるいは、若手イギリス人のジェームズ・ショーの成長が期待されるところかもしれない。

 

 

今大会ある程度の結果を出せた6チーム

1.バーレーンメリダ

ヴィンツェンツォ・ニーバリ総合2位

ヴィンツェンツォ・ニーバリ区間1勝(第3ステージ)

ニーバリという選手はやはり強い選手だ。もちろん、グランツールは既に全て制覇している。それでも、フルームやキンタナには一段劣る選手、という印象も強かった。しかし、今年33歳になるというのに、ジロ総合3位とブエルタ総合2位という安定感。とくに、3週目に向けてしっかりとコンディションを上げていくという、グランツールの戦い方を最も熟知した走りをできるところが凄い。

本人にとって、この総合2位というのは決して手放しで喜べる結果ではないのかもしれない。それでも、見事だった。

そして、そんなニバリをひたすら支え続けたのが、フランコ・ペリゾッティという男だった。彼はジロでもニバリを献身的に支えていた男だ。

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ニバリの6つ年上になる彼は、かつてリクイガス時代にニバリのチームメートであった。その後、長くプロコンチネンタルチームで燻り続けていたペリゾッティだったが、今年、ニバリを中心とした新チーム立ち上げに伴い、ニバリ周辺が熱烈にプッシュした結果、6年ぶりのワールドツアー復帰となったのである。

そして、長いブランクを感じさせない登りでの圧倒的なアシストによって、ニバリは今年のジロとブエルタで結果を残すことができた。

私個人としては、今大会におけるベストアシスト賞は、このペリゾッティに捧げたいと思っている。

 

 

2.カチューシャ・アルペシン

イルヌール・ザッカリン総合3位

ザッカリン、執念で表彰台に滑り込む。昨年亡くした父に捧げるポディウムだという。ツールとまではいかなくとも、いつかジロかブエルタは制する力がある男だと思っている。その意味で今回の表彰台は不思議ではないし、チームとしてはもっと活躍してほしかった、というのが本音だ。まだまだ総合エースを支える布陣には不安があるか?

ジロの終盤で活躍したホセ・ゴンサルベスが早々にリタイアしたことも痛かったかもしれない。若手の期待、マトヴェイ・マミキンも、今年は活躍するところを見せられず、終盤に絶叫とともにリタイア。

 

 

3.チーム・サンウェブ

ウィルコ・ケルデルマン総合4位

最後の最後で表彰台から滑り落ちてしまったケルデルマン。それでも、総合4位、しかもチームの9分の4がリタイアしている状態でのこの結果は、十分なほどの成果である。とはいえ、ザッカリンとは逆に、ケルデルマンがこれ以上の成果を今後出せるイメージが湧かない。あくまでも、デュムランのアシストとしての活躍を期待してしまう。

逆に個人的に注目したのは、23歳のデンマーク人、セーレンクラーウ・アナスン。今年、ツアー・オブ・カタールの山頂フィニッシュで、ベン・ヘルマンスとルイ・コスタを破って勝利した男で、クライマーかパンチャーに近い脚質をもつ男、という印象があった。しかし、今大会ではスプリントで8位、3位、ときて最終日マドリードでも3位。TTも早いし、実に多才な選手である。

 

 

 

4.キャノンデール・ドラパック

ダヴィデ・ヴィレッラ山岳賞

マイケル・ウッズ総合7位

ヴィレッラの山岳賞、ウッズの総合TOP10入り、そして何よりも、ブエルタ開催中に突如として告知されたチーム解散の危機と、そこからの復活。

解散危機が報じられた直後の、チーム一丸となっての走りは、特に印象的。ヴィレッラの山岳賞を確保するうえでも、チームとしての動きが重要なピースだったようで、ジロのローラン勝利やツールのウラン総合2位と合わせ、地味ながら結果を出すこのスリップストリームの系譜は、やはり現代のサイクルロードレース界においてなくてはならない存在なのかもしれない。

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そんな中、ひっそりとタランスキーが引退を発表したことが、個人的にはとても悲しい。

 

 

5.アスタナ・プロチーム

ミゲルアンヘル・ロペス総合8位

ファビオ・アル総合13位

ミゲルアンヘル・ロペス区間2勝(第11、第15ステージ)

アレクセイ・ルツェンコ区間1勝(第5ステージ)

なんといっても、ロペスの躍進がこのブエルタにおけるアスタナ最大のトピックスである。正直、総合上位までは期待していなかったので、最後に総合8位にまで転落してしまったこと自体はあまり問題だとは思っていない。むしろ勝ち方を知れたので、あとは3週間を戦い続ける感覚を身に着けていけば、今後表彰台も十分狙っていけるようになるだろう。

正真正銘、アスタナの新エースとなる準備が整った。想定よりも早く。

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そして、稀代の逃げ屋ルツェンコも、まずはグランツール1勝目。毎年着実に結果を積み重ねていっている男なので、今後も楽しみだ。

 

 

6.アクアブルー・スポート

シュテファン・デニフル区間1勝(第17ステージ)

今年創設さればかりのチームで、いきなりワイルドカードを獲得して、それでしっかりと勝利まで持ち帰れたのは間違いなく快挙。

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逃げにも積極的だったし、十分アピールできたのではなかろうか。

 

このチーム、来年は既に、ヨーロッパ選手権U23部門ロード優勝者のキャスパー・ペダーセンの獲得も決まっている。さらなる活躍がこれからも期待できそうだ。

 

 

良くもなく、悪くもないといった結果の4チーム

1.チーム・ロットNLユンボ

 スティーヴン・クライスヴァイク総合9位

 ひとまずクライスヴァイクも、早期リタイアとなった昨年の借りを返し、総合争いに十分加わることのできる実力があるんだということを証明はできた。

それでも昨年のジロと比べてしまうと、やはり目立つことのなかった3週間。期待外れとまでは言わないが、このまま埋もれてしまう予感しかしない。

ベネットも中盤でリタイア。クレメントも中途半端で、総合勢はどうしようもない結果となってしまった。

フアンホセ・ロバトが序盤で上位に入ったことは驚きだったが最後まで持たず。ミラノ~サンレモなんかでも上位に入れる選手なので密かに期待しているのだが、なかなかうまくはいかないね。

逃げには相変わらず積極的。実らなければ意味がないのだが・・・。

 

 

2.BMCレーシング

ティージェイ・ヴァンガーデレン総合10位

ニコラ・ロッシュ総合14位

チーム・タイムトライアル優勝

チームTT優勝というノルマは達成しつつ、それ以外は正直期待はしていなかったので、ヴァンガーデレンの総合TOP10滑り込みとロッシュの前半戦の活躍はむしろ良く頑張ったという印象。

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長距離個人TTでの、デニスとフルームの一騎打ちというのは非常に見てみたかったのだが、デニスの直前のリタイアで果たされず。世界選手権ではどうなるか。

 

 

3.UAEチーム・エミレーツ

ルイ・メインチェス総合12位

ホンダルウィン・アタプマ総合20位

マチェイ・モホリッチ区間1勝(第7ステージ)

総合上位を狙える人材は揃っていたのが、いずれも中途半端な結果に。アタプマもメインチェスも、ツールからの連戦に疲れ切っていたのか。サッシャ・モドロも、期待していたのだが結果は出せず。

そんな中、モホリッチが初のワールドツアー勝利を達成。おめでとう。元祖スペースペダリングことモホリッチ乗りもしっかりとアピールできた。

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また、ジロのエトナ覇者ヤン・ポランツが今回もコレット・ディ・カティで2位と悪くない結果に。今後さらなる成長が楽しみだ。

 

 

4.マンサナ・ポストボン

勝利こそないものの、それなりの存在感は示せたか。ジャージの派手さがその要因の一つかもしれないが。。

前半のイェツ・ボルと、中~後半のリカルド・ヴィレッラの積極的な逃げは、さすがこのチームの中での非コロンビア人として、コロンビアの若手を育てる役目を担った選手として相応しいものだった。とくにヴィレッラは、山岳賞のヴィレッラと同じようなタイミングで逃げることも多く、こちらを混乱させてくれた。

コロンビア人若手の中では一応のエースナンバーを着けていた22歳のアルデマール・レイエスが、難関山岳ステージでも比較的終盤まで残る走りを見せていた。期待の選手になれるか。

 

 

期待されていたほどの結果を出せなかった4チーム

1.オリカ・スコット

ヨハンエステバン・チャベス総合11位

チャベス、アダム、サイモン、オリカの誇る総合勢全てを投入し、その全てが沈んでしまった。さらにはコルトニールセンやユールイェンセンなど、ステージ勝利を狙える陣営も、期待されていた結果を出すことができなかった。メンバーが豪華な割の大爆死に言葉もないといった結果。

ただ、コルトニールセンがスプリントだけでなく、山岳でも積極的に逃げに乗っていたのは印象的だった。まるでホセホアキンロハスのような動き方だった。これは極めれば総合エースにとってとても嬉しい前待ち作戦要因ともなるため、その点での可能性が残る走りを見れたのは良かったか。

ただしコルトニールセンは来期からはアスタナ行き。

 

 

2.カハルラル・セグロスRGA

セルヒオ・パルディラ総合15位

カハルラルというチームは、スペインの新鋭を発掘していくという意味で非常に意義のあるチームだと思っている。2年連続山岳賞を獲ったオマール・フライレもこのチーム出身だし、今回出場したメンバーの中でも、第10ステージで区間3位を獲るなどしているハイメ・ロソンは来期モビスター入りが決まっている。

しかし、ロソン以外のメンバーは、正直期待していたほどの活躍は見せられなかった。ステージ勝利までは求めないが、逃げの終盤まで残る姿が、例年よりも少なかったように感じる。

かろうじて活躍していた気がするのはセルヒオ・パルディリャとダビ・アロヨだが、いずれもモビスター在籍経験もあるベテランで、どちらかというと教育役なので求めているものとは違う。あとはリュイスギジェルモ・マスもちょくちょくと逃げに乗っていた気はする。彼はもうブエルタの常連だが、ワールドツアーからのお声はかからないのだろうか。いまだに来年度の行く先は決まっておらず。

 

 

3.モビスター・チーム

ダニエル・モレーノ総合18位

総合エースがいないとはいえ、モレーノ、ベタンクール、ロハス、フェルナンデス、オリヴェイラ、そしてマルク・ソレルといった、それなりの実力者が揃っている中で、最高がモレーノの総合18位、そしてステージ勝利もなしとなると、やはり厳しい結果と言わざるをえない。

もちろんロハスやソレルも積極的に逃げに乗り続けており、それなりの存在感を示しはしたが、そこで勝利に繋げられなければこのチームとしては十分ではない。ソレルが初のグランツールで、何かを掴んでくれていればいいのだが。

 

 

4.ボーラ・ハンスグローエ

ラファウ・マイカ区間1勝(第14ステージ)

マイカが1勝してなんとか結果は残したものの、やはりかつて総合3位を獲った男のこの結果は切ない。ブッフマンやコンラートも力のある選手だが存在感を示せず。

来年はケーニッヒが復活して、大暴れしてくれることを期待している。

 

 

まったく目立てなかった4チーム

1.AG2Rラモンディアル

ロマン・バルデ総合17位

結局バルデはツールでしか輝けない男なのか・・・? ブエルタで結果を出しているジェニエもグジャールも、手も足も出せなかった。今年調子のよかったポッツォヴィーヴォも、早々にリタイアしてしまっていた。

それなりに豪華なメンバーを連れてきた割に、散々な結果に終わった。また来年!

 

 

2.コフィディス・ソリュシオンクレディ

コフィディスにとってブエルタはある意味地元である。ディレクトエネルジーが今回出場していない中で、プロコンチネンタルチーム最強チームとして挑んだはずなのに、この結果はひどい。昨年1勝しているヴァンヘネヒテンが早々に帰ってしまったのも痛い。マテやナバーロが逃げで頑張るのはもう予定調和なので、彼らはそろそろ勝ってもらわないといけない。26歳のフランス人アントニー・ぺレスがやや頑張った。

 

 

3.ディメンションデータ

アフリカ勢若手期待の星クドゥス、今大会最初の頂上ゴールで2位と結果を出した2日後に帰宅。今シーズン、ワールドツアークラスのレースでもスプリントで良い成績を出し続けているアルジェリア人、ユーセフ・レグイグイも、第4ステージで9位に入った翌日にリタイア。ほかにもパウェルス、フライレと実力者が次々とブエルタを去り、最後に残ったのはツールのFDJよろしく3名のみ。昨年に引き続きワールドツアーチーム残留の危機がありながら、最後のグランツールでこの結果は非常に痛い・・・本来総合で頑張るべきアントンも、いいところなく総合35位。

 

 

4.FDJ

本来ブエルタはFDJが活躍できる場ではないとわかっているが、それにしても目立てなかった。個人TTでルドヴィクソンが一時注目されたのと、マンザンが最終日にまさかの2位に食い込んだくらいか。このメンバーにしては上出来?

個人的に注目していたオドクリスティアン・エイキングは、まったく存在感を示せなかった末に、最終日にひっそりと未出走で終わる。