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UCIロード世界選手権2017 プレビュー

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ブエルタもいよいよ終盤戦。しかし今回は、開幕が近づきつつある、2017年世界選手権をプレビューしていく。

 

今年の開催地はノルウェーのベルゲン。同国での開催は1993年のオスロ大会以来24年ぶり。9月でも40度近くまで気温が上がる昨年のドーハとは逆に、平均最低気温が10度以下になる北の大地での開催となる。

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ノルウェー第2の都市ベルゲン。波止場や倉庫街(ブリッゲン)が世界遺産にも指定されている。

 

今回のこの世界選手権のコースと注目選手をプレビューしていく。

出場選手はまだまったく決まっていないため、以下に挙げた選手が結局出場しない、という場合もありうるので注意。

 

 

 

エリート男子個人タイムトライアル

今回の男子個人タイムトライアルはかなり特殊なコースとなっている。

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まず、31kmと短い。かつ、最後の3.4kmが平均9%以上の本格的な登りとなっている。

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ほぼ間違いなく、登りの手前で自転車交換が行われそうだ。

こうなってくると、いつもの優勝候補が優勝候補でなくなってくる。言っても28kmは通常のTTと同じなので、やはり大前提として独走力は必須となる。

 

ということで、TTスペシャリストというよりも、TTが圧倒的に強いうえで登りもイケるオールラウンダーが有利となり、大方の予想は今年のジロを制したトム・デュムラン(オランダ)となっている。

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リオオリンピックでは銀メダルを獲得したデュムラン。しかも、直前のツールで指を怪我したうえで、である。

 

今まで国内選手権を3度制しているデュムランだが、意外にも世界選手権での優勝はない。どころか、エリート初出場の2013年以降、14位→3位→5位→7位とイマイチな結果と言ってしまってもいいくらいである。2011年以来4回優勝しているトニー・マルティンとは対照的だ。

 

だからこそ、今年の世界選手権は最大のチャンスである。来年以降もグランツール総合に向けた体作りをしていくだろうから、今年は本当にチャンスと言える。

 

 

そして、同じようにオールラウンダー系のTTスペシャリストとして注目したいのがローハン・デニス(オーストラリア)。同じく2013年以降は12位→5位→6位→6位。

ちなみにデュムラン、デニスがともに最も良い順位を記録した2014年ポンフェラーダの個人TTは、後半にアップダウンが豊富で獲得標高458mのコースだった。そしてこの年の優勝者はマルティンでもヴァシル・キリエンカでもなく、やはりオールラウンダーのブラッドリー・ウィギンスであった。

それ以上の標高差を持つ今年のTTで、デュムラン、およびデニスが優勝する可能性は十分にある。

 

もちろん、マルティン、そして2015年覇者のキリエンカもまた、山岳が弱いわけでは決してない選手である。2014年だってそれぞれ2位、4位である。

その他の優勝候補としては、今年ジロの最終日を制したヨス・ファンエムデン。あるいはツール第20ステージを制し、ヨーロッパ選手権ITTでも2位だったマチェイ・ボドナール。あるいは2014年世界選手権ITTで7位だったネルソン・オリヴェイラ、同10位で来年はスカイ行きが決まっているヨナタンカストロビエホなどであろう。

 

 

エリート男子ロードレース

ロードレースの方もなかなか味のあるステージだ。エリート男子の場合は、まずは平坦の40kmを経たうえで、19.1kmの周回コースを19周する。

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途中出現する「サーモン・ヒル」は登坂距離1.5km、平均勾配6.4%と、決して物凄く厳しい、という登りではないものの、これを19回こなすことになるので、確実にライダーたちの足を削っていくことだろう。

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これに加え、主催者はコースに石畳も含めたとのことで、純粋なスプリンターというよりは各種クラシックに強い脚質をもった選手が有利になるだろう。

 

世界選手権2連覇を遂げているペテル・サガンの3連覇も十分に狙えるコースであると同時に、やはり地元ノルウェーの2大選手――アレクサンダー・クリストフ、そしてエドヴァルド・ボアッソンハーゲンにとっても相性のいいコースと言えるだろう。とくにクリストフはロンド・ファン・フラーンデレンも制しており、クラシック系のコースはお手の物である。

 

だが、フランスの諺にある「船長が2人いると船は転覆する」ではないが、この2人のエースを抱えているにも関わらず(抱えているがゆえ?)、ノルウェーチームは今までの世界選手権で勝利を得ることができずにいた。

昨年も6位・7位と仲良く撃沈。

 

 

だが、今年は違う。それを見せつけたのが、8月に行われたヨーロッパ大陸選手権だった。

ここで、まずは逃げ切りを狙って残り10kmから飛び出したのがボアッソンハーゲン。今年のツール第19ステージで見せつけた、終盤のアタックからの逃げ切りという彼の得意パターンへと持ち込んだ形だ。

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ツールではクレバーな走りで逃げ切り勝利を決めたボアッソンハーゲン。ヨーロッパ選手権では成功しなかったが、世界選手権では果たしてどうか。

 

残り4kmを切って共に逃げていたクークレールとニコライ・トゥルソフが脱落したあとも独走。残り1kmを切っても先頭を逃げ続けたが、ラスト300mでついに捕まえられてしまった。

 

だが、たとえばミラノ~サンレモで見せるような、捕まえられたら終わり、のアタックではない。このアタックをすることで集団にカオスを作り、集団に残ったもう1人のエース、クリストフにチャンスを与えるという意味を持っていたのだ。

そして、見事クリストフが勝利。昨年のサガンに続く、2人目のヨーロッパ大陸ロードチャンピオンに輝いた。クリストフ自身にとっても、大きなレースでの勝利がなかなか無かった不調続きの今シーズン、最大の勝利となった。

 

 

ともにスプリントで勝利を狙う、という方法ではなく、アタックと集団内スプリントという、それぞれの得意分野を活かして補完し合う戦い方を、意図して2人が行っていたのであれば、これは凄いコンビネーションである。

たまたまかもしれないし、その可能性も高いだろうか、同じようなコンビネーションが世界選手権でも見られれば幸いだ。

 

そして個人的には、今度こそボアッソンハーゲンに勝ってほしい。思えば彼も、なかなかに不遇な人である。かつては過剰に期待され、しかし思うように結果を出せずにいた彼。だが今年は、5月のツアー・オブ・ノルウェー区間2位&総合優勝&ポイント賞に輝き、同じノルウェーのツール・ド・フィヨルドでは区間3位&総合優勝&ポイント賞と、自国レースで大活躍を果たしている。

そしてツールでの勝利。結構なベテランなのに、このときの喜びようは凄まじかった。それだけ、辛い時期を過ごしてきたのだと思う。

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ツールでの勝利のあと、歓喜するボアッソンハーゲン。

 

そんなボアッソンハーゲンに勝ってほしい。地元での世界選手権での勝利。これほど嬉しいことはないだろう。

実際に、今回のコースの特徴である「鋭角カーブの連続」が、逃げ切りを目指す選手にとっては有利に働く。

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ゴール前約3kmの地点で180度鋭角カーブ。さらにゴール前1kmを過ぎてからゴール直前に2度の直角カーブ。集団スプリントよりも逃げが生まれた中での単独もしくは小集団スプリントによる決着を予想しているかのようなコースレイアウトだ。

 

ツールのときのようにタイミングよく、クレバーなアタックを仕掛けることができれば、ボアッソンハーゲンが栄光を掴む可能性はぐっと高まることだろう。

  

 

U23男子ロードレース

実は今回の記事で最も書きたかったのはこの項目だったりする。

今年のブエルタ区間勝利を果たしたルツェンコとモホリッチも、それぞれ2012年・2013年のU23ロード覇者である。ほかにもアルノー・デマール(2011年優勝者)、ブライアン・コカール(2012年2位)、ルイ・メインチェス(2013年2位)、カレブ・ユワン(2014年2位)など、まさに未来のスターを生み出す場であることは間違いない。この世界選手権をきっかけにワールドツアーチームでプロ入りする選手も少なくない。

今後、活躍する若手を予想していくにあたって、ツール・ド・ラヴニールと並んで注目に値するレースである。

 

コースはエリート男子ロードと同じ周回コースを使用し、周回数だけが10回と少なくなっている。

総距離が短いだけに、このアップダウンの激しい厳しいコースを活用した、激しい激しい戦いが繰り広げられることだろう。

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今大会、その活躍が期待されるのは以下の選手たちだ。 

※年齢はすべて数え年表記。

 

クリストフェル・ハルヴォーシュン(ノルウェー、21歳)

昨年のU23世界チャンピオン。今年もコンチネンタルチームのチーム・ジョーカーに所属しているため、U23カテゴリでの参加が可能。

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今年のツール・ド・ラヴニールで、厳しい山岳ステージに突入するまでの6ステージ全てで4位以上。しかも今年のラヴニールは、アップダウンに富んだ「自転車の聖地」ブルターニュで始まっている。世界選手権に向けてベルギーのレースで調整をするとも言っており*1、クラシック風味の世界選手権に向けて準備万端といった姿勢だ。

母国開催というのも大きい。U23世界選手権ロードにおける2年連続の優勝は(それどころか1人の人物による複数回の優勝は)現在の枠組みでスタートした1996年以来初となる出来事だ。

来期はチーム・スカイへの移籍が決まっている。

 

クリストファー・ローレス(イギリス、22歳)

チーム・ウィギンス、JLTコンドールときて今年はアクセオン・ハーゲンバーマンに所属。昨年はU23国内選手権において当時アクセオン所属だったタオ・ゲオゲガンハートに敗れたものの、今年は逆に自らがアクセオンに所属し、スカイへと移籍したゲオゲガンハートを打ち破ってついに国内U23チャンピオンとなった。

さらにいえばエリート部門でもカミングスに次ぐ2位。それだけでなく4月のツール・ド・ヨークシャーではフルーネヴェーヘンに次ぐ区間5位を獲るなど、ワールドツアーのベテランたちに引けを取らない活躍を見せている。

ちなみにこの選手も来年からはスカイ入り。どんだけー。

 

キャスパー・ペダーセン(デンマーク、21歳)

元トラック選手で、ヨーロッパ選手権チームパーシュートで銅メダルを獲得している。今年はロードのヨーロッパ選手権U23カテゴリで見事優勝。U23版エシュボルン・フランクフルトでも2位と好成績を残した(1位はオランダのファビオ・ヤコブセンで、彼もまたU23ロードの優勝候補と言えるだろう)。

ちなみにこの後紹介するU23カテゴリ個人タイムトライアルの優勝候補もデンマーク人。ノルウェー開催の世界選手権ではあるが、デンマーク人での金メダル独占というのも、面白いかもしれない。

現所属チームはジャイアント・カステリ。その名の通りジャイアントと、スカイのジャージ製作を担当しているカステリがスポンサーについているため、そのジャージはなんとなくどこか見たことあるようなものとなっている。

※参考:http://teamgiantcastelli.dk/

来年の所属チームは不明。まだ若いので、すぐのワールドツアー入りはしないかもしれない。

 

 

U23個人タイムトライアル

U23男子の個人タイムトライアルは、エリートのそれとは結構異なっている。ロングラップコース⇒ショートラップコースの順番でそれぞれ1周する合計37.2km。結果的にエリートよりも長くなっている。

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 しかも長くなっているにも関わらず、U23に関しても途中のアップダウンが激しい。とくに8km~10km区間に控えている「バイクランダースバッケン」は1.4kmと短いものの平均勾配7.2%(ラスト400mは9%)と結構厳しい登りだ。

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 純粋な独走力だけでない力が求められるのはエリートもU23も同じだ。

 

そんな中、注目したい選手は以下の通り。

 

キャスパー・アズグリーン(デンマーク、22歳)

ティンコフの元監督ビャルヌ・リースが運営するコンチネンタルチーム、チーム・ヴェロコンセプトに所属する。U23国内選手権ITTで優勝はもちろん、ヨーロッパ大陸選手権U23カテゴリでも優勝。さらには国内選手権ITTのエリート部門でも2位と大活躍を果たしている。さらにはツール・ド・ラヴニール初日では、得意の独走力を活かしての逃げ切り勝利を見せつけた。このとき集団先頭を獲ったのが昨年世界選手権ロード優勝のハルヴォーシュンであった。

今大会はまずITTでの優勝を狙ってくるだろう。ロードでペダーセンが優勝すれば、ロード、ITTをデンマークで制覇することも可能だ。さらには、ラヴニールの成功を踏まえ、もしかしたらロードでの優勝も狙えるかもしれない。エリート部門のクリストフ&ボアッソンハーゲンのように、集団スプリントならペダーセン、飛び出してからの逃げ切りを狙うのがアズグリーン、というようにコンビネーションを発揮して勝利を狙うことも可能かもしれない。

来年の所属チームは現状不明。昨年も同チームからマッヅ・ヴュルツシュミットがカチューシャ入りしており、アズグリーンもラヴニールでの活躍などもあるため、ワールドツアーへの昇格は十分考えられる。

 

ニールソン・パウレス(アメリカ、21歳)

彼の名前が最初に轟いたのは昨年のツアー・オブ・カリフォルニア。弱冠20歳で新人賞を獲得した。ちなみにこのとき新人賞ランキング上位3名を独占したのがアクセオン・ハーゲンバーマン。2位と3位のゲオゲガンハート、ルーベン・ゲレイロはそれぞれワールドツアーチームに移籍。パウレスは今年もアクセオンに残っているが、来年はまだ未定。そろそろありうるかもしれない。

さらに昨年はツール・ド・ラヴニール最終ステージでも優勝しており、クライマー、オールラウンダーとしての活躍が期待される逸材だ。

 

そんな彼だが、実はITTも強い。今年国内選手権U23カテゴリで優勝しているだけでなく、昨年の世界選手権U23カテゴリでも6位。前述のアズグリーンは5位だった。

より良い移籍先を確保するためにも、今回のITTでは最低でも表彰台を狙っていきたい。

 

 

その他

ここまで紹介していないレースでの優勝候補も確認していきたい。

チームTTに関しては、いつものメンバーであるBMCレーシングクイックステップ・フロアーズオリカ・スコットが優勝候補なのは間違いない。

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 チームTTのコースは全長42.5kmで今大会のTT系コースの中では最長。しかもU23カテゴリにも登場した「バイクランダースバッケン」も含まれており、単純な平坦レイアウトではない。

 

そういった点も踏まえて考えると、ハンマーシリーズとブエルタチームTTで実力を発揮しつつあるチーム・サンウェブも、いい走りを見せてくれるかもしれない。あるいは、登りを含んだチームTTで強さを発揮するチーム・スカイモビスター・チームも見逃せないだろう。モビスターに関しては長すぎるTTTでは未知数ではあるが。

 

 

女子レースに関しては正直、知識がまったくない。

それでも、以下の2選手は注目に値するだろう。

 

アンネミーク・ファンフリューデン(オランダ、35歳)

オリカ・スコット所属。昨年リオ・オリンピックの「魔の坂」で落車し、動かなくなる様子が全世界に中継されてしまった。そこからしっかりと復帰し、今年もタイムトライアルとワンデーレース中心に好成績を収めている。

今年は「イゾアール頂上ゴール」となった女子版ツール・ド・フランス「ラ・クルス」で優勝。「ラ・クルス」の第2ステージは、第1ステージでのタイム差をもって順にスタートを切る特殊ルールで行われたが、第1ステージで稼いだタイム差を失うことなく逃げ切り勝利を決めた。

女子個人TTは下記ロングラップを1周するレイアウト。登りも強く、独走力も高いファンフリューデンは女子ITT最大の優勝候補となりうるだろう。

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イゾアールを制したファンフリューデン。昨年リオの借りを返した

 

コリン・リヴェラ(アメリカ、25歳)

チーム・サンウェブ所属。今年のロンド・ファン・フラーンデレンを優勝しており、女子ロードレース界最注目の若手、といった印象。小柄な体格が非常に印象的だが、そのスプリントは力強い。 

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最近では7月末のライドロンドン・クラシックで優勝。女子版ツアー・オブ・カリフォルニアでも区間1勝を果たしている。国内選手権では3年連続2位という「無冠の帝王」ではあるが、世界選手権の優勝で真の王者となりたいところ。

笑顔も印象的な選手。これからも注目していきたい。

 

 

レース日程

最後に、世界選手権の日程を確認。(ジュニアカテゴリは省略)

 

9/17(日) 男女チームタイムトライアル

9/18(月) U23男子個人タイムトライアル

9/19(火) 女子個人タイムトライアル

9/20(水) エリート男子個人タイムトライアル

9/22(金) U23男子ロードレース

9/23(土) 女子ロードレース

9/24(日) エリート男子ロードレース

 

Jsportsで放送するわけでもないため、視聴方法は限られてくるとは思うが、なんとかできる限りライブで視聴していきたいと思う。

オススメの視聴方法などあればご教示願いたいところ。