「天才」カルメジャーヌが、ツール初挑戦にして、いきなりの勝利を掴んだ。昨年ブエルタと並ぶ、いやそれ以上の勝利。
過酷なアタック合戦の末に出来上がった逃げ集団に乗り込み、1級山岳を含む残り17kmを独りで走り切った。ラスト5kmを過ぎた時点で足を攣るアクシデントも乗り越え、大先輩ヴォクレールばりの「舌ベロベロ」を見せながら、今大会2度目のフランス人勝利をもたらしたのだ。
リリアン・カルメジャーヌは1992年生まれ。今年25歳となる世代だ。
この世代は、「黄金世代」と呼ばれる90年生まれに匹敵する才能が揃っている。たとえばジュリアン・アラフィリップ。ボブ・ユンゲルス。そしてイェーツ兄弟。その他フォルモロやブッフマン、スプリンターでもコカールやマクレーなどである。
23歳24歳でトップライダーに躍り出る選手の多かった90年世代と比べるとやはり見劣りするとはいえ、確実に「次の時代」の中心となる世代である。
そんな中、カルメジャーヌは意外にも、そのデビューが遅い選手ではあった。
イェーツ兄弟やアラフィリップが、3年前の2014年にはもうワールドツアーチームでデビューしていたのと比べると、カルメジャーヌのデビューは昨年。しかも、プロコンチネンタルチームであるディレクトエネルジーで、である。
デビュー直後の彼は、よくアレクシー・グジャールの名前を出していた。彼より1つ年下で、彼のデビューの前年に、ブエルタ・ア・エスパーニャで逃げ切り勝利を果たした選手である。「彼にできるなら僕にだって」。そんな言葉を、ディレクトエネルジーでの初戦にあたるグランプリ・シクリスト・マルセイエーズでのインタビューで語っていた*1。
だが、そんな彼が、その年にいきなりブエルタで1勝し、さらに今年、ツールでも勝利を手に入れた。
それだけじゃない。エトワール・ド・ベセージュ、コッピ・エ・バルタリ、シクリスト・サルテでそれぞれ総合優勝。さらに昨年に続き出場したパリ~ニースで山岳賞も獲得。
グジャールがブエルタ勝利の翌年から、イマイチ結果を出し切れていないのとは対照的に、カルメジャーヌは確実に、その成績を伸ばし続けている。
それは、デビュー初年から積極的にワールドツアーレースに出場させつつも、1クラスの地元レースにもエース待遇で出場させ、勝利させ自信をつけさせていく、というチームの教育方針の賜物でもあるだろう。
ローランが去り、ヴォクレールが引退し、コカールもまた去ろうとするチームにおいて、新たなエースとして相応しい実力をもった選手だと言えるだろう。
そんな彼が、将来どんな選手になると予想できるだろうか。
おそらく、多くのフランス人が期待するのは、ツールで総合表彰台を狙えるような選手であるだろう。たとえば、ピノや、バルデのような。チームとしては、ピエール・ローランの後継者といったところか。
だが、果たして本当に、そういう選手を目指すことが、正解と言えるだろうか。
前述したように、同じ世代にはすでにアラフィリップという、総合を狙える才能がいる。ユンゲルスやイェーツ兄弟といったライバルも多い。
何より——こんなことを言うのは失礼かもしれないが——チーム自体が、ツールで総合上位を狙えるほどのアシストを用意できるだろうか。おそらくは昔と比べてずっとチーム力が重要になってきている近年のツールで、クイックステップやオリカといった資金力も人材も揃っているチームに、個の力で対応できるほど甘くはない。
ローランの近年における不振も、決して彼だけの責任ではなかったと思うのだ。
それよりは、その勝負の仕方に関しても、「ヴォクレールの後継者」であってほしい、という思いがある。すなわち、タイミングを見つけて飛び出し、逃げ切り勝利や、山岳賞を積極的に狙っていくスタイル。ヴォクレールでなければ、昨年までのマイカだったり、デヘントだったりのタイプである。
実際、総合を狙える走りをする選手と、タイミングを見つけて攻撃を繰り出すことを得意とする選手とでは、タイプが異なっているように感じる。たとえば今日のレースで3位に入ったマルタンなんかの方が、総合上位に入る力に関して言えば高いような気もする。
もちろん、まだまだ彼の才能を規定する必要も道理もない。
これからの走りを見ながら、彼自身と彼の周りの人々が考えていくことである。
それでも、個人的な思いとしては、彼があまり総合成績などのプレッシャーに押しつぶされることがなく、自由気ままに、思いのままに、本能のままに山岳を駆け抜け、飄々と勝利を掴んでいく姿をいつまでも見続けていたい。
ヴォクレールが去るツールから、そのヴォクレールの魂を受け継ぐ走りを魅せてくれる選手が生まれたことに、深い感謝の気持ちを抱きつつ。
ディレクトエネルジーでのデビュー戦にあたるグランプリ・シクリスト・マルセイエーズにて、優勝のヴォクレールと共に表彰台に並ぶカルメジャーヌ(右)。