今年からワールドツアーに昇格した「北米最大のレース」ツアー・オブ・カリフォルニアが幕を閉じた。
今年のツールを単独エースで出場予定のラファウ・マイカ、あるいはアンドリュー・タランスキーといった本命を抑えてのジョージ・ベネットの勝利は、正直、意外ではあった。
しかしジョージ・ベネット成長の証。グランツールでも表彰台を狙えるのか? - サイバナでも語られている通り、チーム・ロットNLユンボは、ここにまた一人、新たなる総合エース候補を獲得できたことになる。
ヘーシンク、クライスヴァイク、ログリッチェ、そしてこのベネット。
全てのグランツールで存在感を発揮できるほどの人材を育てた名門チームが、今後どんな活躍を見せてくれるのか、楽しみで仕方ない。
今回はこの「カリフォルニア」の、各ステージの結果を簡単に振り返りつつ、目立った活躍を果たした選手たちを振り返ってみたい。
各ステージ結果と概要
第1ステージ マルセル・キッテル(クイックステップ・フロアーズ)
クイックステップの誇る最強発射台・サバティーニから放たれたキッテル砲は、誰にも止めることができなかった。サガンがすぐさまキッテルの後ろに貼り付いたものの、前に出ることは敵わなかった。
まるで2014年までの「最強」が戻ってきたかのような勝利だった。せっかくのカリフォルニアで、1勝もできずに終わるわけにはいかない。他のステージはキッテル向きではなかったし、この日勝てたのは本当に良かった。
ちなみに途中まで集団をリードしていたカチューシャ列車だったが、終盤で完全にクイックステップに乗っ取られた。エシュボルン・フランクフルトを制して好調のまま参戦したはずのクリストフだが、この日は13位。
第2ステージ ラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ)
超級山岳マウント・ハミルトンを含む山岳ステージ。とはいえ山頂ゴールでもないし、さすがに総合は動かないだろう、と思っていたら動いた。ハミルトンへの登りで、ジョージ・ベネットのアタックをきっかけにして、イアン・ボズウェル、そしてラファウ・マイカが飛びついた。
最後はスプリント勝負で、経験豊富なマイカが先着。ベネット、惜しい。
この日、最初の逃げに乗り、追い付いてきたマイカたちにも遅れずに残り続けていたトムス・スクインシュ。3年連続のステージ優勝すら見えていた(し、山岳賞と敢闘賞も確定させていた)が、まさかの落車。
脳震盪の症状でふらふらの様子を見せながらもバイクに跨るスクインシュ。しかし、さすがにドクターストップがかかり、リタイア。
後遺症が残らなければいいのだが。ナイスファイトだった。
第3ステージ ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
最後の直線が、思っていた以上の登りで、キッテルは完全に勝負に絡めなかった。デゲンコルブも調子を取り戻せていないのか、サガンとクリストフの一騎打ちとなった。
しかし、牽引するツァペルがいい走りを見せる一方で、その背後から飛び出そうとしたクリストフはまったく伸びず。左側から抜け出したサガンがそのまま誰の追随も許さないまま圧勝した。
クリストフの不調がとても不安だ。「裏番組」のツアー・オブ・ノルウェーではボアッソンハーゲンが絶好調だっただけに・・・。エシュボルン・フランクフルトでも勝ってるし、時期が悪いわけではないと思うのだが・・・。
逆にツァペルは今のところかなりいい形で機能しているので、ツールでのリベンジに期待したい。
第4ステージ エヴァン・ハフマン(ラリー・サイクリング)
カリフォルニアで逃げ切りがない、なんてことはない。この日もスプリンターチームが全力で牽引をしていたが、サガンに対する警戒もあってか、届かなかった。
そして逃げに2名を乗せていたラリー・サイクリングが、チームワークを活かしてスプリント勝負を支配。結局、ワンツーフィニッシュを飾った。
第5ステージ アンドリュー・タランスキー(キャノンデール・ドラパック)
クイーンステージに相応しい激戦。だがその前に、逃げも凄かった。昨日ワンツーフィニッシュしたばかりのラリー・サイクリングのハフマンとロブ・ブリトンが逃げる。山岳賞ジャージを着るダニエル・ハラミーリョも逃げる。サガンも逃げる。
とくにブリトンの頑張りも熱かった。マウント・バルディーも残り5kmまで独りで逃げる。追い付かれた後もしばらく残っていたので、十分な地力があったと言える。昨日逃げ切った選手とは思えない。
山岳バトルは、終始タランスキーの積極的な走りが光った。マイカも十分に強さを発揮したが、タランスキーを突き放すところまではいかなかった。
キャノンデールはこれで2年ぶりのワールドツアー勝利を果たした。
タランスキーも、昨年ブエルタ5位に続く結果を出せたことでまずは安心、といったところか。
第6ステージ ジョナサン・ディヴェン(チーム・スカイ)
昨年2位のタランスキー、5位のブックウォルターに期待していたが、それぞれ3位・2位と健闘したものの優勝は、正直意外なこのお方。
元・チームウィギンスで、昨年はキャノンデールにトレーニーとして加入。今年からチーム・スカイで本格デビューしたばかりのネオプロである。
昨年のトラック世界選手権ポイントレース部門で優勝している実力者。ウィギンスやトーマスと同じ、イギリストラック界から登りつめた正統派TTスぺシャリストである。
その経歴ゆえにまだまだ実績はないが、今後、存在感を増していく選手になるのは間違いない。要注目である。
また、途中までホットシートに座り、最終的には5位になったフィリッポ・ガンナ(UAEチーム・エミレーツ)にも注目。なんと若干20歳。昨年のトラック世界選手権個人追い抜き部門で金メダル(今年は銀)。さらにジュニア版パリ~ルーベでも優勝しており、そっち方面での活躍も期待できる選手だ。
そしてこの日一番の驚きは、タイムトライアルが苦手だと思われていたジョージ・ベネットのまさかの快走。総合優勝者として文句ない走りを見せてくれた。
第7ステージ エヴァン・ハフマン(ラリー・サイクリング)
そしてまさかの2勝目。この日も3人も、逃げの中に送り込んだ甲斐があった。昨年の山岳賞に続くこの栄誉。チームとしても大成功に終わったカリフォルニアであった。
そしてもちろん、この日の大健闘はラクラン・モートンである。
前日のTTで悔しいメカトラブルによる新人賞喪失。そこで腐らずに逃げに乗った彼の走りは実に素晴らしかった。彼も昨年はジェリー・ベリーのメンバーだった。ツアー・オブ・カリフォルニアは、ワールドツアーになっても、こういったコンチネンタルチームの選手たちが活躍できる舞台であり、それはとても喜ばしいことである。
活躍した選手たち
総合優勝 ジョージ・ベネット(ロットNLユンボ)
実は今回の総合優勝がプロ初勝利。
昨年も、途中までは総合3位と良い状態で進んでいたが、20km個人タイムトライアルで2分弱遅れての38位を叩き出して最終的に総合7位にまで沈んだ。だから今年も、マイカから6秒しか遅れていないとはいえ、総合優勝は厳しいかな、と思っていた。
そんな彼が、まさかのTT4位。
昨年2位のタランスキーから2秒しか遅れないという驚異の走りであった。
そもそも第2ステージでの逃げのきっかけを作ったのは彼のアタック。バルディー決戦でも積極的に仕掛ける姿が見え、ヘーシンクというもう1人のエースの存在が、いい感じに彼の動きを自由にしてくれていたのかもしれない。
それでも、ヘーシンクがバルディーで遅れ、完全に単独エースとなった状態で挑んだタイムトライアルで、あれほどの結果を出せたのが大したものだ。
昨年ブエルタで総合10位。チーム内最高順位だった。
今年もツール、ブエルタでの出場を予定しているのだろうか。ツールのログリッチェを支えるアシストとしても、活躍を期待したいところだ。
総合2位 ラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ)
マウント・ハミルトンとマウント・バルディーの登りは十分に強かった。しかし、ベネットやボズウェルを突き放せなかった、という点で万全ではないだろう。ここから7月までに、しっかりと調整していきたい。
タイムトライアルも予想通りの結果に。
総合3位 アンドリュー・タランスキー(キャノンデール・ドラパック)
クイーンステージで1勝。TTでも安定した走りを見せて3位。第2ステージで遅れたことを思えば、十分に手ごたえを感じることのできる結果だったのではないだろうか。
万全の状態でツールを迎えられそそだ。目指すは総合ベスト5。できればステージ勝利も欲しい。
ポイント賞 ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
まあ、ここは予定通りである。ただ1勝しかできなかったのは残念。そもそもスプリント勝負できたステージが2つしかなかったのが問題。アシストの力量不足なんてことはもちろんないだろうが、登り多めでキッテルが第1ステージ以外は勝ち目が薄く、クリストフやデゲンコルブも不調気味でライバルが少なかったことが、集団のペースを弱まらせる要因となってしまったのかもしれない。
それでも第3ステージのスプリントの勢いはさすが。山岳逃げも難なく行えていたし、ツールに向けての状態は現状、問題なしだろう。
あと今年も話題作りは完璧。急勾配区間をウイリーで駆け抜け、コスプレ観客たちを大いに盛り上げていった。フランドルでは観客が原因で落車して勝利を逃したにも関わらず、こうやって観客へのサービスも忘れない。本物のエンターテイナーである。
山岳賞 ダニエル・ハラミーリョ(ユナイテッド・ヘルスケア)
チャベスやイーガンアルリー・ベルナルに通じる、可愛い系コロンビアン。昨年のツアー・オブ・ジャパン南信州ステージでも優勝した。
第2ステージのマウント・ハミルトン及び第5ステージのマウント・バルディーという、2つの超級山岳ステージでしっかりと逃げに乗り、文句なしの山岳賞だ。昨年山岳賞のハフマンにもポイント的に追いつかれたが、通過山岳カテゴリ―が上位であることから、ハラミーリョがジャージをゲットした。
今年ランカウイで総合4位。今後、もしかしたらディメンションデータあたりが獲得に動く可能性もあるかもしれない。
新人賞 ラクラン・モートン(ディメンションデータ)
個人的に超好みの顔である。昨年ツール・ド・北海道に勝利したことと相まって、大泉洋にしか見えない瞬間がある。とくに選手名鑑の写真は。
昨年はジェリー・ベリーに所属して今大会に出場。そのときは途中リタイアだったが、今回は執念の走りを見せ、一度は手放したこのジャージを自らの手で引き戻した。ディメンションデータはこういう、山岳での逃げが得意な選手が多いイメージ。彼もまた、近いうちにグランツールの逃げなどで活躍してほしいものだ。それこそ、勝利も含めて。
ちなみに、カリフォルニアの新人賞の対象って、昨年なんかは23歳以下っていうイメージだったんだけど、今年は25歳以上に引き上げられたのだろうか? ワールドツアーへの昇格が影響している?
エヴァン・ハフマンとラリー・サイクリングズ
昨年の山岳賞に引き続き、今年は驚異の2勝。山岳賞も首位と同点と大活躍。
そして彼の活躍を全力でサポートしたのがチームの力。とくに第4ステージと共に逃げ、翌日のバルディーでも健闘したロブ・ブリトンや、そのバルディーの終盤で総合勢と共にやりあったセップ・クス。またスプリントでも初日にコリン・ジョイスが先頭集団に入り、新人賞まであとちょっと、というところだった。今回、特例で参加が許されてよかった。逆にユナイテッド・ヘルスケアやノヴォ・ノルディスクがまったくの空気だった。ジェリー・ベリーもだけど。
ハフマンは来年はいよいよ昇格移籍もありうるだろうか?
例年スプリンターが大活躍する印象のあるカリフォルニアだが、今年はその印象がめっきり減った。一方でコンチネンタルが大活躍する、というカリフォルニアの良い点は変わらず継承してくれている。
来年もぜひ、コンチネンタルチームの特例参加を望みたい。それこそ、アクセオンを。何しろ今大会活躍しているベネットもゲオゲガンハートもイアン・ボズウェルも、みなこのアクセオン(あるいはその前身)出身の選手たちなのだ。
来年もまた、この独特の雰囲気を継承した「カリフォルニア」が開催されるよう、願ってやまない。