注目を集めた今大会最初の本格的山岳ステージにして山頂ゴールとなる、「エトナ山」ステージ。
しかしさすがに序盤過ぎたために、総合勢での大きなバトルは起きず。
「脱落者」もほぼ出ないまま、結果的に平穏に終わったステージとなった。
まあ昨年ジロの第6ステージにせよ、昨年ツールの第5ステージにせよ、最初の山頂フィニッシュなんてものはこういうものなんだと思う。
そしてこの2ステージと同様、この日も逃げ切りによる勝利が決まった。
元ランプレ・メリダ所属。25歳の若きスロベニア人であり、プロ勝利経験は2回だけ。今回と、そして2年前のジロ・ディタリアだ。
2年前のジロ・ディタリアでの勝利のときも、その大会における最初の山頂ゴールとなった第5ステージ「アベトーネ山頂フィニッシュ」であった。
この日は、当ジロにおける特に白熱した日の1つとなった。総合争いも、コンタドール、リッチー・ポート、ファビオ・アルの3人による激しいバトルが展開された。また、彼らを絞り込むきっかけとなった一撃は、アルのアシストであったミケル・ランダだった。彼の走りによってポートもコンタドールもアシストを失い、アルとの正面衝突を余儀なくされたのだ。
結果としてこの日のレースは、アルが3着をとってボーナスタイムを得たものの、残る2人との間に大きな差をつけることはできなかった。やはり最初の山頂ゴールでは、大きな差はつかないのだ。それでも、この大会はこの3人によって争われるのだろう、という予感と共に、ランダという男の存在感がはっきり示される瞬間となったのだ。
そんな日のレースを制したのが、このポランチェだった。シルヴァン・シャヴァネルも追走を仕掛けたが、届かなかった。
当時まだ23歳。彼はレース後のインタビューで、「もっと勾配がきつければ、追い付かれていたに違いない」と語っていた。
だが、今日のレースは「もっと勾配がきつ」かった。
12%の急坂が比較的長く継続し、それを越えてからも9%の区間が続いた。
ジャック・ヤンセファンレンスブルグを突き放してから独走状態に入ったポランチェは、この激坂区間で今にも止まりそうになるくらいへろへろになりながら、序盤で稼いだ6分以上のタイム差を少しずつ消費しながらペダルを踏み続けた。
だから、最後には19秒しか残っていなかったけれど、それでも執念の勝利を掴んだのだ。
素晴らしい勝利だった。
エトナの山を制したポランチェは、山岳賞ジャージも獲得する。これで43ポイント。テクレハイマノは22ポイントだし、第9ステージまではこのジャージを維持することも可能か?
この日の逃げは4人。
第3ステージまでとは打って変わって、ワールドツアーチームばかりの逃げ集団となった(ブルットも昨年まではずっとワールドツアーチームのメンバーだった)。
先頭を走るのが、視聴者にも人気だった「髭のアラファーチ」。
だがこう見えてまだ26歳と若め。そして最初に脱落してしまった。まあ、どちらかというとニッツォーロのアシスト役といったところだろうし、無理はしなかったのかな、とは思う。
最初の2級山岳(残り91km地点)ポルテッラ・フェンミーナモルタの山頂はジャック・ヤンセファンレンスブルグが先頭通過。やや斜行気味になったということで、ポランチェが抗議する場面も。
まあこれがなければ山岳賞ポイントも55になっていたからね・・・ただ斜行なくともジャックが先頭通過していてもおかしくない状況だったし、ジャックも余計なことしなければよかったのに、とは思う。
2つある中間スプリントはともにブルットが獲得。その後、ブルットは脱落し、先頭はジャックとポランチェの2人だけに。ややポランチェの方が先頭を牽いている時間が長かったかな?と思ったが、さすがに経験のあるポランチェの方が実力が上だったのか、終盤にかけてポランチェの独走が始まる。
ちなみにジャックは、昨年のランカウイを制し、今年の南アフリカロードチャンピオンにもなったレイナルト・ヤンセファンレンスブルグ(28歳)とは血縁関係はない、というのが正しい? 調べてもその旨の記載はないのと、生誕地も異なるので・・・親戚関係という可能性はあるけれど、どうだろう。
ジャックも2015年に南アフリカロードチャンピオンに輝いている。
さて、エトナ山では各チームのエース同士の直接対決、順位シャッフルといったところはあまり見られなかった。ルイ・コスタがメイン集団が30秒以上引き離されてしまったくらいか。まあ、コスタは総合よりもステージを狙っていきたいところなので、そこまで深刻ではないだろう。ローランも、ポッツォヴィーヴォも、バウケ・モレマも、ヴァンガーデレンも、この日のステージで遅れることはなかった。
代わりに、各チームの登りアシストの状況を見るには最適な1日だったとも言える。
まず、懸念のニバリ率いるバーレーン・メリダ。戦前はアシストへの不安も囁かれていたが、この日は大健闘。平坦ではティンコフから移籍してきたマヌエーレ・ボアーロが常に集団先頭で牽引働きをし、山に入ってからは元モヴィスターのジョヴァンニ・ヴィスコンティと39歳の大ベテランフランコ・ペリゾッティ、そしてベラルーシチャンピオンジャージを着たカンスタンティン・シウトソウがペースを上げ続けた。ペリゾッティとシウトソウはクロアチアでもニバリを支え総合上位にも入ったメンバーだ。
ただ、積極的に動き過ぎて、モビスターのアマドールのように、アシストがメイン集団内でゴールする、ということはできなかった。今日のようなコンディションを、今後のより厳しい山岳ステージでもチームとして発揮できるかはまだまだ未知数だ。
また、同じく山岳アシストとして活躍が期待されていたハビエル・モレーノが、スカイの選手とのいざこざによって失格処分を受けてしまった。昨年ブエルタでキンタナを支えた彼の脱落はチームとしても痛いことだろう。何やっとんねん・・・。
また、モビスターは既に名前をあげたアンドレイ・アマドールが常にメイン集団で息を潜めており、最終的にメイン集団でステージを終えた。主要チームでアシストをここに残すことができたのは、他にはサンウェブのケルデルマンくらいなので、その意味でモビスターは実にクレバーな走りをすることができた、と言えるだろう。ニーバリなどのチェックはキンタナが自ら行っていたし、場合によってはアマドールとのダブルエース体制というのも考えているかもしれない。
もちろん、モビスターにはアマドールしかいないわけではない。中腹でのペリゾッティの飛び出しにただちに反応したウィナー・アナコナも、3年ぶりの主君キンタナの総合優勝に向けた完璧なアシストを演じてみせた。今年調子のいいゴルカ・イサギーレもメイン集団から30秒遅れでゴールしており、ペリゾッティ・アナコナと共にゴールしているホセ・エラーダと合わせて、キンタナ親衛隊の面々も状態は問題ないことが伺える。
一方の対抗馬たちはどうだろう。スカイは実力というよりも不運でアシストを失った。まずはディエゴ・ローザが先のハビエル・モレーノとのいざこざによって落車させられて脱落。さらに登りの途中でミケル・ランダがパンク。最終的にメイン集団に戻ってくることはできたが、その救援のためにセバスティアン・エナオとフィリップ・ダイグナンという2人の頼れる山岳アシストが前線を離れるという結末に。
ただ実力で遅れたわけではないので、今後は同じようなことがなければ大丈夫だろう、とは思う。しかしそれでもエナオとダイグナンくらいしか前の方にいなかったのはちょっと不安ではある。プッチョはもとより平坦牽引役なので仕方ないだろうが・・。
BMCは今年オマーンを制したベン・ヘルマンスが奮闘してくれたが、それ以外のメンバーは山では存在感を示せず・・・まあ、BMCはいつもそんな感じか? デニスもいないし、ヴァンガーデレンの実力に期待するしかないが、大丈夫だろうか?
デュムランのいるサンウェブも、山で残ったアシストはウィルコ・ケルデルマンだけ。だが彼が残っているだけでも全然心強い。2年前のブエルタとは大違いだ。ケルデルマン様様である。あれ? テンダムは?(92位)
前から順番にヘルマンス、ペリゾッティ、アナコナ、ケルデルマン。
FDJで残ったのもセバスティアン・ライヒェンバッハくらい。まあ、これも予想通りではある。
クライスヴァイクのリベンジを狙うロットNLユンボは誰も残っていない。頼みの綱のクレメントも5分以上遅れてゴール。その次がスプリンターのバッタリンって、なんだそれ! やっぱりケルデルマンを取られたのは痛かったか。クライスヴァイクは総合でちょっと遅れを喫してしまっているが、こんな状態ではその遅れを取り戻すことも難しい。
逆に、前日の遅れを取り戻す好走を見せたのがカチューシャ・アルペシンのザッカリンであった。この日、度重なる落車によってアシスト陣が崩壊。ロシアチャンピオンのパヴェル・コシェトコフはリタイアとなってしまった(流血していたようにも見えたが、大丈夫だろうか?)
だがラストの登りでキレのあるアタックを繰り出し、メイン集団から10秒を稼いでの2着ゴール。ボーナスタイムと合わせて、前日の20秒の遅れをほぼ取り戻す形となった。メイン集団も警戒していなかったとはいえ、この動きは素晴らしかった。
とはいえ、山岳アシストとしてかろうじて期待を持てるはずのキセロフスキーも7分以上の遅れと、やっぱり期待できない。
単独で総合上位を狙うか、むしろステージ優勝にかけるか、難しいところではある。総合表彰台は厳しいんじゃないかなぁ。
逆にこの日、意外な頑張りを見せたのがキャノンデール・ドラパックとアスタナである。
キャノンデール・ドラパックは、ローランのアタックこそ実りはしなかったものの、マイケル・ウッズ、ダヴィデ・フォルモロ、ヒュー・カーシーの3人を合わせて入れる大健闘。フォルモロは現在新人賞3位(2位のアダム・イェーツとは秒差なし)。カーシーはこれまでのステージの遅れもあって厳しいがアルプスでは新人賞2位の実力をもっている。今後はフォルモロの新人賞獲得に照準を合わせつつ、ローランやカーシーのステージ優勝を狙っていくのはありなんじゃなかろうか。ローランの総合は・・・ねぇ。
ドンブロウスキーのステージ優勝も期待はしているんだが今日も148位。まだ調子上がってなさそう。まずは逃げよう!
アスタナも凄くて、山での映像では一番目立ってたと言っても過言ではない。上空からの映像でも、常に3人以上の青いジャージが集団の中にいたように見えた。
今年引退を決めた39歳のパオロ・ティラロンゴンのアタックこそ決まらなかったものの、続くジャスパー・ハンセンも積極的な動きを見せた。
昨年のアブダビ覇者タネル・カンゲルトもメイン集団から9秒遅れでゴールしているし、メイン集団と共にゴールしたのはダリオ・カタルド。
カンゲルトとカタルドはジロ総合上位に入ったこともあるので、今後の動き次第では総合ベスト10入りを果たすことも可能かもしれない。
とはいえ、やはりこのチームには、積極的な攻撃でもってステージ優勝を目指してほしい。
ティラロンゴンには是非、引退の花道を飾る勝利を遂げてほしい。
と、いうことで。
結果だけ見ると大きな動きのなかったレースのようにも思えたが、そこで展開されたチーム同士の戦いは白熱するものがあったように思う。
結果としてまとめてみると、
- バーレーンが意外とチーム力がある。ただどこまで続くはやはり不安。
- モビスターが安定性は抜群。やっぱりここが一番強いか?
- クライスヴァイクは今年も苦労しそう。
- フォルモロ新人賞頑張れ。
触れるのを忘れていたが、ボブ・ユンゲルスがしっかりと残って、昨年に続くマリア・ローザの着用権を得た。
当初の予定通りアシストは不在だったが、スプリンターのフェルナンド・ガヴィリアが結構山でも先頭を牽くなど活躍をしていた。一昨日までのユンゲルスの献身に応える動きだったのだとしたら、感動だ。
ちなみにガヴィリアは2回のスプリントポイントでもらえるポイントはないのに*1集団先頭を取るためのスプリントをしていた。1回目だけならともかく2回目は・・・誰か教えてあげようよ。これがクイックステップにおける新手のイジメだったとしたら、感動だ。
のちにガヴィリアがイヤホンを外すシーンが映されていた(その後戻した)が、関係があるかはわからない。
もう1つ忘れていた。アダム・イェーツ。ここもユワンのためのアシストも連れてきているため、どこまでサポートが得られるかは不明だが、カルロス・ヴェローナが集団内でチェックなどの働きはしていて最終的に4分遅れで抑えている。頼りになるとしたら彼だろうか。プラサなどが今日は抑え目にしていたのはあるかもしれない。
第5ステージは再び平坦ゴール。
ここまでの様子を見るにつけ、純粋なスプリント力で言えばカレブ・ユワンが最も強い気がしている。
今回は何のアクシデントもなく、ユワン・ガヴィリア・グライペルのガチンコ勝負を見てみたいものだ。
*1:山岳ステージの今日は、中間スプリントポイントでもらえるポイントが先頭から順に8-4-1となっている。いわゆる「中間スプリント賞」のポイントなら1ポイントずつで合計2ポイントだけもらえてはいるが・・・。