サルデーニャ島3連戦の最終日は、島の南東部を海岸に沿って走破するコース。トルトリの街から南下して、サルデーニャ自治州の州都であり最大の都市カリアリに向かう148kmだ。
距離は短く、平坦。だが、4級山岳を越えてからの40kmは海岸線に出ることもあって、横風に注意、と言われていた。
とはいえ横風というのは、危険なことがわかっていて警戒されているときには何も起きないものだ。
――そんな風に思っていた中で、「横風職人」クイックステップが、やってしまった!
まさにコース作成者の思惑通り、といった波乱の展開の中、サルデーニャ3連戦は幕を閉じることとなった。
レースの展開としては、最初、4名の逃げが形成される。
ズパは初日に続いて2回目の逃げ。
そしてズバラーリは、ここ2日ともスプリントでTOP10に入る働きを見せており、総合順位でも7位につけている選手。誰もがその存在を意外に思いながら、さらに彼は不可解な行動を起こす。
すなわち、最初の中間スプリントポイント(残り113.4km地点)を先頭通過したうえで、すぐさまペースダウンし、集団に戻る、という振舞いだ。しかも逃げの他のメンバーにあらかじめ相談し、取らせてもらってから、再び彼らに声をかけたうえで、戻るという振舞いだ。
おそらくズバラーリは、最終的なポイント賞も狙っているのかもしれない。有力選手たち(たとえばグライペル)が途中リタイアし、最後まで残っていない可能性も高いジロにおいては、途中でコツコツとポイントを貯めることが重要になる。実際、第2中間スプリントポイント(残り41km地点)も、チームメートの助けを借りて集団先頭通過を果たしている。
逃げの残り3人にとっても、「総合上位の選手がいることで集団が警戒して必要以上に早く我々を吸収する動きをされても困る」という考えで、ズバラーリの行動を容認したのではないかと思われる。
残った3人の中では、初日でもポイントを貯めていたアルバニアチャンピオンジャージのズパが、第1中間スプリントポイントの2位と、そし第2中間スプリントポイントの1位を獲得し、この日の敢闘賞及び「中間スプリントポイント賞」のポイントを首位のテクレハイマノから7ポイント差にまで近づけた。
逃げる3人。先頭はアルバニアチャンピオンジャージのズパ。
その後はいよいよ海沿いの横風区間に突入。
しばらくは何も起きずに進んだのだが・・・
その動きは、残り10km地点で発生した。
誰もが警戒している中、まず、集団からルクセンブルクチャンピオンジャージのボブ・ユンゲルスが先頭に飛び出した。いつも通り、終盤の先頭牽引の役目を果たすためだろう。
だが、これに呼応するようにして、チームメートのクイックステップ・フロアーズの面々がただちに連なる。あっという間にエシェロン形成。後続は千切れる。
このとき、ピンクのジャージを纏ったグライペルも見事、エシェロンの中に入り込むことができていた。
しかし、この直後、グライペルはメカトラブルによって失速。
結果、クイックステップ・フロアーズが支配する先頭集団に残ることはできず、マリア・ローザを手放すことになってしまった。
最終的に残ったのは、フェルナンド・ガヴィリアを含むクイックステップ・フロアーズ6名と、ジャコモ・ニッツォーロ、ネイサン・ハース、カンスタンティン・シウトソウ、そしてボーラ・ハンスグローエのリュディガー・ゼーリッヒの10名だ。
完璧なまでのお膳立てが整った。
ガヴィリアにとって、負けられないプレッシャーとの戦いが始まった。
そしてフィニッシュラインに到達。
まず飛び出したのはネイサン・ハース。今大会、常に積極的な姿勢を見せているオージーライダーは、ここでも誰よりも早く飛び出した。
これに素早く反応したのは、クイックステップ・フロアーズのマキシミリアーノ・リケーゼ。シーズン最初のブエルタ・ア・サンフアンにおいても、トム・ボーネン、ガヴィリアと共にチーム全体でステージ5勝を記録する立役者となった。しかもそのうちの2つを自ら勝ち取ったほど、今シーズン調子のいい男だ。
リケーゼがまずはハースを捕らえ、その後ろにニッツォーロがつき、そしてガヴィリアが冷静にニッツォーロの後ろについた。
そして左側から一気に飛び出すガヴィリア。リューディッヒが後ろから追撃。ニッツォーロも追走を仕掛けようとしたが、コース取りが悪く、失速したリケーゼに阻まれる形で出足が遅れる。
そのまま、追随を許さぬ圧倒的な加速で、22歳のコロンビア人スプリンターは、彼にとって初となるグランツール勝利を成し遂げた。
Giro d’Italia: Stage 3 - Highlights
ガヴィリアの喜びようは、半端なかった。
それは、この勝利が、彼自身の力にのみよるもの、では決してなかったからだ。
自分の責任だけであれば、余裕を見せたガッツポーズもできるだろう。それこそ、いつもの彼が見せている、手首へのキスのような。
そうではなく、今回彼がいつもと違った気持ちの爆発を見せたのは、第1、第2ステージで悔しい思いを味わったこともあるだろうが、それ以上に、このステージで「絶対に負けられない」という強い思いがあったからだと思う。
正直、ラスト10kmからのあのエシェロンで守られたガヴィリアの心情は、想像するに恐ろしいものがあると思う。
これだけ完璧な状況を作ってもらい、多くの仲間が犠牲になりながら最高のシチュエーションを用意された。
それでも、同じ集団にはニッツォーロなど強敵が潜んでおり、絶対に勝てるとは言い切れない状況。
そんな中で、一瞬の失敗も許されない中で永遠とも思える10kmを走らなくてはならなかったガヴィリアにとって、この勝利の瞬間の思いはまさに「キャリア最高」の瞬間であっただろう。
それがエースの責任であり、歓喜である。
そしてこれこそがロードレースである。最強軍団クイックステップは、その最強たる所以を、この日のレースで見せつけてくれた。
さて、総合勢はどうだったろう。
一番の懸念であったモビスターは、なんとか無事、ニバリやトーマスらと同じ集団でゴールできたようだ。
今年から新加入した横風職人ベンナーティの力もあるかもしれない。とにかく彼らのジンクスである「横風の悲劇」を、まずは回避できたことになる。
ただ、犠牲になった選手もいる。ローハン・デニスだ。
残り10kmのペースアップに乗ろうとしたところでバルディアーニの選手と接触してしまい、頭から落ちてしまったデニスは、多少の首の痛みと共に、5分のタイムを失った。
総合争いは絶望的。ただ、「まだギブアップする気はない」。
それこそ、ITTでの勝利も見込めるし、そもそも今回は総合争いに関しては「絶対狙う」というつもりでいたわけではないはずだ。過度なプレッシャーにさらされることなくのびのびと、自身の可能性を探ることのできる3週間になるはずだ。
だからこそヴァンガーデレンには、頑張ってもらわねばなるまい。
火曜日のエトナ山決戦が、楽しみだ。
フェルナンド・ガヴィリア、初の総合リーダージャージ。
彼にとって最高の舞台を演出してくれたチームのためにも、あと1,2勝はしておきたいところだ。
別府始さんがTwitterでアップしていた、ユーロスポートによるエシェロン戦略の解説が以下の動画。非常にわかりやすい。
Science of Cycling – The Echelon: How To Deal With a Crosswind