ジロ・デル・トレンティーノから名前を変えて、初開催となったツアー・オブ・ジ・アルプスは、「ジロ前哨戦」としての役割を十分にこなし、劇的な5日間の日程を終えた。
最終的にポディウムの頂点に立ったのはゲラント・トーマス。
初の総合エースとして挑むジロ・ディタリアに向けて「士気を高めることができた」とトーマス自身も語る*1ように、幸先の良い一週間となった。
「ボンドーネの登りでたくさんの攻撃にさらされたけれども、僕は落ち着いていた。ピノがおそらく最強だったので僕はただ彼についていった。彼のアタックにも常に反応した。彼は強かったけれど、僕は彼についていくことができたんだ。そして最後の5kmでランダが追い付いてきてくれた。そして最後の登りで僕らを牽いてくれたんだ。とても頼もしかったよ*2」
そう、最終日のヴァソン・モンテボンドーネ(全長22km/平均5.2%)でピノ、スカルポーニ、ローランの激しい攻撃を受け続けたチーム・スカイは、トーマスのアシストを全て失うという結果に見舞われた。元々6人しかメンバーのいない(他チームは8人)今回のスカイは、さらにこの日のステージの序盤でイアン・ボズウェルを失っていたのだ。
だがトーマスはライバルたちの攻撃に冷静に対処し続けた。
そして、ランダが戻ってきたのだ! しかもそのまま集団を牽引し続け、最後はしっかりと先頭集団でゴールするほどのタフネスさを見せつけた。
まるで、クリス・フルームを幾度となく優勝に導いたリッチー・ポートの如き走りである。
昨年は失意のままにシーズンを終えることになったミケル・ランダが、アシストとしての最高のポテンシャルをもって今回、ジロ・ディタリアを迎えることができそうである。
ただ、この「ジ・アルプス」は、確かにジロに向けての良い予行練習にはなったものの、完全なそれではない。
「この勝利は僕にとって大きな自信につながるものとなった。けれど、この5日間の戦いは来る3週間の戦いとはまったく異なるんだということはわかっている。ジロで戦うべきライバルたちも全員ではなかった*3」
実際、今大会ではピノ、スカルポーニ、デニスなどはジロ本戦と同様であったが、さらなる重要なライバルであるキンタナ、そして昨年度覇者ニバリなどは出場していない。
この2人の山での登りでついていけるかどうかが、トーマスの総合優勝に大きく関わってくるだけに、今回の総合優勝だけで過度な期待を抱くべきではない。
それでも、トーマスとランダというコンビネーションが存分に発揮されたことを知れて満足である。
ジロ本戦では今のところディエゴ・ローザ、セバスティアン・エナオなどの強力なクライマーたちのサポートを得られる予定でもある。
ゲラント・トーマスは(あるいはミケル・ランダは)このジロで総合優勝を十分狙うことのできるポテンシャルがある。
第1回「ジ・アルプス」はその可能性を見ることのできた良い大会であった。
ティボー・ピノ総合2位 その走りの可能性
ピノが総合2位となった。
第3ステージでアタックを受けてトーマス、そしてポッツォヴィーヴォに追い抜かれたものの、その日以外ではすべてのステージで3着以内に入りボーナスポイントを蓄積し、最終日は念願のステージ勝利。ポッツォヴィーヴォを逆転し返し、トーマスとは7秒差での2位となった。
これで今シーズンは4つのステージレースに出場し、そのうちの3つでポディウムに立ったことになる。
総合優勝こそなく、また、今年はジロ初出場ということで例年と比べ出場するレースの種類に違いはあるものの、一応はここ数年の間で最も良い状態を迎えている。
その秘訣となったのが、彼のスプリント力である。
勿論、スプリンターや比較的スプリント力があると言われているライダー(バルベルデやアラフィリップ、あるいは今回第4ステージのモンタグーティなど)には敵わないものの、いわゆるクライマーとされている選手たちの中ではなかなかに良い成績を上げている。
それは今大会だけでない。たとえばティレーノ~アドリアティコでも、第5ステージでトーマスやプリモシュ・ログリッチェを降して先着している。
このときは(厳しい登りを含んだレイアウトだったにも関わらず)ペーター・サガンが集団内に紛れ込んでいたためにステージ優勝とはならなかったものの、ピノの「スプリント」が彼の武器になりつつあることを示している。
ティレーノ~アドリアティコ第5ステージで、サガンに次ぐステージ2位でゴールしたピノ。
ただもちろん、この走り方で勝利を得られるのは1週間のステージレースならまだしもグランツールでは厳しいだろう。
あとはピノが近年力を発揮しているタイムトライアルと合わせ、登りでのタイムロスを最低限に抑えることで、今回のジロ・ディタリアでも総合表彰台に登ることは十分に可能だろう。
しかし総合優勝のイメージはなかなか持ててはいない。
それでも、ステージ優勝は狙ってほしい。
何度でも言うが、私は2015年ラルプ・デュエズでの彼の勝利に魅せられた男だ。
期待の裏返しのバッシングにも負けず、繰り返し彼を襲う不運にもめげず、最後まで走り切ったうえで得られたあの歓喜のゴール。
それだけに昨年のツールでの途中リタイアは悲しかった。
今回のジロは、たとえ途中どれだけ苦しくても、最後まで走り続けてほしい。
そのとき彼は再び、栄光を掴むことができるだろう。
さて、一方で残念な結果に終わったのがローハン・デニス。
彼もまた、意外なスプリント力でもって区間1勝と区間3位をもぎ取りはしたが、クイーンステージとなった第3ステージで大失速。最終的には1位とは4分以上のタイム差をつけられて総合19位に沈んだ。
しかし元々彼は、まだ本気で総合上位を狙う状態ではないのも事実である。
過度な期待をし過ぎるものではない。
また、ジロ本戦では得意のタイムトライアルの距離が長く、そこで稼ぐことも十分に可能だ。
目指すはジロトップ10入り。もしくはティージェイ・ヴァンガーデレンに頑張ってもらおう。
ちなみに、BMCでデニス以上の結果を出したのがブレント・ブックウォルター。
最終日は区間2位に入り、最終結果は総合11位で終えている。
彼はジロ・ディタリアには出場しない予定だが、おそらくは昨年総合3位のツアー・オブ・カリフォルニアでエースを担うことになると思われる。
こちらも期待しておきたい。なお、彼の次の出場レースはツール・ド・ヨークシャーで、Jsportsでも放送されるため必ずチェックしておこう。
その他、ポッツォヴィーヴォやスカルポーニ、ピエール・ローランといった、(大変失礼ではあるが)正直あまり期待していなかった選手たちの活躍が見られたのも収穫であった。
もちろん、それこそ1週間のレースと3週間のレースでは勝手が違うので同じような結果が出るとは限らないが、彼らが総合上位争いをかき乱してくれることを期待している。
(ただしローランはやはり総合争いに欲目を出さず、ステージ優勝か山岳賞をしっかりと狙っていってほしいものである)
イーガンアルリー・ベルナル 20歳の最強ライダー
ティレーノ~アドリアティコにおいてボブ・ユンゲルスに次ぐ新人賞2位に輝いた弱冠20歳のコロンビア人が、この「アルプス」でついに新人賞の座を射止めた。
第1ステージでこそわずかに遅れ、キャノンデールのヒュー・カーシーにリードされていたものの、最終日の登りで力を発揮し、見事逆転を果たした。
そんな彼に食指を動かしているのがチーム・スカイ、モヴィスタ―、そしてバーレーン・メリダである。
ベルナルは現所属チーム「アンドローニ・ジョカットリ」と2019年までの契約を既に結んでいるが、上記チームはジョカットリに対する高額の移籍金を支払うつもりはあるらしい。さらにジョカットリのチームマネージャーであるジャンニ・サヴィオ氏も、交渉に前向きだとか*4。
実際、彼の今後のさらなる成長のためにも、ワールドツアーのトップチームへの移籍は望ましいことであると考える。
とくにポートに続きゲラント・トーマスの動向も不透明なチーム・スカイや、キンタナに次ぐ次代を担う総合エースを育てたいモヴィスターにとっては喉から手が出るほどに欲しい人材であろう。
アスナタなんかもいいとは思うが・・・すでにミゲルアンヘル・ロペスがいるしね。
今後の追加情報が待たれるところである。
その他、今年2年目のジロ出場が決まったガスプロム・ルスヴェロのアレクサンデル・フォリフォロフの山岳賞獲得も熱かった。終始、積極的な走りを見せてくれていた。
まだ25歳で昨年は初出場のジロでいきなりの区間優勝を決めている。今年も大きな期待が寄せられているだろう。今のところは順調だ。
ステージ数の増加、TTTの消去など、名前だけでなくその内容も結構変化を加えて生まれ変わった「ジ・アルプス」。
トレンティーノ時代からの特徴であった山岳ステージ・山頂フィニッシュの多さはしっかりと継承し、短いながらも十分に「ジロ前哨戦」としての役割を果たした本レースの、来年以降の成功にも期待したい。
https://tourofthealps.eu/enより。
*1:"It’s a good to go home with the win, it’s a boost for moral." Thomas takes morale boost into Giro d'Italia after winning Tour of the Alps | Cyclingnews.comより。
*2:上記引用より。
*3:上記引用より。
*4:Are Team Sky about to sign the next Quintana? | Cyclingnews.com