りんぐすらいど

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ドワルスドール・フラーンデレン2017 フィリップ・ジルベールのロンドへの思い

「北のクラシック最強軍団」クイックステップ・フロアーズが、その実力を遺憾なく発揮し、勝利を掴み取った。

「数的優位」が逆に敗北の兆候であると揶揄され続けてきたこのチームが、今期新加入となった「アルデンヌの王」フィリップ・ジルベールを中心としたチームワークで、表彰台のワンツーを飾る快挙を成し遂げたのだ。

ドワルスドール・フラーンデレン2017表彰台。左から順にフィリップ・ジルベール、イヴ・ランパールト、アレクセイ・ルツェンコ。

 

 

レースは終始、クイックステップ・フロアーズの支配下にあったように思う。

レース序盤から繰り広げられたアタック合戦の末に出来上がった6人の逃げは、クイックステップが支配するプロトンから6分以上のタイム差を許されることはなかった。

さらに最初の難所である「ニーウ・クワレモント」(残り112.5km地点)に近づくと、クイックステップを中心としたプロトンのペースアップが図られ、先頭とのタイム差が一気に縮まっていく。

2つ目の登り「カッテンベルク」(残り93.1km地点)および石畳区間ホーレウェグ」(残り92km地点)にて、前年優勝者のイェーレ・ワライス(ロット・ソウダル)がアタックしたものの、これもクイックステップの選手が背後に貼り付いたことで、やがて何もできずに吸収されることとなった。

 

さらに4つ目の登り「ベレンドリース」(残り77.5km地点)でベルギーチャンピオンジャージを着るフィリップ・ジルベールがアタック!

この動きの中で逃げの6人は吸収されてしまい、イヴ・ランパールトアレクセイ・ルツェンコディラン・フルーネヴェーヘンルーク・ダーブリッジなどを含む10名程度の「先頭集団」が形成される。

優勝候補であったアルノー・デマール、セップ・ヴァンマルク、ブライアン・コカールなどはここで完全に出遅れてしまい、彼らにとっての今日のレースは終わりを告げた。

 

 

そして本レース最大難所とも言える「パテルベルク」(残り32km地点)でランパールトがペースを上げる。

ランパールトの牽引が終わったあと、今度はジルベールがさらにペースアップ。これで、先頭集団はジルベール、ランパールト、ルツェンコ、ダーブリッジの4人だけとなった。

さらには残った「元」先頭集団に、プロトンから飛び出してきたゼネック・スティバールニキ・テルプストラが合流。

以後、追走の手を混乱させる役割を担うことに。

 

残り7km地点にある最後の石畳区間ヘルリーヘムストラート」で三度ジルベールがアタック。ダーブリッジらはかろうじてこれに喰らいつくが、吸収し、落ち着いたところでするっと抜け出すような形でランパールトが飛び出した。

ダーブリッジとルツェンコは慌ててこれを追いかけようとする。しかし背後にはジルベール。全力を出し過ぎれば今度は彼のカウンターが待ち構えてる。

かといって、余力を残した状態での追走で、ランパールトを捉えることもまた不可能。何しろ彼は、2年前のパリ~ルーベ終盤でグレッグ・ヴァンアーヴェルマートと共に飛び出して、結果的に7位に入るほどの走りを見せた男なのである。

結局は広がっていくタイム差を縮めることもできないまま、ルツェンコとダーブリッジはランパールトを取り逃してしまうことになる。

そして独走の末、ランパールトは勝利を掴んだ。

彼にとっては初めての、ワールドツアー勝利であった。

歓喜と共にゴールに飛び込む25歳のランパールト。クラシックスペシャリストとしてチームに貢献し続けてきた彼が報われる、その舞台を作ったのがジルベールであった。

 

 

ランパールトの独走力、そしてクイックステップ・フロアーズの総合力は確かに高かった。

しかしその中でも、ジルベールの果たした役割は非常に大きい。

 

合計で3度ものアタックを繰り出し、レース全体の勝負所を自ら作り上げていったジルベール。終盤の彼の攻撃にダーブリッジとルツェンコは反応せざるを得ず、それゆえに疲弊しきった彼らは、ランパールトのアタックに反応することができなかった。

 

そのうえ、ランパールトを追いかけるダーブリッジとルツェンコの背後で、ジルベールは虎視眈々と足を貯め続けていた。

結果、ラストのスプリントで、ジルベールは早い段階で先行したにも関わらず、そのまま追い付かれることなく2位フィニッシュを果たした。

 

多くのベルギー人が注目する中、ベルギーチームによる、ベルギー人2人によるワンツーフィニッシュ。

この快挙を成し遂げた立役者は、間違いなく「アルデンヌの王」フィリップ・ジルベールであった。

 

 

しかし、そんな彼の野望は、アルデンヌではなく、「クラシックの王様」こと、ロンド・ファン・フラーンデレンにあるという。

 

 

ロンドに懸けるジルベールの思い

「ロンドはいつだって僕を魅了し続けてきたよ*1」とジルベールは語る。

かつてベルギーチームに所属していた頃、彼は2度、ロンドの表彰台に上がっている。

しかし、その後ジルベールが移籍したBMCレーシングは、石畳クラシックのエースをグレッグ・ヴァンアーヴェルマートと定め、ジルベールには専らアルデンヌの勝利が期待された。

実際、彼は2012年以降、ロンドに出場しないまま過ごしてきている。

 

「僕はミラノ~サンレモか、もしくはロンド・ファン・フラーンデレンでの勝利が欲しい。もしそれが実現したならば、それはリエージュの2回目の勝利や、アムステルの4回目の勝利よりも嬉しいんだ*2

 

もちろんクイックステップにはトム・ボーネンがいる。今年のパリ~ルーベを最後に引退を表明している彼にとっても、ロンドの4回目の勝利は決して逃したくはないものに違いない。

 

ボーネンと僕はとても違っていて、同時にとても補完的な関係にあるんだ。だからきっとうまくいくよ*3

 

もちろんこれは額面通り受け取れる類のものではないだろう。しかし今回のドワルスドール・フラーンデレンでは、彼はランパールトとの間で素晴らしいチームワークを発揮した。

実際に彼らは2015年の世界選手権の際にルームメイトであったらしい*4。互いに尊敬と親しみをもって接すること、勝負所で「チームのために尽くす」ことをジルベールは理解している。

彼にとってロンドでの勝利とは、ただ彼自身の勝利のみを指すわけではないのかもしれない。

ベルギー人たちによる最強チームで、ベルギー最高のレースを制覇する。

そのために彼は、このチームに戻ってきたのかもしれない。 

 

4月の「クラシックの王様」で、「アルデンヌの王」が輝く瞬間を、私は心待ちにしている。

ゴール後、ランパールトと抱き合うジルベール。「ときおり、自分の勝利以上に友人の勝利を嬉しく思う瞬間があるんだ。今日のレースは2位だったけれど、悪くはない」と語ってもいる。

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