「ラ・プリマヴェーラ(春)」の別名で知られる、春のクラシックシーズンの開幕を告げる伝統的なレース、ミラノ~サンレモ。
今年で108回目の開催となるこのレースは「モニュメント」と呼ばれる最高格付のワンデーレースの1つに位置付けられ、とくにこのミラノ~サンレモはその中でもスプリンターたちに勝機のあるレースとして、「スプリンターズクラシック」とも呼ばれる。
よって、すべてのスプリンターにとっては憧れの対象となるレースであり、世界屈指の最強スプリンターたちが集う、非常に見所のあるレースとなっている。
コース詳細
とはいえ、コースは純粋なスプリンターのためのものかと言えばそうではない。
というのも全長291kmのコースのラスト20kmに位置する2つの小さな「丘」の存在が、ときにピュアスプリンターたちの足を止め、またときには純粋スプリント勝負では敵わないと踏んだアタッカーたちの一か八かの飛び出しを誘発する。
それゆえに毎年、手に汗握る展開を生み出す絶妙なコースレイアウトとなっているのである。
現存するレースの中でも最長を誇る長距離コース。そのレース時間が7時間に達することもあり、その中で生まれた疲労も、予想のつかない展開を生み出すスパイスとなっている。
勝負を左右する2つの丘のうち、1つ目が残り21.5km地点の「チプレッサ」。登坂距離5.65km、平均勾配4.1%、最大勾配9%の丘である。
そして残り5.4km地点の「ポッジョ・ディ・サンレモ」。登坂距離3.7km、平均勾配3.7%、最大勾配8%となっている。
いずれも一般的なロードレースで考えた場合、とりわけ難易度の高い丘というわけではない。
しかし、超一流スプリンター同士のギリギリの戦いとなるミラノ~サンレモにおいては、この丘をどう使うか、どう乗り越えられるかが大きく勝負を左右するのである。
たとえば2009年覇者であり、かつ2014年2位のマーク・カヴェンディッシュは、昨年はチプレッサで遅れたことにより優勝争いに絡むことができなくなった。
また、最強スプリンターと言えばマルセル・キッテルの存在が挙げられるが、彼はミラノ~サンレモに出場したことがない。
さらにアンドレ・グライペルも何度か出場しているものの、上位入賞すら果たせていない。
そしてここ数年の優勝者を見てみると、アレクサンダー・クリストフ(2014)、ジョン・デゲンコルブ(2015)、アルノー・デマール(2016)と、登りスプリントや起伏多めのスプリントを得意とするいわゆる「登れるスプリンター」がその名を連ねている。
これは各年の上位入賞者にも同じようなことが言えて、いずれも起伏・登り耐性を少なからず持つ選手が多く占めている。
さらに、成功することは多くないものの、純粋なスプリント力では劣る選手でも、丘からの飛び出しによりあわや勝利を掴む寸前といったところまでいく選手もいる。
たとえば昨年で言えばアルデンヌ名手のクフャトコフスキがポッジョ・ディ・サンレモの下りで勝負を仕掛け、これが捕まえられると今度はエドヴァルド・ボアッソンハーゲンとグレッグ・ヴァンアーヴェルマートがゴール前500mまで逃げ続けるという展開を生み出した。
当然、このようなカオスな展開ともなれば、最後の集団スプリントも単純なスプリント力だけでは結果の決まらないこともありうる。
瞬間瞬間で大きく動くレース展開をしっかりと見極め、勝機を見出して飛び出す勝負強さもまた、この偉大なるモニュメント・クラシックでは求められるのだ。
だからこそミラノ~サンレモは面白い。
大きな山岳こそないものの、ロードレースとして必要な持久力・爆発力・そして勝利への執念が求められる。ロードレースの魅力を詰め込んだレースなのである。
今年はどんなニューヒーローが生まれるのか。
実に楽しみなレースである。
注目選手たち
ペーター・サガン(スロバキア、27歳)
昨年「ロンド・ファン・フラーンデレン」を制したペーター・サガンは、今年、更なるモニュメント勝利を追い求めることを宣言している。まずはこのミラノ~サンレモ、そしてパリ~ルーベである。
2012年から2015年にかけて、4年連続でベスト10に入る活躍を見せる。昨年はゴール直前のガヴィリアの落車に巻き込まれかけて12位。それでも、アレクサンダー・クリストフに並ぶミラノ〜サンレモ上位常連となっている。
ミラノ〜サンレモ前哨戦と言われるティレーノ〜アドリアティコでも2勝しており、クラシックシーズンを最高のコンディションで迎えられそうだ。
我々を常に驚かせるような結果を出し続ける男、ペーター・サガン。
その2017年シーズン最初の大勝利が、このミラノ~サンレモであるというのは十分にありうることだろう。
ティレーノ~アドリアティコ第3ステージ。得意の登りゴールで圧倒的勝利を収めるペーター・サガン。十分に仕上がってきていることがわかる。
フェルナンド・ガヴィリア(コロンビア、22歳)
昨年はトレンティンのアシストを受けながら良い位置をキープしていたが、ゴール前300mで落車。悔しい結果に終わった。
しかし今年は既に4勝。とくに「ミラノ~サンレモ前哨戦」ティレーノ~アドリアティコ第6ステージで、サガンを破っての優勝を飾った。このときも、トレンティンが彼を支えてくれていた。
「確かにこのステージはミラノ~サンレモに似ているかもしれない。でもポッジョは290km以上走ったあとだから、たくさんのエネルギーを失っているはずだよ。(中略) ペーターはとても強いから、ポッジョでアタックして1人でゴールすることだってできるはずだ*1」
レース後のインタビューでそう語るガヴィリアは、あくまでも謙虚だ。
だが昨年の失敗を振り返って、今年は「準備万端だ」と語る22歳のコロンビア人スプリンターは、3月18日に向けて静かに闘志を燃やしている。
ミラノ~サンレモに新たな時代の風を吹かせる勝利を、我々は待ち望んでいる。
ティレーノ〜アドリアティコ第6ステージ。最大のライバルになるであろうサガンを、真っ向勝負で下した。だが本番のミラノ~サンレモは300kmの距離を走ったあとの勝負で、条件は同じではない。
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、29歳)
過去の最高成績は10位。またチームメートには優勝経験のあるマーク・カヴェンディッシュがいる。それゆえにチームのエースナンバーも、カヴェンディッシュがつけている。
しかしカヴェンディッシュは昨年、チプレッサで遅れている。
先日のティレーノ〜アドリアティコ第6ステージでも、ゴール前の登りで遅れてしまったようで、今回のミラノ~サンレモも、ボアッソンハーゲンがエースを務める可能性は十分にあるだろう。
とくに今年は母国ノルウェーで世界選手権が開かれる。
クリストフとのエース争いで優位に立つためにも、ここで大きな勝利を掴んでおきたい。
昨年の世界選手権で6位となったボアッソンハーゲン(右端)。母国開催の今年こそは、という思いは誰よりも強い。最大のライバルは同胞のクリストフで、彼を下しての勝利を果たせれば、世界選手権でのエースも担えるかもしれない。
ベン・スウィフト(イギリス、29歳)
昨年ミラノ~サンレモ2位。2015年も3位と、惜しいところまでいっている。
元チーム・スカイのスプリンターであったが、スカイのスプリンターとしてはヴィヴィアーニの陰に隠れ、イギリス人スプリンターとしてはカヴェンディッシュの陰に隠れるなど、なかなか評価されない苦労人。実際に大きな勝利も少なかった。
だが、スプリンターでありながら山岳で逃げたり集団を牽引するなどの山岳適性を持ち、その意味でミラノ~サンレモは彼に向いているコースなのは間違いない。
今年こそ勝利を掴んで、新チームにおける存在感を示したいところだ。
昨年ミラノ~サンレモで惜しくも2位となったスウィフト(左)。あと一歩、あと一歩だ。
ナセル・ブアニ(フランス、26歳)
昨年はフィニッシュに向けていい位置につけていたものの、突然のメカトラブルによって失速。よりによって最大のライバルのデマールに勝利を奪われてしまった。あまりの悔しさにバイクを殴りつける姿も。
今年に入ってからは2位とか3位ばかりで未だに勝利を得られていないブアニだったが、18日に行われたノケレ・クルス(Nokere Koerse)で強さを見せつけて初勝利を決めた。
そう、スランプなんて誰が言った?
血気盛んなフレンチスプリンターは、やられたらやり返す男だ。
とくに相手があのデマールであるならばなおさら。絶対に、勝利を掴んでみせる。
石畳の登りゴールで、他を圧倒するスプリントを見せたブアニ。やはり彼の強さはトップレベルだ。モニュメントを勝利する素質は、十分にある。
ソンニ・コルブレッリ(イタリア、26歳)
プロコンチネンタルチームに所属していた昨年までで12位→6位→18位→9位と結果を残している。そして今年はパリ~ニースで1勝。
元々は、昨年7位(かつ、過去に2位の経験もある)ハインリッヒ・ハウッスラーもチームメートとして参戦予定であった。それがキャンセルされ、コルブレッリが単独エースとして参戦することが決まったのは、パリ~ニースの勝利によりチームから認められたことの証明かもしれない。
もしも彼がこのレースで勝利することができたなら――同じイタリア人としてチーム内でライバルとなるニッコロ・ボニファツィオに対し、かなり優位な立場を示すことができることだろう。
パリ~ニースで驚きの勝利を決めたばかりのコルブレッリ。波に乗っている今だからこそ、誰もが驚く大金星をあげよう。
フアン・ホセ・ロバト(スペイン、28歳)
元モヴィスターの登りスプリント職人。2014年には4位に入っている。
昨年・一昨年はアレハンドロ・バルベルデがエースを務め、彼自身は勝負に絡むことができなかった。
今年はチームを移籍し、オランダチームのエースとして再び栄光に挑戦する。
昨年ドバイ・ツアーのハッタ・ダム登りスプリントステージで勝利。今年はハッタ・ダムステージがキャンセルされたことで溜まったフラストレーションをすべてぶつけてしまえ!
もちろん、過去に勝利しているアルノー・デマール、アレクサンダー・クリストフ、ジョン・デゲンコルブにも注目だ。
だが折角だから、上にあげた「まだ勝利していないけれどその近くにまで上り詰めた実力者たち」が初勝利を飾ることに期待したい。
少なくとも、これらのメンバーがベスト10には入るような展開を望む。
※今後、スタートリストを加えて更新をかけるかもしれません。