ティレーノ~アドリアティコのクイーンステージである、「テルミニッロ山頂ゴール」。
全長16.1km、平均勾配7%、最大勾配12%という、グランツール相当の難関山岳。
実際、シクロワイアードの記事によると、ティレーノ~アドリアティコが難関山岳を取り入れた2012年以降、それを勝利したのは常に、グランツール総合優勝者であるという。
このテルミニッロも一昨年、ナイロ・キンタナが勝利したステージ。
多くのチームがグランツール総合を狙う重要なクライマーたちを参戦させており、ジロやツールに向けた各選手の足の具合を確かめるには最適なステージとなった。
今回はこのテルミニッロの山岳で見せた、各グランツールライダーの足の具合をレビューしていきたい。
- 優勝 ナイロ・キンタナ(コロンビア、27歳)
- 区間2位(+18秒) ゲラント・トーマス(イギリス、30歳)
- 区間3位(+24秒) アダム・イェーツ(イギリス、24歳)
- 区間4位(+24秒) リゴベルト・ウラン(コロンビア、30歳)
- 区間5位(+29秒) シモン・スピラック(スロヴェニア、30歳)
- 区間6位(+41秒) トム・デュムラン(オランダ、26歳)
- 区間7位(+41秒) ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、34歳)
- 区間8位(+41秒) ミケル・ランダ(スペイン、27歳)
- 区間9位(+46秒) ティボー・ピノ(フランス、27歳)
- 区間10位(+51秒) プリモシュ・ログリッチェ(スロヴェニア、27歳)
- その他、総合ライダーたちの行方
優勝 ナイロ・キンタナ(コロンビア、27歳)
圧倒的な登りの力を見せ、事前の評判通りの優勝となった。敗れたゲラント・トーマスも、その強さを認めるほかなかった。今年、3年ぶりにジロに出場するとのことだが、総合優勝候補No.1であることは間違いない。
キンタナの強さは本人だけでなく、それをサポートするアシストにこそある。クリス・フルームの強さが彼だけでなく彼のアシストにもある、というのと同様に。
まず、このテルミニッロ中腹からアタックを仕掛けたのがヨナタン・カストロヴィエホ。ヨーロッパ選手権個人TT王者である彼は平坦の機関車役として活躍するだけでなく、この山岳ステージでもこのように先行し、そして前待ちアシストとしての仕事をしっかりと果たし切った。そして昨年ジロ総合8位のアンドレイ・アマドール、同じくブエルタ総合8位のダニエル・モレーノといった実力派オールラウンダーが終盤までキンタナを守り切るなど、モヴィスターのチームとしての強さを印象付けた。そもそもこの重要な局面で3人ものアシストが機能するチームは決して多くない。
そしてこれだけのメンバーを揃えていたがゆえに、初日のチームタイムトライアルでBMCから22秒遅れの4位を記録することができたのだ。登り、TT、チーム力全てにおいて万全の態勢を整えた今期のモヴィスターは、アスタナのそれが心もとなくなった今、チーム・スカイに対抗できる唯一のチームとなったように思える。
なお、上記3名のうちジロに出場を予定しているのはアマドールのみで、モレーノとカストロヴィエホはツールから参戦する。その意味で、ジロのキンタナには若干ではあるが付け入る隙があるのかもしれない。
テルミニッロでアタックを仕掛けるキンタナ。トーマスもまったく追い付くことができなかった。
区間2位(+18秒) ゲラント・トーマス(イギリス、30歳)
確かにキンタナに敗れはしたものの、第2ステージの勝利と合わせ、この日も最後まで力強い登りを見せ続けていた。昨年のパリ~ニースでコンタドールたちに競り負けてしまったときとは違う、クライマーとしての強さを発揮し、真にグランツールで戦える状態となっていることを見事証明した。
今回のティレーノ~アドリアティコでは、第1ステージのチームタイムトライアルでのタイムロスがあるため、総合を狙うのは難しいかもしれない。あとは最終ステージの個人TTでどれだけの走りを見せられるかが鍵となる。
また、クフャトコフスキの調子も良さそうで、カストロヴィエホとともに終盤のアタックに参加をしていた。元々エースナンバーをつけていたミケル・ランダはこのステージでは完全にトーマスのアシストに回っており、ダブルエース体制で臨むことになるジロでもチームワークには問題がなさそうに見える。
さて、トーマスはジロまでにあとどのようなステージレースに臨むつもりなのだろう。ツアー・オブ・ジ・アルプス(旧ジロ・デル・トレンティーノ)はおそらく出るだろうが、それ以外にはバスク1周あたりか。とりあえずその辺りでの調子にも注目していきたい。
第2ステージに続き活躍を見せたゲラント・トーマス。ポートなき今、スカイ第2のエースとしての地位を確立できるか。
区間3位(+24秒) アダム・イェーツ(イギリス、24歳)
この2人には、一方が活躍するともう一方も奮起するような、そういう特性でもあるのだろうか。昨年ツールでアダムが活躍するのに合わせ、ブエルタではサイモンが存在感を示したように、先日のパリ~ニース第6ステージでサイモンが結果を出したことで、この日のテルミニッロはアダムが区間3位という偉業を成し遂げた。
今年はジロ・ブエルタに出場することが決まっているイェーツ兄弟。たとえ総合表彰台の頂点には立てなくとも、その両脇にこの兄弟が立つ姿というのは十分想像ができそうだ。かつて活躍したあの兄弟のように。
区間3位だがトーマスがTTTで沈んでいるため、総合2位、そして新人賞を獲得したアダム。グランツールでも新人賞候補の最右翼であり、最大のライバルはサイモンといった状態である。
区間4位(+24秒) リゴベルト・ウラン(コロンビア、30歳)
正直、この日のリザルトで最も意外だったのがこの男である。キング・オブ・ジロ、しかし未だ、総合表彰台の頂点には立ったことのない男。ここ数年はさらに状況が振るわず、わずかに期待されながらも「やはり・・・」という結果が見られた。ただ、調子のいいときの走りは確かに強い。昨年も第20ステージでチャベスを牽引するような動きまで見せていたウランが非常に状態がよかった。あとはそれを3週間しっかりと続けられるかどうか、である。
だから今回の調子の良さだけでは何とも言えない。個人的には、また総合表彰台に立ってほしい、という思いはある。本来得意であるはずのTTの状態、すなわち最終ステージの状態に注目だ。
区間5位(+29秒) シモン・スピラック(スロヴェニア、30歳)
この人も驚きの走りを見せた選手であった。テルミニッロの登りに差し掛かった際に、クフャトコフスキやカストロヴィエホらと共に逃げた選手。しかし最終的に、クフャトコフスキを含むすべての伴走者を切り捨てて、単独で先頭を走り続けた脚力の持ち主だ。さすがに本気を出したキンタナには敵わなかったが、まさか、を思わせてくれた走りを見せてくれた。
ツール・ド・ロマンディとの相性が異様に良い。今年の今後のレーススケジュールは不明だが、総合表彰台を狙うことになるであろう、イルヌール・ザッカリンにとっての、最高のアシストとしての活躍を期待したい。
カストロヴィエホ、クフャトコフスキ、クロイツィゲルを振り払う走りを見せたスピラック。グランツールにはあまり出場していないようだが、今年はどうなるか。
区間6位(+41秒) トム・デュムラン(オランダ、26歳)
この人も調子が良かった。デビュー戦となったアブダビ・ツアーのクイーンステージでも、今回のティレーノの第2ステージでも、そして今回の第4ステージでも、終盤でアタックして決めにかかろうとする、「2年前ブエルタでの必勝法」を踏襲していた。今年はグランツールを本気で狙いに行く、ということの表明なのかもしれない。
だが、今のところ、それが十分に功を奏していない。アブダビでは区間3位、ティレーノ第2ステージでは区間2位とまずまずだったが今回は区間6位。早すぎたか? それでもニバリやピノ、アルといったトップクライマーたちを退けての区間6位なので、元TTスペシャリストとしては十分な走り。果たして今年、グランツール総合表彰台は獲得できるか。
デュムラン最大の懸念はアシストが揃っていないことである。ソレン・アンデルセンの成長が待たれるが彼もクライマーって感じではない、か? ゲシェケとかくらいかな・・・
区間7位(+41秒) ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、34歳)
昨年は第2ステージのポマランチェで遅れ、得意のクイーンステージもキャンセルされたことで振るわなかった。今年はポマランチェでもしっかりと残り、そしてこのテルミニッロでも結果を残した。
ここ最近結果を出せずにいるジロで、どこまで走れるか。総合表彰台は難しいかもしれない。それでも、フランスチームで戦うイタリア人として、まだエースでジロを走れるそのチャンスを、しっかりと活かしていきたいところだ。まだ後方に退くには早すぎる。
区間8位(+41秒) ミケル・ランダ(スペイン、27歳)
エースで走ることを確約されスカイに移籍。待望のジロに臨んだはいいが、結果を出せずにリタイアしてしまったことの悔しさは想像すらできない。シーズン後半もイマイチに終わり、新たなシーズンをどのような気持ちで迎えているのか。
もちろん、腐ってはいないはずだ。このティレーノもエースナンバーをつけることを許されたのはチームからの信頼ゆえであろう。残念ながら今回はトーマスの方が調子がいいようで、この日も彼のアシストに徹することになったものの、チームとしても本人としても、ジロをダブルエースで臨むことに不満はないように思える。
ジロでもトーマスが調子がいいのであれば最高のアシストとして、そうでなければ彼がチームを勝利に導くエースとして、観る者を沸かせる走りに期待したい。
エースクラスのメンバーが揃うチームの中でも臆することなく、チーム2番目の成績でこの日を終えることができたランダ。その調子は決して悪くはないはずだ。
区間9位(+46秒) ティボー・ピノ(フランス、27歳)
絶好調の走りとは言えなかったかもしれない。それでも、ずるずると下がってしまったニバリやアルと比べてもしっかりとこの位置に踏みとどまることはできたし、そもそも初日のチームタイムトライアルであらゆる視聴者を驚かせたその走りの結果、このステージを終えた今、総合3位という順位をキープできている。
とりあえずツアー・オブ・ジ・アルプス(旧ジロ・デル・トレンティーノ)の出場は決まっているようで、同じく出場を予定しているミケル・ランダなどに対しどれくらいの走りを見せられるかが課題だ。あとは最終ステージの個人TTにも注目だ。
正直、無理に総合を狙わずにステージ優勝や山岳賞を狙ってほしいという気持ちもあった。だが今年はここまで調子が悪くなく、初出場となるジロにおいては少しばかり期待もある。
区間10位(+51秒) プリモシュ・ログリッチェ(スロヴェニア、27歳)
ワールドツアーチーム入りした昨年から、驚異的なスピードで成長を続けている。昨年のジロでの活躍などからはTTスペシャリストという印象も強かったが、コンチネンタルチーム時代も様々なステージレースで総合優勝を飾っており、歴とした総合ライダーとしての素質があるようだ。そして今年はアルガルヴェ総合優勝。
ヘーシンクが総合から手を引く動きを見せるのであれば、クライスヴァイクに次ぐチームの総合リーダーの座は少しずつログリッチェに移っていくのかもしれない。その意味で今日のこの成績は十分に説得力を持てるはずだ。また、エースとしての活躍ができなくとも、重要なアシストとしてクライスヴァイクなどを支える側に回れるのであれば、チームとしては大きな価値を持つことになるだろう。
難関山岳の重要な局面でエースをしっかりと支えることのできるアシスト、としての成長が、ログリッチェには求められている。
というか、本当に凄い! 好きな選手だけに嬉しいものだ。この難関山岳で、この順位というのは。
同タイムでモレマ、カストロヴィエホがゴールしており、その集団の先頭を取ったことで区間10位、総合7位となったログリッチェ。モレマも決して調子は悪くないはずで、それと同じタイムでゴールできたというのは本当にログリッチェが凄いことを示している。
その他、総合ライダーたちの行方
区間19位(+1分39秒) ラファウ・マイカ
区間24位(+1分43秒) ヴィンツェンツォ・ニバリ
区間29位(+2分19秒) ティージェイ・ヴァンガーデレン
区間37位(+4分6秒) ファビオ・アル
このあたりは残念な走りに終わってしまった総合ライダーたち。
コスタは今年調子よくここまで来ていただけにびっくりである。
そしてヴァンガーデレンやアルは今年もダメなのか・・・?
アルに至ってはゼイツやルイス・レオン・サンチェス、ミケーレ・スカルポーニなどにも見捨てられてのゴールと、昨年の不調を思い起こされる走り。
ジロまでに復活できるか? 信頼に報いられるか?? 注目である。