フランス北部の最初の2ステージで、大きくタイムを失ったリッチー・ポート。
もはや、どう足掻いても総合争いには絡めないほどのタイム差を得ることとなった彼は、しかし、リタイアすることもなく、ただ走り続けることを選んだ。
そして彼は、第5ステージ、ラスト1.2km、平均勾配10%の激坂フィニッシュにて、勝利を目指す鋭いアタックを仕掛けた。
この攻撃はリーダージャージを着るジュリアン・アラフィリップ、次いで好調ぶりを見せるセルヒオ・エナオによって封じられ、結果、ステージ優勝はサイモン・イェーツに、そしてステージ2位の座もエナオによって奪われてしまったものの、追随するアラフィリップを置き去りにしてステージ3位を手に入れるなど、ポート自身の足が決して悪い状態ではないことを証明した。
そして第7ステージ。今大会最難関の山岳ステージ。
この1級山岳クイヨール峠の山頂フィニッシュにて、ポートは、再び攻撃を仕掛けた。
対するライバルはアルベルト・コンタドール、そしてセルヒオ・エナオ。
しかし彼らも、ポートの度重なる執拗な、そして強力なアタックの連続に、やがて追走することを諦めた。
すでにタイム差を持っている、総合争いには関わらないポートのアタックだったから、というのもあるだろう。
だがそれ以上に、今期ツアー・ダウンアンダーも圧勝したオージークライマー、昨年ツールにて、実質的にフルームの次に登れていた男であるこのリッチー・ポートが、このステージにて最も強い男であったことが、この勝利の大きな要因であったことは間違いないだろう。
リッチー・ポート。
実力で這い上がり続けてきたこの男が、いよいよグランツールの表彰台に立つときが来たのかもしれない。
今日この日の勝利は、その栄光に向けた大いなる序章である。
1級クイヨール峠の山頂を誰よりも早く登りつめたポート。ダウンアンダーから続くこの強さが、今年こそ彼をツール総合表彰台へと導いてくれることだろう。
山岳賞を巡る攻防
2級、1級、1級と登って最後は1級クイヨール峠(登坂距離15.7km、平均勾配7.1%)を登る今大会最難関山岳ステージ。
この日、最初に逃げに乗ったのは5人。
UAEチーム・エミレーツのヤン・ポランチ、ディメンションデータのオマール・フライレ、ディレクトエネルジーのリリアン・カルメジャーヌ、デルコ・マルセイユのデリオ・フェルナンデス、そして山岳賞ジャージを着るアクセル・ドモン(AG2R・ラモンディアル)である(のちにフォルテュネオ・ヴィタルコンセプトのピエールリュック・ペリションが合流する)。
山岳賞ジャージを着るドモンを先頭に、黙々と集団とのタイム差を広げていく逃げ5人。
スタート直後に訪れる2級山岳と1級山岳は、ともにカルメジャーヌが先頭通過。ドモンはその背後にぴったりとついてポイントを回収した。
これにより、カルメジャーヌは合計32ポイント。ドモンと並ぶ形となった。
そして本日2個目の1級山岳「サン・マルタン峠」(残り37km)への登りの手前で、カルメジャーヌが単独でアタック。
ドモンとフェルナンデス、そしてプロトンからブリッジを仕掛けて合流したヤコブ・フールサン(アスタナ)が懸命に追走を仕掛けるも届かず、やがて集団に吸収されてしまう。
そしてカルメジャーヌが単独でサン・マルタン峠山頂を通過。
合計42ポイントとなり、文句なしの山岳賞ジャージ獲得となった。
リリアン・カルメジャーヌ。
24歳フランス人。
プロ入り2年目とまだまだ若いが、初グランツールとなった昨年ブエルタにていきなりのステージ優勝。
今年に入ってからもエトワール・ドゥ・ベセージュで区間1勝と総合優勝を果たすなど、ディレクトエネルジーの新たな総合エースとして急激に成長を遂げている将来有望なフランス人の1人である。
今回のパリ~ニースではポートと同様に最初の2ステージで大きくタイムを失ったものの、こうして、得意の山岳逃げを展開し、山岳賞ジャージ確定まであと一歩というところまでたどり着いた。
明日もカテゴリ山岳は多く、油断はできない。
しかし彼ならばきっとやってくれるだろう。ブエルタの勝利、小さなステージレースでの総合優勝、そしてワールドツアーでの山岳賞。
確実なステップアップを登りつつある若き才能が、今年さらに羽ばたくことを期待している。
とりあえず、今期初出場予定のツール・ド・フランスにおける活躍が望まれる。
大きく動いた総合順位
カルメジャーヌがサン・マルタン峠山頂を越えたころ、集団からもカンタン・パシェ(デルコ・マルセイユプロヴァンスKTM)、ディエゴ・ウリッシ(バーレーン・メリダ)、シリル・ゴチエ(AG2R・ラモンディアル)の3人が飛び出し、カルメジャーヌを捕まえた。
その後もウリッシが単独で逃げに乗るが、集団もスカイのセバスティアン・エナオを中心にハイペースでの牽引を続け、このペースアップに耐え切れなくなった総合2位トニー・ギャロパンおよび昨日の優勝者サイモン・イェーツが遅れ始める。
さらにトレック・セガフレードの新加入ハリンソン・パンタノが先頭に出てさらなるペースアップを仕掛けると、山頂までまだ10kmも残っている地点で、総合首位ジュリアン・アラフィリップが崩れ始める。
コンタドールの頼れるアシストとなったパンタノの、超強力な牽引によって、次々と有力選手が遅れていく。Jsportsより。
山頂まで残り5kmの時点でパンタノが仕事を終え脱落。
このとき、先頭に残っているメンバーはわずか6人。
セルヒオ・エナオ(スカイ)、ヤコブ・フールサン(アスタナ)、リッチー・ポート(BMC)、ヨン・イサギレ(バーレーン・メリダ)、アルベルト・コンタドール(トレック・セガフレード)、そして総合5位でアラフィリップの援護ではなく先頭に残ることを決めたダニエル・マーティン(クイックステップ・フロアーズ)である。
さらに残り3.5kmの地点で、コンタドールがアタック。これについていけなくなったのがフールサンとヨン・イサギレ。
次いでポートがカウンターアタック。総合において脅威とはならないポートのこの攻撃は見逃され、やがて残り1.5kmの地点で再びコンタドールがアタックを仕掛けた。
終始攻撃的な走りを見せたコンタドール。アシストのパンタノも良い働きをしており、今大会での総合優勝はもちろんまだ狙っていくだろうが、今後に向けた好材料を得られた一戦ともなった。
コンタドールはポートの勝利の21秒後に山頂に到達した。
マーティンはその11秒後にゴールし、コンタドールとはわずか1秒差で総合2位の座を守った。
そしてセルヒオ・エナオは4位ゴール。
大きく遅れたアラフィリップから総合ジャージを受け継ぎ、総合2位のマーティンとは30秒差に抑えた。
確かな強さを見せつけ、堂々たるイエロージャージ姿を披露したセルヒオ・エナオ。
最終ステージは登りゴールではない分、大きなタイム差はつきづらいステージだとは言える。
しかし相手はダン・マーティン、そして何よりもアルベルト・コンタドールである。
最終日の最後のその瞬間まで、どうなるかは決してわからない。
パリ~ニースは最終日まで見逃すことのできない展開が待ち構えている。
総合首位の証たるマイヨ・ジョーヌを手に入れたセルヒオ・エナオ。最終日最後のゴールを迎えるその瞬間まで、その着用の権利を守り切ることが果たしてできるのか。
そして、ワールドツアー総合優勝の高い壁に阻まれたアラフィリップ。
だが彼はもちろん、ここで挫けるような男ではないだろう。
さらなる鍛錬と研鑽を積み、再び総合優勝争いの場に戻ってきてくれることを、我々は楽しみに待ち続けていくことだろう。
遅れたアラフィリップを献身的に支え続けたダビ・デラクルス。昨年ブエルタ総合7位の実力者であり、今後もクイックステップの重要な山岳アシスト、あるいはエースとして活躍してくれることだろう。