パリ~ニースもいよいよ終盤。
山岳ステージ3連戦の初日となった今日は、3つの1級山岳を含んだ厳しいコースで、ラスト1.2kmの登りは最大20%の激坂区間を含む2級山岳山頂フィニッシュである。
スタート直後に待ち構える1級山岳レスピグリエ(l'Espigoulier)峠に向けて、最初に飛び出したのはベンジャミン・キング(ディメンションデータ)とシリル・ゴチエ(AG2R・ラモンディアル)の2人。
次いでウィナー・アナコナ(モヴィスター)、デリオ・フェルナンデス・クルス(デルコ・マルセイユプロヴァンス)、ハリンソン・パンタノ(トレック・セガフレード)がこれに合流するが、山頂に到達するより先に、プロトンによって捕まえられてしまう。
このときの激しいペースに耐えかねて、総合16位につけていたダヴィデ・フォルモロ(キャノンデールドラパック)とローソン・クラドック(キャノンデールドラパック)がリタイアしてしまう。
山の上の平坦地点の終端に位置する中間スプリントポイント(24km地点)は集団の中でのスプリント争いによって、サム・ベネット、マイケル・マシューズ、フィリップ・ジルベールの3人が順に通過。それぞれ3ポイント、2ポイント、1ポイントのスプリントポイントを獲得する。
そして下りの後、再び集団から飛び出す選手たちが。
アナコナとベン・キングは再びこの集団に。ほか、アレッサンドロ・デマルキ(BMC)、アクセル・ドモン(AG2R・ラモンディアル)、ホセ・エラーダ(モヴィスター)、ミカエル・ヴァルグレン(アスタナ)、ベン・スウィフト(UAEチーム・エミレーツ)、シルヴァン・シャヴァネル(ディレクトエネルジー)、エドゥアルド・セプルヴェダ(フォルテュネオ・ヴィタルコンセプト)、そしてシリル・ルモワーヌ(コフィディス)の合計10人である。
シャヴァネルは今大会何度目かわからない逃げ。そしてベン・スウィフトはスプリンターにも関わらず、昨年のパリ~ニースに続きチームが変わった今大会でも山岳ステージで活躍をするというのか。
しかしこの逃げ集団も、本日2つ目の1級山岳ブリゲイル(Bourigaille)峠に差し掛かると分解され、デマルキとセプルヴェダの2人が先頭に飛び出す。
後続のメイン集団では、アルベルト・コンタドールが「お試し」のアタックを仕掛けるが、これは総合リーダー・アラフィリップのチームメートであるダニエル・マーティンと、総合4位のセルヒオ・エナオによって食い止められる。
ブリゲイル山頂へと向かう道でアタックを仕掛けたコンタドール。しかし、その背後からはコロンビアチャンピオンジャージに身を包んだセルヒオ・エナオの追走が。
この日、総合争いと並んで熱い攻防が繰り広げられたのが山岳賞争いである。
逃げ10人の中に含まれていたアクセル・ドモンが道中の2級山岳と3級山岳をそれぞれ先頭通過。
そしてエドゥアルド・セプルヴェダがそれぞれ2位通過を果たした。
しかし、1級ブリゲイルに向けて、セプルヴェダがデマルキと共に飛び出したのである。
そして、ブリゲイル山頂をセプルヴェダが獲得。
ドモンも追走集団の先頭を獲りポイントを追加するものの、そのポイント差はわずか2ポイント。
続く「2回目のブリゲイル」を、セプルヴェダが6位以上でゴールすれば、今日の山岳賞はセプルヴェダのものとなったのである。
エドゥアルド・セプルヴェダ。
25歳のアルゼンチン人。
長くプロコンチネンタルチームで走り続けている実力派クライマーであり、地元アルゼンチンのステージレース、ツール・ド・サンルイスでは昨年、既に山岳賞を獲得している。
しかし、そんな彼にとって初めての、ワールドツアーレースにおける山岳賞の獲得。
それは悲願であった。
だからセプルヴェダは必死で坂を上った。
逃げ巧者のデマルキとの協力関係は彼にとって非常に心強かった。
しかし、その願いは叶わなかった。
ステージ優勝を狙っていたセルヒオ・エナオのために、チーム・スカイが強力な牽引を開始し、みるみるうちにそのタイム差は縮まっていった。
そして、「2回目のブリゲイル」山頂まで残り2kmとなったところで、2人はあえなく集団に吸収されてしまった。
これにより、セプルヴェダは追加の山岳賞ポイント獲得ならず。
山岳賞はAG2Rの山岳逃げ巧者アクセル・ドモンが手にすることとなった。
アクセル・ドモンもよく山岳で逃げを打つものの、いつも成功せずに終わる苦労人であり、つい応援したくなるキャラである。それだけに今回の山岳賞獲得は個人的にとても嬉しいものであるし、この後のステージでもぜひ守り切ってほしい。
さて、デマルキとセプルヴェダを捕まえた直後、プロトンから飛び出しのがオリカ・スコットのエース、サイモン・イェーツであった。
ゴールまでは残り20kmもあり、ゴール直前には20%区間を含む激坂が待ち構えている。
サイモンはすでに総合タイム差でも2分16秒ものビハインドを抱えているため、リーダージャージを切るアラフィリップとクイックステップ・フロアーズはこのアタックを容認。
たちまちサイモン・イェーツは集団から12秒ものタイム差をつけた状態で「2回目のブリゲイル」山頂を通過。
そして、見事な独走劇を展開する。
ゴールまで残り1.2km。
ついにラストの2級山岳フェイヨンスに差し掛かる。
このとき、サイモン・イェーツが集団からつけたタイム差は46秒。
十分に逃げ切りが考えられるタイム差であった。
集団でも動きがあった。
すでに大きくタイムを失い、総合争いは完全に望みが経たれたリッチー・ポートが、ステージ優勝に向けて鋭いアタックを仕掛けたのだ。
ニコラス・ロッシュの献身的なアシストの後、放たれたリッチー・ポート。しかし、リーダージャージを着るアラフィリップが即座にこれに反応した。
アラフィリップはこれに反応するべきではなかったかもしれない。
何しろ、ポートは総合ではもはや相手にならないのだから。
ステージ優勝を狙うのであれば、好きに狙わせておけばよかったのだから。
それよりも警戒しなければならないのはこの男だった。
チーム・スカイのエースを務め、ポートやコンタドールが本調子でない今大会において、おそらく最強の登坂力を持つ男。
彼の登坂力は驚異的であった。
何しろ、この坂を上り始める前は46秒あったサイモンとのタイム差を、ゴールまでに17秒にまで縮めたのだから。
つまり、1kmで30秒ものタイムを縮めるほどの登坂力。
ジュリアン・アラフィリップは結局、セルヒオ・エナオから12秒遅れてのゴールとなった。
しかも、エナオは6秒のボーナスタイムを獲得し、ポートに先行されたアラフィリップはボーナスタイムをまったく獲得できなかった。
よって、このステージだけで、たった1.2kmの急坂だけで、アラフィリップはセルヒオから18秒ものタイムを失ったのである。
現在、セルヒオ・エナオは46秒のタイム差で総合3位。
それはパリ~ニースにおいては決して短いタイム差ではないが、しかし、明日に控えている登坂距離15km、平均勾配7%の本格的山頂フィニッシュを前にして、アラフィリップは決して楽観視できない状況に追い込まれてしまった。
アラフィリップにはダニエル・マーティンという強力な登りアシストがついている。
一方でセルヒオ・エナオにはセバスティアン・エナオとミケル・ニエベという、これまた強力なクライマーたちがアシストとして残っている。
総合争いの結末はまだまだ不明確な状態である。
そして、今日は逃してしまったステージ優勝を、ポートは果たして得ることができるのか。コンタドールの調子は? 山岳賞の行方は――
パリ~ニース2017、クイーンステージとなる第7ステージは、まさに目が離せない展開となるであろう。
第7ステージ、ラスト15kmのレイアウト。確実な登りの足が試されるステージだ。
そしてもちろん、本日勇気ある逃げを打ち、見事な勝利を獲得したサイモン・イェーツに最大限の賛辞を。
昨年ブエルタに続く大きな勝利。
明日以降の走りにも大注目である。
今年はアダムと共にジロとブエルタにチャレンジをする予定。目指すはもちろん、表彰台の頂点である!