パリ~ニースと並び、本格ワールドツアーシーズンの開幕を告げる伝統的なステージレース。主催者はジロ・ディタリアと同じRCSスポルト。
イタリア半島を横断し、ティレニア海とアドリア海とを結ぶその行程から、「二つの海を結ぶレース」という異名でも知られる。
- 各ステージレビュー
- スタートリストと注目選手たち
- BMCレーシングチーム(BMC)
- AG2R・ラモンディアル(ALM)
- アンドローニ・ジョカットリ(AND)
- アスタナ・プロチーム(AST)
- バーレーンメリダ・プロサイクリングチーム(TBM)
- バルディアーニCSF(BRD)
- ボーラ・ハンスグローエ(BOH)
- キャノンデールドラパック・プロサイクリングチーム(CDT)
- FDJ(FDJ)
- ロット・ソウダル(LTS)
- モヴィスター・チーム(MOV)
- ニッポ・ヴィーニファンティーニ(NIP)
- オリカ・スコット(ORS)
- クイックステップ・フロアーズ(QST)
- ディメンション・データ(DDD)
- チーム・カチューシャ・アルペシン(KAT)
- チーム・ロットNLユンボ(TLJ)
- チーム・ノヴォ・ノルディスク(TNN)
- チーム・スカイ(SKY)
- チーム・サンウェブ(SUN)
- トレック・セガフレード(TFS)
- UAEチーム・エミレーツ(UAE)
各ステージレビュー
第1ステージ リード・ディ・カマイオーレ 22.7km(TTT)
オールフラットなチームTT。昨年は2015年度世界選手権ITT部門で優勝したBMCレーシングが優勝。その意味で今年はクイックステップ・フロアーズに注目したいところだが、トニー・マルティンが移籍してしまった穴は埋められるのかどうか。個人的には、フランスTTチャンピオンのピノや、トヴィアス・ルドヴィクソンなどを擁し、チーム全体としてもTT改善を図っているというFDJに期待したい。まあ、昨年も同じことを言いながら大した成績は出せなかったので、微妙かもしれないが・・・。
ほか、チーム・スカイやオリカ・スコットあたりも強そう。
第2ステージ カマイオーレ~ポマランチェ 228km
230km弱のロングステージに加え、ラスト10kmは最大勾配15%区間を含む登りフィニッシュ。昨年の同ステージではゼネック・スティバールが飛び出してそのまま逃げ切り勝利。今年も、総合勢が牽制し合う中、隙を突いて飛び出した選手が勝利し、わずか数秒のタイム差をもってリーダージャージを着用する、という展開がありえそうだ。
今年の優勝候補としては、昨年同様にクラシックで調子の良いゼネック・スティバールはもちろん、同様の観点からグレッグ・ヴァンアーヴェルマート、ティム・ウェレンスなどがありうるだろう。ファビオ・フェリーネという可能性も十分にありうる。
一方で総合勢の中から、この程度の登りで脱落してしまうような選手も出てくるかもしれない・・・たとえばティージェイ・ヴァンガーデレンとか・・・。ちなみに昨年はドメニコ・ポッツォヴィーヴォが脱落している。
第3ステージ モンテロトンド・マリッティモ~モンタルト・ディ・カストロ 204km
区分としては平坦ステージ。しかしラスト500mは平均勾配7%の登りスプリントだ。
昨年はサガン、ユワンを押しのけてフェルナンド・ガヴィリアが優勝。ユワンにとっては同世代の新鋭に負けるという悔しい結果であった。しかし彼も今年、大きなパワーアップをしてすでにアブダビでも勝利を挙げている。リベンジを果たしたいところ。もちろんガヴィリアもアルガルヴェでグライペル、サガンを打ち破っている。面白いバトルになりそうだ。
単純に実績だけで言えばサガンが最大の優勝候補であることは間違いない。その他、昨年3位のヴィヴィアーニ、8位のサッシャ・モドロなどにも注目。
第4ステージ モンタルト・ディ・カストロ~テルミニッロ 171km
ティレーノ~アドリアティコ2017のクイーンステージは、テルミニッロ山頂1675mに登る超級山岳フィニッシュ。今シーズン最初の本格的山岳である。
16km超の登り、平均勾配は7.3%。最大勾配12%は登り初めから4kmの地点に存在する。グランツールに登場するような本格山岳で、今シーズン最強のクライマーたちを決める最初のセレクションがかけられるだろう。
最大の優勝候補はもちろん、2年前の同ステージで優勝しているナイロ・キンタナ。フルームに次ぐ最強クライマーの名を欲しいままにしている彼に挑むのは、ヴィンツェンツォ・ニバリ、ファビオ・アル、ラファウ・マイカ、そしてティボー・ピノだ。
また、バウケ・モレマ、アダム・イェーツ、ミケル・ランダ、トム・デュムランなどの走りにも注目。「誰が今年活躍するのか」を考えるうえで絶好の材料になりうるステージであろう。今年調子がいいルイ・コスタの真の足具合を確かめることもできるはずだ。
最大の懸念材料は雪の状況。2年前は猛吹雪の中キンタナが勝利したが、天候に関するステージキャンセル条件が厳格化された昨年はクイーンステージが雪でキャンセルの憂き目に遭っている。今年もそういったことが起きないとは限らない。そうなると悲しいばかりである。
パリ~ニースも同日にクイーンステージ。どちらを優先してみるべきか悩むどころである。
第5ステージ リエティ~フェルモ 209km
小刻みなアップダウンの末の登りゴール。超級山岳ステージの直後ということもあり、総合勢が揃いも揃って先頭集団でゴールする、というよりは、前日に大きくタイムを失った選手たちによるステージ優勝争いが白熱しそうなステージである。
たとえば昨年も大逃げの末に勝利したスティーブ・カミングス。あるいは2年前のブエルタでの大逃げ勝利を決めたネルソン・オリヴェイラ。同じくアレクシー・グジャールなどなど。また、前日のテルミニッロで大きくタイムを落としてしまったトップクライマーたちが、ステージ勝利あるいは山岳賞を狙って逃げに乗るかもしれない(そういうとき強いのがティボー・ピノである)。
そして誰よりもこういったステージで強いティム・ウェレンスを、忘れてはいけない。
第6ステージ アスコリ・ピチェーノ~チヴィタノーヴァ・マルケ 168km
アップダウンは多少あるものの、今大会唯一といっていいピュアな平坦ゴールを擁するステージ。よって、逃げようとする選手たちも多数いるだろうが、スプリンターチームたちがそれを決して許さないだろう。とくに一番気合が入っているのはおそらくディメンションデータ。マーク・カヴェンディッシュとカヴェンディッシュファミリーが全力の牽引と発射役を務めて勝利を狙う。
登りスプリントでないということは、アシストの力を十二分に発揮できるということだ。インピーとクルーゲに補佐されたユワン、ボーネンとユンゲルスにアシストされたガヴィリアの破壊力は抜群。一方でサガンには、十分なアシストがいないのではないか? それでもやってしまうのがサガンという男ではある。特にこの日はゴール直前の起伏の存在といい、ミラノ~サンレモの予行練習としては最適なステージ。サガンが、本気で狙わないわけはないだろう。
第7ステージ サンベネデット・デル・トロント 10.05km(ITT)
昨年・一昨年とステージ優勝を決めているカンチェラーラはもういない。トニー・マルティンもパリ~ニースに出場しており不在。となれば、優勝候補はトム・デュムランかローハン・デニスが最右翼となるだろう。
とはいえごく短い10kmのタイムトライアルには、多くの選手に優勝のチャンスが巡ってくる。対抗馬となりうるのは昨年世界選手権ITT2位のヴァシル・キリエンカ、同3位のホナタン・カストロヴィエホあたりか。
個人的に注目をしたいのはプリモシュ・ログリッチェとトヴィアス・ルドヴィクソン、そしてパトリック・ベヴィンといった新進気鋭のTTスペシャリストたちである。ログリッチェはアルガルヴェ総合優勝を果たしたものの、残る2人はまだ大きな勝利を経験していない。ここでぜひ、その名を世界に轟かせてほしいものだ。
スタートリストと注目選手たち
BMCレーシングチーム(BMC)
エースナンバーをつけるのは昨年総合優勝のヴァンアーヴェルマート。しかしテルミニッロがキャンセルなく普通に行われた場合、さすがに総合成績を維持するのは難しいだろう。そうなると総合優勝の責任はヴァンガーデレンが担うことになるのだが、やはりそこには不安しかない。そろそろスランプを脱出してくれ、ヴァンガーデレン!
うまくいけばローハン・デニスでも狙えるかもしれない。ほか、ドラッカーのスプリントなどにも注目。オスの逃げなども見られるか?
AG2R・ラモンディアル(ALM)
総合を狙うのであればポッツォヴィーヴォだろうが、ここ最近の彼の調子を見ていると正直期待はできない。むしろバークランツやジェニエ、グジャールなど、逃げ名手が揃っているチームであり、そういった面での活躍に注目である。
アンドローニ・ジョカットリ(AND)
非常に年齢層の若いメンバー。勝利よりもまずは修行か? 積極的な逃げに期待。ガヴァッツィはベテランのパンチャー。
アスタナ・プロチーム(AST)
昨年は辛いシーズンを過ごしたアル。今年は勝利こそないものの、ツアー・オブ・オマーンで総合3位と悪くない結果。このティレーノで、最強のアシスト陣――スカルポーニや、ゼイツなど――を率いてどれだけの結果を叩き出せるのか、非常に楽しみである。
バーレーンメリダ・プロサイクリングチーム(TBM)
今年はまだ、そこまで目立った活躍を見せていないニバリ。今回のレースも、正直そこまでは期待していない。むしろ、新たなチーム、新たなアシストたちがどのように機能するのか、そこに注目している。何しろ昨年のジロの総合優勝も、アシストの力あってのものだったのだから。ヴィスコンティ、シウトソウあたりがジロとも相性のいいオールラウンダー。アシストとしての実績も十分だ。
バルディアーニCSF(BRD)
平均年齢は非常に若い。しかし多くの有力選手を輩出しているチームだけに、その若さは決してマイナスには働かない。パリ~ニースで勝利し注目を浴びているソンニ・コルブレッリも元バルディアーニである。
そして今大会注目の選手はニコラ・ルッフォーニ。ドバイ・ツアーでも3度、ベスト10入りした有力スプリンターである。
ボーラ・ハンスグローエ(BOH)
まずは何と言ってもサガン。ミラノ~サンレモ制覇に向けた予行練習として、とくに第6ステージなどでは勝っておきたい。第3ステージの登りスプリントも彼向きだ。発射台役が少なめなのは気になるが、彼は1人でもそれほど問題はないのでまあ、いいだろう。
そしてもちろん、マイカの走りにも期待。ティンコフから連れてきた2人のポーランド人、ボドナールとポランスキーのアシストの具合やいかに。
キャノンデールドラパック・プロサイクリングチーム(CDT)
エースはもちろんウランだが、正直期待はあまりしていない。じゃあ他に活躍できる選手がいるかというと、うーん・・・。パトリック・ベヴィンのTTにおける大きな勝利に期待したい。
FDJ(FDJ)
ブエルタ・アンダルシアでピノが区間1勝と総合3位。だけでなく、昨年IAMから移籍してきたライヘンバッハが、総合7位。ブエルタでのエースも任されるとのことで、ピノに次ぐFDJの総合エースとして着実に成長中。そしてジロでは、ピノにとっては最も頼りになるアシストとなるだろう。今回のティレーノはその予行練習だ。
ルドヴィクソンのITTにも注目。ほか、ルー、ロワ、モラビートの逃げにも期待だ。
ロット・ソウダル(LTS)
今期絶好調のウェレンスが、今回どれだけの勝利を重ねられるか。彼向きの山岳逃げステージも豊富に用意されている。ミラノ~サンレモに向けて、ルーランツの足慣らしもしておきたいところ。
モヴィスター・チーム(MOV)
今大会最有力優勝候補のナイロ・キンタナ。今年すでにブエルタ・ア・バレンシアナで総合優勝。そして2年前のテルミニッロ覇者でもある。
そしてメンバーがまた強力。昨年ジロ総合8位のアマドール。同ブエルタ総合8位のモレーノという豪華なアシストに支えられ、弱点の横風対策にベンナーティまでいるのでおよそ隙がない。チームTTもカストロヴィエホやオリヴェイラの存在などもあり、タイムを落とす可能性は少ないだろう。むしろ勝ってもおかしくはない。
スカイのメンバーも豪華だが、向こうは「船頭多くして・・・」という印象。一方こちらはキンタナの強さが頭一つ飛び抜けているがゆえに、すべてのメンバーがキンタナのために動ける。チームとしても今大会最強だ。
ニッポ・ヴィーニファンティーニ(NIP)
アレドンド、かつてのチームに出戻り。その再スタート初年度を、どのように飾れるか。その逃げに注目したい。スプリンターではミハエルグロースに期待したい。オマーンでは区間2位まで登りつめた。
オリカ・スコット(ORS)
まずはユワンのスプリント勝利。インピー、クルーゲという黄金アシストがこれを支えている。1年前のガヴィリアに対するリベンジはなるか。
そしてアダム・イェーツの総合および新人賞を目指すべく、昨年ツール総合10位のクロイツィゲルが全力でサポート。チームTTにも期待だ。
クイックステップ・フロアーズ(QST)
ガヴィリアの勝利のために、ボーネン、そしてユンゲルスなどが列車を作っていくだろう。ほか、スティバール、トレンティンなどの強力なアタッカーたちも多数。あらゆる局面で勝利を狙っていく。ケイセの逃げにも期待。
ディメンション・データ(DDD)
登りスプリントではボアッソンハーゲンが、平坦スプリントではカヴェンディッシュが、それぞれアイゼルやレンショーといった最強のアシストの力を借りながら、適材適所で勝利を狙っていく。そして昨年同大会で逃げ切り勝利を決めているカミングス。その年はそのままツールでも同様の勝利をしている(さらに言えば2年前にも・・・)。今回も、となれば本当に凄いが、積極的に狙っていきそうな男なので期待したい。
チーム・カチューシャ・アルペシン(KAT)
総合というよりも逃げ切り勝利などに期待したいチーム。ヴィシオソ、マミキン、タラマエなどは、各種グランツールなどで、いいところまでは逃げるのだが勝利に繋がらないこともよくある。タラマエは昨年ジロで勝利しているが。個人的にはラメルティンクに注目。また、ツァペルはそろそろスプリントで勝利を決めたいところ。
チーム・ロットNLユンボ(TLJ)
総合?いや、欲張る必要はない。まずはテルミニッロでどこまでついていけるか足試しだ。それで無理でも、次のステージでの区間優勝を狙えばいい。ヴァンデンブルックもヘーシンクも、過度なプレッシャーを感じることなく、ジロにおけるクライスヴァイクのリベンジを果たすための予行練習を果たせればそれでいい。
ログリッチェも、その中に加われるか。今期すでにアルガルヴェ1勝。ITTでの優勝も狙える。そして、ダン・マーティンに喰らいついたその山での登りを、テルミニッロでどこまで見せられるか。
チーム・ノヴォ・ノルディスク(TNN)
チーム・スカイ(SKY)
ジロをエースで走ることを条件にスカイへ移籍。その願いは叶ったが、自らの不調により途中棄権。その後のツールでも活躍できず。気持ち新たに迎える新シーズン最初の大舞台で再びエースを任せてもらえたものの、その背後には数多くのエース候補が。まずは元チームメートのローザ。さらにはジロもエースで走りたいと言っていたらしいトーマスの存在も。クフャトコフスキはとりあえずアルデンヌクラシックを第一の目標にするとは言っているが、アルガルヴェでも総合2位と悪くない結果だったため、場合によっては総合狙いにシフトすることができる。となると・・・ランダが隙を見せればあっという間にお株を奪われるだろう。
そもそも、そういった状態だから、ブエルタ・アンダルシアでは総合4位~6位すべてにチーム・スカイのメンバーが入るというような状態。凄い。確かに凄いんだけど・・・誰か1人くらい、表彰台に立とうよ。
そんな状態のチームに、忠実なる牽引役キリエンカ。当然彼も、ITTでは優勝を狙える。また、昨年北極圏レース総合優勝のモズコンは、先日のオンループ、およびストラーデ・ビアンケで誰よりも頼りになるアシストを務めていた。うむ、やはり隙はない。完璧すぎる布陣。しかし、勝てるヴィジョンが見えないのだ。
で、ヴィヴィアーニにはアシストなし?
チーム・サンウェブ(SUN)
オランダ人エースの存在に、合計4人のオランダ人。そしてメインスポンサーはオランダの旅行会社。あれ、なんでこれ登録ドイツなの?
とにかくデュムランの走りに大注目。ITT勝利はもちろん、テルミニッロでどこまで喰らいついていけるか。本気でジロを狙うのであれば、避けては通れない山だ。そして乗り越えさえすれば、総合優勝は十分に狙える。新たな時代を作れるか、デュムラン!
問題はそれを支えるアシスト陣。今回の陣容は全体的に若い。実績としてはティマーとプライドラーがそれなりではあるが、それでも超級山岳の上まで残れるかというと微妙。プライドラーの成長が鍵となるか。
トレック・セガフレード(TFS)
コンタドールに次ぐチームの総合エースとして、本気でジロを狙いにいくモレマ。昨年のツールは実に見事であり、今年に入ってもまずブエルタ・サン・フアンで総合優勝と悪くない滑り出し。今回のメンバーの中にはあまり山岳アシストはいない? ブランドルくらいか? フェリーネやストゥイヴェンなどのアタッカーにも勝利を期待したい。
UAEチーム・エミレーツ(UAE)
今シーズン調子のいい状態でスタートできているルイ・コスタ。その足が本物なのかどうか、今回のテルミニッロではっきりとわかるだろう。ここでトップクライマーたちについていくことができれば、今年のジロも期待できるかもしれない。
スプリントではモドロに注目。フェラーリ、ガンナ、クンプと、強いスプリンターが多く、発射台には事欠かないはず。