かつてランプレ・メリダと呼ばれたそのチームは、メインスポンサーを2016年シーズンで失う危機に瀕していた。
一度は中国資本により存続が決まっていたものの、年末が近づくにつれこの話が突然大きく変わり、いつの間にか中東アブダビ首長国によるチーム「UAEアブダビ」と名前を変えていた。
このUAEアブダビも、今回のアブダビ・ツアー開幕直前にエミレーツ航空がメインスポンサーとなることが決まり、UAEチーム・エミレーツとなった。
チーム存続を支えてくれたUAEの庭先でのレース、アブダビ・ツアー。
このレースでの勝利はチームにとっては至上命題であり、
そしてこの日、チームの第一のエース、ルイ・コスタは、見事にこの責務を果たしてくれた。
クイーンステージでありジャベルハフィート山頂フィニッシュでの勝利。
そしてそれは、このレースにおける総合優勝をほぼ決定づけるものであった。
ルイ・コスタという選手は、元世界チャンピオンであり、その年のツール・ド・フランスでは区間2勝を成し遂げるなど、最強レーサーの1人として間違いなくその名を轟かせていた。
しかし、2014年シーズンと2015年シーズンでは、国内選手権を除くとそれぞれ1勝ずつ。
昨年の2016年シーズンではついに1勝もできずに終わり、自分の中では「過去の選手」というイメージが強く残っている選手であった。
しかし、今年に入って、彼はその存在感を発揮し続けている。
まずはブエルタ・サン・フアンの山頂フィニッシュステージで区間優勝。
そしてツアー・オブ・オマーンでは区間2位を2ステージ連続で獲得し、クイーンステージのグリーンマウンテンでも区間3位。
結果としての総合2位は、優勝ではないという点では悔しい結果ではあったが、今シーズンに入って山岳ステージで、その調子を着実に伸ばしつつあることを感じさせてくれた。
そして今回の区間優勝。
残り5km手前から始まった彼の逃げには、イルヌール・ザッカリンという伴走者がいた。
ほぼ逃げ切りが決まった終盤ではザッカリンの後ろに付き続ける様子も見え、勝ちへの執念と、だからといって必要以上に焦ることのない冷静さが表れていた。
対するザッカリンは少し、自分だけで攻めすぎた部分があるかもしれない。
それも仕方ない。後方からは、恐ろしい勢いでトム・デュムランが迫ってきていたのだから。あの場で牽制をかけていれば、すぐにでも追い付かれていたかもしれないのだ。
ジャベルハフィートはラスト10.8kmから始まる獲得標高700m超の登りであるが、およそ2kmほど消化した段階で、早くもナイロ・キンタナがアタックを仕掛けていた。
しかしあまりにも早すぎたこのアタックに、コンタドールやニバリといった強豪選手はすぐに反応。
キンタナもすぐにペースを落とし、その後も何度かアタックを仕掛けながらライバルたちの様子を窺い続けていた。
しかしいずれにしても、キンタナは今日は、そこまで調子が良くなかったようだ。
ニバリも、コンタドールも、自ら積極的な攻めを見せることはなく、そこそこの位置でゴールを迎えている。
一方で積極的な走りを見せたのは、サン・フアン総合優勝を果たしてもいるバウケ・モレマ。
そして、今年からAG2Rに移籍することになったマティアス・フランク。
とくにモレマはこのあと、先頭のコスタとザッカリンに追走を仕掛けるも、届くことなく4位でステージを終えている。
そして、トム・デュムラン。
ハイケイデンスで坂を上る先頭のザッカリンとは対照的に、ゆったりと、マイペースにペダルを回しながら着実にタイムを縮めていく彼の走りは、かつてツール・ド・フランスでコスタを倒したときのような、不気味な迫力を備えていた。
一時は先頭まで7秒というところまで迫ったデュムランであったが、最後の最後で力尽きたのか、それとも先頭2人のラストスパートのためか、最終的には十数秒のタイム差をつけて、追い付くことなく区間3位で終わってしまった。
しかし手応えは感じたはずだ。
今年こそ、グランツールの総合優勝をその手に。
同じくグランツールにおける大躍進を遂げたオランダ人であるクライスヴァイクと共に、今日はよい走りを我々に見せつけてくれた。
ジロ・ディタリア前哨戦と言っても言い過ぎではないくらいに豪華なメンバーで迎えたアブダビ・ツアーのクイーンステージ。
最強クラスのクライマーたちこそ大きな動きは見せなかったものの、
デュムラン、クライスヴァイク、ザッカリンといった新鋭たちの変わらぬ走りの鋭さと、
そしてルイ・コスタというベテランの、復活を告げるかの如く力強い走りなど、
十分に見ごたえのあるレースであった。