■アラフィリップとモズコン、2人の若手
モンレアル(モントリオール)と比べ、最高標高が低い代わりに、10%超えの激坂区間を複数抱えるケベック。熱い戦いもその激坂ポイントで繰り広げられた。
まず最初に見所となったのが、残り40kmを切った辺り。
単独で逃げていたラルス・バクを捕まえようとしたタイミングでルーク・ロウとジュリアン・アラフィリップが飛び出し、さらにそのロウを突き放してアラフィリップがそのまま単独で突き進んでいった。
今年カリフォルニアを制した23歳の若手が、その足の強さを見せつけた形だ。
だがこのアラフィリップをさらに激坂で打ち倒したのが、チーム・スカイの新鋭ジャンニ・モズコンである。
最終周回の残り3km前後。マッテオ・トレンティンの飛び出しにモズコンが反応し、さらにアラフィリップもこれに乗った。
3人はそのまま激坂ポイントに突入するが、ここで最初に脱落してしまったのがアラフィリップ。モズコンはそのまますいすいと前に突き進み、残り1km辺りまで単独で先頭を走ることとなった。
モズコンは今年スカイに移籍したばかりの22歳。だがいきなりアークティックレース・オブ・ノルウェーで総合優勝するなど、光りまくっている新人だ。
登りも強く、かつスプリントでも力を見せつけるなど、アラフィリップとも近い脚質を持つモズコン。
この2人、この先ももしかしたら良きライバルとして火花を散らし続けてくれるかもしれない。
■「勝ち方」を覚えた王者の走り
かつては「セカンドゲッター」として、いつもいいところまで行きながらも2位に甘んじることの多かったこの男。
しかし今年に入ってからの彼は、そんな姿を過去のものにしてしまうような走り方を見せている。E3でこそクヴィアトコウスキーに敗れ去ったものの、その後のヘント~ウェヴェルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレン、ツアー・オブ・カリフォルニア、ツール・ド・スイス、そしてツール・ド・フランスと、勝ちに勝ちまくるチャンピオンとしての姿を見せ続けてくれていた。
この日も、彼は最後の最後まで冷静に勝ちを狙う走りを見せていた。
リゴベルト・ウランが鋭いアタックを見せて単独で先頭を突き進む。残り500mを切っていよいよ危険、という段になっても、サガンは集団の前から3~4番目で静かに待機していた。
かつての彼であれば、牽制する集団に嫌気を覚えて自ら前を牽いていたに違いない。そしてそのまま最後の最後でまくられて2番手に甘んじる、そんなことがとても多かった。
だがこの日のサガンは、冷静に、自らの勝利の射程範囲に近づくまではひたすら待った。
何しろ後方には、「サガンキラー」の異名を持つ男、グレッグ・ファンアヴェルマートが潜んでいたのだから。慎重になるに越したことはない。
いよいよ我慢できなくなったエフデジのアントニー・ルーが先頭を牽いて加速。これでウランを捉えた残り150m。ついに、サガンは発射した。
ここからの加速は圧倒的であった。ファンアヴェルマートが慌てて背中に飛び乗ろうとするが一瞬、遅かった。いや、決して再逆転されない距離まで待ち続けたサガンの戦術的勝利である。
そしてアルカンシェルが北米の地に翻った。一年前、そのジャージを獲得した記念すべき大陸で。まもなくこのジャージともおさらばすることになるだろうが、チャンピオンの名に恥じない戦い方をしてくれた一年間となった。
しかし相変わらずサガンは、アメリカとの相性がいい。その性格も十分に、アメリカ的と言えるだろうし。フォレスト・ガンプ男だしね。
■オリンピック金メダリストの勇気ある走り
モンレアルでは逆に、ファンアヴェルマートが勝利を手に入れた。
最終周回に入って飛び出したルイ・コスタを追うべく、普段は前を牽かずに勝利だけ搔っ攫う場面なども見られたファンアヴェルマートが、この日はしっかり集団を牽引しながら10%超え区間を含む難坂「ポリテクニークの丘」を高速で走り抜けた。
結果として小さくなった集団は、なかなかコスタを捕まえられないまま残り1kmのフラム・ルージュを超える。
ここで、サガンが先頭を牽かざるを得なくなった。一日目の勝利の結果、集団のサガンに対する警戒心はより強くなってしまったのだ。代わりに牽こうとするものが誰もいない中、仕方がなくサガンは自らの力を使ってペースアップを図るしかなかった。これがこの日の彼の敗因になってしまった。
その後、コスタを捕まえたのはよかったものの、カウンターで加速したアルベルト・ベッティオールを追うためにさらにサガンが前を牽く羽目に。
これを見て、残り200mでディエゴ・ウリッシが先頭に飛び出す。さらにアヴェルマートがこれに並び、サガンは前を塞がれる格好に。加速し始めたアヴェルマートの番手について飛び出しの機会を窺おうとしたサガンだが、すでに最高速度のまま最も良いタイミングでゴールに飛び込もうとしていたアヴェルマートの前に出ることは叶わなかった。
ケベックのサガンも、モンレアルのアヴェルマートも、かつての自らの「負けヴィジョン」を気にすることなく、自らの力を信じて勇気ある飛び出しを仕掛けた結果、勝利した形となった。
2人とも「セカンドゲッター」と呼ばれるほどに負けを重ねてもきていたが、世界チャンピオンとなったサガンと、オリンピック金メダリストとなったアヴェルマート。ここに来て、ついに「勝ち方」を自らのものにできた、と言えるのかもしれない。
来年は今度はアヴェルマートの連戦連勝を期待したい。夢のモニュメント勝利も、十分可能なはずだ。パリ~ルーベ辺り、狙えるのではないか。
残念だったのが、アダム・イェーツ。ケベックもモンレアルも、勝負所を前にしてずるずると下がっていく姿が映し出されてしまった。
アラフィリップとモズコンはモンレアルでも終盤まで喰らいつく姿を見せていただけに、ちょっと悔しい結果となってしまった。もちろん彼もまだまだこれから! 来期のさらなる飛躍を楽しみにしている。