2014年ツール・ド・フランスで、まるでアルプスの難関山岳であるかのような観客が集まったヨークシャー。そこから5年。再びこの地が熱狂に包まれる。
いよいよ本日の夜から開幕される2019年UCIロード世界選手権inヨークシャー。
数多くの注目レースが開催される9日間となるが、今回はその中でもとくに注目しておきたい4レースについて、そのコースの詳細を中心に解説していきたい。
調べれば調べるほど、白熱の展開を生み出す仕掛けが施された見事なコースレイアウト。
今年、世界の頂点に立つ男は誰だ?
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9/22(日) チームタイムトライアル・ミックスドリレー
21日土曜日のパラサイクリングロードレースから開幕する今年の世界選手権。
その翌日に開催される、エリート選手の登場する最初のレースが、この「ミックスドリレー(Mixed Relay)」である。
まだまだ耳慣れない人も多いと思われるこのレース、昨年までは通常のUCIチーム別で行うチームタイムトライアルとして開催されていたレースが、今年から国別の男女混合3人×3人で行うチームタイムトライアルとなった。
舞台となるのはこの後のロードレースの中心的な舞台となる「ハロゲート周回コース」。
1周14kmのアップダウンとテクニカルなコーナーに富んだレイアウト。
一番長い登りはスタート直後の長い直線路「オトリー・ロード」の途中にある、登坂距離1.6km、平均勾配3.4%の登り。
最も厳しい登りは、残り6.3kmから始まる「コーンウォール・ロード」から「ハーロウ・ロード」に続く登坂距離1.2km、平均勾配5.2%の登り。
この頂上からゴールまでは5km。最後は登坂距離600m、平均勾配2.7%の緩やかな登りフィニッシュとなる。
最大勾配でもコーンウォール・ロードとハーロウ・ロードにそれぞれ1ヵ所ずつ7%のポイントが含まれる程度。
決して厳しすぎるレイアウトではないが、とにかく絶え間なく登り下りが連続し、かつ厳しいコーナーが用意されているのが難所である。
「ミックスドリレー」では、最初に男子3名がこの周回を回り、このうち2番目の選手がゴールラインを通過した瞬間に女子3名がスタートする。
最後は女子3名のうち2番目の選手がラインを通過した時間がその国のフィニッシュタイムとなる。
8月のヨーロッパ選手権では先行してこのミックスドリレーの形式でチームタイムトライアルが開催され、オランダチームが優勝した(モレマ、シンケルダム、ボウマン、ピータース、マルカス、マッカイの6名)。
初めての試みすぎて中々予想はつかないが、この先のTT、ロードの予習という意味でも、注目しておきたいレースである。
9/25(水) エリート男子個人タイムトライアル
世界最強のTTスペシャリストを決定する重要な一戦は、ハロゲートの北方に位置する街ノーザーラートンからスタートする。
走行距離は実に52.5km。今年最も長い個人タイムトライアルである。1時間を超える戦いが繰り広げられることになるだろう。
プロフィールも決して平坦ではない。昨年のインスブルックほどではもちろんないが、それでも小刻みなアップダウンとときに鋭角なカーブが繰り返し登場し、総獲得標高は684mに達する。
それでも全体的にはカーブも含め高速で展開するため、ベルゲン、インスブルックと続いた「登坂力を有するオールラウンダータイプ」に有利な展開とはならないだろう。似たような距離、アップダウンでいえば2015年のリッチモンドが近いと言えそうで、そのときはヴァシル・キリエンカが初の世界王者に輝いている。
今年は2017年覇者デュムランがおそらく欠場。2018年覇者ローハン・デニスも、ツールでの途中リタイア騒動もあり、やや不安視されている。その中で、注目が集まるのは2017年銅メダリストのプリモシュ・ログリッチェ。ブエルタでの好調ぶりをそのまま発揮できるか。
ただ、必ずしもオールラウンダー向きではないレイアウト、としてブエルタでの疲れを鑑みて、個人的に期待したいのはブエルタ個人TTで2位だったパトリック・ベヴィン。正直、まだまだ世界の頂点に立てる実績とは言えないものの、健闘は十分にしてくれるはずだ。ブエルタも途中リタイアし、気合は十分。
もちろん、そのほかの候補としては今年のアワーレコードを更新したヴィクトール・カンペナールツや、スイスの新鋭シュテファン・キュング、2016年ドーハで3位のカストロビエホなんかも注目するべきだろう。
そしてまさかの存在、レムコ・エヴェネプール。いや、彼はすでにヨーロッパ大陸選手権で優勝している。すでにして、エリート部門でヨーロッパ最強のTTスペシャリストの称号を手に入れているのだ。
ありえなくはない話だろう。
なお、前日の24日(火)には女子エリートの個人タイムトライアルも開催される。
こちらは上記MAPの真ん中あたりあるリポン(Ripon)からスタートする全長30km、獲得標高474mのコース。過去2年は山も登れるファンフルーテン、ファンデルブレッヘンが連続してワンツーを記録している。こちらも、山がちだったこの2年と比べると顔ぶれが変わる可能性があるが、この2名は通常のTTでもずば抜けて強い選手なので、結局はファンフルーテンの3連覇が最も可能性がありそうだ。
9/28(土) エリート女子ロードレース
いよいよ9月の最後の週末に、男子・女子のロードレースが開催される。
まずは女子エリート。
ハロゲート南西のブラッドフォードをスタートし、そのまま北上。ハロゲート西方の丘陵地帯へと突入していく。
女子レースでは序盤に2つの山岳ポイントを通過する。
1つ目はノーウッド・エッジ。2つ目はロフトハウス。ロフトハウスは最大19%もの勾配が存在するという話で、標高は500mに満たないものの、決してイージーな登りではない。
とはいえ、ここで勝負が動くことはない。最後はハロゲートの周回コースを3周。
全長は150km。総獲得標高は2,394mのパンチャー向けレイアウトである。
(ハロゲート周回コースの詳細はチームタイムトライアル・ミックスドリレーの記事を参照のこと)
昨年の王者はアンナ・ファンデルブレッヘン。今年も有力候補であることは間違いない。
ただし、クライマー向けの昨年と比べ、今年はパンチャー向け。そうなると、最も注目を集める人物は、過去3回の世界王者に輝いており、今年4度目の頂点を最有力視されている「女王」マリアンヌ・フォス。
何しろ今年、このヨークシャーのような丘陵レイアウト・ゆるやかな登りフィニッシュのレイアウトでは圧倒的な勝率を誇っている。純粋な登坂力だけでいえばファンデルブレッヘンやファンフルーテンには敵わないだろうが、このパンチャー向けレイアウトにおいて、今年フォスを超える存在はいなさそうだ。
唯一、ヴォーゴーダ・ウェストスウェーデンでこのフォスのスプリントを後ろから追い抜いたロンド覇者・イタリア王者のマルタ・バスティアネッリに可能性がありそうか。
あるいは、フィニッシュでフォスにやられるのを防ぐため、早めのアタックからの独走を狙う方法。ファンデルブレッヘンやファンフルーテンがこのヨークシャーを制するには、そういう方法が必要になりそうだ。
ということで、女子レースも非常に面白そうな予感。注目選手プレビューは、また後の機会に行う予定だ。
9/29(日) エリート男子ロードレース
そして、今年の世界選手権のオオトリを飾るのが、この男子ロードレース。
全長も当然、今大会最長の285km。
総獲得標高は3,645m。
パンチャー向けとは言えないくらいに厳しい獲得標高は、このレースの展開を単純にはしない威力を誇っている。
ハロゲート南方に位置するイギリス3番目の大都市リーズをスタートする。
そこから北西に進路を取り、女子ロードと同じ丘陵地帯に突入。使用する山岳は女子ロードとはちょっと異なり、オトレーを通過したあとはバタータブとグリントンムーア。いずれも、女子ロードよりは難易度は低そうな登りだ。
やはり重要なのは最後のハロゲートの周回コース。
チームタイムトライアル・ミックスドリレーで男子・女子がそれぞれ1周し、女子ロードでも3周したこの走行距離14km、獲得標高246mの直線と鋭角カーブが入り混じったテクニカルサーキットを合計で7周する。
勝負の鍵を握るのは残り6.3kmから始まる登坂距離1.2km・平均勾配5.2%の登り。
最後のスプリントに持ち込みたくないアタッカーたちはここで確実に動いてくるだろう。アタッカーとフィニッシャーとが豊富なベルギーチームなんかでは、ティム・ウェレンスやジルベール、あるいはエヴェネプールなどの飛び出しに注意したい。
この頂上からゴールまでは5km。抜け出した数名と追走集団との追いかけっこが熾烈を極める。この追走集団にどれだけアシストを残せているかが、勝負の分かれ目となるだろう。
最後のフィニッシュも平坦ではない。ただし、登坂距離600m・平均勾配2.7%とスプリンターでもこなせる緩やかさではある。
誰にとってもチャンスのあるレイアウト。そして予想のつかない飛び出しが必ずかかりそうなレイアウト。
「ラスト6km」の激しい攻防戦からは、決して目を離すことはできなさそうだ。
この地域に多い悪天候が更なるスパイスを加える可能性も・・・。
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