激動のカンタブリア、そしてアストゥリアスでの山岳ステージを乗り越えてきたプロトンは、いよいよ首都マドリード周辺を舞台とした第3週へ。
平坦ステージ3つ、山岳ステージ2つとある意味極端なステージ構成。ただ、平坦とはいえフィニッシュが登りだったりと、ピュアスプリンター向けのステージが多いわけでは決してない。中にはツール・ド・フランスであれば丘陵ステージにしてもおかしくはないステージも十分にあるだろう。
そして山岳は山岳で、第1週や第2週の厳しさはない。2つのうち山頂フィニッシュは1つだけ。そちらも3級山岳のそれと、イージーだ。
ただ、山頂フィニッシュではない第18ステージは、4年前のブエルタでマイヨ・ロホを巡る大逆転劇が繰り広げられた運命のステージ。
すでにプリモシュ・ログリッチェによる盤石な体制のように思える今年の総合争いだが、最後まで何が起こるかわからない、それがブエルタだ。
↓全チームのスタートリストと簡単なプレビューはこちら↓
- 第17ステージ アランダ・デ・デュエロ〜グアダラハラ 219.6km(平坦)
- 第18ステージ コムニダ・デ・マドリード〜ベセリル・デラ・シエラ 177.5km(山岳)
- 第19ステージ アビラ〜トレド 165.2km(平坦)
- 第20ステージ アレナス・デ・サンペドロ〜プラタフォルマ・デ・グレドス 190.4km(山岳)
- 第21ステージ フエンラブラダ〜マドリード 106.6km(平坦)
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第17ステージ アランダ・デ・デュエロ〜グアダラハラ 219.6km(平坦)
首都マドリード北方、カスティーリャ・イ・レオン州のアランダ・デ・デュエロから、マドリード北東約60kmに位置するカスティーリャ=ラ・マンチャ州のグアダラハラへ。第17ステージにして、旅の終着点マドリードに限りなく近接する。
この日は今大会最長ステージ。そして平坦カテゴリをつけられ、山岳ポイントが1つも登場しない。
だからといって、ピュアスプリンター向けのオールフラットなステージ、では決してない。そもそも大会公式サイトにも「完璧な逃げの機会」と記載されている。実際、コースプロフィールを見てみると、ツール・ド・フランスならば4級山岳や3級山岳が連続しそうなアップダウンに富んでいる。
よって、この日もそれなりの数の逃げ集団が生まれ、最後の最後まで彼らによる逃げ切りが試みられることだろう。第3週に入り、スプリンターやそのチームも随分と疲弊している。さらに言えば、最後のフィニッシュ地点も、ピュアスプリンターたちにとっては決してやさしくない登り勾配。
まったく信用できないこの断面図をあえて信用するならば、残り3km地点からフィニッシュまで2~3%の勾配といったところ。たとえばサム・ベネットのような少しは登れるスプリンターであれば十分に攻略できるようなレイアウトではあると思うが、ブエルタの場合はどこに悪意が紛れ込んでいるか分からないので、不安。
第18ステージ コムニダ・デ・マドリード〜ベセリル・デラ・シエラ 177.5km(山岳)
マドリードの北方に広がるグアダラマ山脈を舞台にした山岳ステージ。
山頂フィニッシュではないが、この断面図はオランダ人たちにとってある種のトラウマを呼び起こさせる。
すなわち、ほぼ同じレイアウトで繰り広げられた、4年前の第20ステージ。
マイヨ・ロホを着たオランダ人トム・デュムランがアスタナの猛攻撃の前に崩れ、あと一歩のところで総合優勝を奪われてしまったのだ。
当時、アシストに恵まれず孤独な戦いを強いられていたオランダ人オールラウンダーに対し、オランダチームのロットNLユンボが「手助け」を申し入れたという。
そのときは丁重に断られたというロットNLユンボは、翌年のジロで似たような経験を味わう。
そのチームは今、ユンボ・ヴィズマと名を変え、スロベニア人ライダーをエースに据えてチームとしては12年ぶりのブエルタ制覇を目指す。
今度はアシストは十分。強力な布陣に守られて、ログリッチェは盤石の構えである。
ただし、アスタナも諦めてはいないだろう。4年前のあの日、オランダ人に悪夢を味合わせたルイスレオン・サンチェスも健在だ。つい先日、ステージ優勝もあげたフルサングも調子は良さそうで、ロペスのアタックの切れ味も鋭い。
ロペスとのタイム差は4分近くあるが、4年前もデュムランはこの日だけで3分52秒を失った。何が起こるかわからないブエルタの3週目。最後の瞬間まで、気を抜けない。
第19ステージ アビラ〜トレド 165.2km(平坦)
カスティーリャ・イ・レオン州のアビラから、マドリードから南に71kmのカスティーリャ=ラ・マンチャ州のトレドまで。ギリシャの英雄ヘラクレスによって建てられたというアビラには世界遺産の「 アビラ旧市街と市壁外の教会群」が。そしてトレドは「町全体が博物館」と呼ばれるほど、様々な文化と宗教とが混ざり合った建築物群が美しい。スペイン文化を巡る一日となりそうだ。
マドリードに至るまでの間、最後に許されたスプリンターたちのための平坦ステージである。
嘘だ。
ラスト1kmはかなりしっかりとした登り勾配。しかも石畳。
2010年にも同じ登りでフィニッシュしているようだが、その時の勝者はフィリップ・ジルベール。
結局、このブエルタに本当の意味でスプリンターのためのステージは存在しない。そりゃブエルタだし、仕方ない。
第20ステージ アレナス・デ・サンペドロ〜プラタフォルマ・デ・グレドス 190.4km(山岳)
2019年ブエルタの総合争い最終決戦の舞台は、マドリード西方のグレドス山脈で繰り広げられる。4つのカテゴリ山岳とノンカテゴリの登りとを含んだ小刻みなアップダウンを乗り越えて、残り48kmから始まる1級山岳ペニャ・ネグラ(登坂距離14.2km、平均勾配5.9%)の登りが、今大会の実質的な最後の戦いの舞台となるだろう。
見てわかるように、難易度の高い登りではない。マイヨ・ロホを着たリーダーチームが難なくこなしていくと考えるのが自然なところだろう。
しかし、過去4年のブエルタで、この第20ステージにおいて表彰台の顔ぶれが入れ替わる事態が巻き起こっている。3週間の疲労の蓄積は、ライダーたちに予想のつかない変化をもたらしうるに十分なものである。ログリッチェはもしかしたら、ジロの失敗も踏まえ、盤石なままでこの日を終えるかもしれない。ただたとえば、ここまでの時点でタデイ・ポガチャルがなお表彰台を守っていたとしたら? 20歳の若き王候補は、無事にこの日を終えることができるだろうか。
シーズン最後のグランツールであり、シーズンで最も予想のつかないグランツール。
今年のブエルタの、そして2010年代最後のグランツール覇者が、事実上この日の最後に確定する。
第21ステージ フエンラブラダ〜マドリード 106.6km(平坦)
いよいよ激動の3週間は最終幕へ。
「神の子」フェルナンド・トーレスの生誕地フエンラブラダを出発し、プロトンはスペイン首都マドリードへ。
ここまで、平坦ステージが極端に少なく、そして少ない平坦ステージですら登りフィニッシュだったりするような実に厳しい3週間を生き延びてきたスプリンターたちにとって、この日は大きなチャンスとなる。
昨年のツールでマイヨ・ジョーヌを着たフェルナンド・ガビリアはここまでまったく目立てていない。果たしてこの日に結果を出せるか? チームメートの強力な牽引に助けられ、ギリギリで何とか1勝をもぎとっているファビオ・ヤコブセンはそのキャリアにおける最大の勝利をもう1つ付け加えることができるか。
ただ、やはり最大の本命はこの男だと思う。昨年ジロ3勝。そして今年、ビンクバンク・ツアー以降、ブエルタ第2週までのすべてのスプリンターズステージで勝利か僅差の2位を続けている今大会最強の男、サム・ベネット。もし彼を打ち倒したいのであれば、最後の1kmを超高速トレインで駆け抜けて、彼をアシストから引き離して孤独にさせることだ。
そうでなければアイルランドの巨人は容赦なく勝利を独占してしまうだろう。今年最後のグランツール勝者は、誰だ?
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