略号:TJV
国籍:オランダ
GM:リチャード・ブルッヘ
創設年:1984年
使用機材:ビアンキ
まだ全チームのスタートリストが出そろっていない現段階でも、総合優勝争いにおける今大会最強チームであると断言して、まず間違いないだろう。
今年シーズン前半のワールドツアーレース全てにおいて総合優勝を果たした「今年最強の男」の一人、ログリッチェを頂点に置き、今年のツール総合3位のクライスヴァイク、そして昨年ブエルタ総合10位のジョージ・ベネットなど、トリプルエースと言っても差し支えないのないほどのラインナップで挑む。
もちろん、ログリッチェは今年のジロで「失敗」した。しかしその要因は、シーズン序盤から飛ばし過ぎたことと、山岳アシストを若手で揃えすぎてしまったこと。
その2つの問題は今回クリアーしてきている。ログリッチェは十分すぎるほどの休養を取ってきた。そしてアシスト陣には、先の2名に加えて、ロベルト・ヘーシンクという強力なベテランクライマーを加えた。
さらに、ツールの時のように、エーススプリンターとの二頭体制でもない。総合優勝争いにのみフォーカスしている。ジロ以降ほぼレースに出場していないログリッチェに対する不安要素へのカバーとして、クライスヴァイクをエースに切り替える選択肢も用意している。
まさに隙のない布陣。今回のブエルタ、ジロのとき以上に本気で、頂点を狙いに来ている。
※年齢はすべて2019/12/31時点のものとなります。
※身長、体重はProCyclingStatsを参照しております。
- プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、30歳)
- ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、32歳)
- ジョージ・ベネット(ニュージーランド、29歳)
- セップ・クス(アメリカ、25歳)
- ロベルト・ヘーシンク(オランダ、33歳)
- ネイルソン・ポーレス(アメリカ、23歳)
- レナード・ホフステーデ(オランダ、25歳)
- トニー・マルティン(ドイツ、34歳)
- 総評
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プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、30歳)
オールラウンダー、177㎝、65㎏、出場日数:42日
昨年ツール総合4位。着実にグランツールライダーとしての可能性を高めつつある「遅れてきた新人」は、今年シーズン開幕と同時にフルアクセルの状態であった。
UAEツアー、ティレーノ~アドリアティコ、ツール・ド・ロマンディ。ジロまでの間に出場したレースはこの3つだけで、すべてがワールドツアーであり、そしてその全てで総合優勝。誰が見ても、完璧な状態だった。
しかし、いささか飛ばしすぎたのかもしれない。ジロ・デ・イタリア本番では、最初こそ完璧な走りを見せていたが、やがてアルプスの厳しい山岳ステージが始まる後半戦になってくると、少しずつその勢いを落とし始めた。若手中心に構成されたチームメンバーが、同じく後半の山岳地帯で最後まで先頭まで残れず、ログリッチェが一人で状況に対応せざるをえないシチュエーションが多くなってしまったことも、敗因の1つではあるだろう。
そして今回、彼はリベンジを決意した。当初は出場回避の噂もあったが、最終的に出場を決めたのは、戦いに赴くのに十分な状態になったことを示しているだろう。ジロ以降、国内選手権以外の出場レースは一切なし。しかし直前までシエラネバダでの高地トレーニングには勤しんではおり、フィジカル面もメンタル面もしっかりと回復した状態で今回のジロに突入する予定だ。
序盤の立ち上がりはそこまででもないかもしれない。だがジロのときとは逆に、後半、足が乗ってきたタイミングで、その実力が存分に発揮されていくに違いない。彼を支えるメンバーも、ジロの反省を生かし、若手の実力者から中堅以上のベテランまでしっかりと揃っている。何よりも、ツール総合3位のクライスヴァイクもまた、昨年のツールに続きアシストに回ってくれる。
ジロでの大きな失望を乗り越えて、再びログリッチェは総合優勝最有力候補としてグランツールに戻ってきた。今度はきっと、栄光をその手に掴むことができるはずだ。
ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、32歳)
オールラウンダー、178㎝、66㎏、出場日数:47日
この夏、彼は念願のツール・ド・フランス総合表彰台に立つことができた。それもチーム内にエーススプリンターを抱えた両頭体制の中で。それは彼にとって大きな自信となったことだろう。
今回は、チームの先頭にログリッチェを置いている。つまりは、昨年のツール同様の体制で挑むことになる。まずは、ログリッチェのアシストというのが彼の役割の第一だろう。彼自身もツールでの疲れは不安要素のはずだから。
しかし、ログリッチェもまた、ジロ以降ほぼ公式レースに出場していない身であるため、コンディション面は不安要素も残る。いざというときの「ダブルエース」であることもまた、今回のクライスヴァイクに求められた役割であるはずだ。
その体制はすでに昨年のツールで存分に発揮された。今回のブエルタは、そういった面でもこのチームが「完璧な体制」であることを示している。
ジョージ・ベネット(ニュージーランド、29歳)
クライマー、180㎝、58㎏、出場日数:51日
昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ総合10位の男は、今回のブエルタでエースとして走る可能性も十分にあっただろう。しかし、今年のツール・ド・フランスにおいて、彼は最強のアシストとして、クライスヴァイクの総合3位を実現させた。
その完璧なアシスト力が、今度はログリッチェの総合優勝を実現するためのピースとして、チームから求められることとなった。
複雑な思いもあるだろう。だがこの男は、その役割を誇りをもって成し遂げてくれるに違いない。ログリッチェが(あるいはクライスヴァイクが)グランツールの表彰台の真ん中に立てたとき、そのときには必ず、この男の存在が大きな意味を持っているはずだ。
セップ・クス(アメリカ、25歳)
クライマー、180㎝、64㎏、出場日数:48日
昨年のツアー・オブ・ユタにて、ステージ3勝と総合優勝を成し遂げ、一気に頭角を現した。その直後に出場したブエルタ・ア・エスパーニャでは、第9ステージの超級「ラ・コパティーリャ」の、十数名にまで絞り込まれた最終盤において、ベネット、クライスヴァイクの2人を先導する役目を担い、あまりにも強力過ぎて彼らを引き千切りかねないほどのアシスト力を見せつけていた。
そしてその仕事をしたうえでその日30秒遅れでフィニッシュをしているあたり、底の知れない実力の高さを感じさせていた。
ただし、そのブエルタでは第2週・第3週ではすっかりと鳴りを潜めていた。今年のジロでもログリッチェを支える期待のアシスト陣の1人として抜擢されたが、やはり第2週・第3週のステージ終盤になると、先頭に残ることができずに姿を消すことが多くなっていた。
実力は間違いないが、まだまだグランツールでのペース配分に難がある、ということか。そのあたり、今回で3度目となるグランツール、挽回する姿を見せてほしい。
今年最も活躍に期待したい選手の1人である。
ロベルト・ヘーシンク(オランダ、33歳)
クライマー、189㎝、70㎏、出場日数:23日
本来であれば、ジロ・デ・イタリアにも、ツール・ド・フランスにも出場するはずだった。しかしリエージュ~バストーニュ~リエージュでの落車骨折の影響が長引き、その両方において欠場。とくにジロにおいては、彼の不在こそがログリッチェの「失敗」の大きな要因であったと見る向きも多い。
すなわち、若手だけでは不十分な、ベテランとしての経験の豊富さ。ヘーシンク自体もかつてはオランダ人総合エースとしてラボバンク時代からこのチームで走り続け、ツール・ド・フランスでは最高で総合4位にまで上り詰めた経験を持つ。
今回は、なんとか完全復活を遂げブエルタに参戦できることに。その存在がもたらす安心感は、ログリッチェにとってこの上なく大きいものとなるだろう。
このチームに必要だった最後のピースが、これで嵌ったことになる。
ネイルソン・ポーレス(アメリカ、23歳)
オールラウンダー、183㎝、67㎏、出場日数:40日
アクセル・メルクスの運営するアメリカ籍の有力育成チーム「アクセオン・ハーゲンスバーマン」出身の才能あるクライマー。アクセオン時代に出場したツアー・オブ・カリフォルニアでは、ジブラルタルロード山頂フィニッシュで、ワールドツアーのベテラン選手たちに負けない走りを見せつけ、最終的にも総合9位。わずか20歳のときの成績である。同年のツール・ド・ラヴニールでも1勝。
プロデビューを果たした昨年は正直、期待されていたほどには振るわないシーズンを過ごすこととなった。しかしもちろん、まだ若くこれからの選手。ここまで積み重ねてきた経験をもとに、今回いよいよグランツール初挑戦。ベテランも多い恵まれた環境の中で、まずは大きな飛躍をとげるきっかけを掴み取ってほしい。
なお、TT能力の高さも大きな特徴のこの選手、もしかしたら山岳よりも平坦での仕事を任されることも多くなるかもしれない。
レナード・ホフステーデ(オランダ、25歳)
ルーラー、出場日数:44日
昨年まではチーム・サンウェブ所属。まだまだその脚質は固まりきっておらず、クライマーともルーラーともつかない。今回のメンバーの中ではどちらかというと平坦を中心としたルーラー的役割を任されることとなるだろう。
そして集団内でのアシスト能力が十分であることは、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでのワウト・ファンアールトのための動きからも十分に推察できる。地味な役回りが中心になるかもしれないが、彼もまた今回のユンボの「最強メンバー」の1人である。
トニー・マルティン(ドイツ、34歳)
TTスペシャリスト、出場日数:60日
今回のユンボ・ヴィズマのロースターはかなり強力な布陣ではあるが、唯一といっていい懸念が、明確な平坦アシストの少なさであった。
が、ツイッターでもコメントをもらっていたが、平坦アシストという意味ではこのマルティンが1人で3人分の働きをしてくれるので問題ない。ツール・ド・フランスでもひたすら牽いていた。本当すごい。凄すぎる。
初日のチームTTでも、彼がいるだけで一気に優勝候補となるだろう。そこにログリッチェやクライスヴァイクやポーレスがいるのだから、本気でどれくらいタイムを稼げるか楽しみになってくる。
もちろん、ポーでの個人TTでの優勝も期待したくなるが、ツールでも個人TTはかなり抑えていた。今回も同様の手法をとる可能性は十分あるだろう。
かつての世界最強TTスペシャリストは、いまやチームのアシストとしての仕事に専念することとなった。それは一抹の寂しさを覚えつつも、しかし最強を目指すチームにとっては、この上なく頼りになる存在であるだろう。
総評
合計:18点
極端なまでに総合争い全振り。山岳逃げで逃げ切りを狙えるだけの実力をもった選手もいるだろうが、基本は逃げても前待ち、よほど大きなタイム差がつかない限り、最後まで勝利を狙って走るということは多くなさそうだ。
その一方で総合エースの実力、そして山岳アシスト陣の豊富さは他に類を見ないレベル。ここまでしたからには、なんとしてでも勝たねばならない。
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