「二つの海を結ぶレース」が今年も全日程を終えた。
今年はアペニン山脈越えにおいて本格的な標高をもった山頂フィニッシュを用意しなかったことで、個人TT能力に秀でたオールラウンダーや、TT能力も高いパンチャーの活躍に注目が集まった。
その中で、最も良い形で進めることができたのがプリモシュ・ログリッチェ。
しかし一方で、チームTT、個人TTともに予想以上の力を見せつけたミッチェルトン・スコットとアダム・イェーツの走りも賞賛に値するものだった。
今回も全ステージの結果とその勝ち方について簡単にレビュウしていく。
- 第1ステージ リード・ディ・カマイオーレ~リード・ディ・カマイオーレ 21.5km(TTT)
- 第2ステージ カマイオーレ~ポマランチェ 195km(丘陵)
- 第3ステージ ポマランチェ~フォリーニョ 226km(平坦)
- 第4ステージ フォリーニョ~フォッソンブローネ 221km(丘陵)
- 第5ステージ コッリ・アル・メタウロ~レカナーティ 180km(丘陵)
- 第6ステージ マテーリカ~イェージ 195km(平坦)
- 第7ステージ サン・ベネデット・デル・トロント~サン・ベネデット・デル・トロント 10.05km(個人TT)
- 総合成績
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第1ステージ リード・ディ・カマイオーレ~リード・ディ・カマイオーレ 21.5km(TTT)
毎年恒例のカマイオーレ直線チームタイムトライアル。
昨年まではBMCレーシングチームが3連覇。しかしそのBMCはすでに崩壊して存在せず、代わって注目されたのが、プリモシュ・ログリッチェ、トニー・マルティン、ヨス・ファンエムデンという超強力なTTスペシャリストを揃え、UAEツアーでもチームTTを制していたユンボ・ヴィスマ。
実際、今回も非常に強かった。UAEツアーのときよりもTTスペシャリストの数を増やして本気の体制だったサンウェブに対して15秒も差をつける圧倒的な走り。
しかし、そのユンボ・ヴィスマをさらに7秒上回り優勝したのがミッチェルトン・スコット。
あまりの事態に驚愕するユンボ・ヴィスマ陣営の姿がこちら。
なお、その実力についていえば間違いなくユンボ・ヴィスマを上回るものではなかったはずのミッチェルトンがいかにしてこの日勝利を掴んだか、については以下の動画で詳しく解説してくれているので参考までに。
第2ステージ カマイオーレ~ポマランチェ 195km(丘陵)
ラスト7kmに緩急含めた登りが連続するパンチャー向けレイアウト。
勝負が動いたのは残り4km。
フルサングのリードアウトを受けてルツェンコがアタック。すかさずログリッチェ、アダム・イェーツ、そしてアラフィリップといった面々がこれをチェックする。
残り3kmで今度はログリッチェがアタック。ルツェンコとサイモン・クラークが追随し、メイン集団からはデュムランが抜け出してブリッジを試みた。
アラフィリップはこの動きには反応しなかった。
代わりにチームメートでオンループ覇者、そして過去にこのポマランチェでゴールするステージを制したことのあるゼネク・スティバルが4名の先頭集団にブリッジした。
スティバルの動きは、クラシックにおける彼のいつもの役割である。
すなわち、先行して危険な逃げをチェックし、これを抑える役割。オンループではこれが逆に彼にチャンスをもたらした。
彼が前に出たことで、アラフィリップは無理に動き必要がなかった。逆にログリッチェは積極的な動きを繰り返した。残り1kmを前にした彼の2度目の動きには、今度こそしっかりとアラフィリップが反応した。
これを捕まえるべく、メイン集団の先頭を引っ張ったのがファンアーフェルマート。
彼の努力は実り、先行していたアラフィリップとログリッチェとルツェンコは集団に吸収された。
しかしその代償にファンアーフェルマートは最後のスプリントでもがききる力を残していなかった。2度もアタックしたログリッチェも。ファンアーフェルマート同様ブリッジを仕掛けていたデュムランも。
ただ1人、積極的な動きはチームメートに任せ、自らはライバルの背中を取ることだけに集中していたアラフィリップだけが、100%の力でスプリントに挑むことができていた。
かくしてアラフィリップは勝利を掴んだ。
これはもう、彼と彼のチームが得意なクラシックそのものだった。
クラシック常勝軍団クイックステップは、同じ勝ち方でステージレースでの勝利も取り漏らすことがないようだ。
第3ステージ ポマランチェ~フォリーニョ 226km(平坦)
サガン、ガビリア、ヴィヴィアーニ。
今大会最強の3人によるマッチスプリント。その他のスプリンターたちは少し蚊帳の外といった感じだった。
この日のリードアウト役はモルコフでもリケーゼでもなく、前日も活躍していたスティバル。
しかしこのリードアウトから最大の恩恵を得ていたのはヴィヴィアーニではなくサガン。最高のタイミングで最高のスプリントを開始した、はずだった。
だがさすがのサガンも、ピュアスプリントではNo.1にはなれない。
このサガンの背中についていたヴィヴィアーニが何の問題もなくするすると前に出て、そしてその後ろから更なるスパートを試みていたガビリアも、結局横に並ぶことすらできないまま、ヴィヴィアーニの後塵を拝した。
ガビリアvsヴィヴィアーニの頂上決戦はこれにて2vs2。
UAEツアーではクリストフの力を借りて2勝1敗で終えられたガビリアも、今回は完敗だった。
あとは第6ステージにもう1度チャンスがある。そこでガビリアは勝ち越すことができるか?
第4ステージ フォリーニョ~フォッソンブローネ 221km(丘陵)
アペニン山脈越えのアップダウンステージ。
ジェットコースターのような登り下りの中、その下りで落車が多発。チーム・ユンボ・ヴィスマの新人賞ジャージ着用者ローレンス・デプルスやトニー・マルティンなどが次々と落車する事態に。
そんな中、残り38kmから独走態勢に入ったルツェンコもまた、2度にわたる落車に見舞われた。しかし落車の際のブレーキングの仕方や、落車後の立ち上がり方などは洗練されており、ほとんどタイムロスのないままに復帰。
しかしさすがに2度目の落車の際には、いよいよ追走を仕掛けてきていたログリッチェ、イェーツ、フルサングの3名に捕まってしまう。
しかしここからがドラマだった。
ずっと1人で逃げてきたはずのルツェンコ。
しかし残り100m。何度も振り返っていたログリッチェが前を見た瞬間に、その背中から飛び出したルツェンコ。ログリッチェが左を向いてこれに気がついてスプリントを開始したとき、すでにルツェンコはトップスピードに乗っていた。
元よりアダム・イェーツはそこまでスプリントのライバルではない。怖いのはログリッチェだけだったが、追いすがるログリッチェに対し、ルツェンコも最後まで踏み切って、ギリギリで逃げ切りを果たした。
まさに、エスケープスペシャリストの面目躍如。しかし40km近い単独逃げからのスプリントで、よく勝利できたな・・・。
パリ~ニースでも逃げ切り勝利経験のある彼も、ティレーノ~アドリアティコでは初勝利。当然、カザフスタン人としても初のティレーノ~アドリアティコ制覇である。
第5ステージ コッリ・アル・メタウロ~レカナーティ 180km(丘陵)
終盤に最大勾配20%と19%の2つの激坂を含んだ周回コースを3周する。
本格的な山頂フィニッシュが用意されていない今大会においてはクイーンステージと呼べる日で、最終日個人TTを前にして総合2位のログリッチェに対して7秒しかタイム差をつけられていないアダム・イェーツにとっては、この日どれだけのタイムを稼げるかが重要になるステージだった。
その中でまず動いたのは、1分19秒遅れの総合8位、ヤコブ・フルサング。
最終周回に入る直前の、最後の激坂「ポルタ・ドージモ」の最大勾配19%区間で一気にペースを上げ、集団から抜け出した。
この動きに対して、総合上位勢は互いの牽制に明け暮れ、本格的に捕まえにかかる動きはできずに終わった。
結果、フルサングがそのまま独走勝利。総合順位も一気にジャンプアップし、見事最終日の総合表彰台への大きな切符を手に入れた。
一方、この日何とかログリッチェとのタイム差をつけたいアダム・イェーツも、最終周回の最初の激坂「サン・ピエトロ」でアタックを仕掛けた。
イェーツの攻撃にログリッチェはついていくことができなかったが、その後の下りと平坦とでしっかりと喰らいつき、2人の戦いはいよいよ最後の「ポルタ・ドージモ」に委ねられた。
そしてゴールまで残り2kmのこの激坂で再びイェーツがアタック! 今度もログリッチェはついていけない。
そして、今度は追い付くための下りや平坦は残されていなかった。
結果、ログリッチェに対して16秒とボーナスタイム2秒を獲得し、総合タイム差を25秒にまで広げたアダム・イェーツ。
この25秒でもって、最終日個人TTに臨むこととなった。
第6ステージ マテーリカ~イェージ 195km(平坦)
今大会2度目のスプリントステージ。
レースを支配したのはドゥクーニンク・クイックステップ。ただし、勝ったのはその絶対的エーススプリンターのエリア・ヴィヴィアーニ・・・ではなく、リードアウターとして走っていたはずのアラフィリップだった。
確かにゴールはやや登っていた(2%程度)。だがそれだけなら、ヴィヴィアーニでも十分にこなせるレベルだっただろう。
実はゴール前にヴィヴィアーニがアラフィリップに対して「行けそうならスプリントしてみるか?」といったことを話していたそう。
フィニッシュ前の状況としては、モルコフとリケーゼがまずはアラフィリップを牽引。そのとき、ヴィヴィアーニと、おそらく彼を警戒していたであろうサガンも集団内で番手を下げており、アラフィリップの動きに反応できたのはグレッグ・ファンアーフェルマートのみ。
しかしこのファンアーフェルマートもアラフィリップの加速についていけず引き離され、その背後にいたサガンも思うように加速するスペースを確保できず、結果としてアラフィリップだけが抜け出た形となった。
ヴィヴィアーニが位置取りを失敗してしまったのか、それともライバルを混乱させるためにあえてあの位置にいたのかわからないが、結果としてこの動きが、最も恐れるべきライバルに勝負をさせなかったという点で非常に良い働きとなった。
また、もう1人の強力なライバルであるファンアーフェルマートを突き放すほどの加速を見せた点で、やはりアラフィリップは、とくに今年のアラフィリップは本当に強い。
第7ステージ サン・ベネデット・デル・トロント~サン・ベネデット・デル・トロント 10.05km(個人TT)
毎年恒例の最終日直線個人TT。これまでは2年連続でローハン・デニスが勝利していたものの、今回は8位と苦しい結果に。タイム的にも例年より15秒前後遅くなっている。
今年はオーストラリア選手権個人TTでも優勝を逃しているデニス。そのときは「足は動いていたように感じたのに、なぜ勝てなかったのか自分でもわからない」旨の発言をしており、引き続きメリダバイクとの相性が不安視されている。
逆に、例年はこの最終日TTでそこまでの結果を出せていなかったカンペナールツが今回初勝利。アワーレコード挑戦のためのメキシコ行き前最後のレースを、大きな自信につながる勝利で終えることができた。
驚くべき走りを見せたのは2位のベッティオル。今年26歳になる彼は、第2・第4ステージの上位にも食い込んできている、今注目の新鋭パンチャー。ミラノ〜サンレモでも終盤に攻撃する姿を見せるなど、今後も活躍しそうなアグレッシブな選手だ。
総合成績
ログリッチェとユンボ・ヴィスマは非常に強かった。彼らはただ強いだけでなく、とにかく安定感がある。ゆえにこの勝利ももはや驚きはなく、なるべくしてなった、という印象が強い。
それがゆえに、1秒差で総合2位につけたアダム・イェーツとミッチェルトン・スコットの走りには驚きを隠せない。冒頭にも記事として挙げたが、彼らが今後、ツールに向けてさらにチーム力を高めていくことに期待したい。
もう1人注目しておきたい選手が総合8位のサイモン・クラーク。昔から丘陵系ステージのアタックに強い彼が、今回本格的な山岳がないことをいいことに総合上位に入り込んできた。ベッティオルと並び、直近のミラノ~サンレモでも終盤でアタックしていたりと、非常にアグレッシブな走りに、ワクワクさせられる。
純粋な総合やスプリントではなかなか勝ちきれないEFにとって、こういう選手は貴重だろう。ジロあたりならば十分にステージ優勝も狙えそうだ。
結果として、いつもの「山岳ステージと総合はクライマー、スプリントステージはスプリンター、丘陵ステージはパンチャー」と、各ステージ活躍する選手がバラバラでそれぞれの戦いが繰り広げられていた感のあったいつものティレーノと違い、TTとパンチャーステージのどちらが総合において比重が高くなるか簡単には予測しづらいステージ構成、スプリントステージも一筋縄でいかないためにパンチャーたちにも活躍の機会のあるレイアウト、というのは新鮮な面白さがあった。
ややTTの比重が相対的に高くなりすぎてしまうのは一長一短あるものの、今年に関していえば、パリ~ニースよりもティレーノ~アドリアティコの方が面白かったかな、という感じを受けることとなった。
来年はどんなコース設定でくるか、楽しみである。
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