コースプレビューに引き続き、今大会で活躍しそうな選手を総合優勝候補とスプリンター勢とに分けて紹介していく。
今大会の大きな特徴は、本格的な山頂フィニッシュがないことから、普段は総合を狙うのが難しいパンチャー勢にもチャンスがあること。
ただし山頂フィニッシュがないということは、すなわち通常のステージでつけられるタイム差が大きくないということなので、相対的に初日のチームTTと最終日の個人TTとでついてしまうタイム差が重要な役割を果たしうるということだ。
今回のチームTTでは強いチームとそうでないチームとのタイム差は最低でも30秒はつく可能性があるし、個人TTでも得意な選手とそうでない選手とでは20秒は覚悟しておいた方がよい。
そこで、以下では、チームTTが強いチームにいるTTスペシャリスト系オールラウンダーと、TTも強いパンチャーとに分けて総合優勝候補を紹介。
そのあとに有力スプリンターたちを紹介していく。
※年齢はすべて2019/12/31時点のものとなります。
総合優勝候補(オールラウンダー系)
プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)
昨年ツール・ド・フランス総合4位。
ティレーノ~アドリアティコでは2年前に総合4位となっている。
今年は2月のUAEツアーで総合優勝。初日のチームTTで優勝すると共に、2つの山頂フィニッシュでも常に先頭集団でゴールする強さを見せた。
今回もUAEツアー同様にトニー・マルティンとヨス・ファンエムデンを連れてきており、引き続きチームTTで優勝する可能性はあるだろう。
問題はパンチャー向けのステージだが、昨年の第3ステージや2年前の第5ステージもどちらかというとパンチャー向けのステージで、それぞれ1位・3位と好成績を残しているので、彼にとって弱点とはならないだろう。
今年のUAEツアーでもハッタ・ダム頂上フィニッシュで3位に入るなど、激坂適性も高くなっている。
トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)
UAEツアーのチームTTでは2位。
しかもそのときよりもTTスペシャリスト多めの布陣で挑んでおり、スプリントも意識していたあのときと違って、今回は本気でデュムランの総合優勝を狙っている気がする。
課題は激坂。
激坂が苦手というわけではないが、それを先頭で通過するのは得意ではない。
ここで遅れても得意のペース走行でリカバリーできる強みはあるのだが、問題はその激坂の頂上からゴールまでの距離である。
たとえば昨年のインスブルック世界選手権ロードでは、最後の激坂グラマルトボーデン(ヘッレ)の頂上からゴールまでの距離は8km。その残り1.5kmで先頭に合流した。
2年前のストラーデビアンケでは、152.2km地点の急坂の途中で置いていかれ158km地点の登りの途中で追いついている。
今大会の第4ステージの最後の登りからゴールまでは5.6km。
第5ステージに至っては1.8kmしかない。
TTでタイムを稼げる相手にならまだしも、同じくTTに強いライバルにここでタイム差をつけられるとかなり厳しい。
果たして今回のコースを、デュムランはうまく乗り越えることができるか?
ゲラント・トーマス(イギリス、スカイ)
ティレーノ~アドリアティコは2017年に初出場し総合5位。
しかもこの年は初日のチームTTでトラブルに見舞われたうえでのこの結果だった。
昨年は総合3位だったが、総合リーダージャージを着たまま挑んだクイーンステージでのチェーントラブルで大きくタイムロスした末に、チームメートのクウィアトコウスキーの総合優勝を支える側に回ったがゆえの結果だった。
すなわち、彼はティレーノ~アドリアティコで総合優勝を飾る実力は十分にありながら、これまでは不運によりその機会を失っていただけに過ぎない。
チームTTの実力にも恵まれ、10km程度のTTにも強いトーマスは、今大会、みたび不幸に襲われさえしなければ、最有力選手といっても差支えがない。
もちろんチームの高いアシスト力を完全に活かすためには長い登坂の山頂フィニッシュがあった方が向いてはいる。
しかし昨年の第3ステージ、トレヴィの20%激坂フィニッシュにおいてもログリッチェに7秒遅れの4位につけるなど悪くない走り。
元々はクラシックも得意なタイプではあり、大きく崩れることはないはずだ。
チームメートのモスコン、プールスもTTおよびアルデンヌクラシックに強いタイプのため、チャンスは十分にあるだろう。
昨年がそうであったように、レースの展開次第で誰がエースになるかは柔軟に変わるチームだと思われる。
ローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ)
最終日個人TTで連覇中。今年も最有力候補である。
新チームでのチームTTも3位と大健闘。そのときと同じくニバリやトラトニックがいるため、今回も同じく好成績を期待できるだろう。
もちろん、彼を総合優勝候補と考えるうえでの違和感は2つある。
1つは彼のチームメートにはヴィンツェンツォ・ニバリという、過去2回このレースを総合優勝している絶対的エースがいること。
そしてもう1つは、彼は今、総合エースを担うつもりはまだなく、事実UAEツアーでも全く興味がなさそうな走りであったことである。
しかし、そこにはもちろん今年のコースの問題が横たわる。
通常の総合系ライダーにとって重要な山頂フィニッシュは存在しない。ちなみに2016年のティレーノ~アドリアティコで山頂フィニッシュステージが大雪でキャンセルされたとき、ニバリはかなり悔しさを滲ませたコメントを残していた。それだけ彼にとって、本格的な山岳ステージは重要だったのだ。であれば、今大会は彼にとって最適な大会とは言えないだろう。
逆に純粋なクライマーとしての調整を進めてはいない選手にとっては、相対的に有利なレースでもある。デニスも、最終日での逆転が狙えるのであれば、まずは総合上位をキープすべく喰らいつく走りを見せるのでは。
2年前は総合2位。取れるものは取っておきたいところだ。
ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)
ここまでの面子と比べると意外に思われるかもしれないが、コースプレビューでも述べたように、今大会のグルパマFDJは、チームTTでの好成績が期待できる。
また、ティレーノ~アドリアティコの個人TTでは、デニスやデュムランたちには敵わないものの、アダム・イェーツらTTが苦手な選手たちよりは遅れることのない、という立ち位置をキープしている。
かつてフランスTTチャンピオンにも輝いたこともあり、ムラがあるとはいえ基本はTTに弱くはない。
そしてアルデンヌ風味のコースレイアウトに対しても、決して苦手な選手ではないはずだ。
2年前の第5ステージではサガンに次ぐ2位。スプリントでログリッチェを下している。
チームTTの躍進、個人TTでの可能な限りのタイム稼ぎ、そして第4・第5ステージでボーナスタイムを獲得できれば、総合上位を射抜くことは可能だろう。
総合優勝候補(パンチャー系)
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)
TTも激坂も強く、アルデンヌ系のレイアウトにも滅法強いという、今大会勝てる要素しか持っていない男。
チームTTに関してはUAEツアーでは7位と、世界王者チームらしくない結果だったが、そのときはあまりにもヴィヴィアーニのためすぎるメンバーで、TTがとりわけ強いという選手が1人もいなかったがゆえ。
今回はアラフィリップ自身に加えて過去にU23欧州TTチャンピオンとなっているキャスパー・アズグリーンも引き連れており、ランパールトも独走力はは高い。
今回のチームTTでは王者らしさを発揮してくれるような気がしてならない。
さてさて。こう考えてみると、この男以外に勝てそうな選手が思いつかない。デュムランやログリッチェは、一流ステージレーサーとしての意地を見せられるか?
ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)
パリ~ニースとの相性が非常に良い選手で、2年前にはステージ優勝、昨年は総合5位とポイント賞を獲得している。
しかしそんな彼が今年はティレーノ~アドリアティコを選んだ。理由は「パリ~ニースの今年の山頂フィニッシュ相手では総合が狙えないから。
それは裏を返せば、今回のティレーノ参加にあたっては、総合を本気で狙っているということ!
実際、今大会の重要ステージのようなアルデンヌ風味のコースレイアウトは彼が最も得意とするタイプである。
今年のブエルタ・ア・アンダルシアでも、石畳の激坂たる第1ステージを制し、起伏がちだったとはいえ個人TTも優勝している。
チームTTはネックではあるものの、十分に総合優勝を狙える可能性をもった男だ。
スプリンター勢
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)
昨年最多勝利の18を記録したシーズンNo.1スプリンターは、今年も相変わらず絶好調。
3勝という勝利数自体はガビリアやトレンティンと同数だが、全てワールドツアーでの勝利という意味では他の追随を許さない。ワールドツアー勝利数では今シーズン最多である。
今大会はサバティーニを連れてきていない代わりに、これもまた最強リードアウトマンのリケーゼがいる。一方のガビリアはクリストフがいない。
真の最強スプリンターがヴィヴィアーニであることを示せるか。
今大会はわずかに登るスプリントや導中に起伏が多いなどの特徴はあるが、昨年の走りを見ている限り、現状ではガビリアよりも登れる感があるのも強み。
フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチーム・エミレーツ)
UAEツアーでは圧巻のクリストフとのコンビネーションを見せ、3つのピュアスプリントステージで1位、2位、2位、と大会最強であることを示した。
が、それはあくまでもクリストフあってのもの。今大会に彼はいない。
もちろん、ではUAEのアシストに良い選手がいないかというとそんなことはない。ブエルタ・ア・サンフアンでのガビリア2勝を支えたシモーネ・コンソンニと、UAEツアーで準発射台役を務めたオリヴェイラ・トロイアがいる。
サンフアンで見せたコンソンニとのコンビネーションは驚きではあったが、あとはこれが、ワールドツアーの舞台でヴィヴィアーニを始めとする最高峰のライバルたちに通用するのか。
UAEチームの底力が試されるときである。
ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)
今年の狙いがイマイチはっきりしない男。
ダウンアンダーとサンフアンの衝撃ダブル出場を見せたかと思えば、後者はベネットのアシストをする姿勢を見せ、かと思えばチャンスのときにはしっかりと狙っていく。
北のクラシックは現状未参加で、ミラノ~サンレモとE3からようやくクラシックシーズンに参戦。
スローペースの理由は今年初参戦のリエージュ~バストーニュ~リエージュにある?
ゆえにピュアスプリントではヴィヴィアーニ、ガビリアはおろか、バウハウスやブアニにも負けてしまうかもしれない。
しかし優勝したダウンアンダー第3ステージや2位の第5ステージなど、起伏が多めだったり登りスプリントだったりするレイアウトでは一気に優勝候補に躍り出る。
そして今年のティレーノ~アドリアティコに用意されたスプリントステージはそんな感じのステージで、昨年途切れてしまった連続ポイント賞記録を再び伸ばし始めるきっかけとなるかもしれない。
また、本来総合系やパンチャーが活躍するであろう第4・第5ステージでももしかしたら上位に入り込む姿が見られるかもしれない。
フィル・バウハウス(ドイツ、バーレーン・メリダ)
アッカーマンやヴァルシャイドと共にドイツ若手スプリンターたちの躍進を象徴する存在。
今年、バーレーンに独り立ちして、彼らをライバルにエースとして活躍するチャンスを得た。
2017年にはクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでデマールをやコカールを降し、昨年はアブダビ・ツアーでキッテル、ユアン、ヴィヴィアーニを打ち倒した。
今大会も勝利までは難しいかもしれないが、確実に上位に入り込めるであろう存在だ。
ナセル・ブアニ(フランス、コフィディス・ソルシオンクレディ)
来年はチーム移籍する満々やでみんな条件出してやとコメントするも、現チームGMからは引き留めてほしいなら結果だしーやと牽制される。心を入れ替えたとは何だったのか。
意気込みは感じる。バレンシアナ第2ステージではトレンティンが強すぎただけで2位とはいえ十分強かった。しかしそれ以外のレースでは、トップクラスの選手たちに喰らいつけているだけで、勝てる走りはできていない。5位以内に入ることは十分期待できても、それ以上は難しいと言わざるをえない。
ライバルのラポルトもエトワール・ドゥ・ベセージュでしか好成績を出せていないのであまり変わらないが、現時点で昨年の状況を上回る結果を出せているわけではない。
まあ、まずはTOP5に安定的に入ること。まずはそこからだ。
初日のチームTTでタイムアウト失格。・・・はい?