Class:ワールドツアー
Country:イタリア
Region:トスカーナ州~ウンブリア州~マルケ州
First edition:1966年
Editions:54回
Date:3/13(水)~3/19(火)
フランスのパリ~ニースと並んで、春のステージレースシーズンの幕開けを告げるイタリアのレース。
その名の通りティレニア海とアドリア海とを結ぶ7日間の道程は、「二つの海を結ぶレース(ラ・コルサ・デイ・ドゥエ・マーリ)」とも呼ばれ、総合優勝者には海の神ポセイドンに由来するトライデント(三又槍)がトロフィーとして与えられる。
昨年優勝者、ミカル・クウィアトコウスキー(チーム・スカイ)。
今年、2つの海を支配する男は誰だ。
それを占うための全7ステージを詳細にプレビュウしていこう。
↓注目選手プレビューはこちら↓
- 今大会の特徴
- 第1ステージ リード・ディ・カマイオーレ~リード・ディ・カマイオーレ 21.5km(TTT)
- 第2ステージ カマイオーレ~ポマランチェ 195km(丘陵)
- 第3ステージ ポマランチェ~フォリーニョ 226km(平坦)
- 第4ステージ フォリーニョ~フォッソンブローネ 221km(丘陵)
- 第5ステージ コッリ・アル・メタウロ~レカナーティ 180km(丘陵)
- 第6ステージ マテーリカ~イェージ 195km(平坦)
- 第7ステージ サン・ベネデット・デル・トロント~サン・ベネデット・デル・トロント 10.05km(個人TT)
今大会の特徴
「二つの海を結ぶレース」は、ティレニア海側(西側)のトスカーナ州をスタートし、内陸のウンブリア州を通過し、アドリア海側(東側)のマルケ州へと抜ける。
その真ん中にはアペニン山脈が横たわっており、例年この山で強烈なクイーンステージが設けられ、過去にはナイロ・キンタナやアルベルト・コンタドールなどがこれを制し総合優勝を決めている。
2019年の全体図。スタートとゴールは例年共通となっている。
しかし、今年のティレーノ~アドリアティコは大きな変革を迎える。
今年はアペニン山脈を通過するものの、巨大な山に挑むことはない。
代わりに小刻みなアップダウンが延々と続くリエージュ~バストーニュ~リエージュのようなステージが2つ用意され、これがクイーンステージとしての役割を果たす。
よって、今回のティレーノ~アドリアティコは、例年のようにクライマー有利ではなく、パンチャーや、あるいはTTでタイムを稼げるオールラウンダータイプに有利なレースとなるだろう。
第1ステージ リード・ディ・カマイオーレ~リード・ディ・カマイオーレ 21.5km(TTT)
トスカーナ州ルッカの保養地カマイオーレで開催される、ティレーノ~アドリアティコ伝統の開幕チームタイムトライアル。
真っ平&直線基調の21.5kmは、時速57~58kmで争われるハイスピードバトル。
過去3大会の優勝チームはBMCレーシング。
しかし、そのチームはもはや跡形もなく、代わって台頭してきているのがチーム・ユンボ・ヴィスマである。
優勝したUAEツアー同様、プリモシュ・ログリッチェ、トニー・マルティン、ヨス・ファンエムデンという反則級の面子で挑んできている。
2位サンウェブに7秒の差をつけて優勝したユンボ・ヴィスマ(UAEツアー 第1ステージ)
UAEツアー2位のチーム・サンウェブは、トム・デュムラン、チャド・ハガ、サム・オーメン、そしてセーアンクラーウ・アナスンといった、昨年2位の世界選手権チームタイムトライアルにも参加したメンバーが多数含まれている。
UAEツアーのときと比べてピュアスプリンターの数を減らしTTの強いメンバーを増やしたその意図は、デュムランの総合優勝を本気で狙うという意志の表れのようにも思われる。
同3位のバーレーン・メリダも、旧BMCから世界チャンピオンのローハン・デニスを招き入れ、一気にTTT優勝候補に躍り出た。
ヴィンツェンツォ・ニバリ、ヤン・トラトニックがその脇を固める。
さらに、UAEツアー4位だったチーム・スカイは、クウィアトコウスキーこそいないものの、代わりにゲラント・トーマス、ヨナタン・カストロビエホ、イタリアTT王者のジャンニ・モスコン、ワウト・プールスなどを連れてきており、UAEツアーのとき以上の成績を叩き出そう。
上記4チームが今回も優勝候補として台頭してきているが、一方で個人的に注目しておきたいチームがグルパマFDJ。
こちらも旧BMCから連れてきたTTスペシャリストのステファン・キュングにマイルス・スコットソンなど、TT力を高める補強を行っている。
エースのティボー・ピノ自身も元フランスTTチャンピオンで、ムラはあるもののそのポテンシャルは高い。
UAEツアーではこれらのメンバーを連れてきていなかったFDJにとって、今回のTTTがツール・ド・フランス本戦に向けた大きな実践予行練習となるはずだ。
期待しているぞ!
第2ステージ カマイオーレ~ポマランチェ 195km(丘陵)
前日の舞台となったカマイオーレからトスカーナ州を南下し、内陸部ピサ県のポマランチェに至る。
フィニッシュに至る登りは残り7kmから始まる。登り始めに最大勾配16%の激坂が500mほど。
そのあとはしばらく平坦で、残り5.5kmから4kmにかけて7~8%の勾配が続く。
その先はまた平坦路が続いたあとに、ラスト2kmから平均勾配4.7%の登りフィニッシュとなっている。
2年前の第2ステージのフィニッシュとほぼ同じレイアウト。
そのときは残り5kmの急勾配区間でボブ・ユンゲルスがアタックし、これに追随したゲラント・トーマスが、残り4kmで他の選手を突き放して独走に持ち込んだ。
仕掛け所は様々だが、いずれにせよ残り4kmから2kmの使い方が難しい。
ラスト2kmはそこだけでライバルを突き放すにはやや物足りない勾配で、できれば2年前のように残り5kmや7kmで抜け出したい。
だがそのあとの2kmの平坦路は、トーマスのように独走力があり、かつ総合成績に影響のない選手でないと逃げ切るのは難しそうだ。
2年前のポマランチェを制したトーマス。このとき彼は前日のTTTでメカトラブルによって大きく総合タイムを失っており、それがこの勝利の要因の1つとなった。
なお、レイアウトは結構異なるが3年前もポマランチェフィニッシュでこのときはゼネク・スティバルが逃げ切り勝利。
第3ステージ ポマランチェ~フォリーニョ 226km(平坦)
トスカーナ州からさらに内陸、アペニン山脈山中のウンブリア州へ。
今大会最長ステージは激しいアップダウンに満ちてはいるが、終盤はフラットなレイアウトが続くため、スプリンターたちによる決着の可能性は高い。
というか、ここで集団スプリントに持ち込まないとピュアスプリンターたちが活躍する機会がほとんどなくなってしまう。
逃げ切りを狙って序盤から仕掛ける選手も多いだろうが、ドゥクーニンク・クイックステップやUAEチーム・エミレーツなどエーススプリンターを抱えるチームによる強烈な追走劇が繰り広げられることだろう。
3年前も同様のフォリーニョフィニッシュが用意された。
しかしそのときはフォリーニョ南部の2つの丘トレヴィとモンテファルコをゴール前に通過するレイアウトだったため、終盤にかけてパンチャーたちによる猛攻撃が続き、その中で抜け出したスティーブ・カミングスが逃げ切り勝利を果たした。
今回はその丘も存在しないため、基本的にはスプリンターチームによる支配が行われることだろう。
ただし、残り1km直前に用意された90度左カーブ+90度以上の鋭角右カーブの連続には注意すべし。とくにガビリアはよく転ぶので・・・。
第4ステージ フォリーニョ~フォッソンブローネ 221km(丘陵)
フォリーニョから北上。
いよいよアペニン山脈の只中を突っ切っていき、「アドリア海側」のマルケ州に。
いわば例年のティレーノ~アドリアティコ最難関ステージが用意されるはずの日ではあるが、今年はここで大きな山岳が設定されることはなかった。
4つの山岳ポイントと細かなアップダウンが設けられ、さながらイタリア版リエージュ~バストーニュ~リエージュといった印象のステージだ。
とくに終盤、フォッソンブローネの街のゴール地点を通過した直後に現れる、激坂「イ・カプチーニ」。
別名「ムーロ・デイ・カプチーニ」すなわち「カプチーノの壁」とも呼ばれるこの登りは、登坂距離1.5km、平均勾配10.6%、最大勾配19%。
しかも登り始めが狭くなっており、かなりサバイバルなレースが展開されそうである。
この登りは終盤に2度登り、最後の山頂からゴールまでは5.6km。
先頭通過した激坂ハンターが逃げ切るか、これを追いかけるオールラウンダーたちが捕まえるか。
白熱の攻防戦が期待できそうである。
第5ステージ コッリ・アル・メタウロ~レカナーティ 180km(丘陵)
マルケ州北部の街コッリ・アル・メタウロから、マルケ州中部の街レカナーティまで南下するレイアウト。
海岸線を走ることも多く、全体的にはフラットになるはずのコース。実際、標高はそこまで高いところには至らない。
だが、ゴール地点レカナーティ周辺で1周22.8kmの周回コースを4周する。
この周回コースには、最大勾配20%の短い登りと、1kmほどで平均勾配14%以上の登りとが含まれている。
後者の登りは最大19%の勾配を持ち、その頂上からゴールまでは緩やかな登り(3.3%)で1.8kmほど。
基本的には激坂を制したものがそのまま先頭でゴールすることになりそうだ。
総合争いにおいて確実に差がつきそうなステージ。
なんとかTTで稼いだタイムで総合成績を守りたいと考える者は、この登りでどれだけ耐えられるかが鍵となる。
第6ステージ マテーリカ~イェージ 195km(平坦)
前日のレカナーティあたりからは少し内陸に入ったところを舞台とする。
ゆえにコース前半はそれなりのアップダウンが連続するが、終盤はフラットで、スプリンターたちのためのステージとなるだろう。
ただしゴールはわずかに登っている(ラスト1kmの平均勾配が2%)。
第7ステージ サン・ベネデット・デル・トロント~サン・ベネデット・デル・トロント 10.05km(個人TT)
ティレニア海を臨むカマイオーレの街からスタートした「二つの海を結ぶレース」は、アドリア海を臨む港湾都市サン・ベネデット・デル・トロントで終幕を迎える。
これは毎年のことで、この最後のステージが海沿いの直線路を利用したオールフラット短距離TTであることも共通している。
昨年・一昨年はともにローハン・デニスが優勝しており、そのときのタイムはそれぞれ11分14秒、11分18秒。
今年は3連覇がかかっているが、昨年までとの違いはチームが変わったこと=機材が変わったこと。
年始の国内選手権個人TTでは、昨年と比べて力が出せなかったわけではないと感じつつ、なぜ勝てなかったのかわからない、とのコメントを出しており、新チームの機材との相性を危ぶむ声も聞かれた。
今年はバイクがメリダ、ジャージもアルカンシェルに着替えての参戦となる。今年初の個人TTであり、注目が集まる。昨年の7勝はすべて個人TT。
2年連続で2位となったのは現ユンボ・ヴィスマのヨス・ファンエムデン。
それぞれデニスから3~4秒の差である。
もしデニスが国内選手権で見せたように、例年ほどの力を発揮できないのであれば、ファンエムデンにとっては大きなチャンスとなる。
2年連続ヨーロッパTT王者に輝いているヴィクトール・カンペナールツ、先日のヴォルタ・アン・アルガルヴェの個人TTで優勝しているステファン・キュングも本来であれば優勝候補と言えるだろうが、過去のティレーノ~アドリアティコの個人TTではいずれも10位以内には入れていない。
カンペナールツは4月のアワーレコード挑戦も控えているため、その意味でも今回のような短距離では結果を出せないだろうと予測する。
総合勢の成績はどうだったか。
たとえば昨年は、プリモシュ・ログリッチェがデニスから18秒遅れの11分32秒。
ゲラント・トーマスはそこから5秒遅れ、アダム・イェーツはログリッチェから数えても36秒も遅れており、厳しい結果になってしまっていた。
2年前でいくと、ログリッチェがデニスから11秒遅れの11分29秒。
トーマスがそこから5秒遅れ、トム・デュムラン、ティボー・ピノはそれぞれログリッチェから12秒、16秒遅れとなっている。
過去総合優勝の経験もあるファンアーフェルマート、昨年ピンクバンクツアー総合優勝のモホリッチあたりも、頂上フィニッシュのない今年のティレーノ~アドリアティコの総合優勝候補の1人と言えそうだが、2年前の個人TTではログリッチェから2人とも35秒遅れ。昨年もファンアーフェルマートは26秒遅れだった。
ヴィンツェンツォ・ニバリは昨年はログリッチェから31秒遅れ、2年前は44秒遅れだがこれは本気ではなかったと考えた方が妥当か。
いずれにせよログリッチェ、トーマス、デュムランあたりのオールラウンダー同士では10秒程度のタイム差での勝負となり、それ以外の選手が彼らに対抗するためには最低でも20秒以上は持っていないと厳しいと考えられる。
以上、厳しい登りとTTが総合を占うバランスの取れた7ステージ。
これらを踏まえ、今大会の注目選手について、次回は見ていこうと思う。