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【全ステージレビュー】ツアー・ダウンアンダー2019

2019年シーズン最初のワールドツアー、ツアー・ダウンアンダーが1週間の日程を終えて閉幕した。

今年もまた、白熱した秒差の争いが演じられ、そして新たなニューヒーローが何名も誕生した。

今回はこのツアー・ダウンアンダーの各ステージを振り返っていく。

 

↓コースプレビューはこちらから↓

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ダウンアンダー・クラシック

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2日後に開幕するダウンアンダー本戦の前哨戦クリテリウム。

アデレード市内の1.7kmの周回コースを約30周(50km程度)するレイアウト。真っ平なピュアスプリントステージで、UCI非公式ではあるものの、全てのスプリンターが本戦への勢いをつけるべく全力で激突する。

 

過去、キッテルやユアン、サガンなどが勝利しているこのクリテリウムレースで、今年幸先の良いスタートを切ったのはカレブ・ユアン。これで3勝目である。

ゴール前800mで発生した落車により最有力優勝候補の1人であったヴィヴィアーニが脱落するというアクシデントも発生するが、結局のところこれをユアンが避けられた理由は、チームメートたちが常に先頭にユアンを置くことに成功しているからである。

 

さらに、その後同じように残ったペテル・サガンとその右腕ダニエル・オス。とくにオスがゴール前で強烈なアタックを仕掛けるが、ユアンの最も信頼するアシストであるロジャー・クルーゲがこれをしっかりと捕える。それも、後続のユアンを引き離さないように、慎重に何度も後ろを振り返りながら。

この完璧なリードアウトに助けられたユアンがそのまま得意の「超低姿勢・先行逃げ切り型スプリント」でサガンに並ばせることなく勝利。

新チームで迎えた本格的な開幕戦で、見事な勝利を成し遂げた。

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第1ステージ

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この日もピュアスプリンターのためのステージ、ではあったのだが、コース短縮が発生してしまうほどに強い風が吹き荒れており、ゴール前はかなりの距離が強い向かい風にさらされることとなった。

よって、強力なスプリンターを抱える2つのチームーーすなわち、ドゥクーニンク・クイックステップとロット・スーダル――がギリギリまで前に出ようとしないことによって、ラスト1kmであらゆるチームが位置取り争いで混沌とするという特殊な状況を作り出してしまった。

結果、ユアンは集団の中で迷子になってしまい、ヴィヴィアーニの最強トレインも、カチューシャによって前を塞がれるという事態に。そこでヴィヴィアーニが巧みな判断力でもって単身、狭い隙間を潜り抜けるテクニックを見せつけ、何とか勝利を掴み取った。

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第2ステージ

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この日は40度をこえる気温の高さによってコースの短縮が発生した。そして、ゴール前600mで発生した落車。さらには、4%程度とはいえ勾配のついた登りスプリント。これらの要素が組み合わさり、ピュアスプリンターたちが十分に実力を発揮できるステージ、とはならなかった。

その中で抜け出したのが、まずはクライマーのルイスレオン・サンチェス。そして、これを踏み台にして強烈な伸びを見せた、TTスペシャリスト(にしてスプリンターとしての素質もある)パトリック・ベヴィン。これに喰らいついて2位に入ったのが昨年から登りスプリントへの適性をさらに伸ばしたカレブ・ユアンであった。

ベヴィンはラスト300mで先頭から10番目ほどの位置にいたが、先頭からサンチェスが飛び出したとき、誰よりも早く反応し、集団を右回りに迂回しながら一気に前に出たのが勝因だった。サンチェスの背中をきっちりと取ったとき、スプリント力では勝るユアンに対して絶対的な優位を手に入れ、そのまま見事な勝利を掴み取った。

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第3ステージ

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獲得標高が3300mを超え、ピュアスプリンターが生き残るには厳しすぎるステージと言われた。実際、ヴィヴィアーニもユアンも脱落。ペテル・サガンも厳しいのではないかとも言われていたが、結果として彼は生き残り、そして生き残った以上は彼に勝てる足をもった選手はいなかった。

ダウンアンダーに向けたトレーニングはできていないと嘯いていたサガンだったが、今年最初の勝利を飄々と獲得することとなった。

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サガンはレース後のインタビューで次のようにコメントしている。

 

「昨年は今日よりもっと厳しかったし暑かった。今日に関してはCCCチームがしっかりとコントロールしてくれていたし、僕は最後の周回に向けて力を溜めることができていた」

 

CCCチームは最終周回に入る前にはすべてのアシストを使い切り、総合リーダーのベヴィンただ1人になってしまったが、そのベヴィンも、心配されていたように千切られることなく、最後のスプリントに参加するほどの力を残すことができていた。

その様子をベヴィンは、「僕のライバルたちは絶好の機会を失ったね」とコメントしている。

 

「フィニッシュには45人もの選手たちがいた。決してタフではなかった。最終周回まで誰もプロトンを引き裂こうとする動きをする者はいなかった。驚くべきことだよ。私たちCCCチームは疲れきっていて僕を助けてくれる選手は誰も残っていなかったのにね。ライバルたちは大きなチャンスを失ったと思うよ」

 

逆に言えば、走り方次第ではサガンもベヴィンも脱落しうるコースだったはずであり、それがなされなかったことが、この日のサガンの勝利、ベヴィンのリーダージャージ維持に繋がった要員と言えるだろう。

 

また、この日驚くべき走りをしたのがピュアスプリンターのはずのダニー・ファンポッペル。そして彼を守るために活躍したチーム・ユンボ=ヴィズマの選手たちである。

ユンボ=ヴィズマは最終周回で、ケニー・エリッソンドのアタックを潰すために即座にロバート・ヘーシンクが動くなど、ファンポッペルの勝利のための一丸となった動きも見せていた。これらは結果に結びつくことはなかったものの、こちらもスポンサーが変わり新たな門出となった2019年シーズン。

チームとしても好調な滑り出しをできているようだ。

 

 

第4ステージ

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話題のコークスクリューが用意された今大会の目玉ステージの1つ。

全長2.5km、平均勾配9%と強烈な登りではあるものの、プロトンは登り始めは比較的まったりと進み、ラスト700mを切ってようやく、ワウト・プールスのアタックをきっかけに4名のクライマーが抜け出すこととなった。

マイケル・ウッズ、リッチー・ポート、ジョージ・ベネット、そしてワウト・プールス。期待されていた4名の抜け出しでいよいよ勝負が始まったという感じを受けた。

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しかし、やはり700mだけでパンチャーたちを引き離すのは無理があった。4名が山頂を通過してダウンヒルに突入したとき、メイン集団とのタイム差は11秒ほどに。

結果として、残り2kmの手前で吸収されてしまい、最後はパンチャーたちによるスプリント争いに。これを制したのが昨年総合優勝者のダリル・インピー。

ボーナスタイムを獲得し、連覇に向けての大きな一手となった。

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第5ステージ

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ツアー・ダウンアンダーの醍醐味は秒差の争いであり、それがゆえに、中間スプリントポイントにおいて総合系の選手が白熱したスプリント争いを演じることも珍しくはない。

この日はまさにそういった戦いが繰り広げられた。43.9km地点の2級山岳を逃げ集団が越えた後、47.2km地点の中間スプリントポイントを前にしてメイン集団が逃げを吸収。そして、ダリル・インピー率いるミッチェルトン・スコットと、パトリック・ベヴィン率いるCCCチームとの、熾烈な争いが繰り広げられた。

1回戦はインピーが勝利した。が、ベテランスプリンターのフランシスコ・ベントソの牽引によりベヴィンが見事に2位を獲得し、インピーが縮めることのできたタイム差は1秒に過ぎなかった。

さらに、73.9km地点の2つ目の中間スプリントポイントでは、今度はベヴィンが先着した。インピーもエドモンソンらによる万全のアシストを受けての発射だったが、ベヴィンがその視界の外から突然単独で飛び出したことによって不意を突かれた形だ。結果、ともに5秒のボーナスタイムを獲得し、その差は縮まらず。ルイスレオン・サンチェス以下、2人のライバルたちだけが損害を被る形となった。

 

いよいよ、この2人による決着となるか。そう、思われていた中で。

まさかの、ラスト10km地点での落車。しかもどうやら、ベヴィン自ら招いた落車だったようだ。

 

不幸中の幸いか、ベヴィンに骨折はなく、チームのアシストを得て彼は集団に舞い戻る。とくに、この日の優勝も狙えるはずだったヤコブ・マレツコが、自らの勝利の可能性を捨てて後方に下がり、ベヴィンを集団に引き戻すのに大きな役割を担ったのは大きかった。また、最大のライバルであるインピーが自ら集団に対してペースを落とすよう指示を出したらしいことは、このスポーツの美徳を象徴する光景となった。

 

しかし、ベヴィンが戻りさえすれば、あとはもう真剣勝負である。

 

ラスト1km、フラム・ルージュを越えた段階で、ドゥクーニンク・クイックステップはこれまでにないくらいに完璧な体制だった。先頭はミケル・モルコフ、次いでファビオ・サバティーニ、そしてエリア・ヴィヴィアーニ。モルコフが外れたあと、サバティーニも残り200m近くまで完璧なリードアウトをこなしてみせた。

ヴィヴィアーニの背後には後方から上がってきたペテル・サガンがつく。同じく上がってきたジャスパー・フィリプセンはこのヴィヴィアーニの背後を取ろうとするもサガンに軽くあしらわれて失敗する。

フィリプセンは次にサガンの背後を取ろうとし、そこにつきかけていたユアンから場所を奪うことに成功する。

しかしここでユアン、肩と頭を使ってフィリプセンを押しのける。これは成功し、サガンの後ろというベストポジションを獲得するも、このときの行為を原因とし、降格処分を受けることとなる。

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フィリプセンも落ち着いていて、ユアンの背後について足を貯める。

 

さて、サガンの背後から飛び出したユアンの勢いはすさまじく、いまだサバティーニの後ろについていたヴィヴィアーニにあっという間に並んだ。

正直、ヴィヴィアーニはもう少し溜めておきたかったのかもしれない。だが、ユアンのあまりの勢いに慌ててスプリントを開始。サガンも同時にスパートをかけるが、降りてきたサバティーニに前を塞がれてわずかに失速。その右手からフィリプセンも飛び出してきた。

 

結果、最初にゴールラインを越えたのはユアン。次いで右手からフィリプセン。サガンは3番手となった。

そして、驚くべきはヴィヴィアーニの失速。アシストはかなり完璧だったにも関わらず、また、すでに残り200mは切っていたはずなので、距離的にも決して、遠すぎるということはなかったはず。

飛び出すためのリズムをユアンに狂わされたせいか? 強烈なスプリントの勢いは全くピークに達せられないまま、ずるずると滑り落ちてダニー・ファンポッペル、イェンス・デブシェールにすら抜かれてしまった。

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ユアンの降格を受け、勝者はフィリプセン。思いがけぬワールドツアー初勝利に本人も複雑な心情。

ただ、一度はユアンから(手も頭も使わずに)ベストポジションを奪い取ったそのテクニックや、それを押しのけられたあとも冷静にユアンの背中をとって最適なタイミングで飛び出してサガンを追い抜いた勝負勘の鋭さに関しては、十分に栄誉を受け取るだけの資格がある。

 

十分に素質のあるスプリンターだとは思っていたが、こんなにも早いタイミングで勝利を受け取るとは。

今後、昨年のホッジやヤコブセンのような鮮烈なる活躍を見せることを楽しみにしている。

 

 

第6ステージ

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1回目のウィランガ・ヒルの時点でベヴィンは脱落。脇の痛みはまだ引いていないようで、その状態ではダンシングも厳しいだろう。これは仕方ない。本当に良く頑張った。

そして、最後のウィランガ・ヒル。最初に仕掛けたのはチーム・スカイ。ディラン・ファンバーレの牽引の後、ケニー・エリッソンドがまずは飛び出す。

そして少しスローペースになった集団の中からプールスがアタックを仕掛け、エリッソンドにジョイン。昨年のジロ・デ・イタリアのフィネストーレ峠でクリス・フルームのために全力の牽引を見せたときと同じように自転車を左右に振って、必死のアシストをこなしていくエリッソンド。スカイへの移籍1年目はイマイチだった彼も、もうすっかり、強力なスカイ・アシストの1人になっている。

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そして残り1.3km、平均勾配9%の区間からリッチー・ポートが飛び出す。これにクリス・ハミルトン、次いでマイケル・ウッズが喰らいつこうとするが、いつもの止まらないクライミングを前にしてやがて引き千切られていく。

 

今年もまた、ポートがウィランガを制した。「キング・オブ・ウィランガ」、驚異の6連覇である。この記録、この先塗り替えられる選手は現れるのか?

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だが、そんなポートも、今年は総合優勝を手に入れられないことに早々に気がついた。何しろ、ラスト100mになっても、背後を振り返ればすぐそこにインピーが迫ってきているのだから。 

 

インピーも万全というわけではなかった。最初にスカイがペースアップを仕掛けたときには少し遅れ気味になっていた。

その後のペースダウンで復帰するも、ポートのアタックにはやはりすぐにはついていけなかった。

しかしその後、ルーカス・ハミルトンの全力の牽引が活きた。彼自身も新人賞を狙おうと思えば狙える位置にいたにも関わらず、オールアウトする勢いで全力の牽引を見せて、ウィランガ・ヒルの最も勾配が厳しい地点でポートたちとの距離を縮める最高の働きをしてみせた。

ラスト1km地点で先頭ポートから8~10秒遅れで5番手の位置につけていたルーカスが、最終的には48秒遅れの22位でフィニッシュしていることから、彼がどれだけの力を使って見せたのかがよくわかる。

そして、ルーカスはラスト400m、ウィランガの最も勾配がきつい区間を抜けて、平均2.25%程度しかない最終局面にまでエースを連れていった。

 

あとは、パンチャーのインピーにとっては独壇場である。

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勾配2.25%、距離400mなど、第2ステージの登りスプリントよりも容易な平坦であり、ポートたちとの距離を一気に詰める。

そうして、彼はタイム差なしでウィランガ3位フィニッシュを果たし、 ダウンアンダー史上初の連覇を成し遂げた。

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総合リザルト

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