いよいよ開幕した今年のツール・ド・フランス。
こちらではその全ステージの重要なシーンを振り返っていく。
第1週は10日間もありボリュームが大きいので、まずはそのうちの前半5日間をレビューしていく。
参考にしていただけると幸い。
↓各ステージの詳細についてはこちら↓
- 第1ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 192㎞(平坦)
- 第2ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 28㎞(チームTT)
- 第3ステージ バンシュ〜エペルネー 215㎞(丘陵)
- 第4ステージ ランス〜ナンシー 213.5㎞(平坦)
- 第5ステージ サン=ディエ=デ=ヴォージュ〜コルマール 169㎞(丘陵)
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第1ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 192㎞(平坦)
マイヨ・ジョーヌ100周年、そしてエディ・メルクスの最初のマイヨ・ジョーヌ獲得から50年を記念して、彼の母国ベルギーの首都ブリュッセルをグランデパールとして始まった2019年のツール。
基本的には平坦スプリントステージとなるが、コースの序盤に、実にフランドルらしい仕掛け――カペルミュールこと3級ミュール・ド・グラモン(登坂距離1.2km、平均勾配7.8%)と4級ボスベルグ(登坂距離1km、平均勾配6.7%)という、ロンド・ファン・フラーンデレンお馴染みのセットが用意されたのである。
ルール上、このカペルミュールを先頭で通過した選手が、この日の、そして2019ツール最初の山岳賞獲得者となる。
この栄誉を目指し、ファーストアタックが白熱することが予想された。
先導者の旗が振られ、アクチュアルスタートが切られた直後に抜け出したのは以下の4名。
- グレッグ・ファンアーフェルマート(CCCチーム)
- ナトナエル・ベルハネ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
- マッズウルス・シュミット(カチューシャ・アルペシン)
- クサンドロ・ムーリッセ(ワンティ・グループゴベール)
ファンアーフェルマートがこの中に入っていることが驚きだったが、彼の地元であり、また、20勝を目標に掲げながら今年まだ5勝しかできていないチームに少しでも成果をもたらすため、リーダーとしての責任を果たすために勇気をもって逃げに乗った。
そんな彼の目標は当然、カペルミュール。
4名の中で明らかに最も強いファンアーフェルマートは、当然のごとく先頭固定。残り1kmを切って、4名の中で最も純粋なクライマーであるベルハネが先に仕掛けるが、これも冷静にファンアーフェルマートによって捕らえられた。
そのまま先頭で牽き続けるファンアーフェルマートのペースはすさまじく、ベルハネ、ついでシュミットが耐え切れず千切れていく。石畳の10%を超える激坂を時速20kmアベレージで先頭牽引されたらそりゃ、ついていけるはずもない。
だが、ツール初出場のムーリッセだけは、これに何とか喰らいついていく。そして腰を上げて、何度かアタックの機会を窺う。
しかし、やはりファンアーフェルマートは強すぎた。結局、ムーリッセは何もできないまま山頂通過となり、悔しそうに項垂れた。
<Cycle*2019 ツール・ド・フランス>
— J SPORTSサイクルロードレース【公式】 (@jspocycle) July 6, 2019
〜第1ステージ〜 ブリュッセル > ブリュッセル
白熱の山岳ポイント争い💥
➡️ https://t.co/WAvdOMt0LL#TDF2019 #jspocycle pic.twitter.com/zrLHhB5b3k
かくして、今大会最初の山岳賞ジャージは意外にもこのファンアーフェルマートが手に入れた。翌日はチームTTで、少なくとも第3ステージまではこの赤い水玉ジャージを着続けることができる。第3ステージも彼向きのコースで、保持することは十分にできそうだ。
さて、白熱の山岳賞争いが終わったあとは、今大会のマイヨ・ヴェールを争う最初の中間スプリントポイント(残り69.5km地点)となる。
ここを先頭通過するべく、ボーラ・ハンスグローエが一気に集団のペースアップ。早々に集団に戻ったファンアーフェルマート以外の3名は、残り71km地点ですべて吸収されてしまった。
ダニエル・オスの強力な先頭牽引ののち、ルーカス・ペストルベルガーが少し抜け出す。これを行かせるわけにはいかないソンニ・コルブレッリが追いかけて、サガンは悠々とその背中に乗ることに成功。きっちりとコルブレッリを追い抜いて、先頭通過。20ポイントを獲得する。コルブレッリの後ろにはファンアーフェルマート、マシューズ、トレンティンと続いていく。
そのあとはしばらく集団は沈静化していたものの、残り59km地点でステファヌ・ロセット(コフィディス・ソルシオンクレディ)が単独で抜け出す。集団もこれを見送り、最大で2分近いタイム差をつけながら単独で逃げ続けたロセットは、残り9.5kmで集団に飲み込まれた。
しかしこの努力が実り、今大会最初の山岳賞ジャージを獲得。プロコンチネンタルチームとして、十分な働きをしてみせた。
そしていよいよ集団スプリントへ。
しかしここ数年と同様に、今年もまた、第1ステージから波乱が巻き起こってしまった。
まずは、残り18km地点で起きた、総合優勝候補ヤコブ・フルサングを巻き込んだ落車。
フルサングは幸いにも骨折はなく、すぐにバイクに跨って集団に復帰できたものの、瞼からの出血と膝の打撲は酷く、今後のレースへの支障が心配される。
さらに、残り1.5kmで巻き起こった、優勝候補フルーネウェーヘンの落車。集団は分断され、先頭40名ほどの中で最後のスプリントバトルが展開された。
そして、この中で勝利を掴み取ったのは、まさかの男、マイク・テウニッセン。
当然、この日の勝者にはマイヨ・ジョーヌももたらされる。
1989年のエリック・ブロイキンク以来30年ぶりとなる栄光の黄色ジャージを、テウニッセンは母国にもたらすことができたのである。
一体彼がどのようにしてこの日の勝利を掴んだのかについては、以下の記事で丁寧に解説しているので、確認いただければ幸い。
第2ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 28㎞(チームTT)
前日の落車の影響もあって第1出走がチーム・イネオスに。そして下馬評通りの好タイムを記録し、最後までホットシートを守り続けた。
そう、最後まで。最後の瞬間に、ユンボ・ヴィズマにその座を奪われるまでは。
今年トニー・マルティンを獲得し、UAEツアーのチームTTでもその強さをまざまざと見せつけたユンボ・ヴィズマが、接戦だった2位以下に大差をつけて優勝した。
前日のテウニッセン勝利に続く連勝。そして、テウニッセンはマイヨ・ジョーヌを着続けることに成功し、それをしばらく着続けられそうなほどに総合タイム差を開くこともできた。
総合勢の状況はどうだろうか。
今大会、最も総合優勝に近いと目されているのがイネオスの2人、すなわちトーマスとベルナルである。
彼らに対して各チームの総合エースがどれだけのタイム差をつけられてしまったかというと・・・
総合勢のイネオスからの差
— 珠洲 環 (@SuzuTamaki) July 7, 2019
クライスヴァイク(-20)
マス(+1)
ザカリン(+6)
ケルデルマン(+6)
ウラン(+8)
ピノ(+12)
ニバリ(+16)
フルサング(+21)
アダムY(+21)
ブッフマン(+26)
Dマーティン(+43)
キンタナ3兄弟(+45)
ポート(+58)
バルデ(+59)
ポート・・・バルデ・・・#jspocycle
たかが1分。されど1分。
のちの個人TTでタイムを落とすことが確実なバルデや、不調のポート、そして未知数のキンタナ3兄弟=モビスターのトリプルエースにとっては、悪夢のような一日となってしまった。
第3ステージ バンシュ〜エペルネー 215㎞(丘陵)
ワインで有名なシャンパーニュ地方の丘陵地帯を駆け巡るアップダウンステージ。逃げに乗ったのは以下の5名。
- ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
- ステファヌ・ロセット(コフィディス・ソルシオンクレディ)
- ポール・ウルスラン(トタル・ディレクトエネルジー)
- ヨアン・オフレド(ワンティ・グループゴベール)
- アントニー・ドゥラプラス(アルケア・サムシック)
第1ステージ後半に引き続きの逃げとなったロセット、そして2011年から2016年まで6年連続でツールに出場し、2012年から2016年まで毎年逃げに乗り、さらには2014年以外で敢闘賞を獲った男ドゥラプラスなど、逃げのスペシャリストたちが揃った。
しかし、やはりこの男は強かった。
ジロ・デ・イタリアでも逃げ切り勝利経験のある、ティム・ウェレンス。
残り48km。最初の4級山岳が登場する直前で、彼は強烈なアタックを繰り出した。
残り4名はもはやどうすることもできない。
ここからウェレンスの1人旅が始まった。
ウェレンスはそのまま4級・3級・3級と先頭通過を続け、山岳ポイントを一気に5ポイントまで獲得。ファンアーフェルマートから山岳賞ジャージを奪い取ることに成功している。
その間にメイン集団もペースアップ。とくに3級山岳に突入するとドゥクーニンク・クイックステップのドリース・デヴェナインスやアスタナ・プロチームのオマール・フライレ、ボーラ・ハンスグローエのダニエル・オスなどが先頭で強烈に牽引を始め、ウェレンスとのタイム差を縮めていく。
彼らの狙いの1つは、マイヨ・ジョーヌを着るマイク・テウニッセンの切り離しだった。
事実、テウニッセンは最初の3級山岳から遅れ始め、集団の最後尾にかろうじて喰らいついているような状態だった。
そして、この日の目玉となる、残り16km地点の3つ目の3級山岳コート・ド・ミュテニー(登坂距離900m、平均勾配12.2%)。
短くも強烈な、放送中の解説の飯島氏の言葉を借りれば「シャンパーニュのミュール・ド・ブルターニュ」とも言うべき、直登の激坂。
デヴェナインスの牽きによって集団は絞り込まれていき、力尽きたフライレに代わって先頭を牽き始めたアレクセイ・ルツェンコの背後から、ジュリアン・アラフィリップが決定的なアタックを繰り出した。
これには誰もついて行けず。ベルナルがやや腰を上げたものの、後ろのトーマスを気遣うような視線で振り向いて、結局は行かず。
アラフィリップのライバルたるヤコブ・フルサングも動かず。結局、これはクラシックではないのだ。総合系には総合系の戦い方がある。
なので、総合を狙うわけではないアラフィリップは自由の身だった。たった1人で抜け出すことに成功した彼は、コート・ド・ミュテニーの頂上付近でウェレンスに追いついてボーナスクライムポイントを2位通過(ボーナスタイム5秒獲得)。
そのままラスト15kmを独走。これはもはや、彼の必勝パターンであった。
今日のゴール地点のどのフランス人も待ちわびていたフランス最強のパンチャーが、想像を超える刺激的な凱旋を果たすことに。
そしてこの結果、彼は初のマイヨ・ジョーヌも手に入れた。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネではやや本調子でないところも見られていた彼だったが、今日はしっかりと、本来の彼らしい強さを見せてくれた。
もちろんその陰には、ヴィヴィアーニシフトの今回のロースターの中で数少ない山岳アシストであるデヴェナインスの献身的な牽きがあったからであり、またその前の段階でのアスグリーンによる牽引があったことも重要な要素である。
そういった、チームの助けを借りながら、エースである彼がしっかりと責任を果たしたことで手に入れたこの栄誉。
彼の次なる目標は、世界選手権の制覇である。
集団先頭を取ったのはマイケル・マシューズ。
ゴール前100m地点ではそこまでよいポジションになかった彼が、最後に一気に伸びてフィニッシュした。
今期ここまでイマイチ調子が読み切れない走りをしていた彼だが、今回のツールにおいて、その状態が決して悪くないことを示してくれた。今後も勝利も含め、活躍が期待できそうだ。
また、驚きの走りを見せてくれたのが8位に入ったクサンドロ・ムーリッセ。第1ステージでファンアーフェルマートとカペルミュールの頂上を争って悔しくも負けた男であり、本日の3級山岳の1つで集団から抜け出して2位通過も果たすなど、第1ステージに引き続きアグレッシブな走りを見せつけてくれている。
ツール初出場。今年で27歳と決して若くはなく、大きな実績もない男だが、もしかしたら今大会で覚醒する選手の1人となるかもしれない。
また、上記の順位表には書かれていないが、サガンやファンアーフェルマートと同じ集団でゴールしたのは12位のエガン・ベルナルまで。総合勢はベルナルとピノくらいしか含まれていない。
13位ゲラント・トーマス以下、フルサング、バルデ、クライスヴァイク、ウラン、ニバリ、アダム・イェーツといった総合系の選手たちがほぼ全員含まれる大集団は、ベルナルたちの2番手集団からさらに5秒遅れてのゴールとなった。
たったの5秒ではあるが、今回のステージでベルナルとピノだけがその5秒を稼いだことになる。総合成績でもベルナルがトーマスを5秒リードしたことになり、実質的な無価値ながらも、何かを象徴しそうな結果となってしまった。
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第4ステージ ランス〜ナンシー 213.5㎞(平坦)
第1ステージ以来となる平穏な平坦ステージ。ただし、ゴール前15kmに位置する4級山岳コート・ド・マロン(登坂距離3.2km、平均勾配5%)がどのようなスパイスをもたらすのかに注目が集まった。
逃げは3名。集団スプリントが予想されただけに、逃げ切るには難しい人数と面子となった。
- ミヒャエル・シェアー(CCCチーム)
- ヨアン・オフレド(ワンティ・グループゴベール)
- フレデリック・バカールト(ワンティ・グループゴベール)
残り102.5km地点の4級山岳はシェアーが抜け出して先頭通過。残り67.5km地点の中間スプリントポイントは、バカールトがアタックして追いかけるシェアーをオフレドが追いかけるというコンビネーションを見せた末に、バカールトが先頭通過。1,500€の賞金を獲得する。
その間プロトンはひたすらトニー・マルティン(ユンボ・ヴィズマ)が牽引する姿が。第1ステージのラスト1.5kmで落車したフルーネウェーヘンだったが、どうやら調子は戻っているようで、この日の勝利を狙う気は十分。
残り29kmでシェアーがペースを上げるとまずはオフレドが脱落。
そして残り18km地点から始まる最後の4級山岳の登りで、今度はバカールトがシェアーに引きちぎられてしまった。
登りで逃げ続けたシェアー。しかしピュアスプリンターたちを引き離したいサンウェブらの猛牽引もあり、頂上に辿り着く1km手前でその逃げは潰されてしまった。だが作戦通り敢闘賞ジャージは獲得。プロコンチネンタルチーム2名との逃げの中で、ワールドツアーチームとしての意地を見せられた形だ。
サンウェブの牽引に、フルーネウェーヘンなどは集団の後方に下がってしまう姿も見せていたものの、なんとか千切られることなく最後の4級山岳を通過。
集団は大きな塊のままナンシーのフィニッシュ地点へ。予定通りの集団スプリントだ。
残り2kmくらいまで、「本命」のドゥクーニンク・クイックステップの姿がなかなか前の方に見えないという事態に。
しかし、彼らは最後の瞬間までなかなか姿を現さず、気が付いたら最後にドン!と現れるという戦い方を特徴としている。昨年のツアー・オブ・カリフォルニアでもそんな感じだったような。
今回も、やはり残り2kmを切った直後のラウンドアバウトという、最も重要なポイントでしっかりと、姿を現し始める。
ドゥクーニンクトレインの先頭を担うのはマイヨ・ジョーヌを着たジュリアン・アラフィリップ。その後ろにデンマークチャンピオンジャージのミケル・モルコフと、アルゼンチンチャンピオンジャージのマキシミリアーノ・リケーゼ、そして通常のドゥクーニンクジャージを着るエリア・ヴィヴィアーニのトレインだ。バラバラだった直前までとは打って変わって、整然としたトレインで一気に集団の前の方へ。
そして残り1kmのフラム・ルージュを通過する瞬間には、最強トレインを引き連れたアラフィリップが先頭へ! 今日のMVPは、この瞬間この場所にエースたちを引き上げた彼であることは間違いない。ここで、やばいと思われていたドゥクーニンクが「完璧」なトレインを形成したのである。しかも残り1kmでモルコフ、リケーゼの2枚を残した体制で。
残り300mまでモルコフが牽き、ラスト150mでようやくヴィヴィアーニが発射。これは必勝である。クリストフを牽引するジャスパー・フィリプセンも強烈なドゥクーニンクトレインの横で引けを取らない加速を見せていたものの、それでもクリストフは残り270mで発射せざるを得なかった。
あとはもう、約束された勝利である。
エリア・ヴィヴィアーニ。ツール初勝利。
これにて彼は、3大グランツール全てで勝利した男となった。
ただ、直前のスイスで不調と思われていたクリストフが強い走りを見せてくれたのは少し嬉しかった。
そしてその要因の1つがフィリプセンの好アシストだったことに。
一方、フルーネウェーヘンは振るわない結果に。
最後の伸びはすさまじかったが、それまでのポジション取りに不安があった。なんだかんだ4級山岳の登りでけっこう足を削られてしまったのか。バレンシアナ第2ステージの悪夢再び?
そんなだからテウニッセンも自分で勝負しなくてはと感じたのか結果としてうまく噛み合わない結果に。
「最強」フルーネウェーヘン、もしかして今大会0勝・・・?と不安を覚えるも、まだまだ2回目のスプリントステージ。結論付けるのは、まだまだ早い。
第5ステージ サン=ディエ=デ=ヴォージュ〜コルマール 169㎞(丘陵)
いよいよヴォージュ山塊に突入し、コース後半には大会初登場の2級山岳も出現。
ピュアスプリンターが生き残るのはまず難しいサバイバルなアップダウンステージだ。総獲得標高2,325m。
逃げ切りも狙いうるこのステージで、アクチュアルスタートとほぼ同時に抜け出したのはエスケープ王トーマス・デヘント。これに次々と反応した最初の逃げ集団8名はしかし、まもなく集団に吸収される。
その後も激しいアタック合戦。アレクシス・グジャールやステファヌ・ロセットなどやはり逃げを得意とする選手たちが次々とアタックするも、これもまた決まることなく、20km近く消化されていく。
そこで、いよいよ残り153km。レーススタートから30分程度が経過した段階で、ようやく以下の4名の逃げが確定することとなった。
- マッズウルス・シュミット(カチューシャ・アルペシン)
- トムス・スクインシュ(トレック・セガフレード)
- ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
- サイモン・クラーク(EFエデュケーション・ファースト)
山岳賞ジャージを着る「デヘントの後輩」ウェレンスや、昨年のツールでも逃げ切り勝利をしているサイモン・クラークなど、こちらも強力な逃げ。
ウェレンスは最初の3級山岳、そしてレース後半の今大会最初の2級山岳を共に先頭通過。続く2級山岳も2位通過を果たせたことで、最終的な山岳ポイントを17にまで伸ばした。
だが、逃げ切りを許したくないチームがメイン集団をガンガン牽いていく。それはマイケル・マシューズを擁するチーム・サンウェブであり、ペテル・サガンを擁するボーラ・ハンスグローエであり、ジュリアン・アラフィリップを擁するドゥクーニンク・クイックステップである。ピュアスプリンターたちを山岳で振り払い、最後に小集団スプリントを制する自信のある選手たちを抱えるチームたちである。
とくに残り40kmから登り始める2つ目の2級山岳コート・デ・トロワ・エピ(登坂距離5km、平均勾配6.7%)でその攻撃は本格化し、カレブ・ユアンやディラン・フルーネウェーヘン、エリア・ヴィヴィアーニといったスプリンターたちも次々と脱落。この中にアレクサンドル・クリストフの姿があることも残念ではあった。
前日はジャスパー・ストゥイヴェンの助けもあって強さを見せていた彼だが、結局は直前のツール・ド・スイスのときのように、本来は決して苦手ではないはずの丘陵地帯で遅れを取ってしまうようだ。
迫るメイン集団に捕まるのも時間の問題。といったところで、逃げ集団の中でラトビアチャンピオンジャージを着るトムス・スクインシュがアタックし単独で抜け出した。
そのままコート・デ・トロワ・エピを先頭通過し、最後の3級山岳コート・デ・サンク・シャトーを登る途中の残り22km地点で、結局彼も捕まえられてしまった。
同時にイルヌール・ザッカリンも遅れる。彼もまた、今大会はステージ勝利のみを追う形になるのだろうか。
サンク・シャトーの山頂はクサンドロ・ムーリッセ(ワンティ・グループゴベール)が先頭通過。初日のカペルミュールでファンアーフェルマートに喰らいつき、第3ステージの登りスプリントでも上位に入ったその脚力。すでに27歳と決して若くなく、ワンティとの契約も来年まで残ってはいるものの、もしかしたらどこかのワールドツアーチームからの声がかかる可能性はありそうだ。
そして、いよいよ集団スプリントへ。先述した通りピュアスプリンターたちとそのトレインたちはすでに脱落。集団に残っているのはサガン、マシューズ、トレンティン、ファンアールト、アラフィリップなどの登れるスプリンター/パンチャーたちばかり。
その中で最も強かったのはこの男。ダリル・インピーに牽引されたトレンティンの後ろという最適なポジションを捉えていたサガンが、ツール12勝目を飾った。
2012年にツール・ド・フランスに初出場した年にいきなりの3勝。翌年は1勝、しかし2014年と2015年は1勝もできないままにマイヨ・ヴェールだけを手に入れた彼だったが、2016年からは再び勝ち続けている。
その強さの秘訣は何といってもポジション取りのうまさ。かつて勝てない時期でもマイヨ・ヴェールを手に入れたのは安定して2位を獲り続けていたからだが、その鍵となるのは「誰が一番強いか、誰が勝つのか」を驚異的な嗅覚で嗅ぎ分け、その後輪をきっちりと捉える才能だった。
今回も、その才能が遺憾なく発揮された。そして、20代前半のように「ただ後輪に乗るだけ」ではなく、そこからのパワースプリントでライバルたちに大差をつけてゴールラインを潜り抜けた。珍妙なポーズを取るほどの余裕でもって。
もう1人、この日注目すべき走りを見せたのが、2位に入ったファンアールトである。
残り250mで7番手ほどの位置につけていた彼は、そのまま誰もいない右側のコースで、風を目いっぱい全身に受けながら加速。
その空気抵抗をモノともしない勢いのスプリントで、インピーの最高のリードアウトを受けて発射していたはずのトレンティンをわずか数センチの差で差し切った。
彼もまた、やはり規格外の存在である。ツール初挑戦にして、初勝利、といった可能性も十分にある男。
明日以降も、注目に値する存在だ。
今回はここまで。
次回(後編)は第6~第10ステージまでをレビューしていく。
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