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ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユを終えて:各チームの通信簿

登坂距離7㎞、平均勾配8.7%。最大勾配は20%を超え、フィニッシュ直前は一流クライマーでも蛇行し、ゴール直後に倒れこんでしまうような激坂フィニッシュ。

とはいえ、まだレース序盤であり、この登りほぼ一発での勝負だったため、総合優勝候補たちの間でまだそこまでのタイム差はついていない。最大でもせいぜい1分かそこらである。

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だが、その目に見えるタイム差以上に、今回の登りでは、各総合優勝候補とそれを抱える「チーム」の問題とが、明らかになりつつあるように思える。

今後、2週目3週目の勝負どころの展開を予想していくうえでも重要になるであろう各チームの状況に対する評価を、独断と偏見を交えて以下に記載していく。

  

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チーム・イネオス:5(大変よくできました)

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紛うことなき最大の総合優勝候補チーム。今大会も、まずもってチームの強さをまざまざと見せつけられている。

たしかにワウト・プールスは早すぎる脱落だったかもしれない。しかしそれが即、彼の不調とは断定できない。おそらくは、3週目に向けてコンディション調整をしている一環なのだろうと自然に感じられる。3週目の激しい攻防戦で何事もなく活躍してくれる姿を見ることができるだろう(それはミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツなんかも同様だ)。ラ・プランシュの登りの入り口で早々に遅れ始めたディラン・ファンバーレについても同じ感想だ。

そうやって「万全」ではなかったものの、やはりこのチームは強かった。その強さの大半を担うのがスーパーアシスト、ミカル・クウィアトコウスキーの存在だ。ゴールまで残り6㎞から3㎞近くにわたり集団の先頭を支配し、途中アタックしたバルギルを飲み込み、ランダに対しても落ち着いて淡々とそのタイム差を維持しながら追いかけた。

そうして、最後はゲラント・トーマスの昨年のアルプスを思い起こさせる強烈なアタック。色々あったけど、やっぱり彼は今年も強い。ベルナルが少し遅れたことと合わせ、多くのメディアが期待したかもしれない下克上劇は、今回は巻き起こらずに終わるのかもしれない。

 

 

グルパマFDJ:5(大変よくできました)

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チーム・イネオスと並んでチームもエースも完璧に近い働きができたのがFDJだ。直前のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは、ピノは元気だったもののチームはなかなか最後まで残っておらず不安だ、と思っていたが、なんてことはない。こうして本番が始まってみれば、まったく問題ないチーム体制を披露してみせた。

終盤、残り4㎞の地点で、プロトンにはピノのほかにゴデュとライヒェンバッハ。ライヒェンバッハはこの後遅れてしまうが、後半戦に向けて脚をためていると見ることもできる(イネオスのプールスやファンバーレのように)。それに代わるようにして、残り3㎞で突如として集団の前に現れ、凄まじい勢いでプロトンを牽き続けるゴデュ。その勢いでバルベルデもバルギルもアルも陥落し、逃げていたランダとのタイム差も縮み始めた。

彼のアタックは2㎞に渡って続き、このときの働きがあったからこそ、最後のジュリアン・アラフィリップをピノが差し切ることができた。

このまま2週目以降も、これまでにない強さを見せ続けられるか、チーム・ピノ!

 

 

モビスター・チーム:4(よくできました)

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もちろん勝ったわけではない。ゲラント・トーマスやティボー・ピノには差をつけられた。しかし、戦前の漠然とした不安を払いのけるような走りはしてくれたようには思う。

まずは、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ突入前で最もやる気のあるチームだった。集団の先頭を牽くマルク・ソレルは、時速40kmで登坂開始のゲートまで牽引し続けた。

そして登り始めの瞬間、ソレルに代わって先頭を支配したのがバルベルデ。1kmほど先頭を走ったあとに一度離脱するが、集団の中には留まっており、しばらくしてのちに再びクウィアトコウスキーから先頭を奪った。

力は間違いなくあるのに、気持ちがよくなるくらいにアシストに徹するバルベルデの姿が、まずはこのチームの雰囲気を良くしている。そして残り4㎞からの、ランダの先行アタック。彼もまた、自らに与えられた役割をきっちりと理解している走りを見せてくれた。

そして、彼らの働きに応えるようにして、ナイロ・キンタナはこの日は崩れなかった。20%超えの激坂を耐え、ピノの5秒後に、総合勢としては3番手で頂上に辿り着いた。まだまだ3週間は始まったばかりで、この時点で何か結果を占えるわけではまだまだない。それでも、不安しかなかった昨年までと比べ、今年の彼らの走りには少し安心を覚えることができる。

 

 

ボーラ・ハンスグローエ:4(よくできました)

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エマヌエル・ブッフマンは直前のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでもライバルたちから抜け出す姿を見せ、これまでになく良い状態でツールに臨むことができた。

もちろん、ツールはそう簡単ではない。序盤からサガンが活躍する中、相対的に存在感が失われつつあったブッフマンだが、このラ・プランシュ・デ・ベルフィーユでも、目立たなかったものの安定した走りを見せ、キンタナとともに大半のライバルたちからリードするフィニッシュを見せた。チームTTの結果もあって総合成績はそこまで上でもないが、同じ安定した登坂力を続けていけば、最終的には総合TOP5も夢ではない。

ただ、ダブルエースを担いうると思われていたコンラッドが、残り4㎞までは耐えられたものの、2㎞で崩れたのは残念だった。しかしそんな彼が今後はブッフマンのアシストに徹してくれるのであれば十分に心強い。どうしてもそれ以上のアシストはいないものの、飛躍の期待できるチームだ。

 

 

アスタナ・プロチーム:4(よくできました)

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総合優勝すら狙えるかとまで期待されたフルサングが、初日から落車してしまったことに全世界がため息をついた。そして迎えた最初の本格山岳ステージ。誰もが彼の走りを固唾を飲んで注目していたに違いない。

結果として、安心できる走りだった。決して遅れることなく彼はゴールに飛び込んできた。たしかに、トーマスやピノばかりか、キンタナやブッフマンにもわずかに遅れる結果は、彼の今の勢いの全てを反映したものではないかもしれない。その意味で落車の影響はたしかにあるのかもしれない。

それでも、まずは1つ目の難関を乗り越えたフルサング。あの落車が、なんでもなかったと最後に笑って言えるような結末を望んでいる。

チームとしては、終盤に彼の傍らにいたのが決してピュアクライマーではないルツェンコだけだった、というのは少し不安要素ではあるが、もとよりこのチームはトレインを組むというよりは、前待ちなどを得意とする連中だ。2週目以降のより厳しく予想のつかない山岳ステージでこそ、この水色の軍団の本領発揮となるだろう。

 

 

トレック・セガフレード:4(よくできました)

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まずはジュリオ・チッコーネ、ステージ2位とマイヨ・ジョーヌ獲得おめでとう。トレック1年目からその才能を惜しげもなく発揮し、ジロ山岳賞に続くあまりにも早すぎるシンデレラストーリーは将来の確実な成功を予感させる。

そして、彼の走りだけでなく、リッチー・ポートもまた、戦前の山積みの不安と比較すると、まずは安心できる走りを見せてくれた。誰もがみていた悪夢は夢に過ぎなかったと思わせてくれる走りをこれからも続けてくれるか。まずは目の前の第9ステージを乗り越えよう。

モレマも残り2㎞まで耐えており、アシストとしては十分な走りを見せてくれていた。

問題はチームTTで抱えた大きなビハインド。ここから表彰台までカムバックするには決して小さくない壁が立ちはだかる。もう一度、今度は良い夢を見させてくれることを楽しみにしている。

 

 

ミッチェルトン・スコット:3(がんばりましょう)

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アダム・イェーツの走りにそこまで不安があるわけではない。確かにライバルたちに遅れをとる結果となったが、決定的な差がついたわけではない。

しかし、問題は、彼の傍に誰もいなかったことだ。サイモン・イェーツはそれでも、ジロからの連戦ということもあるし、昨年のブエルタのアダムのように、後半で彼を強力にサポートしてくれる予感があるのでまだ良い。しかし、ジャック・ヘイグまでもが、早々に脱落してしまったのは不安でしかない。山岳アシストを犠牲にしてでも力を入れてきたように思っていたチームTTもうまくいかず、現状のタイム差以上のビハインドを抱えてのスタートとなってしまったように思える。

ビハインドを押し返すには、攻撃的な姿勢が必要になる。そしてそのためには、今回のイネオスやFDJのように、 仲間の存在が必要不可欠になる。

たった1人で戦えるほど、ツールは甘くないのだ。

 

 

UAEチームエミレーツ:3(がんばりましょう)

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まあある意味、いつものマーティンである。強すぎるわけでもないし、弱すぎるわけでもない。いつものマーティンという意味では微妙なタイミングでのアタックで失速する姿すら今回は見られなかったという意味ではまだそんなに目立ててないが、チームメートが傍にいないという意味でも、実にいつもと何も変わらないマーティンである。今年もこのまま、総合6位~9位あたりをウロウロとしてしまうのか?

鍵を握るのはファビオ・アルの存在・・・というよりは、セルジオルイス・エナオの存在だとは思っている。かつて、チーム・スカイを支えたコロンビア人クライマー。そのアシストとしての力量の高さでもってマーティンを助けてほしいのだけれど、とりあえず今回はまったく姿を見せないまま沈没。2週目、3週目は頼むぞ。

 

 

EFエデュケーション・ファースト:3(がんばりましょう)

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ウランが1人ではなく、マイケル・ウッズと並んでのゴールを迎えられたのは一つの成果だとは思う。とはいえ、共に良い成績でゴールができたとは言えない。ウランが総合2位になれた2年前のツールも、攻撃的な走りでその地位を手に入れたわけではないので、このポジションから保守的な走りを続けているだけでは、大きな成果を手に入れることは難しいだろう。

だが今年のEFは例年と比べてもアグレッシブかつ高いチーム力で結果を出している。今回のEFはウラン、ウッズだけでなく、今回は遅れてしまったがヴァンガーデレンもいる。状況によってはめちゃくちゃいい結果を出すこともできる可能性があるだけに、応援していきたい。

と思っていたら、第7ステージでもヴァンガーデレン、落車。大丈夫か・・・?

 

 

チーム・ユンボ・ヴィズマ:3(がんばりましょう)

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昨年ツール総合5位、ブエルタ総合4位。かつて、ジロで何日間もマリア・ローザを着ていたときのクライスヴァイクが戻ってきている・・・と期待されていた彼も、直前のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでの不調に続き、今回のこのラ・プランシュでも失速で終わった。

一方、良い走りをしてみせたのがジョージ・ベネット。2年前はツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝の勢いを引きずって、ペイラギュードの(このラ・プランシュのような)激坂フィニッシュで好走を見せていた。今回も決して悪くない走りを見せ、そのうえでチームTTでの成績も加味し、総合順位ではトーマスを上回る結果となっている。

正直、3週間を常に上位で過ごせるような実績を持っているわけではない。最終的にはクライスヴァイクのアシストに回る可能性が最も高いと言えるだろう。だが、思いがけぬ覚醒もまた、十分にありうる選手だ。

 

 

ドゥクーニンク・クイックステップ:2(もっとがんばりましょう)

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結局予定通りの、たった一人の戦いを強いられるエンリク・マス。もちろんジュリアン・アラフィリップも近くにいたが、彼は決してアシストというべき存在ではない(2週目以降は、もしかしたらアシストしてくれるかもしれないけれど)。

マスには彼自身の力を見せつけてもらう必要がある。昨年のブエルタのように。ただ、直前のツール・ド・スイスや、今回のラ・プランシュを見る限り、それはちょっと、難しいかもしれない。

3週目の、ステージ優勝に期待、と今から言ってしまうのはさすがに失礼、かな。

 

 

AG2Rラモンディアル:2(もっとがんばりましょう)

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もしかしたら彼がツールを走り始めてから最も状態の悪いツールと言えるかもしれない。彼自身の走りもそうだし、チームもまた同様。登り始めでチーム最後のアシストであったミカエル・シェレルが脱落し、そこからもう、ずっと1人ぼっちだった。こんなにも彼が孤独を強いられるツールは、果たしてこれまであったのか。

 

だが、苦しい時代は、復活へのカウントダウン。辛く苦しい登りの先には、果てしなく続くダウンヒルが待っている。そして彼は、ダウンヒルを得意とする男。チームもまた、逆境に強い。2013年から2016年にかけての4年間、その年の最初のフランス人勝利を成し遂げたのは、実はすべてAG2Rだったりする。

とくに2013年・2016年は、その年なかなかフランス人の勝者が現れないという状況の中で、その重苦しい空気を打ち破るようにして彼らは勝利を母国に届けてきていた。2016年は、バルデがまさにその役割を担った。

 

だから、悲観はしていない。総合ではもしかしたら、彼は存在感を示せずに終わるかもしれない。それでも彼が、我々に何か力強く輝くものを残して今年のツールを終えることを、希望をもって待ち望んでいる。

 

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