りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

今、最も表彰台に近いのはどのチーム? ツール・ド・フランス2019 総合優勝候補チームプレビュー

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、ツール・ド・スイス、ツアー・オブ・スロベニア、ルート・ドクシタニー・・・「ツール前哨戦」レースを全て終え、いよいよ今年のツールの総合優勝候補たちの「状態」が出揃った。

出場選手がすべて確定したわけではないが、この時点で、今年の表彰台候補たち、およびそのチームの「状態」を確認していこう。

 

↓各レースの概要はこちら↓

www.ringsride.work

 

 

※文中の年齢表記はすべて、2019/12/31時点のものとなります。

 

 

スポンサーリンク

 

 

チーム・イネオス(INS)

期待度★★★★★

Embed from Getty Images

伝説と並ぶツール5勝目を狙っていたクリス・フルームは、クリテリウム・ドウ・ドーフィネの落車によってツールどころか今シーズンのレース全てを失うこととなった。

代わって単独のエースを務めることになったのが、前回覇者、ディフェンディングチャンピオンのゲラント・トーマス(イギリス、33歳)。しかし彼もまた、ツール・ド・スイスにて落車に見舞われる。

幸いにもどこも骨折などはなく、無事ツールには出られるようではあるが、今年の彼のここまでの成績はツール・ド・ロマンディ総合3位くらい。今回のスイスで力量を測ることもできず、本番でどこまで走れるかは未知数である。

一方、トーマス離脱後にスイスでのエースを務めたエガン・ベルナル(コロンビア、22歳)はそこそこの調子の良さを見せる。第6ステージの1級山岳(登坂距離8.4㎞、平均勾配9.2%)山頂フィニッシュではラスト1.5㎞でアタックし、ライバルたちに12〜30秒ほど差をつけてフィニッシュ。第7ステージの超級山岳(登坂距離12.5km、平均勾配7.2%)山頂フィニッシュでは残り3㎞でアタックし、ライバルたちに23〜40秒ほどの差をつけた。2つの個人タイムトライアルでもトーマスとローハン・デニスを除いた総合勢の中では最速のタイムを叩き出しており、スイスのツール組の中ではほぼ唯一安定した結果を出せた選手と言えるだろう。

www.ringsride.work

とはいえ、そのベルナルの状態も、ずば抜けて良い、というわけではない。今年のツールは他の優勝候補たちの状態も良くないため、トーマスを超えて彼自身がマイヨ・ジョーヌを得る可能性は十分にあると言えるが、そうだとしても、今回のスイス以上の走りを見せていかなければ、それも厳しいだろう。

 

チーム状況はすこぶるよい。ドーフィネではクウィアトコウスキーとプールス、ファンバーレがいずれも山岳アシストとして完璧な働きをしてくれた。エリッソンド、カストロビエホも、スイス最終日こそベルナルを単騎にしてしまったものの、前日まではライバルチームたちの攻撃を完全に抑え込み、ベルナルのアタックのお膳立てを果たしてくれた。

ここにルーク・ロウが加わったメンバーでおそらく戦うことになるであろうチーム・イネオス。そのチーム力においては、今年もやはり、最強だ。

 

 

アスタナ・プロチーム(AST)

期待度★★★★

Embed from Getty Images

ヤコブ・フルサング(デンマーク、34歳)は本来、ツール総合優勝を夢見れるような選手ではない、というのが正直なところだった。過去の最高成績は2013年の総合7位。それ以外では、ジロやブエルタも含め、総合TOP10にすら入ったことがない。

それは、前回のドーフィネ総合優勝を果たした2017年においても同様だった。再びTOP10に入ることはできても、総合優勝はおろか、総合表彰台に登ることも難しいだろう、そう思っていた(その年のツールは結局、落車の影響でリタイア)。

 

しかし今年の彼は違う。まず、チーム自体がジロ総合2位・3位、ブエルタ総合優勝、そして翌年のジロ総合優勝を果たした2015〜16年の水準にまで仕上がってきている。

オマール・フライレ、マグナス・コルトニールセン、ルイスレオン・サンチェス、アレクセイ・ルツェンコ、ゴルカ・イサギレといった面々は、直前のドーフィネ、スイスの走りを見ていても、イネオスに匹敵するアシスト力を見せつけていた。とくにコルトニールセンの逃げてもよし、集団を牽いても良しの万能ぶりは、イネオスにもない戦略の幅を作りうる。

ツール本戦ではここに、今年もジロ2勝の絶好調ペリョ・ビルバオが加わる予定。

今年すでに28勝、ステージレースでの総合優勝は10回という成績がこのチームの今年の調子の良さのすべてを物語っている。

 

そのうえで、フルサング自身の好調である。2月のブエルタ・アンダルシア総合優勝、ティレーノ〜アドリアティコ総合3位、今回のドーフィネの総合優勝だけでなく、ストラーデ・ビアンケ2位、アムステルゴールドレース3位、フレーシュ・ワロンヌ2位、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝というアルデンヌでの好成績は、彼が今選手としての絶頂期を迎えていることを示している。

こういうときは、何をやってもうまくいく。今このタイミングであれば、ツールの総合表彰台にも十分に手が届く。いや、もしかしたら、その頂点さえもーー。

だからこそ、落車、体調不良といったアクシデントには十分に注意しておきたいところ。長い3週間の中、少なくとも平坦区間でのつまらない落車に巻き込まれることのないよう、平坦アシスト勢による位置取りには最善を尽くしてほしいところ。

 

 

ボーラ・ハンスグローエ(BOH)

期待度★★★★

Embed from Getty Images

このチームもまた、直前のレースで結果を出すことのできたチームであり、他チームが軒並み厳しい状態に追い込まれている中、躍進が期待できるチームである。

当然エースはエマヌエル・ブッフマン(ドイツ、27歳)。プロコンチネンタルチーム時代からの叩き上げで、2015年にはラファル・マイカと共に逃げたツールマレー峠越えで、区間3位に入った。それから先、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ新人賞などを経て、今年いよいよ、本格的にエースとして走る初めてのツールを迎える。

その前哨戦ドーフィネでは、クイーンステージとなった第7ステージで、残り2.6㎞からフルサングと共にアタック。最後はプールスに勝利を奪われるものの、それでもライバルたちに9秒差をつけてゴールし、最終的に総合3位に収まった。ツール本戦とほぼ同じレイアウト・距離で行われた個人TTでも区間5位につけたのも好材料だった。

そもそも、今年のブッフマンは常に調子が良かった。開幕戦のマヨルカ・チャレンジでいきなり勝利。その後はUAEツアー総合4位、イツリア・バスクカントリー総合3位、ツール・ド・ロマンディ総合7位、そして今回のドーフィネ総合3位である。出たレース全てでシングルフィニッシュとなっている。

あとは、これまでのグランツールで一度も総合TOP10を経験していないことが不安要素ではある。前半で好調さを感じたとしても、それを3週目まで維持できるかどうかは、経験によるものも大きいのだから。

ブッフマンを支える存在としては、同じくツール前哨戦となるツール・ド・スイスで総合3位に入ったパトリック・コンラッド(オーストリア、28歳)がいる。場合によっては、ダブルエースのようにして機能するだろう。バスクでしばらく総合首位に立ち、その後はブッフマンを大いに助けたマキシミリアン・シャフマンもまた、ステージ優勝を狙える選手であると同時に、ブッフマンを支えるアシストとしての役割も果たしてくれるはずだ。

チームとしてはサガンのマイヨ・ヴェールも狙っていくため、ブッフマンの総合だけを手厚くサポートすることは難しいだろう。それでも十分に表彰台を狙っていけるだけの実力と状態の良さがエースにもアシストにも備わっている。期待大のチームだ。

果たして、ドイツ人としては2006年のアンドレアス・クレーデン以来となる表彰台を手に入れることができるか?

 

 

ミッチェルトン・スコット(MTS)

期待度★★★★

Embed from Getty Images

アダム・イェーツ(イギリス、27歳)は今年、ツールで結果を出すことができる状態にある。その結果とはすなわち総合表彰台、あるいはその頂点である。ティレーノ〜アドリアティコでは登りでログリッチェを突き放し、苦手だったはずの個人TTも改善が見られた。最後はさすがのログリッチェのTTに敗れ逆転総合2位となるものの、そのタイム差はわずか1秒。

www.ringsride.work

続くボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャもサイモンの力を借りながら総合2位。イツリア・バスクカントリーでは序盤に落車があり大きく遅れながらも最後は総合5位にまで上り詰めた。

今回のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネも決して悪くはなかった。個人TTではやはり調子よく区間6位。フルサングやリッチー・ポートを上回った。その結果、総合リーダーの座も手に入れた。

しかし、クイーンステージでの大雨に祟られ、結局は最終日でリタイア。ゆえに今回のドーフィネでは彼の本当のところの実力というのは十分に測ることができなかった。本番でやっぱり強かった、となる可能性も十分にある。

あとは崩れた体調を後遺症なく本戦までに治し切れるか。そして、雨が降ることも多いツール本戦での体調マネジメントもまた、チームの課題となるだろう。

チームメンバーについては現時点ではほぼ分かっていないが、パリ〜ニース総合4位、ドーフィネ最終日区間2位(ファンバーレにスプリントで敗れる)と快調なジャック・ヘイグは間違いなくアシストに回ってくれることだろう。ホーゾンもドーフィネに続きアダムを助けてくれるか。

トレンティン、インピーも、彼ら自身が勝利を狙う可能性はもちろんありつつも、前待ちのような形で十分山岳でもアシストになりうる選手たちだ。とにかくこのチームは、前待ちがうまい。

ジロで悔しい思いをした借りを、今度はツールで晴らす番。まずはアダム、しっかりと回復を。

 

 

ユンボ・ヴィズマ(TJV)

期待度★★★

Embed from Getty Images

当初はプリモシュ・ログリッチェ参戦も予定されていたが、ジロからの回復が遅れているのか、結果的には回避。ヘーシンクも同様に出場せずで、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、32歳)がエースで走る。

今年、ブエルタ・アンダルシア総合3位、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合5位、ツール・ド・ロマンディ総合6位と、悪くはない。が、悪くないだけで、結局それは、ツール総合TOP10が狙えるだろうな、といったくらいである。

昨年の総合5位を考えると、正直物足りないが、現状ではそれを超えられる材料を思いつかない。肝心のドーフィネでも、アダム・イェーツ同様大雨の影響でリタイアしているので。

チームメートの存在が鍵になる。今年のUAEツアーで衝撃的なアシストぶりを見せたローレンス・デプルスが、ジロで早々にリタイアした後、このツールを復帰戦として走る予定。あの超絶アシストが今回きっちりと発揮されれば、期待大である。

また、パリ〜ニース総合6位、ツアー・オブ・カリフォルニア総合4位のジョージ・ベネットも、まだまだ覚醒の余地はある。昨年のツールは、クライスヴァイクとログリッチェのダブルエース体制が見事に嵌ったがゆえの好成績だった。今回も、このジョージ・ベネットがダブルエースと言えるくらいの活躍をしてくれれば大きい。

 

 

モビスター・チーム(MOV)

期待度★★★

Embed from Getty Images

はっきり言って、今年のナイロ・キンタナ(コロンビア、29歳)も、全く期待はできない。シーズンここまでのステージレースでの成績は昨年とあまり変わらないが、その中で昨年のツールは総合10位だった。昨年はツール・ド・スイスで総合3位だったことを考えると、ドーフィネ総合9位(さらにいえばクライスヴァイクとアダム・イェーツのリタイアがなければおそらく総合11位)の今年はさらに厳しいのかもしれない。

何もしていないわけではなく、ドーフィネでは第7ステージでは総合勢の中で最も最初に攻撃を仕掛けた。チーム一丸となって仕掛けた攻撃だった。

しかし、早すぎた。残り11㎞の攻撃では、さすがに最後まで保たなかった。総合首位アダム・イェーツを逆転するならばこの位置からの攻撃が必須だったのかもしれないが、最後まで保たせる力が残っていなければ意味がない。結局キンタナは捕まえられ、逆にずるずると落ちていきタイムを失った。

 

希望がないわけではない。たとえばミケル・ランダ(スペイン、30歳)の存在。昨年はトリプルエース体制ということで、微妙な関係性だったが、今年はランダがすでにジロに出ているため、昨年とはちょっと違う。

昔から、アシストとして働いたときはものすごい実力を発揮する男ランダ。ジロにおいても、リチャル・カラパスの総合優勝を支える重要な役割を果たした。

このランダが、ツールでキンタナのアシストに徹したとき、その信頼感は計り知れないだろう。キンタナが真に効果的な攻撃ができるその瞬間まで運び上げてくれるはずだ。

 

あるいは、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、39歳)の存在。予定していたジロは怪我により欠場となったが、代わりにツール参戦予定。復帰戦として前哨戦の1つルート・ドクシタニーに出場したが、リゴベルト・ウランやイバン・ソーサといった強豪相手にしっかりと総合優勝を守り切った。

総合2位となった2月のUAEツアーでも圧倒的な強さを見せており、年齢による衰えなど微塵も感じさせない。もしかしたらキンタナでなくこちらをエースに据えた方が良いかもしれないくらいだ。

www.ringsride.work

 

昨年は全く意味を成さなかったトリプルエース体制が、今年はうまく戦力的に機能さえすれば、このチームが結果を出すことは十分に可能。あとは、その中心に立つべきエースが本当に最後まで力を発揮し続けられるかどうか・・・。

 

スポンサーリンク

 

 

UAEチーム・エミレーツ(UAD)

期待度★★★

Embed from Getty Images

ダニエル・マーティン(アイルランド、33歳)は4月のイツリア・バスクカントリーは総合2位と好調だったが、得意なはずのドーフィネでは今回総合8位。大雨の影響もあり、ほぼ唯一の勝負所となった第7ステージも動きが少なく、結果として個人タイムトライアルで大きく差がつく結果となってしまったからだ。第7ステージ自体は、抜け出したプールス、フルサング、ブッフマンに次ぐ、ピノ、アダム・イェーツと同じタイム差でのゴールのため、決して悪くない。そこから遅れてしまったバルデ、ヴァンガーデレン、キンタナ、ポート、クライスヴァイクよりは状態が良いと言えるだろう。

それ故に、可もなく不可もなくといったところ。チーム状況もクイックステップ時代と変わらず、「強力なスプリンターたちと一緒に、ほぼ独りで総合を狙う」というシチュエーション。結局今回も、総合TOP10には入るけれども・・・といったところで終わりそう。

チーム移籍の意味は何だったのか、と言いたくなる状況である。

 

 

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)

期待度★★★

Embed from Getty Images

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで覚醒し、突如として総合2位にまで上り詰めたエンリク・マス(スペイン、24歳)。今年は彼を中心にチームを作り、ツールで派手な結果を叩き出す・・・のかと思ったが、ヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合4位、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合9位、イツリア・バスクカントリー総合11位、そしてツール・ド・スイス総合9位と微妙な調子。

バスク総合6位、スイス総合4位と推移していた昨年と比べると明らかに低調で、実際に今年のスイスでも、アグレッシブな動きは見せるのだけれど、結局は失速してしまう姿を見るに、彼自身も、昨年のブエルタのようなコンディションでないことに困惑を覚えているのかもしれない。

チームも、かつてダニエル・マーティンを抱えていたときと同様に、エーススプリンターのための完璧な布陣と、アラフィリップなどステージ優勝狙いの選手とを混ぜ、マスのための体制は用意できなそう。

まずは、初のツールを全力で楽しみ、最終的に総合TOP10に入れれば上出来。変にプレッシャーがない方が、きっと彼は実力を発揮できる。

 

 

 

EFエデュケーション・ファースト(EF1)

期待度★★★

Embed from Getty Images

2017年ツール総合2位のリゴベルト・ウラン(コロンビア、32歳)は、それでも正直そこまでの期待は抱かれていないことだろう。今年のここまでの成績も、ツアー・コロンビア総合6位、ツアー・オブ・カリフォルニア総合14位、ルート・ドクシタニー総合3位と、レース数も少ないし結果も微妙だ。

ドクシタニーでは第1ステージの残り250mから強烈なアタックを仕掛けたがバルベルデにきっちりと捉えられるし、第3ステージではバルベルデ、ソーサと共に最終盤まで残ったという意味では強かったが、その後のソーサの加速に、バルベルデはついていけたもののウランは千切れてしまうという状態を見せてもいた。

また表彰台に上がるほどの好調、とは言えなさそうだ。

 

ただ、チームメートの状態は良いし、強い選手が揃っている。2017年ブエルタ総合7位、昨年のブエルタでも1勝しているマイケル・ウッズ(カナダ、33歳)に、ツアー・オブ・カリフォルニア総合9位・(タイムトライアルの結果に助けられた部分が大きいとはいえ)クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合2位のティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、31歳)。状況次第では、ヴァンガーデレンがエースを務める可能性も。少なくともポーではタイムを稼いでくれるだろう。

チームとしても今年は強くなっており、チームTTでも「タイムを稼ぐ側」に回ってくれるはずだ。ヴァンガーデレンだけでなく、フィニー、クラドック、ランゲフェルト、ファンマルクなど独走力の高い選手が揃っている。ロンド覇者ベッティオルもその1人であると共に、ステージも狙っていけるだろう。

惜しむらくは、トレーニング中の怪我により欠場を余儀なくされたダニエル・マルティネス。パリ〜ニースでも1勝している今年のコロンビアTTチャンピオンは、きっとツールでも活躍してくれると思っていたのだが。

 

 

グルパマFDJ(GFC)

期待度★★★

Embed from Getty Images

ティボー・ピノ(フランス、29歳)はジロ・デ・イタリアでの2年間の「修行」期間を経て、本格的に総合を狙う久方ぶりのツール出場。チームもそれを支える体制作りに全力を賭しており、アルノー・デマールは不出場。セバスティアン・ライヒェンバッハ、ダヴィ・ゴデュ、ルディ・モラール、スティーヴ・モラビトと、FDJが用意できる最高の山岳アシスト体制を組み上げた。平坦アシストもステファン・キュング、アントニー・ルー、マチュー・ラダニュと揃えていてバランスも非常に良い。FDJとしてはこれ以上ないくらいに完璧な体制だろう。本気度が伝わってくる。

ピノ自体の調子も悪くない。ここまでのステージレースの成績は、ティレーノ〜アドリアティコ総合5位、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合11位のほか、1クラスとツール・ド・オー・ヴァルとツール・ド・ランで総合優勝と、実績だけでは判断しづらい部分がある。あえて抑えている感じは受ける。それでいて今回のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは、最終着地は総合5位とそこそこだが、常に自ら攻撃を仕掛ける積極的な姿勢は崩さず、仕上がりは良い印象を受けた。

ただし、不安要素はチーム。今回のドーフィネ、ツール本番とほぼ同じであろうゴデュ、モラール、ライヒェンバッハ体制で挑んだにも関わらず、山岳ステージの終盤でピノの近くに彼らがいることが少なかったように感じる。

その辺り、ツール本戦では彼らがしっかりと主導権を握った走りができるのか、ピノが単独で戦う場面が出てこないか、というのはやや不安ではある。年初に共にキャンプに参加したはずのゲオルグ・プライドラーがあんなことになってしまったのも大きな損失である。

ゴデュもライヒェンバッハも間違いなく実力はある選手なので、これが杞憂に終わることを願いたい。それさえあれば、今大会、少なくとも総合表彰台は狙っていけるチームだとは思っているので・・・。

 

 

AG2Rラモンディアル(ALM)

期待度★★

Embed from Getty Images

キンタナと並び、期待するのが難しい現状にある男ロマン・バルデ(フランス、29歳)。パリ〜ニース総合5位のほかは、大きな大会には出ていない。昨年総合3位のドーフィネも今年は総合10位。昨年調子の良かったワンデーレースもイマイチ。

今年はドーフィネ直後に新設のモンヴァントゥ・チャレンジに出場したものの、他に並び立つライバルがいないはずのこのレースで2位に終わってしまった。勝ったのはヘスス・エラダ。バルデの度重なるアタックは全て封じ込められ、逆にエラダが最後に1回だけ仕掛けたアタックで完全に沈没してしまった。エラダが今年かなり好調であること、バルデがドーフィネ明け直後だったことを差し引いても、少し残念と言わざるを得ない結果だ。

また、チーム体制的にも、ラトゥール、ヴュイエルモ、ドモンといったバルデのための最高の体制を用意してくれていた昨年までと違い、今年はやや、色んな可能性を模索しようとしている意図を感じる。このあたりはFDJとは好対照である。

希望の星は、モンヴァントゥ・チャレンジで強力な牽引を見せてくれたトニ・ガロパンとスイスで活躍したマティアス・フランクの存在。だがどんなに彼らが頑張っても肝心のバルデがコケてしまっては意味がないので、頼むよ、本当。

 

 

チーム・サンウェブ(SUN)

期待度★★

Embed from Getty Images

本来エースを担うはずだったトム・デュムランが、ジロで負った膝の怪我の痛みから回復しきらず、ツールも欠場することが決めた。よって、突如として、彼のアシストでしかなかったはずのウィルコ・ケルデルマン(オランダ、28歳)が唯一のエースとして浮上。シーズン当初はグランツールをエースとして走る機会がないことに失望を感じていた様子だった彼にとって、大きなチャンスが訪れることに。

しかし、そのチャンスを掴むことは本当にできるのだろうか。ツール・ド・スイスでの彼の姿を見ている限りにおいて、その可能性は厳しいように思える。得意の個人タイムトライアルでさえ、大きくタイムを失ってしまう有様。

もちろん、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで落車骨折に見舞われた後に長い休養を経ての復帰戦だったことは少なからず影響してはいるだろう。それでも、これだけ散々な状況であると、その状態がツールに全く引き継がれないとは思えない。

スイスでの好材料は、アシスト役だったはずのニコラス・ロッシュの総合10位と、若手のレナード・ケムナの総合17位。彼らがアシストすることでケルデルマンの緩やかな復活を見ることができるか、それともロッシュが新たなエースとして走る方針へと切り替えてしまうのか。

チームとしてはマイケル・マシューズのステージ優勝とマイヨ・ヴェールも狙っているだけに、ケルデルマンもある程度は独りで戦う場面も必要になってくるだろう。

 

 

トレック・セガフレード(TFS)

期待度★★

Embed from Getty Images

フルームもデュムランもログリッチェもいない今年のツール、本来であればキンタナと並んで総合優勝候補に掲げたかった男がリッチー・ポート(オーストラリア、34歳)である。

開幕戦ダウンアンダーではいつも通りの絶好調だった。ウィランガ・ヒル6連覇という、将来にわたって打ち破られることのないかもしれない偉業を成し遂げ、そのままプロ入り後初出場となったヘラルド・サンツアーでも総合5位とまずまずの結果を出した。

しかしその後、気管支炎に。復帰戦となったUAEもカタルーニャも、全く結果が出せず。ツアー・オブ・カリフォルニアでも、本来の実力からいえばまったく満足のできない総合5位。そして今回のスイスで総合11位。得意のタイムトライアルでも全く走れていない様子は、完全に体が出来上がっていないようにしか思えない。

それでも、チームはポートの総合を支える意思を明確にし、デゲンコルプの出場権を奪った。ここまで来たら、なんとか復活して結果を出さなきゃ

いけない。その結果とは、総合TOP10入りくらいでは満足できず、最低でも表彰台だ。

ちなみにチームメートもそこまでガチガチにポートを支えるという感じでもない。純粋なクライマーはジロ上がりのモレマとチッコーネくらいだし、スクインシュとかストゥイヴェンとかトゥーンスで、ステージ優勝を狙っていく気満々な布陣

である。パンタノもいなくなったし、エースを支えるクライマー不足は事実かもしれないが。

 

スポンサーリンク

 

 

スポンサーリンク