りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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【ツール・ド・フランス2019】ロット・スーダル出場全選手プレビュー

略号:LTS

国籍:ベルギー

GM:マルク・セルジェント

創設年:1985年

使用機材:リドレー

 

今年から新加入のカレブ・ユアン。シーズン当初は、新しいチームでしっかりと実力を発揮できるか不安しかなかったが、蓋を開けてみればむしろ例年以上に生き生きと、力を見せつけている様子が見られるユアン。クルーゲだけでなく、ロットにそのままいた発射台たちとのコンビネーションも悪くなさそうだ。

このチームの顔はほかにもいて、それがスイス総合4位のベノートと、ジロで2勝しているエスケープスペシャリストのウェレンス。ウェレンスにとって初となるツール優勝を成し遂げることができるか。

 

www.ringsride.work

 

 

※身長、体重はProCyclingStatsを参照しております。

※年齢はすべて2019/12/31時点のものとなります。

※出場日数とは、ツール初日までに今期出場したレースの日数のことを表しています。

 

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161.カレブ・ユアン(オーストラリア、25歳)

スプリンター 165cm、67kg 出場日数:44日

Embed from Getty Images

今なお進化し続けるトップスプリンター。昨年はチームの総合フォーカスの煽りを受けて出場できず、それを約束してくれた現チームでしっかりと出場権を手に入れた。それも、ジロでの2勝、そして直前のZLMツアーで、これまた絶好調のフルーネウェーヘンを抑えての1勝を手土産に。

彼がグランツール初勝利を成し遂げたのはもう4年も前である。2015年ブエルタでの、サガンとデゲンコルプを退けての登りスプリント勝利。まさに衝撃的であった。翌年にはジロにも出場。しかし勝利は得られなかった。

同年代のライバル、フェルナンド・ガビリアは2017年のジロがグランツール初出場となった。ユアンは3度目の出場だった。しかしこの大会で、ユアンは1勝、そしてガビリアは4勝だった。そして2018年は、グランツール出場が叶わなかったユアンに対し、ガビリアはツールに初出場し、ステージ2勝をもぎ取った。

完全に水を開けられた、と誰もが思った。しかしそこから、ユアンの更なる進化が始まった。2018年、すでにダウンアンダーのスターリング登りフィニッシュやカリフォルニアのコークスクリュー越えなどで明らかに原点たる登りスプリント適性を身につけつつあったユアンは、2019年にはハッタ・ダム勝利にてその方向性を完全に覚醒させた。さらには、ジロで初の2勝。1勝のみ(しかもライバルの降格)でジロを去ったガビリアを見返すような成績であった。

今回のジロには残念ながらガビリアは欠場。万全の態勢でのリベンジ戦はお預けとなったが、新チームでの1年目をここまで好調で迎えつつあるユアン、今回のツールでも、大暴れを期待している。

彼の最大の武器は超低空スプリント。ただでさえ低い身長でそれをやられてしまうので、番手につけたライバルたちも簡単に風を受けてしまうため有利にならない。その特性を生かした先手必勝型スプリントは今年のジロでも炸裂した。

弱点としては、ゴール前1㎞の地点で集団内に埋もれてしまうと、なかなか自力では上がれないこと。そのあたり、以下の頼れるアシストたちがどれだけ彼を助けてくれるか。

 

 

162.ティシュ・ベノート(ベルギー、25歳)

パンチャー 190cm、72kg 出場日数:31日

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プロデビュー初年度にいきなりのロンド・ファン・フラーンデレン5位を叩き出し、一気に注目を集めた男。しかしその特性は、たとえばストラーデビアンケの優勝や、たとえば短いステージレースでの総合上位など、どちらかといえばパンチャー、クライマーの素質も見せつつある。

直近のツール・ド・スイスでも総合4位。2年前のツールでは総合20位。今年も、総合TOP20位以内を目指しつつ、山岳ステージでの逃げ切りなどを目指していきたいところ。

 

 

163.ジャスパー・デブイスト(ベルギー、26歳)

スプリンター 178cm、69kg 出場日数:35日

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混戦、クラシック系のスプリントに強いまさにベルギーのスプリンターといった感じ。かつてのグライペル親衛隊の1人。

本来、ユアンの発射台としては、クルーゲに次いで新加入のアダム・ブライスが期待されていた。しかしブライスがいまいち調子を上げきれない中、クールネ〜ブリュッセル〜クールネ9位など悪くない足を見せつつ、ジロ・デ・イタリアでもクルーゲを差し置いて最終発射台を務めるなどユアンとの相性の良さを見せつけた。

そして、ツールメンバーへの登用。昨年に続く栄誉である。

直前のZLMツアーではユアンの1勝を支えつつ、クラシックに強い特性を活かし自ら総合4位。集団スプリントで決着したベルギー国内選手権ロードでも5位に入るなど、かなり好調な様子を見せている。

今や、ユアンにとってクルーゲと並ぶ名アシストとなったデブイスト。来年の契約延長を勝ち取るためにも、このツールで彼のために尽くせるか。

 

 

164.トーマス・デヘント(ベルギー、33歳)

クライマー 177cm、69kg 出場日数:50日

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稀代の山岳逃げスペシャリスト。かつてジロ・デ・イタリアの表彰台に登ったこともあり、モン・ヴァントゥも制したことのある男だ。

だが、今シーズン開幕直前に、彼は今年、カレブ・ユアンのためのアシストに専念すると宣言

していた。

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その言葉通り、ジロでは平坦ステージで集団の先頭を牽き続けるデヘントの姿が目立った。

スプリンターが真価を発揮するためにはゴール直前の数百メートルのリードアウトだけでは不十分で、数㎞手前から始まる熾烈なポジション争いでリードを手に入れるための「高速度域での巡行」が重要になる。デヘントはその部分を埋めてくれる存在だ。

 

しかし一方、上記のリンクではあくまでも「ジロで」ユアンをアシストすると宣言していた。「2回目に出場するグランツールで好調なことが多いので今回はジロに出ることでツールで力を発揮したい」という旨の発言をしていることも気になる。

今回のデヘントはもしかしたら、ジロほどにはユアンのためだけに走ることはないかも。最近はちょっとだけ鳴りを潜めていた彼の「エスケープ王」としての真価が、今回のツールでは発揮されるかもしれない。

それは、とてもとても楽しみなことだ。

 

 

165.イェンス・クークレール(ベルギー、31歳)

ルーラー 185cm、69kg 出場日数:42日

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2年前まではユアンと同じオリカに所属。昨年から現チーム入り。北のクラシック巧者で、石畳や多少のアップダウンを越えた先で迎えるスプリントに強いクラシック系スプリンター。純粋な発射台というのは難しいかもしれないが、パワーとバランス感覚を活かしたゴール前までのポジション取りに活躍してくれることだろう。

実際、ユアンにとっても最も重要なのはその辺りの役割だ。デヘントだけに任せるわけにはいかない。

 

 

166.ロジャー・クルーゲ(ドイツ、33歳)

スプリンター 192cm、83kg 出場日数:47日

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2017年からのユアンの右腕的存在。今回のユアン移籍に合わせ彼も共に移籍となり、そして期待通りのリードアウトでユアンに勝利をもたらしてくれている。今回のツールのロースターに彼の名前があるだけで随分と安心できる。

彼自身も、トラック世界選手権マディソン種目で2年連続の世界王者になるほどのスピードマンである。IAMサイクリング所属時代はジロ・デ・イタリアで衝撃的な抜け出しスプリント勝利も果たしている。

ユアンと並ぶとまるで大人と子供のようにすら思える異色のコンビだが、その巨体でもってがっちりとユアンをサポートし、栄光の瞬間へと導いてもらいたい。

 

 

167.マキシム・モンフォール(ベルギー、36歳)

クライマー 181cm、66kg 出場日数:47日

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ロット・スーダルのいぶし銀クライマーの1人。ほかにはサンデル・アルメやトマシュ・マルチンスキーなど。スプリントやクラシックが中心のこのチームにおいてはなかなか目立つ場面も少ないが、そのフリーロールがゆえにときおり爆発的な結果を叩き出すーーそれがまさに2年前のブエルタ。マルチンスキー2勝、アルメ1勝の輝かしい成績は、彼らが普段目立たないだけで実力は十分であることを示した。

であれば、今回はモンフォールの出番だ。今回のツールも山岳逃げ切りのチャンスは十分にあり、積極的な逃げを期待したい。

また、もしベノートが総合を狙うのであれば、その良きアシストとなってくれるだろう。8年前のブエルタで総合6位の実力と経験とを、若きステージレーサーに継承していってほしい。 

 

 

168.ティム・ウェレンス(ベルギー、28歳)

パンチャー 183cm、65kg 出場日数:40日

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元はアルデンヌ・クラシックの帝王候補、あるいはデヘントの血を受け継ぐ山岳逃げスペシャリスト。過去に逃げで制覇したのはエネコ・ツアー(現ビンクバンクツアー)、GPモンレアル、パリ〜ニース、ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・ポローニュなど錚々たる顔ぶれ。ここにツールの名も刻み込みたい。

ツールには2年ぶりの出場となる。2年前は途中リタイアとなった。原因は彼の持つ喘息だ。喘息に効く薬はもちろんある。しかし彼はその使用を拒否した。TUEを使いたくないという、強い意志でもって。

今回もまた、いつどこにその悪魔が潜んでいるかわからない。彼の実力に反してグランツール出場数が少ないのはそういう理由があるからかもしれない。

だが今回手に入れたツール挑戦へのチャンスを、是非とも掴み取ってほしい。

 

 

総評

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トップクラスのスプリンター・ユアンと、それを支える強力な発射台を備えたスプリンターのためのチーム。一方でベノート、ウェレンスらによる山岳エスケープも十分に期待できるだろう。

一方で総合争いにはさすがに厳しい面子。ベノートがTOP20位以内に入れるかどうかといった程度だ。

 

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