りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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【ツール・ド・フランス2019】アスタナ・プロチーム 出場全選手プレビュー

略号:AST

国籍:カザフスタン

GM:アレクサンドル・ヴィノクロフ

創設年:2007年

使用機材:アルゴン18

 

今期すでに29勝。ドゥクーニンク・クイックステップにも匹敵する勝利数を記録し続けている今期最強チームの1つであり、クラシックやスプリントで勝利を稼ぐドゥクーニンクに比べ、こちらはステージレース中心に勝利数を稼ぐ。すでに今年、ワールドツアー3つを含む10のステージレースで総合優勝している。

そして、エースのヤコブ・フルサングも絶好調。多くの有力選手が欠場・不調に苦しむ中、彼の総合表彰台は疑いようのないものとなりつつある。

そして、それを支えるチームメンバーも、ノリに乗っているタレント揃いだ。やや平坦アシストに不安はあるが、山岳アシストは実力者揃いで、しかもいずれも、単独でステージ優勝も狙えるアタッカー揃いでもある。

そして、彼らはまた、「前待ち」が非常に強い。2015年のブエルタも、2016年のジロも、劇的な前待ちにより勝利を掴んでいる。山岳エスケーパー+前待ちという見事なコンビネーションでライバルたちを翻弄する。

ただし、上記の2勝はいずれも、逆転による勝利。もし好調過ぎて早々にエースとして走る体制になったとき、同じような戦略を取るのが難しくなったとき、強力なライバルたちに本当に対応し続けられるかは未知数だ。

 

www.ringsride.work

 

 

※身長、体重はProCyclingStatsを参照しております。

※年齢はすべて2019/12/31時点のものとなります。

※出場日数とは、ツール初日までに今期出場したレースの日数のことを表しています。

 

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71.ヤコブ・フルサング(デンマーク、34歳)

オールラウンダー 182cm、68kg 出場日数:33日

Embed from Getty Images

今年のフルサングは彼史上最高のコンディションである。年初のブエルタ・アンダルシアで総合優勝。ティレーノ〜アドリアティコ総合3位、イツリア・バスクカントリー総合4位、そしてクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝。

そして何より、ジュリアン・アラフィリップと熾烈な争いを繰り広げたアルデンヌ系クラシックにおいて、ストラーデビアンケ2位、アムステルゴールドレース3位、フレーシュ・ワロンヌ2位、そしてリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝と、燦然と輝くリザルトを作り上げた。今年の彼は、完璧に近いコンディションなのだ。

 

ただし、彼の走りは全体的に「守備的」であるように思える。アラフィリップの鋭い攻撃にしっかりと喰らい付くことはできるが、自らの足でライバルたちを一気に突き放すというパターンはそう多くはない。

だから、2017年のリゴベルト・ウランのように、常に安定した走りを続けていった結果、総合表彰台を獲得する可能性はかなり高いと思う。だが、その頂点ともなると、あともう一押しが必要になるだろう。

 

フルサングが例外的に攻撃的な走りをしていたのはいつかというと、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのとき。あのときは、彼の最も輝いていたときであり、神がかった脚力でアラフィリップ含むライバルたちは手も足も出なかった。

その状態が今回も終盤で現出すれば、彼は見事頂点に立つことができるだろう。1996年のビャルヌ・リース以来となる23年ぶり、史上2人目のデンマーク人総合優勝者となるか。

 

 

72.ペリョ・ビルバオ(スペイン、29歳)

オールラウンダー 174cm、60kg 出場日数:54日

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元カハルラル。2年前から現チームに。昨年のジロで覚醒し、エースのミゲルアンヘル・ロペスの総合3位を支えつつ、自らも総合6位。そのうえでクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでもステージ優勝するというタフネスさを見せつけた。

今年はシーズン序盤のステージレースでも上位に入り込み、4月のツアー・オブ・アルプスではエースとして総合優勝も目指せるかと期待していたが、まさかの沈没。ヒルトの方が強い結果となった。

だがジロではきっちり2勝。第20ステージでは終盤にミケル・ランダの動きをしっかりと捉えて待ち、これを押さえ込んで勝つという巧さも見せつけた。

今回はジロ以降レースに出場せずしっかりと休養。フルサングにとっても実に頼れる山岳アシストとなるはずだ。

 

 

73.オマール・フライレ(スペイン、29歳)

クライマー 184cm、69kg 出場日数:34日

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こちらも元カハルラル。カハルラル時代の2015年とディメンションデータ時代の2016年に連続でブエルタ山岳賞を獲得。その秘訣は登坂力と、山岳ポイント直前のスプリント力。

昨年アスタナに移籍してきたからは山岳アシストとして大車輪の活躍。だけでなく、昨年のツールではマンドの中級山岳ステージで、猛追するアラフィリップを振り切ってのステージ優勝も成し遂げている。

今大会もマルチな活躍が期待できる実力派クライマーである。

 

 

74.ユーゴ・ウル(カナダ、29歳)

ルーラー 185cm、71kg 出場日数:42日間

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2013年からの5年間をAG2Rで過ごす。当時まだファンデンベルフやナーセンもおらず北のクラシックに力を入れていなかった時代からそれを支え、アスタナに移った現在まで続く7年連続のパリ〜ルーベ出場、ロンドも6年連続の出場である。

もちろん、今回のツールにおける最大の役割は平坦アシスト。映像に映ることも少ない地味な役回りではあるが、山岳偏重のアスタナにとってはなくてはならない重要な役回りでもある。もしフルサングが今回大きな成果を出せたとしたら、そのときには必ず、この男の活躍にも支えられているはずだ。

最終日シャンゼリゼにて、フルサングらと共に肩を組み笑顔を浮かべる彼の姿が見たい。

 

 

75.ゴルカ・イサギレ(スペイン、32歳)

パンチャー 176cm、66.5kg 出場日数:33日

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タイムトライアルと長い登坂、下りに強い弟ヨンと比べ、こちらは丘陵やアップダウンに強いパンチャータイプの選手。今年もアルデンヌ・クラシックにて、フルサングの栄光の手助けをしてみせた。

そしてクリテリウム・ドゥ・ドーフィネではしっかりと山岳アシストとしての調整を進めている様子が伺え、ツールに向けての準備は万端。直近の国内選手権個人タイムトライアルでも3位(2位はビルバオ)と調子は間違いなく良い。

 

 

76.アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、27歳)

オールラウンダー、175cm、70kg、出場日数:35日間

カザフスタンロード・TT王者

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2016年のパリ〜ニースで逃げ切り優勝するなど、元はエスケープスペシャリストといった印象だった。2017年のブエルタでも区間1勝と区間2位を取るなど。

しかし昨年・今年のツアー・オブ・オマーンのグリーンマウンテンで力を見せつけ総合優勝するなど、近年は純粋な登坂力も増しつつある。しかも、ヤン・ヒルトとミゲルアンヘル・ロペスという最強の布陣で挑んだ昨年と比べ、今年のオマーンはやや山岳アシスト力に欠けていた。

にも関わらず、ステージ3勝と総合優勝という圧倒ぶり。ティレーノ〜アドリアティコでも区間1勝と山岳賞。今大会も、サンチェスやフライレ、コルトニールセンらと同様に、山岳アシスト・前待ち・逃げ切り勝利のいずれもこなせる器用な存在となりそうだ。

 

 

77.マグナス・コルトニールセン(デンマーク、26歳)

パンチャー、68kg、出場日数:41日

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かつて、オリカ時代にブエルタ・ア・エスパーニャで区間2勝を成し遂げている、という意味では確かにスプリンターである。昨年のツール・ド・ヨークシャーでの勝利などを見ても、アップダウンに強い登れるスプリンター、ないしはパンチャーといった印象である。

しかし昨年のツールから、また別の顔を見せ始めた。1級山岳を越えた先にあるカルカソンヌのゴールにて、ヨン・イサギレやバウケ・モレマを打ち破っての逃げ切り勝利。今年のパリ〜ニースでもトーマス・デヘントらと逃げ最後は圧倒して勝利するなど、いつの間にか山岳エスケープの達人となっている。

そして、直近のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは、山岳アシストとしても一級品の実力を持っていることを証明した。

クイーンステージとなった第7ステージ。ともに逃げに乗っていたルツェンコのために、逃げ集団の先頭を牽き続けていたコルトニールセン、残り11㎞で仕事を終えて脱落した。

しかし、彼が後続のメイン集団のもとに降りてきたとき、そのまま彼は再び、今度はメイン集団のフルサングのための牽引を始めた。このとき、集団からはナイロ・キンタナが抜け出しており、ミカル・クウィアトコウスキーと共に良いペースで集団からのリードを保っていた。このタイミングでのコルトニールセンの牽引がなければ、もしかしたらフルサングの総合優勝はなかったかもしれない。

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おそらく今回のツールに向けて身体も随分絞ってきているようで、スプリンターや山岳エスケーパーとしての顔も持つこの男は、一級品の山岳アシストというまた新たな顔でもってフルサングのために走り抜いてくれるだろう、

 

 

78.ルイスレオン・サンチェス(スペイン、36歳)

クライマー 187cm、74kg 出場日数:54日

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2004年のリバティ・セグロス時代から数えること20年。全部で20のグランツール出場経験を持つ大ベテランの得意技はズバリ、「逃げ」である。

ただの逃げではない。とにかく、あらゆる局面で、ときにこちらの想像を超えて逃げる。最初から逃げることもあるが、終盤での不意の抜け出しも強い。

ツール・ド・スイスの第2ステージの逃げ切り勝利はまさにその特性が遺憾なく発揮された勝利だった。そのほか、2017年ジロのチマ・コッピを獲得するための単独逃げや、同年末のGPブルーノ・ベヘッリの終盤抜け出し勝利など、山岳でも丘陵の先の平坦でも御構い無しに逃げを打ち、勝利を掴む。

その特性を活かしたステージ勝利狙いと、「前待ち」によるフルサングのアシストとが、メインの仕事となるだろう。2015年ブエルタのアルの総合優勝も、彼の前待ちが決め手となった。今年もまた、王を生みだす手助けをしてくれるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

総評

 

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エースもチームも好調で、十分に総合表彰台を狙える布陣。やや不安が残るのは平坦アシストで、何かトラブルがあったときの対処を十分にこなせるか否か。

また過去の実績だけで見るとチームTTも鬼門。そこはスペイン国内選手権TTで2位・3位に入ったビルバオ、ゴルカに期待したいところだ。

 

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