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ストラーデビアンケ2019 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:イタリア

Region:トスカーナ州

First edition:2007年

Editions:13回

Date:3/9(土)

 

ベルギーを離れイタリアでも本格的なロードレースシーズンが開幕していく。まずはこの「白い道」ことストラーデビアンケ。その名の由来となった未舗装路を特徴とするレースながら、ゴール前20kmを切ってから勾配15~18%の未舗装路激坂が連続するため、アルデンヌ・クラシックに強いパンチャーやクライマーもしばしば上位に入り込む独特なレースとなっている。

日本国内でも人気の高いこのレースの、コース・過去のレースの展開・そして注目選手をプレビュウしていく。

 

 

 

コース詳細

トスカーナ州の中心都市の1つシエナを発着する184km。

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http://www.strade-bianche.it/en/?refresh_ce-cp

全体の実に3分の1を占める未舗装路が最大の特徴。

この時期に多い雨に降られればその道はあっという間に泥となり、選手たちのタイヤを重くして、肉体的にも精神的にも彼らを追い詰めていく。

 

勝負所となるのは残り55kmを切ってから始まるセクター8「モンテ・サンテ・マリエ」。11.5kmにも及ぶ長距離未舗装路の中で真に強い選手たちがリードを奪う展開となることが多い。

 

また、ゴール前20kmを切ってからは、最大勾配15%のセクター10(2.4km)と、最大勾配18%のセクター11(1.1km)の2つの未舗装路激坂が登場。

強豪だらけの先頭集団の中から、この日の最強が抜け出すならばこの瞬間だろう。

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http://www.strade-bianche.it/en/?refresh_ce-cp

 

最後、再びシエナの街のカンポ広場に戻る途中で、最大勾配16%のサンタカテリーナ通りの石畳激坂が登場するも、この時点では勝負がすでに決まっていることが多い。

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未舗装路と激坂が彩る「フランドルとアルデンヌの合いの子」。

今年これを制するのはクラシックスペシャリストか、パンチャーか、クライマーか。

 

 

過去のレースを振り返る

2017年

11.5kmの超ロング未舗装路「モンテ・サンテ・マリエ」で前年2位のゼネク・スティバル、ミカル・クウィアトコウスキー、ティム・ウェレンス、グレッグ・ファンアーフェルマート、ルーク・ダーブリッジ、トム・デュムランが抜け出す。

急勾配のセクター9「モンテアペルティ」(800m)でクウィアトコウスキー、スティバル、ウェレンス、ファンアーフェルマートが先行し、続くセクター10でデュムランたちも追いつくも、ラスト15km地点の舗装路でクウィアトコウスキーが独走に持ち込んだ。

何の変哲もないアスファルトの舗装路で決まった一撃。こういう展開もありうるから油断がならない。独走力の高い選手には注意だ。

Embed from Getty Images

 

 

2018年

大雨により泥まみれの未舗装路。

セクター8でクウィアトコウスキー、アレハンドロ・バルベルデ、ダニエル・オス、グレッグ・ファンアーフェルマートら10名が抜け出すも、スティバルやペテル・サガンらがペースアップを図るメイン集団がこの区間中に追い付く。

登りでのバルベルデの加速は捕まえられたものの、そのカウンターで飛び出したバルデファンアールトは見逃された。

メイン集団から1分近いリードを保って、残り35kmを切る。

そしてメイン集団からベノートとピーター・セリーが抜け出す。

第10セクター(登坂距離2.4km、最大15%)でセリーを置き去りにしたベノートが先頭2名に追い付く。

残り12km。最後に未舗装路である第11セクターの登りでベノートがアタック。抜け出した彼はそのまま独走でカンポ広場に戻ってくる。

あまりにも早く才能を示しながらも勝利のなかった彼が、ついに手に入れたクラシックでの勝利だった。

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それではこれらの過去のレースを参考にしつつ、今年の優勝候補をチェックしていこう。 

 

 

注目選手

ティム・ウェレンス(ベルギー、28歳)

ロット・スーダル(LTS)

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2年前に3位。エースだったはずのベノートを退けての表彰台だった。

元より、アルデンヌ系の選手も好成績を出しやすいこのレースは、ウェレンスとも相性が良いはずのレースだ。それに加えて今年は、直前のオンループ・ヘットニュースブラッドでも最終集団に入り込む走りを見せ、フランドル・クラシックへの適性も感じさせている。

今年も活躍したブエルタ・ア・アンダルシアでは、石畳の急坂に対して誰にも負けない足を持っていることを示し、起伏に富んだ個人TTでは独走力の高さも証明してみせた。彼ならば、最後の20kmを過ぎてからの独走という展開も、十分にありうるだろう。

今大会の優勝候補筆頭であると言って過言ではない。

 

 

ゼネク・スティバル(チェコ、34歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)

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先日のオンループ・ヘットニュースブラッドにて、ベテランならではの嗅覚を発揮して見事勝利を掴んでみせた元シクロクロス世界王者。ストラーデビアンケとの相性も良く、2015年に初出場にして優勝。その後も2位→4位→7位。 

www.ringsride.work

実は、過去12年のレースを振り返ってみると、クイックステップ所属の選手が勝ったのはこのスティバルのときだけである。やはりストラーデビアンケはいわゆるフランドル・クラシックとは趣を異にするようで、クイックステップとの相性は決して良くないと言えるだろう。

それでもスティバルが好成績を出すことのできる理由は2つあると思っている。

1つは、彼がシクロクロス出身であること。

シクロクロスというと悪路をこなすバイクテクニックが肝になるレースで、未舗装路や石畳への適性の高さがすぐに思い浮かぶことだろう。しかし、一方でシクロクロスは、細かなアップダウンや激坂が繰り返し繰り返し登場するという特徴も持っている。だから、北のクラシックとアルデンヌ系クラシックの両方の特徴を兼ね揃えたこのストラーデビアンケは、シクロクロス出身選手にはとくに向いているレースということができそうだ。

もう1つは、ストラーデビアンケがそのサバイバルなレース展開によって、チームの力よりも個の力を必要とするという点である。

もちろんクイックステップの選手たちは個の力においても卓越しているが、その得意とするチーム力が十分に機能しないという意味で、相対的に他のフランドル・クラシックよりも勝率が悪くなる。

そのうえでスティバルは今回のオンループを見てもわかるように、個人の力と判断力とで勝利を掴むことができる男だ。また、シクロクロスという競技自体も、ロードよりも個の力を必要とする競技である。

今回のストラーデビアンケでも安定して上位に喰い込めるだけの素質を持っている男、それがスティバルである。もちろんそのうえで、初出場ながらアルデンヌ系への類稀なる才能を見せつけるアラフィリップや、急成長中のランパールトなどがいるクイックステップはやっぱり強力で、誰が勝ってもおかしくないのはいつもの通りである。

 

 

ティシュ・ベノート(ベルギー、25歳)

ロット・スーダル(LTS)

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ジュニア時代から各種トップクラシックレースで成績を重ね、ネオプロ時代の2015年にはロンド・ファン・フラーンデレンで5位に入ったことで一躍注目を集めた。この男はすぐにでも、クラシック最強選手として台頭するに違いない、と。

しかし、その後も好成績は出すものの、なかなか「勝利」を得られずにいた。そんな中、ようやく掴み取った「勝利」が、このストラーデビアンケだった。

泥に塗れた悪コンディションの中、他のスペシャリストたちを圧倒する走りで先頭にブリッジし、そして次の瞬間にはこれを突き放すという圧巻の走り。彼の才能の高さをまざまざと見せつけた。

その後も、昨年はE3ハレルベーケ5位、ドワースドール・フラーンデレン7位、ロンド・ファン・フラーンデレン8位など、かつての勢いを取り戻すかのような成績を立て続けに出していく。直近のオンループ・ヘットニュースブラッドでは、残り30kmで悔しい落車をしてしまったものの、そのタイミングで巻き起こっていた決定的な動きにはついていけている走りは見せており、ウェレンスと共に先頭集団に残ってフィニッシュを迎えられる可能性は十分にあった。

2019年は北のクラシックにおいて、昨年以上の結果を出したい。その滑り出しとして、今回の走りには注目が集まる。

 

 

グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、34歳)

CCCチーム(CPT)

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今回のオンループでは悔しい2位。しかし、勝負所で幾度となくアタックを仕掛けライバルたちを引き千切っていこうとしたその姿勢は、彼が今年、チームの顔としての想像を絶する責任感をもって北のクラシックに挑んでいるのだということを実感させてくれた。 今回はそこでやり過ぎてしまったがゆえに、最後のスティバルの飛び出しを抑え込むだけの足を残せなかったのかもしれない。他のチームメートたちが皆、序盤から働き過ぎてしまったことや度重なるメカトラによって遅れたことも、彼にとってはマイナスに働いた。

だが、気持ち新たに。今回も、オンループのときとほとんど変わらないメンバーで、すなわちCCCクラシック最強軍団で挑む。目標の20勝に向けて、彼らはきっと、戦いを重ねるごとにその気持ちを1つにして強くなっていく。

そのうえで成し遂げた1勝は、結果だけを見ればファンアーフェルマートなら取ってもおかしくはない1勝かもしれない。しかし、それは彼にとってもしかしたら、これまで以上に重みを感じられる1勝となるかもしれない。

 

 

ジャンニ・モスコン(イタリア、25歳)

チーム・スカイ(SKY)

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イタリアの悪童。その脚質はフランドル・クラシックスペシャリストとも、典型的なパンチャーとも限定しきれない。

それがゆえにストラーデビアンケは向いているレースではあるはずで、過去の戦績としては18位→17位→14位と「良くも悪くもない」が、今年はさらに爆発してくれそうな気がする。 

昨年はツール・ド・フランスで失格処分を受けたものの、2ヶ月後には復帰して国内選手権個人TTを連覇したほか、ツアー・オブ・グアンジー総合優勝など9月以降だけでも5勝もしている。

直近のUAEツアーでは山頂フィニッシュステージで遅れる姿が映し出されたものの、もともとクライマーというわけではないのでそこまで気にする必要はないだろう。

 

何より、イタリアのレースである。やっぱりイタリア人が勝ってくれないとね!

実は、過去のイタリア人優勝者は2013年のモレノ・モゼールのみで、これはちょっと寂しいのである。

ちなみに、モスコンはこのモゼールと同じトレント出身。だから何だというわけでもないのだが。

 

 

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