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サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ロンド・ファン・フラーンデレン2019 注目選手プレビュー

コースプレビューに引き続き、今大会の注目選手を10名、紹介していく。

10名紹介していくと言いながら、なんかチームが偏っている気がするのはきっとたぶん気のせい。

 

↓注目すべき勝負所の解説はこちらから↓

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1.ニキ・テルプストラ(オランダ、ディレクトエネルジー)

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2017年の3位、2015年の2位、そして昨年の優勝者。 

とはいえ今年はプロコンチネンタルチーム所属。昨年のル・サミン、E3、そしてフランドルをチーム力によって勝った彼は、今年、彼自身の力でもってクールネ~ブリュッセル~クールネとル・サミンを3位で終えている。いずれも、古巣クイックステップのチーム力を相手に敗れてしまった。

 

となれば今年彼がやるべきは積極的な攻撃である。しかし昨年のような賭けには出られない。仕掛けるならば3周目オウデクワレモントからか。そこでは遅すぎるか、それとも適切か。いずれにしても、先手を取ることは彼にとっては難しいだろう。しかしスプリントでは敵わない以上、どこかで抜け出さなければならない。

 

 

21.イヴ・ランパールト(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)

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現ベルギーチャンピオン。クイックステップの中ではTOPとは言えない存在のはずだが、展開次第では誰が獲ってもおかしくはないのがクイックステップ。

先鋒でスティバル、先行役にユンゲルス、そしてジルベールとランパールトは終盤のカウンター要員として集団の中に留まっているだろうが、すでに結果を出しているユンゲルスとスティバルが警戒されてその攻撃を潰される中、ややマークが緩くなっているランパールトが間隙を突く一撃を喰らわせる可能性はあるだろう。

だがヘント~ウェヴェルヘムのときのように、各チームがクイックステップを陥れる事態を生めば、ランパールトはチームのために犠牲になる候補の1人でもある。

 

 

22.フィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)

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2017年覇者。あのときもテルプストラ同様に、そしてテルプストラ以上の距離の独走で勝利した。

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しかし彼の本当に強いところは、彼自身がエースのつもりで勝利を狙って走るのではなく、若きチームメートのために全力を尽くすことだ。同年のドワーズ・ドール・フラーンデレンでのランパールトのための走りや、つい最近のミラノ~サンレモでのジュリアン・アラフィリップのための「顔を歪めながら」のポッジョ・ディ・サンレモでの超牽引。

今回も、スティバルやユンゲルスの先行に対し、集団の中で重しとなる役割を担うだろう。2年前にトム・ボーネンにやってもらった役割であり、昨年テルプストラのために演じた役割だ。そしてもしも警戒するライバルたちがスティバルやユンゲルスを逃がさない動きを見せれば、最後にその強烈な一撃で抜け出すのがジルベールの武器である。昨年も、存分に集団を攪乱させたのち、最後は集団から飛び出して3位でゴールを果たした。

 

誰よりも強いため誰もが警戒せざるを得ないのに、そのせいで別の選手を勝たせてしまう、とにかくドゥクーニンクのドゥクーニンクたる強さを象徴しているチームの大黒柱である。

 

 

23.ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、ドゥクーニンク・クイックステップ)

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テルプストラが抜けたあとの穴埋めを十分に果たせる存在となった。

勝負所——よりも少し前のところでするっと抜け出し、そのまま同行者たちすら突き放して先行してしまう。一度動き出せば手をつけられない、逃がしてはいけない暴走列車。

クールネ~ブリュッセル~クールネではその独走の結果、勝利した。E3・ビンクバンククラシックではその独走の末にスティバルを勝たせた。

今年北のクラシック初挑戦ながら、すでに北のクラシック最強軍団に欠かせない存在だ。

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そしてつい先日のドワーズ・ドール・フラーンデレンでも、彼は積極的に動き、勝利の鍵を掴みかけた。

ただ一人誤算は、彼と違って単独で戦わなければならない身ながら、彼と同じくらいに積極的な動きをみせたマチュー・ファンデルポールの存在である。

ユンゲルスのノケレベルグでの攻撃すらも抑え込み、そして最後のスプリントでは軽々と勝利を掴んだファンデルポールの存在は、ユンゲルスの、そしてクイックステップの戦略の天敵である。

それでもそのとき以上に最強のメンバーで挑む今大会。ぽっと出の若者に負けてはいられない!

 

 

27.ゼネク・スティバル(チェコ、ドゥクーニンク・クイックステップ)

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元シクロクロス世界王者。2011年からクイックステップ入りし、今年で9年目。

今年、「北のクラシック」で初優勝。しかもオンループ・ヘットニュースブラッドとE3・ビンクバンククラシックを共に制するという、圧倒的成果。

しかし、彼はチームの絶対的エースというわけでは決してない。むしろその役割は「先駆け」。すなわち、攻撃を仕掛けたライバルたちにいちはやく反応し、これを抑え込むという役割だ。オンループ・ヘットニュースブラッドでの勝利は、その役割の結果、前には彼しか残れないという状況ができて、掴み取った勝利だった。

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今大会でもその役割は変わらないだろう。2周目オウデクワレモントか、クルイスベルグが、早めの攻撃を仕掛けたライバルに対して、まずはチェックをしていく役割を果たすだろう。

他のライバルたちにとって、そのチェックは決して見逃せないものだ。何しろ「前哨戦」E3の覇者だ。昨年はE3の覇者テルプストラがロンドも制している。

しかしもちろん、そのスティバルの動きに慌てふためいてプロトンが混乱すればそれこどドゥクーニンクの思う壺である。

前に出たスティバルでも勝てる、後方待機のジルベールやランパールトでも勝てる。

それがこのチームの怖いところだ。 

 

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41.ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)

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2016年覇者。クルイスベルグ手前の平坦路でクウィアトコウスキーとファンマルクと共に抜け出してカンチェラーラを置き去りにし、3回目オウデクワレモントでカンチェラーラがアクセルを踏んだときもファンマルクと共に逃げ続け、最後のパテルベルグでついにファンマルクを突き放して独走を開始。

最後の13km平坦路においても、稀代のTTスペシャリストであるカンチェラーラ(+ファンマルク)に対し、たった1人でペダルを回し続け、そのタイム差を決して縮めることがなかった。あのときの彼は神がかっていた。世代交代の瞬間だった。

2017年はファンアーフェルマートと共に、ジルベールを捕まえることもできなくないペースだった。しかし、3回目オウデクワレモントでコースの脇のフェンスに引っ掛けて転倒するという不運に見舞われる。2018年はルーベこそ制するも、ロンドには手が届かなかった。

 

今年のサガンの調子は果たしてどうなのか。ダウンアンダー以来、勝利なし。

ティレーノ~アドリアティコ直前に体調を崩したというのは、そこまで大きな影響とはなっていないようにも思える。ティレーノ~アドリアティコ自体も上位には喰い込んでいたし、E3・ビンクバンククラシックでもメカトラブルが原因での失速だ。ミラノ~サンレモなどでも勝負所にしっかりと入る強さを見せてはいる。

しかし、あと一歩が足りていない。いつもの彼ならばそこでズバッと勝利を掴むところが、最後の最後で力が足りていない印象。かつてのシルバーコレクターのときのような雰囲気が漂っている。

 

ひとつは、今年はリエージュ~バストーニュ~リエージュを狙っているから、というのもあるかもしれない。あるいはロードレース全体に対する彼のモチベーションの問題なのか?

そんな彼が勝利を狙うとすれば、ヘント~ウェヴェルヘムのときのように、意外なくらいに積極的に前に出ていくという方法ではないかとも思う。

あのときもライバル勢は、最近調子の出ていないサガンよりも、クイックステップなどに対する警戒を優先させていたように思う。

たとえばマチュ―・ファンデルポールなどが仕掛ける早めの動きにサガンも反応し、前に出てしまえば可能性はあるかもしれない。ヘントでは終盤のクイックステップの(ランパールトなども犠牲にした)怒涛の追い上げで捕まえられてしまったが、ラスト30kmが平坦のヘントと違い、ロンドでは3回目オウデクワレモントやパテルベルグなどの勝負所が控えており、3年前のような勝ちパターンにサガンが持っていくことは十分できるだろう。

同伴者として考えられるユンゲルスは勿論、マチュ―に対しても、本気のサガンならばスプリントで勝つことはできるはず。

「王」としての貫禄を見せ、復活を期待している。 

 

 

51.オリバー・ナーセン(ベルギー、AG2Rラモンディアル)

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「なかなか勝ちきれない男」。しかし年々その成績は向上し、今年はミラノ~サンレモで2位、ヘント~ウェヴェルヘムで3位。

いずれも長距離を走った中での、混沌とした(小)集団スプリントで上位に喰い込む走りである。 ミラノ~サンレモではアラフィリップ、ヘント~ウェヴェルヘムではクリストフとデゲンコルプに敗れており、いずれもスプリンタータイプの選手たちを相手取って負けており、逆にマチューやサガンには勝っている。

ロンドはクリストフやマイケル・マシューズといったスプリンターたちも好成績を収めてはいるものの、最後に勝負に絡める集団に残れることは多くない。その集団の中にナーセンが入り込むことができれば十分に勝機はある。そしてそこに入れるだけの仕上がりが、今年のナーセンには期待できる。

ただここ数年のような独走で決まるパターンになると厳しいのは否めない。それでも上位には入れるだろう。

 

元ベルギー王者の悲願。そしてAG2Rの悲願だ。

 

 

61.グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム)

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大きく変質したチームにおいて、彼はやはりというか、1人での戦いを強いられてはいる。もちろん道中でチームメートたちが果たしてくれている役割は大きい。 

E3・ビンクバンククラシックでは先行するユンゲルス追走のために(おそらくは)ルーカス・ヴィシニオウスキーが全力の牽引を見せてくれたし、直前の(GVAが出場していない)ドワーズ・ドール・フラーンデレンでは、ミヒャエル・シェアーが無理をせず途中リタイアを選びロンドに向けたチームとしての本気ぶりを窺わせている。

そしてファンアーフェルマート自身も、現チームでの自らの役割にこれまで以上の責任感でもって臨んでいることがよくわかる走りを見せている。絶対に勝負集団には入り込む、という強い意志でもって、オンループ・ヘットニュースブラッドでは2位、E3・ビンクバンククラシックでは3位。いずれもクイックステップのチーム力の前に敗れた。しかし、誰よりも安定して上位を狙える力が備わっていることは証明してみせた。

 

今回も、最後の最後で彼を助けてくれるチームメートはいないだろう。あとはそこでの勝負強さだ。

そして、後手に回って負けるパターンが多いので、クイックステップやマチュー・ファンデルポール、あるいはサガンの積極的な攻撃にどう対応していくか。

テルプストラやナーセンもそれを追う立場で走るはずなので、ファンアーフェルマートも焦らず、チャンスを待って仕掛けるようにした方がいいかもしれない。

重要な大一番。「いい走りをした」では終われない。

 

 

131.ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィズマ)

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彼の強さはまぐれではなかった。今年もまた、ストラーデビアンケで3位。ミラノ~サンレモでも勝負所に乗って6位で、E3・ビンクバンククラシックではジルベールに次ぐ2位。ファンアーフェルマートを差した。ユンボ・ヴィズマは良い買い物をした。彼はあっという間にこのチームのクラシックエースとしての不動の地位を築いた。

それでも、ライバルのマチュ―・ファンデルポールにーー1年遅く本格ロード参戦を果たし、未だプロコンチネンタルチーム所属に過ぎない彼に――ワールドツアー初勝利の座をいとも簡単に奪われた。

ヘント~ウェヴェルヘムではマチューのアタックに喰らいつく姿も見せつけた。2人で表彰台に登ることも十分に考えられることだろう。

しかし今の段階では、その表彰台はマチュ―の一段下に位置するイメージしか湧かない。

 

マチューに勝つための重要なピースはチームである。とくにマイク・テウニッセンが、先日のヘント~ウェヴェルヘムではサガンと共に暫くの間逃げ続けた。ヘントはロンドと同様の長距離。ロンド本戦でもテウニッセンが前で展開し、ワウトが戦いやすい環境を作ることができれば、大きな成果に繋げられそうだ。

もちろん、テウニッセン自身が勝負する局面というのも悪くない。今年、フルーネウェーヘンのリードアウターとしてローセン以上の才覚を見せている彼ならば、最後小集団スプリントになったときにもかなり良い勝負をしてくれそうだ。

 

 

201.マチュー・ファンデルポール(オランダ、コレンドン・サーカス)

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こんなことってあるのか。

チームがプロコンチネンタルチームに昇格し、いよいよ本格的に参戦したロードレースシーズンの1年目。

まだヨーロッパでは4戦目だ。緒戦のノケレ・コールスではゴール前の落車に巻き込まれてリタイア。直後のGPドナンではシクロクロスばりの独走を決めて早速の勝利。ワールドツアー初参戦のヘント~ウェヴェルヘムでは名だたるスプリンター勢に混じっての4位。そして直近のドワーズ・ドール・フラーンデレンでは、実に余裕そうな素振りでの優勝。

紛うことなき才能の塊。で、あると共に、その姿勢、堂々たる戦い方もまた重要であった。

 

彼はチーム力が他と比べても劣っていることを自覚していた。それがゆえに彼は常に「前で」展開を作っていく。ヘント~ウェヴェルヘムでの前半戦での重要な「18名」グループにもしっかりと入り込み、ケンメルベルグでも自ら動きを作り出そうと動いた。

そしてドワーズ・ドール・フラーンデレンでは、残り65km地点での最初の攻撃を自ら作った。チームメートと共に動いたものの、ついていくのに精一杯な彼ではなく、マチュー自ら先頭に立って小集団を牽引し続けた。

最終的にはボブ・ユンゲルスらと共に逃げに乗ることになるが、その際にも勝負所のノケレベルグなどで積極的に仕掛けていく。

これらの動きは全て、今回のロンドでも遺憾なく発揮されることであろう。いまだ「挑戦者」でしかない彼にとっては、最もやりやすい動きである。そして、組織的にプロトンをコントロールしていこうとするドゥクーニンクにとっては、これほど厭らしい存在はいない。

マチューの動きに呼応してファンアールトやサガンなどが動いて混沌とすれば、本来は支配的に先手を取っていけるはずのドゥクーニンクが混乱し、ヘントのときのような後手に回る可能性は十分にありうる。また、先行したマチューに1人くらい誰かをつけたとしても、簡単にやられてしまう可能性もある。ドワーズドールのときのように。

 

だから今大会、決定的な動きを作っていくのはこの男、マチューではないかと思う。

クルイスベルグ、早ければその前の2回目オウデクワレモントでの彼の動きには要注意である。 

 

 

 

以上、10名の「優勝候補」たちを見てきた。

それ以外にも上位に入り込みうる重要な選手たちは数多くいる。31.ティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・スーダル)や81.マッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)。過去優勝者でヘント~ウェヴェルヘムでもガビリアとの絶妙なコンビネーションを見せて勝った181.アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、UAEチーム・エミレーツ)も当然警戒しなければならない存在だし、満を持してのロンド初出場となる161.マイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)もオンループ・ヘットニュースブラッド12位に加えて直前のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで2勝と調子の良さを見せている。 

 

今シーズンの春のクラシックの頂点に位置する大一番。

常に予想を超えたドラマを作り上げる「クラシックの王」を今年も期待感をもって迎えよう。

 

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