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ミラノ~サンレモ2019 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:イタリア

Region:イタリア北西部

First edition:1907年

Editions:110回

Date:3/23(土)

 

別名「ラ・プリマヴェーラ(春)」。

春の訪れを告げるレースであり、シーズン最初の「モニュメント」。

全スプリンターにとって夢の舞台であるこのミラノ~サンレモで、今年もトップスプリンターたちが激突する。

 

今回はこの最高峰のスプリンターズ・クラシックについて、コースの特徴、近年のレース展開、そして注目選手たちを紹介していこうと思う。

 

 

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レースについて

ミラノ~サンレモはスプリンターのためのクラシックである。

全長は例年300km近くあり、今年は291km。当然、全UCIレース中最長のレースであり、優勝者のゴールタイムが7時間を超えることもしばしば。

そのコースの大半が平坦基調となり、基本的にはスプリンターの足を阻害する要素はほとんどない。

ただし、ラスト30kmに登場する2つの小さな「丘」には十分に注意が必要だ。

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ラスト30kmのレイアウト。http://www.milanosanremo.it/en/percorso/

まずはラスト27.1kmで登り始める「チプレッサ」。

登坂距離5.6km、平均勾配4.1%、最大勾配9%。

 

そしてラスト9.1kmから登り始める「ポッジョ・ディ・サンレモ」。

登坂距離3.7km、平均勾配3.7%、最大勾配8%。そしてその頂上からゴールまでは5.4kmの下りと平坦。

 

いずれも一般的なロードレースにおいてはさして脅威にはならないレベルの登りではあるが、何しろこのミラノ~サンレモは他に類を見ない長距離・長時間レース。

ここまで蓄積されてきた疲労が、本来であれば容易に登れるはずの丘を、厳しい激坂のように見立てることすらままある。

 

実際、過去のレースを振り返ってみても、ピュアスプリンターのマーク・カヴェンディッシュがチプレッサで遅れる姿を見せたり、マルセル・キッテルは一度も出場したことがなかったり、アンドレ・グライペルも上位入賞を果たせていなかったりと、意外とピュアスプリンターには厳しいコース設定となっているのである。

過去の優勝者を見てみても、アレクサンダー・クリストフ(2014)、ジョン・デゲンコルブ(2015)、アルノー・デマール(2016)など、起伏をものともしないタイプの「登れるスプリンター」が好成績を出していたりもする。

ベン・スウィフトやフアンホセ・ロバトなど、通常のピュアスプリンター同士のマッチスプリントであればあまり上位に来ないような名前も挙がってきている。

ピュアスプリンターで上位に来るとしたらユアンやブアニなどの軽量級スプリンターといった感じだ。

 

たとえば今年は、およそ現時点での最強スプリンターとして名高いディラン・フルーネウェーヘンが初出場と言うことで話題を集めているが、個人的に彼はこの2つの丘を乗り越えることはできない、あるいはできたとしても最後の勝負には絡めないのではないか、と踏んでいる。

そもそも300km弱という、実戦でほかに経験しようのないこのレースを、新参が制することはなかなか難しい。

あとはどれだけ、彼のチームメートが彼を助けることができるか・・・。

 

 

もう1つ、注目すべきは、「ポッジョでのアタック」だ。

事実、過去2大会は集団スプリントではなく、このポッジョ・ディ・サンレモでのアタックから生まれた逃げ切りによって決まっている。

2017年はポッジョで飛び出したペテル・サガンとそれに追随したミカル・クウィアトコウスキー、ジュリアン・アラフィリップとが、3つ巴の激しいスプリントを繰り広げた。

Embed from Getty Images

 

2018年はチームメートのアシストのつもりで飛び出したヴィンツェンツォ・ニバリが、得意のダウンヒルテクニックを駆使して逃げ切りを果たし、イタリア人としては実に12年ぶりのサンレモ制覇を果たした。

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それ以前も成功はしていないものの、このポッジョの登り、そして下りを利用した積極的な攻撃が毎年繰り広げられている。

 

ゆえに、このスプリンターズクラシックは「最後の1km」だけ見ればいいものでは決してない。とくにラスト30kmを過ぎてから、「チプレッサ」と「ポッジョ・ディ・サンレモ」を利用して各チームがどんな戦略を立ててくるのか。

彼らの動きに注視しながら、最後の瞬間まで目を離すことなく楽しんでもらいたい。

 

 

それでは、今年最初のモニュメントで注目すべき選手たちをピックアップしていこう。

 

 

注目選手

131.カレブ・ユアン(オーストラリア、25歳)

ロット・スーダル(LTS)所属

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過去の戦績

2017年:10位

2018年:2位

昨年2位。ただし単なる2位ではない。優勝者ヴィンツェンツォ・ニバリを除き、その背後から迫った集団内の先頭を取っての2位である。その意味するところは大きい。

ここ数年、カレブ・ユアンは自身の脚質を大幅に改造してきた。かつては、ツアー・ダウンアンダーのスプリントステージを全制覇するほどの圧倒的なピュアスプリント力を誇った彼も、ここ最近は後退することが多い。

それと引き換えに彼が手に入れたのは、簡単に登りで遅れない力。かつては彼をずるずると引き下ろしたスターリングの登りフィニッシュを制し、ラグナ・セカの激しいアップダウンでライバルのガビリアを突き放し、そして今年は何と超激坂ハッタ・ダムを制した。彼はもはや「登れるスプリンター」と呼んでも差し支えない。それこそ、ミラノ~サンレモに最も相応しい男である。

 

そしてチームメートには最高に頼れる右腕ロジャー・クルーゲの存在。もしもポッジョで遅れかけてもマルチンスキーが引き上げてくれる。もしもポッジョで抜け出す不届きものが現れれば、アダム・ハンセンが猛牽引でこれを追いかける。最後のスプリントではクークレール、ファンデルサンド、ニコラス・マース、そしてクルーゲが最強のトレインを見せてくれるだろう。

 

 

87.エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、30歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)所属

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過去の戦績

2012年:108位

2013年:108位

2016年:84位

2017年:9位

2018年:19位

イタリアの至宝。しかしどちらかというとピュアスプリンター寄りで、過去の戦績は決して良くはない。

しかし、彼は昨年から一気にその実力を高めつつある。また、昨年のイタリア選手権では、ジョヴァンニ・ヴィスコンティやドメニコ・ポッツォヴィーヴォらを相手取り激坂を乗り越えての優勝となった。ジロ・デ・イタリアの厳しい山岳を乗り越えてマリア・チクラミーノを守り切った。彼はもはや、ピュアスプリンターに限定されるような男ではない。

そして何よりも勢いが良い。今年に入ってその勢いも削がれるかと思えばそんなこともない。ガビリアを相手にしても怯むことなく勝利を掴むその実力は、明らかに彼史上最高のものである。

よって、今回は大きな成果を期待したい。

 

もちろん、彼のチームの強みは、その選択肢の大きさである。期待されているのはジュリアン・アラフィリップの存在。ポッジョ・ディ・サンレモで彼が動いたとき、誰もがその動きを逃すことのできないものとして全力で追撃を仕掛けることだろう。

そして、ゴール前1kmからはフィリップ・ジルベールの攻撃にも注意しなければならない。そんな、チームメートの巻き起こす混沌の只中で、ヴィヴィアーニがその「瞬間」を虎視眈々と狙って行く。

げにおそろしきチームなり。

 

 

243.フェルナンド・ガビリア(コロンビア、 25歳)

UAEチーム・エミレーツ(UAD)所属

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過去の戦績

2016年:79位

2017年:5位

この若き才能もまた、スプリンターにとっての最高の栄誉となるこのレースにかける想いは誰よりも強い。

しかし、その想いをあざ笑うかのように、彼には不幸がつきまとった。期待されて臨んだ2016年のレースではゴール前で自らが原因の落車。昨年は直前のレースでの落車が原因で出場できず。

そもそも彼は、他のライダーに比べて落車の多い選手である。エシュボルン・フランクフルト、パリ~トゥール、そして昨年はこの落車で多くのレースに出場すらできなかった。

また、2017年のジロ・デ・イタリアでマリア・チクラミーノを手に入れたときと比べ、昨年からやや、登りに対する適性が衰えてしまったようにも感じる。

その意味で、チームとしてはもちろん、ガビリアだけを選択肢にするつもりはなく、過去の優勝者であり常に安定してTOP5に入り続ける実績をもつアレクサンドル・クリストフが豪華すぎる「2番手」として控えている。

 

もちろん、ガビリアも簡単にこれを明け渡すつもりはない。そのために今年はシーズン最初からきっちりと勝利を重ねてきた。それを認められ、UAEツアーではこの偉大なる先輩に超強力なリードアウトをしてもらえる栄誉にも預かった。

チームワークに不安はない。強力な優勝候補なのは間違いない。あとは、いやな落車さえしなければ。

 

 

51.ペテル・サガン(スロバキア、29歳)

ボーラ・ハンスグローエ(BOH)所属

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過去の戦績

2011年:17位

2012年:4位

2013年:2位

2014年:10位

2015年:4位

2016年:12位

2017年:2位

2018年:6位

ミラノ~サンレモは彼のためにあるレースといっても過言ではない。ピュアスプリンター向きとは決して言えないコース。軽い登りと勝負所の下りの存在。そして彼は実際に、過去8年間で輝かしい成績を残し続けてきた。

しかし、未だ勝利はない。そして今年も、ティレーノ~アドリアティコの直前に体調を崩す。しかも、今年はリエージュ~バストーニュ~リエージュを狙っているのか、例年と比べて体重を落としてここまで来ている。チームメートのベネットも調子が良く、彼のためにアシストする姿もよく見かける。サガンにとって、ミラノ~サンレモはいつか獲りたいレースであり獲れるレースであろうが、もしかしたらそれは今回ではないかもしれない。

 

とはいえ、かつて世界選手権も体調不良の直後に獲っていた。今年のティレーノ~アドリアティコも勝ちこそはないものの2位と5位に入るなど決して調子は悪くなかった。

少なくとも彼は「ポッジョ」で勝負を仕掛けることだろう。それは、チームメートのためのアシストとしての動きかもしれない。だが、誰もがこれを逃がすわけにはいかない。だからこそ怖い。

用意されたルーラーたちも最強と名高いラインナップだ。ボドナール、ブルグハート、ドリュケール、ガット、オス・・・ポッジョでプロトンを支配し、そしてゴール前でもその隊列を維持できるだけのタレントが揃っている。ドリュケールは昨年のポッジョの下りでアグレッシブな走りを見せた男の1人だ。

 

ここもある意味、ドゥクーニンク・クイックステップ同様に誰が勝ちに来るつもりかわからないチームだ。

なお、今回のミラノ~サンレモでサガンは、S-worksの彼の最新モデルに乗って登場するらしい。そういうところも含めて、彼はまさにエンターテイナーとして、今回のミラノ~サンレモも楽しみに来るつもりだろう。

 

 

181.ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、26歳)

チーム・ユンボ・ヴィスマ(TJV)所属

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今大会初出場。

おそらくは現在のスプリンター戦線の中で、ヴィヴィアーニ、ガビリアと並ぶ最強格であることは間違いない。もしかしたら彼ら以上であり、頂点に立つだけの資格があるかもしれない。

では、「スプリンターズクラシック」の最高峰である今大会でも最有力候補かと言えばそうでもない。先の2名と比べてもピュアスプリンターとしての特徴の強い彼が最後の登りで持ちこたえられるかはわからない。他に類を見ない長距離レースを経験したことがこの若者にはまだないかもしれない。

そもそも、今大会はもともと出る予定がなかった。2日後に控えているボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャに出場するのが彼のもともとの予定だった。それが、このミラノ~サンレモをエースで走る予定だったティモ・ローセンが負傷したことで、急遽代替エースとしてフルーネウェーヘンの出場が決まったのである。

だからフルーネウェーヘン自身もインタビューで、勝利への執着はないことを語っている。あくまでも今回のレースは、彼にとって調整の一環に過ぎないようだ。

 

では、本当に彼は注目する必要のない選手かと言えばそうでもないだろう。

初出場で優勝した選手としては2009年のマーク・カヴェンディッシュがいる。フルーネウェーヘンは、あのカヴェンディッシュにも匹敵する才能をもった選手といっても言い過ぎではない。

少なくともチプレッサを超え、ポッジョを超え、それでもなお彼がプロトンの中に身を潜めていれば、そのときは誰もが、この巨大戦艦の動きに注意を払わざるをえないだろう。

ここ最近、最強リードアウターとして台頭しつつあるマイク・テウニッセンの存在も怖い。

 

もしもフルーネウェーヘンが最後まで残らなければ、そのときは起伏にも強いダニー・ファンポッペルが勝利を狙うことになるだろう。

もしくは、先日のストラーデビアンケで2年連続となる3位を記録したタフネス・シクロクロッサーのワウト・ファンアールトが予測のつかない動きをしてくれるかもしれない。

 

 

 

まさに、最強スプリンター同士の祭典。

各チームのラインナップとそれに対する一言コメントをTwitterの方でも少しずつ投稿しているので、確認してほしい(全チームやれるかはわからないけれど・・・)

 

 

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