6月――「ツール前哨戦」の季節。今年もドーフィネ、スイス、そして今年からHCクラスに昇格したスロベニアやルート・ドクシタニーなど、各地で激しいエース候補たちの争いが繰り広げられている。
ツールに向けた、彼らのコンディションはいかほどに?
また、そんな「前哨戦」たちとはちょっと違った雰囲気の中繰り広げられたベルギーのステージレースで、「超新星」が巨大な爆発を巻き起こした。レムコ・エヴェネプール。新たな伝説、新たな歴史の誕生の瞬間が訪れた。
波乱有り、意外な展開有りの6月の主要レースたちを振り返っていこう。
- ツール・ド・ルクセンブルク(2.HC)
- クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT)
- OVOエナジー・ウィメンズツアー(2.WWT)
- ベルギー・ツアー(2.HC)
- ツール・ド・スイス(2.WT)
- モン・ヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジ(1.1)
- ツアー・オブ・スロベニア(2.HC)
- ルート・ドクシタニー(2.1)
スポンサーリンク
ツール・ド・ルクセンブルク(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ルクセンブルク 期間:6/5~6/9
小国ながらシュレク兄弟やユンゲルスなど、数多くの才能を次々と生み出しているルクセンブルクで行われる、5日間のステージレース。
そこまで厳しい登りが登場するわけではないため、例年スプリント力が高く起伏も越えられるパンチャータイプの選手が総合優勝を果たしている。2年前はファンアーフェルマートが、昨年はアンドレア・パスクアロンが制している。
その意味で、この男は十分に総合優勝候補だった。コフィディス所属のクリストフ・ラポルテ。スプリント力はもちろん、石畳や多少の登り、そして短めのTTにも強い彼は、「石畳激坂を含んだ2.1kmの超短距離個人TT」である初日プロローグを前評判通りに制し、翌第2ステージの純粋スプリントステージもライバルたちから飛び抜けた加速でもって圧勝した。
だが、今大会のクイーンステージである第3ステージの登りは、例年より厳しかったようだ。ラポルテに代わって、クライマー寄りのヘスス・エラダが勝利。翌第4ステージの登りフィニッシュでも先頭でもゴールに飛び込んだ彼が、そのまま総合優勝も獲得。蓋を開けてみれば、第3ステージのベテラン・ウェーニングの勝利意外のすべてをコフィディスが持ち帰る結果となった。
Que semana! 😃 Sin palabras para agradecer a mis compañeros el gran trabajo que han hecho en el @skodatour gracias del primero al último @TeamCOFIDIS pic.twitter.com/1dl0GlKg5T
— Jesús Herrada López (@jesushl90) June 10, 2019
今大会、勝者以外で注目に値する走りを見せたのは、第1ステージで2位に入ったジャスティン・ユールズ(ワロニー・ブリュッセル)。
この日、圧倒的なスプリント力を見せていたラポルテだったが、このユールズだけが、彼に喰らいついていった。
いやむしろ、勢いだけでいえば、ラポルテを追い抜いて優勝していてもおかしくはなかった。しかし、左カーブでアウトラインから抜き去ろうと考えていた彼は、ゴールに向けて段々と狭くなるこのコースの仕様によって行き場を失い、最終的にはフェンスとラポルトの間に挟まれる形で落車。落車したままゴールを2番手通過する結果となった。
不幸中の幸いとして、病院に運ばれながらもリタイアになるような怪我ではなかったユールス。いずれにせよ、彼が今最も勢いのあるプロコンチネンタルチームのスプリンターであることは間違いない。
年齢は33歳と、今からワールドツアーに昇格することはないだろうが、プロコンチネンタルチームが活躍するような1クラス~HCクラスのレースでは今後も注目していきたい。
もう1人、クラシック系スプリンターでありながら、パンチャーのマウリッツ・ラメルティンク(ルームポット・シャルル)と共に第3ステージの登りフィニッシュでヘスス・エラダに喰らいついていったのがアントニー・テュルジ(トタル・ディレクトエネルジー)。あの、ドワーズドール・フラーンデレンでマチュー・ファンデルポールに惜敗し、悔しくて何度も何度もハンドルを叩いていたあの選手だ。
この日の好走もあって、最終総合成績も4位。今年まだ25歳なので、新人賞も獲得し、この成績は先日のダンケルク4日間レースと同様。今年飛躍しつつある選手の1人である。
Bedt young rider@AnthonyTurgis@TDE_ProCycling#skodatour19 pic.twitter.com/W49eSHsCO4
— TOUR DE LUXEMBOURG (@skodatour) June 9, 2019
トタル・ディレクトエネルジーは注目のニキ・テルプストラが今のところ結果を出せていない中、このテュルジやトマ・ブダ、アドリアン・プティなどが目立つ走りを見せている。
今回はコフィディスにしてやられたものの、シーズン後半に向けて、さらなるチームとしての力を高めていくことを期待している。
クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:フランス 期間:6/9~6/16
↓詳しくはこちら↓
「ツール前哨戦」と名高い、フランス南東部、ドーフィネ地方を舞台とした8日間のステージレース。今年も、クリス・フルーム、ロマン・バルデ、トム・デュムラン、アダム・イェーツ、ヤコブ・フルサング、ダニエル・マーティン、ティボー・ピノ、ナイロ・キンタナ、ステフェン・クライスヴァイク、リッチー・ポートといった、ツール・ド・フランスを本気で狙うオールラウンダーたちが一堂に集結した。
そんな豪華さとは裏腹に、展開は混乱に満ち溢れたものであった。まずは、第4ステージ、個人TTの試走中に、時速60kmで下っていたクリス・フルームが突風に煽られて壁に激突。全身の骨折により6時間に及ぶ手術を必要とした程の重傷を負ってしまった。当然、ツール・ド・フランス出場はキャンセル。それどころかシーズン中の復帰は絶望的であり、今後復帰できたとしても、かつてのようなパフォーマンスを発揮できるかは甚だ不明――といった有様である。
もう1人、総合優勝候補だったトム・デュムランも、ジロで負った膝の痛みを抱えながらの出場で、序盤で大逃げを決めるなど、ツールに向けてリハビリの具合も上々、といった風ではあった。大雨のクイーンステージも大事を取って出走前にリタイア。すべてはツールに向けての、適切な準備を進める作業――かと思いきや、結局のところ、膝の痛みからの回復が想定以上に遅れ、彼もまた、ツール出場を回避することとなった。
大雨のクイーンステージは、その他の総合優勝候補たちにも影響を与えた。翌日の最終ステージの途中で、高熱を発症したことを理由にアダム・イェーツ、そしてステフェン・クライスヴァイクがリタイア。ナイロ・キンタナ、リッチー・ポートといった面々も十分な力を発揮できないままに脱落し、最後はこの春のクラシックから好調だったフルサングと同じく絶好調のシーズンを過ごしているチーム・アスタナ、そしてイツリア・バスクカントリーでも好成績を残していたエマヌエル・ブッフマンといった「意外な」選手たちであった。
総合2位のティージェイ・ヴァンガーデレンはややTTで稼いだ部分が強く、山岳ステージではむしろ遅れる姿を見せていた。また彼はツール・ド・フランスではエースではなく、リゴベルト・ウランを支えるアシストとしての役割が期待されているだろうから、ここでの調子はそこまで参考にならないとみる。
結局、本来実力を発揮するべき選手たちが皆、それを発揮できないような状況に追い込まれ、その調子を占うという意味での「ツール前哨戦」としての役割は果たし切れなかったように思う。それとも、この「意外な」総合表彰台がそのまま、今年のツールに反映されるのだろうか。だとすれば、今年のツールは本当に予想のできない、よりカオスな展開が待ち受けている、と考えることができるだろう。
ある意味それは、とても楽しみなことだ。
そして、総合争い以外で衝撃的な印象を我々に遺してくれたのが、ワウト・ヴァンアールトの存在である。この3月にユンボ・ヴィズマでワールドツアーチームデビューを果たしたヴァンアールトは、ストラーデ・ビアンケで昨年に続く3位入賞など好調なスタートを切ったものの、最大の目標であったはずのパリ~ルーベで大きな失望を味わった。
その力量は間違いなかった。繰り返しのトラブル、落車にもめげず、彼は最終局面にまで自力で残り続けた。しかし最後の最後で、トラブルからの復帰で体力を使いすぎてしまったことが仇となり、崩れ落ちるようにして力を失った。以後、彼は沈黙の時間を過ごした。
その復帰戦となった今回のドーフィネで見せたのは、登りを含んだスプリントバトルでの、他を圧倒するアグレッシブさとスプリント力、そしてそれを支える、チームの「運び屋」の存在たちであった。
このドーフィネ開催期間中に急遽、ツールへの出場が決まったヴァンアールト。純粋なスプリントステージではディラン・フルーネウェーヘンがエースを担い、彼はそのアシストに徹することになるだろうが、混戦・乱戦・丘陵ステージにおいては、ヴァンアールトがツールという大舞台においても活躍すること、間違いなしといった感想が今回のドーフィネを見て得られたものであった。
後半においてはどこか物足りない、後味の悪い感触だけが残った今回のドーフィネだったが、前半戦を彩ったヴァンアールトの鮮烈な輝きが、その中での唯一の救いだったと言えるかもしれない。
OVOエナジー・ウィメンズツアー(2.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イギリス 開催日:6/10~6/15
イギリスを舞台に、2016年からウィメンズ・ワールドツアー入りを果たしたステージレース。今年で6回目。例年よりも1ステージ増やし、より拡大した規模で争われる。
第2ステージの登りスプリントで勝利し、総合首位に立ったのは初代優勝者マリアンヌ・フォス。しかしこの「女王」は、翌日の第3ステージで落車に巻き込まれ、大会を早くも去った。
第4ステージの登りフィニッシュで2017年覇者カシア・ニエウィアドマが優勝。だがその翌日、中央ウェールズの高地マニズ・エッピントを舞台にしたクイーンステージで、チームメートのロンゴボルギーニと共に抜け出すことに成功したリジー・ダイグナンが、最後のスプリントでニエウィアドマを差し切った。
ボーナスタイムの兼ね合いで、1秒差で総合首位に立ったダイグナンは、翌日もそのタイム差をしっかりと守り切り、2016年の勝利に続き大会史上初の2勝目を記録した選手となった。
旧姓アーミステッド。元チーム・スカイのフィリップ・ダイグナンと結婚し、2018年には第一子を出産。その後、フィリップが家庭を守ることを選択し、リジーは再び競技の舞台に戻ることを選択した。しかしそれは、決して簡単な道のりではなかった。
「母となった後に再び自転車の世界に戻ることは決して簡単なことではなかった。自分のその選択が本当に正しかったのかどうか、常に自問自答する毎日だった。今日、私は1つの大きな答えを出すことができたように思う。これまでの長いキャリアを振り返ってみても、これほど素晴らしい勝利は経験したことがない。私はこの勝利の喜びを噛みしめ、ずっとずっと思い出し続けることだろう」
同じころ、シクロクロスの英国王者ニッキー・ブランマイアーが妊娠を発表し、当初復帰も予定していたところを最終的には「娘のために」引退を決断したニュースが流れたばかりだった。
それぞれがそれぞれの決断を抱えながら選手たちは走る。ときに命の危険を顧みず、家族との時間を犠牲にしつつ。
また、第1・第3ステージで勝利したジュリアン・ドールは、これで大会5勝目。エマクメーン・ビラでも優勝している彼女は、ピュアスプリンターたちが戦いを避けるような丘陵系・石畳系のスプリントの舞台での勝率の高い選手と見ることができるだろう。
ベルギー・ツアー(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー 期間:6/12~6/16
春のクラシックの中心地、ベルギーで開催される5日間のステージレース。
当然、そのコースレイアウトはクラシック要素てんこ盛りとなっており、平坦ピュアスプリントが期待される第1・第5ステージと平坦個人タイムトライアル(9.2㎞)の第3ステージのほかは、カペルミュールを始めとするロンド・ファン・フラーンデレンの名物石畳急坂が散りばめられた第2ステージに、ラ・ロッシュ・オ・フォー・コンの複数回登らせる「プチ・リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ」の第4ステージとが、総合優勝争いに影響を及ぼす「クラシックスペシャリストのためのステージレース」である。
どうしても登りを含んだ第4ステージが総合争いにおいては重要となるため、アルデンヌ・クラシックに強いウェレンスが最大の総合優勝候補と目されていた。
その中で、驚異的な走りを披露してみせたのが、昨年までジュニアで走っていた19歳の超新星レムコ・エヴェネプール。第2ステージで終始積極的な走りを見せたうえで残り12㎞から抜け出し、追随したヴィクトール・カンペナールツが残り6㎞で落車すると独走を開始。
そのままウェレンスらに40秒以上の大差をつけてプロ初勝利を遂げた。
翌日の個人TTも欧州王者カンペナールツと1秒差の4位と好走を見せ、クイーンステージとなった第4ステージでは、巧みなコンビネーションで封じ込めにかかるロット・スーダルを、力で完全に叩き潰した。
その勝ち方、走り、すべてが19歳の新人とは思えないものであり、かつロードレースの常識を打ち破るという意味で、4月のマチュー・ファンデルポールの走りに匹敵する衝撃であった。
そのあたりの走りの凄まじさ、そして2019年シーズン前半戦を通しての走りについては、下記の記事で詳しくまとめてある。
また、エヴェネプールと並び強さを感じさせたのが、UAEチームエミレーツ所属のジャスパー・フィリプセンであった。
第1・第2ステージの集団スプリントで6位(第1ステージは逃げ切りだったため実質的には5位)に入りつつ、厳しいセレクションのかかった第4ステージでも生き残り、メイン集団の先頭を取る5位に。
その走りは同じUAEのアレクサンドル・クリストフに類似するものがあり、将来的にはロンドやルーベ制覇も夢見たくなるものである。
エヴェネプールはどちらかというとグランツール向けの脚質であり、クラシックにおいて将来有望な若手はこのフィリプセンの方であると言われることもあるようで、今後の彼の活躍にも期待したいところ。
ツール・ド・スイス(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:スイス 期間:6/15~6/23
↓詳しくはこちら↓
「第4のグランツール」とも呼ばれ、ドーフィネと並ぶツール前哨戦の1つに数えられるツール・ド・スイス。しかしツールの総合エース候補がずらりと並んだドーフィネに比べ、こちらはソレル、ラトゥール、ケルデルマンなど、どちらかというとサブエース候補が並んだ。
その中で注目を集めたのが、昨年ツール覇者でクリス・フルームと並びエースを担うことになると思われていたゲラント・トーマス。とくに、ドーフィネでフルームが重傷を負い、ツールの単独エースを任されることが決まったことで、その注目の度合いはさらに高まった。
しかし、まるでフルームの後を追うかのように、トーマスもまた、落車に巻き込まれてしまう。
不幸中の幸いで、骨折などの重大な怪我には繋がらず、今のところツール出場も問題ないということではあるが、それでもやはり、不安の残る結果となってしまった。
代わって、エースを務め、圧倒的な実力を見せつけたのがエガン・ベルナルであった。とくに第6・7ステージでのアタックには、ついていくことのできるライバルは1人もいなかった。
今年のツールではトーマスと並んでダブルエースを務めることは間違いないだろう。昨年のトーマスとフルームのように、表彰台を2つ独占してしまう可能性も十分にありそうだ。
彼らと並んでツールのエース候補として参戦していたはずのエンリク・マスは、アグレッシブな動きを見せようとはしていたものの、最後には失速する姿が目立った。
逆にローハン・デニスやパトリック・コンラッドなど、意外な選手たちが表彰台に上るという結果は、ドーフィネと合わせ、今年のツールの表彰台予想を難しくさせるものとなった。
また、ツール・ド・スイスは、ドーフィネと比べてよりピュアスプリンター向けのレイアウトを用意することも特徴である。今年は比較的アップダウンの激しいレイアウトではあったが、スイス・マイスターのペテル・サガンもしっかりと1勝し、ツールに向けて、コンディションをきっちりと整えつつあることを示した。
そして何よりもエリア・ヴィヴィアーニだ。ジロでは悔しい結果に終わった彼が、最強のトレインと共に、このスイスで復活の2連勝を成し遂げる。そのうちの1つは石畳の登りスプリントで、そういったステージを大得意とするサガンに対して一瞬たりとも横に並ばせないスプリントは、圧巻の一言であった。
昨年はツール・ド・フランスには出場していなかったヴィヴィアーニ。勝利数は圧倒的だったが、それがゆえに「最強」の言葉で飾るにはやや抵抗があった。
だが今回は、こうして、完全な状態でツールに臨むことができる。裏レースのZLMツアーで相変わらず最強っぷりを見せつけているディラン・フルーネウェーヘン、フェルナンド・ガヴィリア、こちらもまた復調しつつあるカレブ・ユアンなどと共に、今年こそツール・ド・フランスで、「最強決定戦」が繰り広げられる。
混沌とする総合争いと比べ、このスプリンターたちの争いは実に楽しみな状態に仕上がりつつあるようだ。
モン・ヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジ(1.1)
ヨーロッパツアー 1クラス 開催国:フランス 期間:6/17
「モン・ヴァントゥーを登る」という実にシンプルな、しかしダイナミックな目的をもった、純粋クライマー向けワンデーレースが今年から始まった。
モン・ヴァントゥー登坂前にも小さなアップダウンが連なり、171kmのコース全体の総獲得標高は4,000mを超える。そして、ラスト21.3kmで1,800mの標高を一気に駆け上がる「死の山」モン・ヴァントゥー。数多くの伝説と激闘を生んだ神聖なる地を征服するという栄誉を手に入れるべく、3つのワールドツアーチーム、7つのプロコンチネンタルチーム、そして2つのコンチネンタルチーム計80名の選手たちが集まった。
その中でも、チームとして最も優勝を期待されていたのがAG2Rラモンディアル。クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ最終日翌日に開催されたこの大会に、ドーフィネでは不完全燃焼だったロマン・バルデが乗り込んだ。
強かったのはトニー・ガロパン。頂上まで残り11.5kmから2.5kmに渡って集団の先頭を牽引し続け、番狂わせを夢見た数多くのコンチネンタル&プロコンチネンタルの選手たちを無情にも引き千切っていった。バルデはその後ろで、虎視眈々と力を貯め続けていたのである。
そしてガロパンが仕事を終えると同時に、バルデが動いた。それについていけたのは、ヘスス・エラダだけだった。
このエラダがひたすら強かった。先日のツール・ド・ルクセンブルクでも圧倒的な実力を見せつけていたエラダ。今回もその足は健在だった。
残り2.7km、残り1.9km、残り500m・・・繰り返し繰り返し、バルデは攻撃を仕掛けた。しかしそのたびに、エラダは軽い足取りでこれにチェックを入れ、バルデの抜け出しを許さなかった。
そして、残り400mで、今度はこのスペイン人が反撃に出る。そしてそれは、一撃で終わった。
伝説の山モン・ヴァントゥーの山頂を先頭で通過するという栄誉を、この男はしっかりと味わい尽くした。
Contentísimo con esta victoria en una cima mítica como el Mont Ventoux @MontVentouxDC y ante un gran escalador como Bardet, gracias a todo el @TeamCOFIDIS por el gran trabajo y la confianza. pic.twitter.com/lUtzpiXwH9
— Jesús Herrada López (@jesushl90) June 18, 2019
しかしこのワンデーレース、実に面白い試みだったと思う。1クラスのレースであるがゆえに、コンチネンタルチームも含め、普段我々が実際のモン・ヴァントゥーでは見ることのできないような、次代を担う若者たちの熾烈な争いを目の当たりにすることができた。
今年のツアー・オブ・オマーンでも活躍し、着実にトップクライマーへの道を歩みつつあるエリー・ジェスベールも5位としっかりと足跡を残した。昨年のブエルタで勝ったオスカル・ロドリゲスも8位と、あのときの勝利がフロックではなかったことを証明している。彼らはこのあとのルード・ドクシタニーにも出場し、それぞれ総合13位・総合10位と健闘している。
来年以降もまた、注目され続けてほしいこのレース。ただ、あまりにもワールドツアーチームなどが出すぎて、逆につまらない戦いになってしまわないように、これくらいの規模感で、より多くのチーム、選手を招くような形になってほしいとも思う。
ツアー・オブ・スロベニア(2.HC)
ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:スロベニア 期間:6/19~6/23
ドーフィネ、スイス、ドクシタニーと並ぶ「ツール前哨戦」の1つ。ドーフィネやスイスと比べると出場メンバーの「格」は落ちるが、それでも例年、ツールを睨むエース級の選手たちが「無理をしない」調整の一環として参戦している。昨年はプリモシュ・ログリッチェが自身2度目の総合優勝。その前はマイカが総合優勝している。今年もマーク・カヴェンディッシュがこのスロベニアを調整の舞台と位置づけ出場している。
その意味で、今年はやや、層が薄かったかもしれない。少なくともツールを狙った選手の出場は多くなかった印象。それでも、ツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝のタデイ・ポガチャルは絶対的な総合優勝候補として期待されたし、ジロで復活の勝利を成し遂げたエステバン・チャベスの調子が本当に復調しているのかも気になるところだった。マリア・チクラミーノを獲得した今年のジロ最強のスプリンター、パスカル・アッカーマンもまた、平坦ステージでの勝利を確実なものとすることが期待されていた。
蓋を開けてみれば、ポガチャルはカリフォルニアのときのような圧倒ぶりは鳴りを潜めてしまった。第2ステージの途中の山岳では遅れる姿も見せ、より好調だったディエゴ・ウリッシが急遽チームのエースを担うことに。ボーナスタイムもきっちり稼ぐウリッシはそのまま最終日まで調子を維持し、見事、8年ぶり2度目のスロベニア総合優勝を成し遂げる。
Ulissi seals the win at @TourOfSlovenia 🏆🇸🇮
— @UAE-TeamEmirates (@TeamUAEAbuDhabi) June 23, 2019
🗣️@DiegoUlissi: "My form is great at the moment so coming here I wanted to make the most of it."
📝Report&Quotes: https://t.co/xaVpzO66km#UAETeamEmirates #RideTogether #YearOfTolerance #TourOfSlovenia pic.twitter.com/VeYTVzOba7
ポガチャルも後半戦では調子を取り戻し、総合に関わる重要な第4ステージでは、きっちりとウリッシと共に終盤まで残り、ジョヴァンニ・ヴィスコンティに対してウリッシの総合を守る重要な役割を果たすことができた。
そして、このヴィスコンティも含め、ワールドツアーの層が薄かった分、プロコンチネンタルチームの期待の実力者たちがしっかりと結果を残すことのできた5日間だった。元バーレーン、今年からネーリソットーリへと移籍したこのヴィスコンティの総合2位はもちろん、総合3位に昨年のベイビー・ジロ総合優勝者アレクサンドル・ウラソフ(ガスプロム・ルスヴェロ)がついたことも大きな成果。常に集団の先頭で展開するアグレッシブな走りが功を奏して、山岳賞も獲得した。
ラヴニール覇者ポガチャルとベイビー・ジロ覇者ウラソフの関係は、いわばベルナルとシヴァコフの関係のようなものだ。今年はすでにブエルタ・アンダルシア総合8位、ジロ・デ・シチリア総合4位、ツアー・オブ・アルプス総合10位と結果を重ねつつあるウラソフ。今回の総合3位は、その中でも突出した成績であるのは間違いない。
来年もガスプロムで走ることが決まっている彼だが、今年まだ23歳。2021年にどのワールドツアーで走っているのか、楽しみになる選手だ。
ジロでも山岳ステージの逃げで活躍していたアンドレア・ヴェンドラーメ(アンドローニジョカトリ)も、多少の山岳は難なく越えて、その先のスプリントで上位に入り込むという、それこそウリッシにも近い脚質を兼ね備えていた。ボーナスタイムも稼ぎ、総合5位に。今後はアルデンヌ系んワンデーレースでの活躍にも期待したい。
そして、地元パワーを存分に受けたルカ・メズゲッツが、ステージ1勝とポイント賞を獲得。普段はマッテオ・トレンティンの発射台として、「起伏ステージはトレンティン、完全ピュアスプリントはメズゲッツ」みたいな棲み分けが出来上がっていたように思っていたのだが、今回は完全に「登れるスプリンター」と化していた彼。元々そういった脚質があったのか、それとも地元パワーだったのか。
地元の選手が地元のレースで勝つというのは喜びもひとしお。それが、普段はアシストとしての走りが中心となる選手であればなおさら。今後もミッチェルトン・スコットの欠かせない存在の1人として、引き続きその力を発揮し続けていってほしい。
ルート・ドクシタニー(2.1)
ヨーロッパツアー 1クラス 開催国:フランス 期間:6/20~6/23
「ツール前哨戦」4つのうちの1つ。フランス・ピレネー山脈の麓に位置するドクシタニー地域圏を舞台にした小さなステージレースで、クラスは1クラス。しかし1クラスと言えどピレネーを舞台にした本格的な山岳ステージを経験できるという意味で、スロベニア同様「無理をしない」調整を好むツール本命選手たちの参加も多い。
過去の総合優勝者もコンタドールやキンタナ、バルベルデなど錚々たる顔ぶれが揃う。かつては「ルート・ドゥ・スッド」の名で呼ばれてもいた。
そんな今大会、強さを見せつけたのはやはりこの男、世界王者アレハンドロ・バルベルデ。前年に続く総合優勝。しかし、ジロ直前のトレーニング中の怪我からの復帰戦であり、もちろん忘れがちだけれど39歳という年齢での快挙である。
その走りは、怪我明け・年齢を感じさせないものだった。第1ステージではエディ・ダンバーやエリー・ジェスベールといった若手の実力者たちが次々とアタックする中、それを自ら前に出て抑え込むようなオトナの余裕を見せる走り。そして残り250mでリゴベルト・ウランが決定的なアタックを繰り出して他のライバルたちが突き放される中でも、バルベルデだけはしっかりとこれに喰らいついていった。
その直後にウランを追い抜き加速した彼に、誰も追随することなどできない。自らの勝負所をきっちりと把握し、そこに向けてレースの展開を作っていく動きは、さすがベテラン中のベテラン。勝負というものを熟知した走りだった。
La confirmación de que hemos trabajado bien estas semanas. La alegría de volver a ganar con este maillot 🏆. Gracias a @Movistar_Team por todo el trabajo a lo largo de la etapa 👏 pic.twitter.com/lXW4h0vCY1
— alejandro valverde (@alejanvalverde) June 20, 2019
それは総合を最終的に決定付けた第3ステージでも同様だった。第1ステージ以上にサバイバルな展開の中、最終的に先頭に残ったのはバルベルデ、ウラン、そしてイバン・ソーサという実力者たちだけ。
その中でバルベルデは一時的に二人から遅れる場面も見せたものの、そこからしっかりと追い付き、自分のペースを作り上げていった。
そしてラスト150m。ソーサが勝負を懸けたアタック。昨年のブエルタ・ア・ブルゴスで、ミゲルアンヘル・ロペスを完全に打ち倒した強烈な加速が放たれる。
しかし、バルベルデはこれにもきっちりと喰らいついていった。ウランはつき切れし、離されるが、バルベルデは最後までソーサを離さなかった。
最終的にはこの日、ソーサが勝つ。しかしその背後できっちりと2位ゴールを果たしたバルベルデは、ツールに向けた幸先の良い勝利を手に「前哨戦」を終えた。ドーフィネでキンタナが調子が上がらない姿を見せ、ランダもジロでの疲れが残る中、バルベルデだけは、パーフェクトに近い状態にツールに乗り込むことができそうだ。
そして残る2つのスプリントステージではアルノー・デマールが連勝。第2ステージはラモン・シンケルダムのリードアウトが圧倒的過ぎて、完全にお膳立てされた中での当然に近い勝利ではあった。
しかし第4ステージでは、そのシンケルダムすらも残れない混沌とした展開の中で、勇気ある先行アタックを仕掛けたアントニー・マルドナド(サンミッシェル)の動きを冷静に見極め、自らが勝てるタイミングで仕掛けたことで勝利を掴んだ。
今度こそ彼の実力による勝利である。
ジロではあと一歩でマリア・チクラミーノを手にしそびれた彼が、その高いコンディションを今なお維持し続けていることを証明した。
Yes!! 2 eme Victoires sur la @RouteOccitanie ! 🎉💪🏻
— Arnaud Demare (@ArnaudDemare) June 23, 2019
Chapeau pour le contrôle de l’équipe @GroupamaFDJ 👌🏻 pic.twitter.com/cMffIcu8PJ
今年はツールには出場しないということだが、できればブエルタ・ア・エスパーニャには出てほしい。ジロの山岳地帯もしっかりと乗り越えることのできた彼であれば、ブエルタにおいても結果を出すことは十分に可能なはずだ。
スポンサーリンク