りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2019シーズン 7月主要レース振り返り

シーズン最大の盛り上がりを見せるツール・ド・フランス。しかしビッグレース過ぎて、この時期は競合する他の大きなレースはそう多くない。ツールに出ない選手たちにとっては「夏休み」期間となる場合も多い。

 

とはいえ、女子レースでは最大のステージレースであるジロ・ローザが開催されるし、アジア最大のステージレース「ツアー・オブ・チンハイレイク」も開催される。男子トップチームのトップレーサーたちの多くは休みかもしれないが、女子レースやプロコンチネンタルチームたちにとっては重要な期間でもあるこの7月の各種レースを振り返っていこう。

 

↓昨年の7月振り返りはこちらから↓

www.ringsride.work

 

 

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ジロ・ローザ(2.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イタリア 開催日:7/5~7/14

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正式名称ははジロ・ディターリア・インテルナツィオナーレ・フェンミニーレ。女子版ジロ・デ・イタリアとも呼ばれるこのレースは、歴史的にも規模的にも女子レース界最大のステージレースである。

圧倒的な力量を見せつけたのは、ステージ4勝を果たしたマリアンヌ・フォスと、独走力の高さを活かして総合優勝とポイント賞と山岳賞の3冠を達成したアネミエク・ファンフルーテン。

フォスはこれで通算25勝。ファンフルーテンは2年連続の総合優勝となった。

Embed from Getty Images

 

そして若手という意味ではデミ・フォレリング(オランダ、パークホテル・ファルケンブルグ)にも注目しておきたいところ。

今年23歳の彼女は新人賞対象ではないし、新人賞を獲得したジュリエット・ラボウ(フランス、チーム・サンウェブ)よりも総合順位は下だが、それは個人TTによるビハインドと、それ以上に大きすぎたチームTTによるビハインドが原因。

山岳ステージではトップクライマーたちに負けない走りを見せていた。

 

以上3名の注目選手たちについては以下の記事でも書いているので参照してほしい。

www.ringsride.work

  

 

ラ・クルス by ツール・ド・フランス(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:フランス 開催日:7/19

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ツール・ド・フランスのコースを利用して行われる、女子版ツール・ド・フランス?  基本的にはワンデーで、1〜3回目はパリ・シャンゼリゼで、4回目はイゾアール、5回目はラ・グラン・ボルナンと山岳レイアウトが続きアネミエク・ファンフルーテンが連勝。そして6回目となる今年は、男子では個人タイムトライアルの舞台となったポーで開催された。

10%近い登りが複数回、ゴール直前には17%の急勾配が用意されたパンチャー向けレイアウト。となれば、最強はやはりこの選手だった。

ジロ・ローザでも4勝。登りスプリントがあれば寄せ付けるものなしの圧倒的な強さを誇るマリアンヌ・フォスが、独走逃げ切りを狙ったアマンダ・スプラットをゴール前に飲み込み、後続を3秒突き放してフィニッシュに飛び込んだ。

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今年は(今年も?)本当に強いフォス。このまま、同じくパンチャー向けの今年の世界選手権も取ってしまうのではないか?

 

 

ツアー・オブ・チンハイレイク(2.HC)

アジアツアー HCクラス 開催国:中国 開催期間:7/14〜7/27

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アジアでは最大規模のステージレース。その期間は休息日1日を挟んだ13日間で、2週間にも及ぶ。

舞台となるのは中華人民共和国の西部山間部の青海省。標高3,000〜4,000mの高地に位置する青海湖(チンハイレイク)周辺で開催される。

ツール・ド・フランス期間中、アジアの山奥といった特殊要因の中で、普段はなかなか見られないマニアックな選手たちの活躍が見られるレースでもある。

 

優勝したのはメデジンに所属するロビンソン・チャラプッド(コロンビア、35歳)。山岳ステージでもディフェンディングチャンピオンのエルナン・アギーレ(コロンビア、24歳)に食らいつく走りを見せるなど、目を瞠る実力を見せつけた。

 

そのアギーレはチャラプッドから6分39秒遅れの総合14位と大失速。 

ただ、これは初日のチームTTで、アギーレが所属するインタープロ・サイクリングアカデミーがメデジンから3分55秒も遅れ、さらに個人TTでもアギーレがチャラプッドに対して2分57秒も遅れたのが原因でもある。山岳での実力だけならば今年もアギーレがプロトン中1位だったかもしれない。とにかくTT能力の改善が必要で・・・しかしまだ若く、これからの活躍も期待できる男である。

 

そしてその初日のチームTT(なんと40㎞もある!)でメデジンが大勝したことが、チャラプッドの総合優勝に大きく貢献したことは間違いない。何しろ2位のニンシャー・スポーツロッテリーに1分28秒、3位のチーム・サプラ・サイクリングに2分14秒も差をつけているのだ。圧倒的である。

出場チームがコンチネンタル/プロコンチネンタルばかりでチームTTに慣れているチームが多くない中、メデジンの登録国コロンビアではチームTTが国内選手権で開催されているとか?  そこが差を生んだ要因となったのかもしれない。

チャラプッドだけでなく同じメデジンのチームメートであるオスカル・セヴィリャが総合2位、ロビグソン・オヨラが総合6位に入っていることからも、このチームTTが大きなインパクトを残したことは間違いない。

 

また個人TTで最も強かったのが、今年のオセアニア大陸選手権ロード&個人TT覇者、ツール・ド・ランカウイ総合優勝、かつてはツアー・オブ・ジャパン富士山ステージでの優勝経験もあるベンジャミン・ダイボール(オーストラリア、30歳)である。

こちらも個人TT(42㎞!)で2位のピーター・コーニングに1分23秒差をつける圧勝。チャラプッドに対しても2分3秒差をつけており、チームTTでのビハインドをほぼ返した形だ。

ただ山岳ステージでは少しずつチャラプッドやアギーレからは遅れ、総合首位に手が届くところまではいかなかった。

 

 

チンハイレイクではオールフラットから起伏ありまでバリエーション豊かなスプリントステージが多数用意されている。過去にはヤコブ・マレツコやエフゲニー・ギディッチ、マルコ・クンプなど現在も活躍しているスプリンター/パンチャーたちが実績を残している。

今年最も安定して実績を残したのは、昨年も活躍したエドゥアルド・グロース(ルーマニア、27歳)。昨年まではニッポ・ヴィーニファンティーニに所属し、今年からデルコ・マルセイユプロヴァンスに所属する彼は、ステージ2勝に加えて起伏のあるステージでも上位に入り込み、ポイント賞を獲得した。今年は他にロンド・ファン・リンブルフ(1.1)でも勝利しており、キャリア最高のパフォーマンスを発揮している。ルーマニアという、まだまだマイナーな国の出身でありながら、今後も実に期待できる存在である。

 

ニッポ繋がりでいえばイメリオ・チーマ(イタリア、22歳)も、勝利こそなかったものの複数回上位に食い込んできた。

ジロで勝ったダミアーノ・チーマ(イタリア、26歳)の弟で、イメリオの方も同時期のツアー・オブ・ジャパン美濃ステージでは優勝を争うスプリントを見せた。が、このときの接触とクラッシュにより、翌日にDNF。今回のチンハイレイクでやはり強いんだということを示した。

 

その他、3回の区間2勝を記録したモンキー・タウンのバス・ファンデルクーイ(オランダ、24歳)や、終盤のオールフラットステージで立て続けに2勝したメミルCCNのロイ・エフティング(オランダ、30歳)などに注目しておきたい。エフティングは今年のトラック世界選手権スクラッチ種目銀メダリストでもある。

 

 

ツール・ド・フランス(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:フランス 開催期間:7/6〜7/28

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開始前から波乱の続いた今年のツール。クリス・フルーム、トム・デュムラン、プリモシュ・ログリッチェ、フェルナンド・ガビリアといった有力選手たちが揃って欠場する中、総合・スプリント共に荒れ模様になることが予想された。

実際、初日からカオスな展開に。勝ったのはマイク・テウニッセン。優勝候補フルーネウェーヘンがラスト1.5㎞で落車した中で、アシストである彼とファンアールトが見事なコンビネーションでトップスプリンターたちを打ち破った。

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そしてその後も、いつものツールと全然違って誰も「2勝目」を挙げないままスプリンター対決は進んでいく。誰が「最強」なのか分からない、戦国時代ここに極まれりといった感じだった。

が、それを打ち破ったのが第16ステージのカレブ・ユアンであった。それも、今までは彼があまり得意としていなかったはずの、ゴール前の巧みなコース取りで。

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そのままユアンはシャンゼリゼも制し、今大会「最強」の座を手に入れた。ツール初挑戦ではあるが、これまで多くの苦難を乗り越えてきた中での達成であった。

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総合争いでは結果としてはベルナル総合優勝、トーマス総合2位ということで、概ね事前の予想通りの結果となったと言えるだろう。

しかし、その途中経過に関して言えば、まったく予想とは違っていた。何しろチーム・イネオスがマイヨ・ジョーヌを保持していたのは最後の2日間だけであり、それ以外でプロトンを支配するような風景はなかなか見ることができなかったのだから。

代わって14日間に渡りマイヨ・ジョーヌを着用し、個人TTを含む2回のステージ優勝を挙げ、今年のツール・ド・フランスを大いに盛り上げた主役は間違いなくこの人物、ジュリアン・アラフィリップであった。

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チームは総合を狙う体制は作っておらず、彼自身もまったくそのつもりはなく、前半はエリア・ヴィヴィアーニのためのスプリントアシストで足を使ってもいた。誰もがピレネーに本格突入する頃にはそのジャージも失うだろうと思っていた中で、トゥールマレーもガリビエも、彼は乗り越えていった。

最終的に、標高2,700mを超えるイズラン峠で崩れ落ちてしまった彼は、表彰台すら失うことになるが、それでも彼の走りが、今年のツールをここ数年あるいは十数年ぶりの熱狂に包み込んだ。

 

もう1人の主役ともいうべき男がティボー・ピノであった。

ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ、サン・テティエンヌ、そしてトゥールマレーと、常にアラフィリップと共にライバルたちを出し抜き、この2人のどちらかが34年ぶりのフランス人マイヨ・ジョーヌをパリに持ち帰ってくれるものだと、誰もが信じていた。

しかし、アラフィリップがマイヨ・ジョーヌを失った日に、ピノもまた、ツールを去った。苦しみながら、グルペットにすら抜かれながらも、諦めきれないまま走り続け、しかし最後は長年のチームメート、ウィリアム・ボネに肩を抱かれながら、涙を流しながら彼はバイクを降りた。

  

かくして、フランス人の夢は打ち砕かれた。そしてまた、スカイ=イネオスの帝国が築かれた。

しかしその帝国の頂点に立つ男もまた、新たな時代を象徴する男であった。

 

エガン・ベルナル。史上3番目に若いツール覇者。コロンビア人初のツール覇者。そして、タデイ・ポガチャル、レムコ・エヴェネプールらと共に、新たな時代を牽引していくであろう、「ポスト・フルーム」時代の象徴的存在。

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2020年代のツールは果たしてどんな風景が広がっているのだろう。

これから先のツールをも楽しみにさせてくれる、そんな今年のツールだった。

【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2019 第1週(前半) - りんぐすらいど

【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2019 第1週(後半) - りんぐすらいど

【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2019 第2週 - りんぐすらいど

【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2019 第3週 - りんぐすらいど

獲得UCIポイントで見る ツール・ド・フランス2019 全チームランキング&レビュー(22位~12位) - りんぐすらいど

獲得UCIポイントで見る ツール・ド・フランス2019 全チームランキング&レビュー(11位~1位) - りんぐすらいど

 

 

ツール・ド・ワロニー(2.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー 開催期間:7/27〜7/31

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その名の通りベルギー・ワロン地方を舞台にしたステージレース。「アルデンヌ・クラシック」の舞台らしく起伏に富んだコースが用意され、昨年・一昨年はそれぞれティム・ウェレンスとディラン・トゥーンスが総合優勝するなど、パンチャーから登れるスプリンターあたりが活躍するレースである。

今年は第1ステージで逃げ切り勝利を決めたロイック・フリーヘンがそのまま守り切り総合優勝。最終日の登りフィニッシュではトッシュ・ファンデルサンドがあわや逆転か、という走りを見せたが、なんとか耐え抜いて首位を守った。

また、盤石なチーム体制を敷いて最強と思われていたアルノー・デマールが意外とダメだった。第4ステージでは圧勝だったし、第1ステージで勝てなかったのは落車があったから?らしいけれど、最終日とかも本来であれば彼が得意とするレイアウトだったように思う。が、ここで力を示したのはむしろブライアン・コカール(ヴィタルコンセプト)の方だった。

3年連続でツールに出られず、それ以外のレースでもイマイチぱっとしてこなかったコカールが、これを機にまた少しずつ復活してくれたら嬉しいのだが。

 

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