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カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース2019 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:オーストラリア

Region:ビクトリア州ジーロング周辺

First edition:2015年

Editions:5回

Date:1/27(日)

 

 

ツアー・ダウンアンダーに続き、オーストラリアで開催されるシーズン2つ目のワールドツアーレース。

基本的にはフラットながら、ゴール前9.5kmに登坂距離1.2km、平均勾配8.4%、最大勾配20%にも達するという登り「チャランブラ・クレセント」が用意されているため、集団スプリントに持ち込まれるか、登りでアタックした小集団で争われるか、手に汗握る追走劇が演出される可能性の高いレースとなっている。

 

昨年はチャランブラ・クレセントで抜け出した9名の小集団スプリントをジェイ・マッカーシーが制する。

一方、ギリギリで先頭集団に追いついた追走集団の中から凄まじい勢いで飛び出してきたエリア・ヴィヴィアーニが、その他の先頭集団を差し置いて2位につけるなど、その年の好調さを占うかのような走りを見せてくれた。

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おそらく最強のスプリンターはヴィヴィアーニだった。しかし、ケニャックやオスといったアシストたちに助けられ、有利な展開を作り出したボーラ・ハンスグローエがチームの力で最強スプリンターをうち倒した。

 

 

今年はどんなドラマが待っているのか。

以下、コースと注目選手のプレビュウを書いていく。

 

 

 

レースについて

カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレース、通称「カデルレース」は、2015年、オーストラリア人として唯一のツール・ド・フランス覇者となったカデル・エヴァンスの引退レースとして開催された。

以後、2017年からはワールドツアーレースの1つに数えられ、ダウンアンダー閉幕の1週間後に開催されることから、多くのトップライダーたちが参加する注目度の高いレースとなった。

 

過去の優勝者は以下の通り。

 

2015年:ジャンニ・メールスマン

2016年:ピーター・ケニャック

2017年:ニキアス・アルント

2018年:ジェイ・マッカーシー

 

メールスマンとアルントはピュアスプリンターであり、いずれも集団スプリントを制する形となった。

2016年のケニャックはチャランブラ・クレセントで抜け出して独走勝利。

2018年のマッカーシーは先にも書いたように、チャランブラ・クレセントで抜け出したう集団の中でのスプリントを制した。

クラシックを彷彿とさせる、カデルレースで見えた集団駆け引きの妙とは? - サイバナ

(昨年のレースの概要を詳細に解説してくれているブログ記事)

 

今回もまた、ピュアスプリンターとアタッカーたちとのせめぎ合いが楽しめるに違いない。

アムステルゴールドレースやGPブルーノ・ベゲッリのような、絶妙なバランスの好レースである。

 

 

コースについて

コースは2015年の開催以来、大きくは変わっていない。ヴィクトリア州第2の都市ジーロングを出発したプロトンは一時南下し、エヴァンスが住むバーウォンヘッズを抜け、レース名にもなっている「グレートオーシャンロード」の一部を使いながら再びジーロングの街に戻ってくる。

最後は、2010年の世界選手権の舞台にもなったこのジーロングの街の周回コースを3周してフィニッシュを迎えるわけだが、その周回コースの中に問題のチャランブラ・クレセントが含まれている。

昨年のコース。今年も基本的には変更はないはず。

 

周回ごとに削られていく、プロトンの中のスプリンターの足。

そして、最後の登りでここでいくしかないパンチャー/クライマーたちが一気にペースを上げる。

このとき、ライバルのスプリンターを引き千切ろうとするアタッカーやそのアシストたち、そして引き千切られようとしているエーススプリンターを守ろうとするアシストたちの動きに注目していきたい。

 

 

注目選手たち

最後に、今大会の注目選手を確認していこう。

 

ここまで見てきたように、このカデルレースは基本的にはスプリンター有利である。

ただし、チャランブラ・クレセントで必ずプッシュが行われるため、最低限、ここで遅れることがないだけの登坂力が必要になる。

また、そういった「逃げるものと追うもの」の対決が必然となるがゆえに、綺麗なトレインからのチームワークを活かしたスプリントというよりは、昨年のヴィヴィアーニのような、混沌とした状況からの突破力、個人の力というのも必要となる。

チャランブラ・クレセントで攻撃する役割とスプリントで勝利を狙う役割とがはっきりと分かれ両方が機能するチーム体制というのも、勝利の秘訣となりうるだろう。

 

それらを踏まえたうえで、今回のツアー・ダウンアンダーでの走りを考慮に入れて、以下、5名の選手をピックアップしてみよう。

 

 

エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、30歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)

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昨年2位。今回のツアー・ダウンアンダーでも、向かい風により混沌とした第1ステージで、自らの力で進路をこじ開ける突破力を見せつけた。

昨年はチャランブラ・クレセントでライバルたちに先行されるが、その集団内に紛れ込んだドリース・デヴェナインスによるローテーション妨害と、追走集団におけるカペッキの牽引により、ヴィヴィアーニの勝機を手に入れることができたという事実は、先の「サイバナ」の記事に詳しい。

今年もデヴェナインスは調子が良さそうだし、カペッキはいないがたとえばレミ・カヴァニャあたりがその代役を務めることは十分にできそうである。チーム力の高さもヴィヴィアーニの強みだ。

不安要素としては、ダウンアンダーの第1ステージ以外が微妙だったこと。とくに、ピュアスプリント対決が実現したはずの第5ステージで、モルコフとサバティーニによる完璧なリードアウトで残り200mを過ぎてから発射したにも関わらず、その後失速し、ユアンやサガンだけでなくフィリプセンやファンポッペル、デブシェールにまで抜かれてしまったのは気になるところ。

とくに不調を感じさせる様子はなかったように思うが、今の彼は「完璧」とは言い切れない状態と言えるかもしれない。

 

 

ダリル・インピー(南アフリカ、35歳)

ミッチェルトン・スコット(MTS)

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昨年はチャランブラ・クレセントにてエステバン・チャベスと共に抜け出す。チャベスがアタックするなど積極的な動きを見せる中、集団内で足を貯め、最後のスプリントでは3位に入り込んだ。

今年もツアー・ダウンアンダーにて驚きの連覇。もちろん、途中のスプリントでボーナスタイムを稼ぎ出したことと、最後のウィランガ・ヒルで焦ることなくしっかりと自分のペースでタイム差を詰められたことが勝因だ。ウィランガで献身的に牽引してくれたルーカス・ハミルトンの功績も大きかったことだろう。

今年もまたチャランブラで攻撃するかどうか。もしするのであれば、今回はチャベスがいないのでダミアン・ハウスンあたりが鍵となりそうだが、チームの力を信じて集団内に留まり、逃げを捕まえてのスプリントで勝負してもいけそうだ。

 

 

パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、28歳)

CCCチーム(CPT)

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このダウンアンダーで覚醒するも、不運な落車によりチャンスを失った。しかしその怪我が十分に回復していれば、彼の勝機も十分にありうるだろう。過去のカデルレースでの成績はそこまででもないが(昨年は52位。2015年の13位が最高位)、覚醒した選手に過去の実績は大きな意味は持たない。

なお、スプリンターとしてはヤコブ・マレツコもいるが、彼はチームのアシストがあったとしてもチャランブラ・クレセントを越えるのは厳しい気がする。

登りでのアシスト要員としてはビクトル・デラパルテ、最後のリードアウトとしてはフランシスコ・ベントソが重要な役割を果たすだろう。

あとは怪我の状況が問題ないまま本番を迎えられれば良いのだが・・・。

※1月25日付の情報で、ベヴィンが怪我からの回復が十分でないため、カデルレースを欠場することが決まった。チームは新たなメンバーをヨーロッパから呼ぶことが難しいため、カデルレースには6名体制で臨むことになるという。

www.cyclingnews.com 

 

 

ダニー・ファンポッペル(オランダ、26歳)

チーム・ユンボ・ヴィスマ(TJV)

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今年のツアー・ダウンアンダーにおいては、チームとして早く前に出過ぎた第1ステージは9位に沈むが、登りスプリントの第2ステージで4位、第5ステージでも(ユアンの降格もあり)3位と好調。また、ユアンもヴィヴィアーニも脱落した丘陵レイアウトの第3ステージでも、チームの助けを借りながら最後まで生き残りステージ4位に入った。

カデルレースでの実績はほぼなし(2017年のみ出場するもDNF)。だが彼もまだ若い選手で、覚醒は十分にありうるだろう。

ほかの優勝候補チームと比べても、チャランブラ・クレセントで攻撃できる選手が豊富に揃っているのも特長だ。ジョージ・ベネットロバート・ヘーシンクがかき回し、混乱の中で勝機を見つけられるか。

 

 

カレブ・ユアン(オーストラリア、25歳)

ロット・スーダル(LTS)

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ダウンアンダー・クラシックではチーム力を見せつけて勝利。第1ステージでは集団の中に埋もれてしまうも、緩やかな登りスプリントとなった第2ステージではベヴィンに次ぐ2位。

第5ステージでも位置取りと発射のタイミングが成功し、サガンもヴィヴィアーニも降すスプリントを見せつけた。しかし位置取りで頭を出してしまったことで降格の憂き目に。

本人・チーム共に状態が良いのは間違いない。終盤の位置取り争いで冷静に確実に適切なポジションを手に入れることができれば誰にも負けないスプリントを放てる。昨年はミラノ~サンレモでも集団内先頭を取ることができるなど、登りのあとの混沌としたスプリントは決して苦手ではないはず。あとはチームメートたちの助けが万全であれば。

うまくいくときは強いが、うまくいかないと一気に崩れ落ちる不安定さが課題。

 

 

ライアン・ギボンス(南アフリカ、25歳)

チーム・ディメンションデータ(TDD 

ベヴィンが不出場となったため、5人目の候補者としてこの選手を選出する。

南アフリカの誇る俊足ライダー。育成チームの「ディメンションデータ・フォア・クベカ」出身で、トレーニーを経て2017年からチーム入り。その年にツール・ド・ランカウイで総合優勝を果たし、ジロ・デ・イタリアにも2年連続で出場。ステージ上位に頻繁に顔を出す、有望なライダーとしての地位を確立しつつある。

2018年にはブエルタにも出場し、早くも年間2つのグランツールを完走するという才能の高さを見せるとともに、登りでも脱落することのないタフなスプリンターであることを証明した。

そして今回のツアー・ダウンアンダーにて、その才能はさらに進化した。第1ステージや第5ステージのピュアスプリントで上位に来るだけでなく、ヴィヴィアーニもユアンも脱落したウライドラやコークスクリューで生き残る力を見せ、総合4位にまで登りつめる。最終日は新人賞ジャージを着用することに。

さすがにウィランガ・ヒルでは脱落してしまい、最後まで新人賞ジャージを維持することはできなかったが、この登りも含めてこなせる走りは、同じ南アフリカ人スプリンターのインピーや、ディメンションデータの先輩であるエドヴァルド・ボアッソンハーゲンを彷彿とさせる。

今回のチャランブラ・クレセントも彼にとってはまったく障害にならないだろう。トムイェルト・スラフテルやベン・オコナー、ミケル・ヴァルグレンといった元々登りに強いチームメートたちと共に、どれだけほかの優勝候補たちを引っ掻き回すことができるか。