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イル・ロンバルディアとその前哨戦!  2019イタリア秋のクラシックプレビュー

いよいよ世界選手権も終わり、シーズンもクライマックスに。

この10月最大のレースとなるのが、10/12(土)に開催されるモニュメント最終戦「イル・ロンバルディア」である。

 

今回は、その「ロンバルディア」およびその「前哨戦」となる、イタリアで開催される各種クラシックレースをプレビューしていきたい。

いずれもクライマーやパンチャーにとって有利なワンデーレースたち。前哨戦とはいえ、それぞれ個性的な特徴を持っており、優勝者や勝ち方のパターンも多彩だ。

同時期にイタリアで開催される注目レースであるGPブルーノ・ベヘッリとDAZNでも日本語実況・解説が行われるグラン・ピエモンテについても最後の方で少し触れている。

 

もしかしたらこれらのレースで成績を残した選手たちの中から、来年の東京オリンピックの金メダリストが輩出されるかもしれない。その意味でも注目していきたい連戦である。

 

 

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10/5(土)  ジロ・デッレミリア(1.HC)

連続する激坂バトル

ロンバルディア前哨戦の開幕を飾るのは、Giro dell'Emilia すなわちエミリア=ロマーニャ州を舞台にしたワンデーレースである。初開催は1909年と、なんとジロ・デ・イタリアと並ぶ歴史を誇る。

このレースの最大の特徴は、登坂距離2.1㎞、平均勾配9.4%、最大勾配20%超という激坂「サンルーカ」を残り40㎞を切ってから立て続けに5回登るというタフなレイアウト。

今年のジロ・デ・イタリア開幕個人タイムトライアルでも使われたこの激坂は、過去多くのパンチャー・クライマーたちによる逃げ切り勝利を生んできた。

2017年には、バーレーン・メリダが巧みなチームワークを見せてベテランのジョヴァンニ・ヴィスコンティの勝利を演出した。

www.ringsride.work

 

2018年はサンルーカの2回目の登り、ゴールまで残り30㎞を切ったあたりから独走を開始したアレッサンドロ・デマルキがそのまま逃げ切り勝利。同年ブエルタでステージ優勝・インスブルック世界選手権ロード3位と絶好調だったマイケル・ウッズが追走するも、デマルキのチームメートであるディラン・トゥーンスがしっかりとこれを抑え込み、やはりチームワークで勝利を掴んだ。

 

今年はこのトゥーンスがバーレーンに。今年はドーフィネとツール・ド・フランスで共にステージ優勝を飾り、ブエルタ・ア・エスパーニャではマイヨ・ロホも着て2年前に続く絶好調を経験しているトゥーンスが、いよいよこの秋のクラシックを制するかもしれない。

バーレーンはほかにもヴィンツェンツォ・ニバリや彼をジロで強力にアシストしたダミアーノ・カルーゾ、さらには今年のブエルタ後半で尻上がりに調子を上げてきて総合15位となったヘルマン・ペルンシュタイナーなど、強力な面子が揃っている。

その他、激坂&逃げ名手のアレックス・アランブル(カハルラル)などにも注目しておきたい。

 

 

10/8(火)  トレ・ヴァッレ・ヴァッレジーネ(1.HC)

最後は小集団スプリント

こちらも初開催は1919年と歴史ある大会。舞台はいよいよロンバルディア州に。

Tre Valli Varesine は「3つの渓谷」を意味する。その名の通り、ヴァレーゼ湖を巡る渓谷地帯を駆け巡るこのレースは、中盤に500m級の山岳を乗り越える。

しかしそのあとはヴァレーゼ市街地の周回コースに。アップダウンは激しいが、例年多くても10数名の小集団スプリントで決着する。

昨年はティボー・ピノやマイケル・ウッズなどを含んだ6名の小集団スプリントを、ラトビアのパンチャー、トムス・スクインシュが制した。過去にはコルブレッリやアルバジーニが勝つこともあり、スプリント力のあるクライマーかパンチャー、あるいは登れるスプリンターに類する選手たちにもチャンスがあり得るだろう。

イル・ロンバルディア本戦も最後は小集団スプリントになることも多い。このレースもまた、ロンバルディアを占う重要なレースだ。

優勝候補だが、注目したいのは2年前のジロ・デッレミリア覇者でもあるジョヴァンニ・ヴィスコンティ。今年はプロコンチネンタルチームのネーリソットーリ・セッレイタリアKTMに所属しているが、9月に開催された「前哨戦の前哨戦」ともいうべきジロ・デッラ・トスカーナでも優勝している。

このときは、今回のロンバルディアでも注目されるであろうツール覇者エガン・ベルナルと、ガスプロム・ルスヴェロに所属するニコライ・チェルカソフと共に逃げ、その3名によるスプリントで圧勝した。ツアー・オブ・スロベニアでも似たような状況でウリッシやポガチャルを差している。終盤まで残れば誰にも負けないスプリント力を持つ彼が、今年の「トレヴァッレ」最注目選手となるだろう。

 

 

10/9(水)  ミラノ〜トリノ

イル・ロンバルディア以上のピュアクライマー向けワンデー

ロンバルディア前最後に開催される前哨戦。その歴史は古く、初開催は1876年。「イタリア最古のクラシック」とも呼ばれる。

その名の通り、ロンバルディア州州都ミラノ近郊を出発し、前半、というかコースの大半はポー平原のフラットなレイアウトを駆け巡る。そうして終盤、残り25㎞を切ったあたりから、トリノ近郊のスペルガ峠を2回登る。

1回目の登坂は4㎞。2回目、すなわち最後の登りは5㎞。いずれも平均勾配は9%を超え、最後は山頂フィニッシュ。明らかなクライマー向けコースであり、イル・ロンバルディアとはまた違ったタイプの勝者が生まれることも多い。

昨年はその年のロンバルディア覇者ティボー・ピノが優勝。ただし、実力だけでいえば2016年覇者ミゲルアンヘル・ロペスが勝っていてもおかしくはなかった。彼がダヴィ・ゴデュと絡むアクシデントさえなければ。

今年最大の優勝候補はエガン・ベルナル。ロンバルディア本戦にはやや向いてなさそうな彼ではあるが、このミラノ〜トリノは、その特性が十全に発揮されるレイアウトである。

 

 

 

10/12(土)  イル・ロンバルディア

ソルマーノの壁とチヴィリオの下りが勝敗を分ける

「落ち葉のクラシック」の異称をもつシーズン最終盤のワールドツアーレース。「モニュメント」と呼ばれる5つの最高峰ワンデーレースの最終戦である。

5つのモニュメントの中で最もクライマー向け。過去の優勝者もダン・マーティン、ニバリ、チャベス、ピノといったグランツールでも活躍するクライマーたちばかりである。

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展開が動き始めるのは、残り75kmあたりから始まるマドンナ・デル・ギザッロの登りと、その直後のムーロ・ディ・ソルマーノ(ソルマーノの壁)の激坂。

 

マドンナ・デル・ギザッロの登り2段階に分かれており、いずれも10%を超える激坂区間を有する。

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とはいえ、この登りはまだ、セレクションがかかるレベルではない。

むしろこの登りの最大の特徴は、その頂上に位置する「サイクリストの聖地」マドンナ・デル・ギザッロ教会の存在である。

世界チャンピオンたちの奉納したジャージや自転車が飾られているというこの教会は、選手たちが通過したタイミングで鐘の音を鳴らしてくれる。

これこそが、この「落ち葉のクラシック」の本当の戦いの始まりを告げる合図。

この鐘の音と共に、プロトンの緊張感は一気に高まるのである。

 

そして、下りを経て登場するのが、イル・ロンバルディア最大の難所ムーロ・ディ・ソルマーノ(ソルマーノの壁)

 

登坂距離は2kmに満たない短さ。しかしこの短さで、300m以上の標高を駆け上がる。

すなわち、平均勾配は15%超。そして、最も厳しい区間で27%にまで達するというその激坂は、「世界で最も過酷な自転車道」「不可能の怪物」などと呼ばれたりもする。

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その路面には登坂距離がペイントされ、登るものに視覚的にもその厳しさを伝える厭らしい仕様。

この登りで、勝負は動く。昨年は、チーム・ロットNLユンボ(現ユンボ・ヴィズマ)が集団をコントロール。ロベルト・ヘーシンクのリードアウトによってプリモシュ・ログリッチェがアタックして戦端が開かれた。

このログリッチェのアタックを、過去2度優勝しているヴィンツェンツォ・ニバリが追随する。そして、このチャンピオンの攻撃に反応できたのはティボー・ピノただ一人であった。

 

ログリッチェに追い付き、そのまま抜き去ってしまったニバリと、これに喰らいつき続けたピノ。2人は後続を10秒以上突き放し、危険なダウンヒルへと突入する。

 

 

「誰が勝てないか」を炙り出し、セレクションをかけるムーロ・ディ・ソルマーノ。

しかし、ここで勝負が決定的になるわけではない。この登りの頂上からゴールまではまだ50km近くあり、下りの終端から次の登りまでは15km近い平坦路も存在する。

 

よって、ムーロ・ディ・ソルマーノを先頭で通過しただけで優勝が約束されるわけではない。それがこのロンバルディアの面白いところだ。

今回も、抜け出したニバリとピノに、のちにログリッチェとエガン・ベルナルが追い付いてきた。

年によっては、普通にプロトンに捕まって振り出しに戻ることすらある。それでも、そのプロトンは本来よりもずっと縮小した小さなものであることは間違いないのだが。

 

 

そして、勝負は最後の重要地点「チヴィリオ」に。

 

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チヴィリオは残り22kmを切ったあたりから始まる、平均勾配10%弱の短い登り。

厳しい登りであることは間違いないが、それでもソルマーノの壁に比べれば大したことがないように思える。

 

しかし、すでにフィニッシュ直前というこの局面は、この登りをこのレースで最も重要なものに変える。

昨年は、ピノがここで果敢にアタック。すでにソルマーノで力の差を見せつけられていたログリッチェとベルナルはすぐさま脱落するも、ニバリは決して引き離されない。

だが、2年前はここでニバリに突き放されたピノが、逆に今度は、繰り返し、繰り返し、繰り返したアタックの末にニバリを突き放す。

 

そのまま、苦手なはずだったダウンヒルを実に見事にこなし、ダウンヒルスペシャリストのニバリとのタイム差を逆に開きにかかってそのまま独走勝利。

ジロを最終日直前でリタイアするという悔しい思いを抱えながらブエルタではステージ2勝を飾り、勢いを増した状態で手に入れた初のモニュメント勝利。今年に繋がる調子の良さを象徴する瞬間だった。

Embed from Getty Images

 

 

とはいえ、このチヴィリオの登りで必ずしも勝負が決まるわけではない。やっぱりこの登りも、頂上を超えてもなお、ゴールまでは18kmも残っているのだ。

 

1つ目の勝負所は、チヴィリオのテクニカルな下りである。2015年と2017年の覇者ニバリは、いずれもこの下りでライバルたちを振り切り、独走に持ち込んだ。

昨年のピノは逆にこの下りでニバリを突き放して勝利を決定的なものにした。

 

そして、ゴール前には最後の登り、サン・フェルモ・デッラ・バッターリアが。

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チヴィリオよりもさらに難易度の低い登りではあるが、その頂上からゴールまでは5.3km。

2015年には、チヴィリオの下りで差をつけられた追走集団の中からダニエル・モレーノが飛び出し、ニバリとのタイム差を10秒近くにまで縮めるものの、結局チヴィリオでつけられたリードを奪い返すことはできなかった。

 

基本的には勝負はチヴィリオの登りか下りかで決まる。ただ、最後のこの登りは忘れてはいけない存在だ。

昨年はこの登りに代わって初登場のモンテ・オリンピノの丘が設けられたが、今年は再びこの伝統的な登りが復活。

2度制しているニバリにとっては、可能性を感じさせてくれるレイアウトとなっているだろう。
 

 

今年もニバリに期待したいところだが、現状、今年のコンディションはそこまではよくないように思える。同じ下りスペシャリストとしてはアスタナのヨン・イサギレや昨年は惜しいところまでいったプリモシュ・ログリッチェなどに期待したい。

また、イタリアチャンピオンジャージを身に着けたダヴィデ・フォルモロによるイタリア人勝利も期待したい。ブエルタ・ア・エスパーニャでは序盤でリタイアしてしまったのが残念ではあったが、シーズン前半ではカタルーニャ1周最終ステージでの独走勝利や、リエージュ~バストーニュ~リエージュ2位など好成績を残している。足もまだ残っているだろうし、前哨戦も含めその走りには注目したい。

エマヌエル・ブッフマンや、ツールの落車から復帰予定のマキシミリアン・シャフマンなど、チームメートも強力な選手が揃っている。

トレック・セガフレードのジュリオ・チッコーネも、ジロ、ツールと魅せたイタリアの新時代のエースとしての才能を、輝かせてくれるか。

 

 

シーズン最終盤の、最重要レース。

きっと見逃せない展開が待ち受ける「残り75km」から、決して目を離さないように。

 

 

 

その他のレースたち

上記、イル・ロンバルディア前哨戦レース以外にも、この時期は実に魅力的なイタリアのレースが待ち受けている。

たとえば10/6(日)。ジロ・デッレミリアの翌日に開催されるグラン・プレミオ・ブルーノ・ベヘッリは、ゴール前9kmに登りが用意されたレイアウトで、ここでアタックしたクライマーと、これを追いかけるパンチャー&登れるスプリンターとの追いかけっこが毎回実に手に汗握るものとなっている。

2015年は追いついた集団スプリントでソンニ・コルブレッリが勝っていたり、2017年はルイスレオン・サンチェス、2018年はバウケ・モレマがそれぞれ登りでアタックして逃げ切っている。

今年はユンボ・ヴィズマのアントワン・トールクや最近調子の良いミッチェルトン・スコットのジャック・ヘイグなどに期待したい。イネオスも、ベルナル、ソーサ、モスコン、ゲオゲガンハートとかなり豪華なメンバーを揃えてきている。

 

また、ミラノ~トリノ翌日の10/10(木)に開催されるグラン・ピエモンテも、イル・ロンバルディアの前哨戦の1つと言ってよいかもしれない。

DAZNでも日本語実況解説が予定されているというこのレースは、過去にはイタリア国内選手権ロードレースとして使われたこともあり、そのときはファビオ・アルが優勝している。

コースは毎年一定ではないが、昨年はスプリンター向けレイアウトながら大雨の中での開催で、そういった悪コンディションに強いソンニ・コルブレッリが優勝。

そして今年は、2014年ジロ・デ・イタリアでナイロ・キンタナが、2017年ジロ・デ・イタリアでトム・デュムランが制した「聖なる山」オローパの山頂フィニッシュ。

1999年のジロ・デ・イタリアで、残り8kmでチェーンを落としたマルコ・パンターニが49人もの選手をごぼう抜きにしたという、「伝説的」な走りで有名な地でもある。

 

本格的なクライマー向けコースとなる今年のグラン・ピエモンテで、勝つのは誰か。

まだまだスタートリストが決まっていないので予想もできないが、それこそ来年の東京オリンピックに向けた前哨戦の1つとして捉えてしまってもよいかもしれない。

 

 

 

まだまだロードレースシーズンは終わっていない。むしろこれからがクライマックス。

白熱するイタリア秋の連戦を、決して見逃すな!

 

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