スペイン南部、灼熱のアンダルシアを舞台に繰り広げられた5日間のステージレース。
ピュアスプリンター向けのステージは1つもなく、個人TTですら山がち。パンチャーやクライマーたちが鎬を削ることとなる山岳テイストなステージの連続に、日々優勝候補が目まぐるしく変わる予想のつかない展開が生み出された。
そんな中、昨年の総合優勝者ティム・ウェレンスは今年も強さを見せつけ、そして万全のチーム体制で挑んだアスタナやミッチェルトンがこれを突き崩そうと攻撃を繰り出していく。
気温だけではない激熱な展開の続いた「太陽の道」レースの全ステージを振り返っていこう。
↓コース詳細はこちらを参照のこと↓
- 第1ステージ サンルーカル・デ・バラメーダ~アルカラ・デ・ロス・ガスレス 164km(丘陵)
- 第2ステージ セビリャ~トレドンヒメノ 216km(平坦)
- 第3ステージ マンチャ・レアル~ラ・グアルディア・デ・ハエン 16.2km(個人TT)
- 第4ステージ アルミラ~グラナダ 120km(山岳)
- 第5ステージ オトゥラ~アラウリン・デ・ラ・トレ 163.9km(丘陵)
- 総合成績
第1ステージ サンルーカル・デ・バラメーダ~アルカラ・デ・ロス・ガスレス 164km(丘陵)
第1ステージから昨年の総合優勝争いの鍵となった「アルカラ・デ・ロス・ガスレス」の石畳激坂フィニッシュが用意された。昨年はティム・ウェレンスがミケル・ランダを相手取って圧倒した登りだ。
今年はアスタナ・プロチームやミッチェルトン・スコットがかなり強力なメンバーを連れてきており、激坂ハンターのディラン・トゥーンスがいるなど、昨年のようなウェレンスの独壇場とはいかないのではないか、と思っていた。
残り1kmを切って、まず存在感を示したのが、先頭付近に3名を入れてきたアスタナ・プロチームであった。
まず抜け出たのがフルサング。これを2番手につけるウェレンスは許さない。そして残り350mを切って、今度はヨン・イサギレがアタックを見せた。
だが、ラスト250m。今度はウェレンスが自らのタイミングで先頭に躍り出た。そのまま昨年と同じ「シッティングのまま」石畳の激坂を駆け上っていく。
こうなったらもう、誰も手がつけられない。
コースを知り尽くした男の、予告通りの大勝利。
エースばかりの布陣で挑んだはずのアスタナも、ミッチェルトンも、遥か後方に置き去りにしての勝利であった。
この日、驚くべき走りを見せたのは4位に入ったジャック・ヘイグ。昨年はジロとブエルタで、サイモン・イェーツの躍進をサポートし続けた名アシストの彼が、今回の「激坂」で意外な好走を見せてくれた。
2018年にはリエージュ~バストーニュ~リエージュで14位。移籍してしまったロマン・クロイツィゲルを除けば、チーム最高位である。
今年の彼はもしかしたら、アシストとしてではなく、アルデンヌ・クラシックのエースとしての活躍を、期待することができるかもしれない。
第2ステージ セビリャ~トレドンヒメノ 216km(平坦)
216kmのロングコースの終着地点は、20kmで300mを登るゆるやかな登り基調。登りとはいえ緩やか過ぎるため、集団スプリントでの決着が予想されていたが、そこはアンダルシア。事前情報の数字とは明らかに異なるような思いのほか急な勾配が最後に現れ、結局は登れるスプリンターたちによる決戦となった。
最初に抜け出したのはNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ。過去アンダルシアで2勝している優勝候補フアンホセ・ロバトが、急成長中の若手マルコ・カノラを引っ張り上げるべく最高のリードアウトを見せるが、そのカノラがこれについていけず。逆に抜け出したのは、昨年スプリンターとしての才能を発揮し始め、ブエルタ・ア・エスパーニャでも好成績を残していたイバン・ガルシア。
この勢いはすさまじく、誰もついていけない様子であったため、もしかしたら、という期待はあった。しかし、ゴールまでは遠すぎた。残り150mで失速。
逆に、落ち着いて自らの仕掛ける最良のタイミングを待っていたマッテオ・トレンティンが、残り250mからスプリントを開始してガルシアを追い抜き、バレンシアに続く登りスプリントでの勝利を果たした。
この日、驚きの走りを見せたのが、エウスカディバスクカントリー・ムリアスのエンリケ・サンス。キャリア前半はモビスターに所属していた彼は、その後プロコンチネンタルチームやコンチネンタルチームを転々とし、昨年からは現在のバスクチームに。今年30となる、中堅~ベテラン選手である。
軽量級のパンチャータイプで、今回のような登りスプリントには最も向いている脚質。これからも大きなレースでの勝利は難しいかもしれないが、プロコンチネンタルチームでのエースという身の丈にあったポジションで、着実に成績を重ねていくことを期待したい。
第3ステージ マンチャ・レアル~ラ・グアルディア・デ・ハエン 16.2km(個人TT)
16.2kmの個人タイムトライアル。といっても平坦ではなく、登りとテクニカルな下りが含まれた難易度の高いタイムトライアルであり、TTスペシャリストというよりは登りもこなせるオールラウンダータイプの活躍が期待された。
その予想に準ずるが如く、サイモン・イェーツが早々にトップタイムを更新。兄弟のアダムも、昨年のTTの不調を覆すかのような好記録でサイモンのタイムを更新。
そしてここからは、本格的にTTを得意とするオールラウンダーたちが次々とトップタイムを更新していく。ステフェン・クライスヴァイク、ヨン・イサギレ、そしてヤコブ・フルサング・・・だが、さすがに最終出走者のティム・ウェレンスが、これをさらに更新するとは思ってもいなかった。
大会2勝目。
ダウンアンダーのインピー、オマーンのルツェンコに続き、ウェレンスもまた、昨年に続くアンダルシア制覇を果たすのか。
その可能性が濃厚になったように感じられた日であった。
第4ステージ アルミラ~グラナダ 120km(山岳)
120kmの比較的短いコースに2つの1級山岳。獲得標高2600mの正真正銘のクイーンステージ。頂上フィニッシュではないがゆえに、総合逆転を狙うチームの早い段階での攻撃が予想された。
そして、そういう攻撃の際には、個人の力以上にチームの力が重要になる。今大会、圧倒的なチーム総合力を揃えたアスタナ・プロチームとミッチェルトン・スコットが、ほぼ単騎のウェレンスに対して容赦ない波状攻撃を仕掛けた。
ゴールまで残り36km。
最後の1級山岳に登る直前に配置された2級山岳の登りで、ミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツが最初の攻撃を仕掛けた。
サイモンはすでに14分以上遅れている総合104位。彼の攻撃自体は脅威ではなかったが、問題はここにアスタナのルイスレオン・サンチェスと、そして何よりも、28秒遅れの総合6位のペリョ・ビルバオが合流したことはウェレンスにとっては看過できないことであった。
ロット・スーダルはすでにアシストが1名のみ。ブエルタ・ア・エスパーニャでの勝利経験もあるポーランド人のトーマス・マルチンスキーが懸命な牽引を見せ、3名を吸収。その直後に再びビルバオがアタックを仕掛け、これが飲み込まれた後に2度目のサイモンのアタックと、今度は14秒遅れ総合3位のヨン・イサギレがついていく。
マルチンスキーはこれも吸収した。しかしここで力尽きてしまった。三度アタックしたサイモンとビルバオ、そして単独で逃げていたセルジオ・サミティエルの3名が先行する。ウェレンスはすでに単独。メイン集団の先頭で牽引するほかなく、ビルバオが前に出るのを見逃すことしかできなかった。その背後には総合2位、7秒遅れのフルサングがきっちりとマークしている。
そして、トドメの一撃は残り33kmで放たれた。
メイン集団からまずはルイスレオン・サンチェスがアタックし、続いてフルサングが抜け出してこれに合流した。
もはや、ウェレンスは動けない。これを見てミッチェルトン・スコットのアダム・イェーツと総合5位のジャック・ヘイグ、同4位のクライスヴァイクも抜け出してフルサングに合流。ウェレンスは完全に引き離された。
あとはもう、この立場が逆転することは最後までなかった。追走の途中で落車したらしいウェレンスは残り27km地点で先頭集団とは1分近いタイム差が開き、そのままずるずると遅れていった。
同じころ先頭集団からはサイモンがアタック。総合優勝争いに関係のない彼を躍起になって追いかける選手はおらず、そのまま彼が独走勝利。彼にとってのシーズン開幕戦となったこのアンダルシアで、その調子が悪いわけではないことを証明して見せた。
同じころ先頭集団からはサイモンがアタック。総合優勝争いに関係のない彼を躍起になって追いかける選手はおらず、そのまま彼が独走勝利。シーズン最初のこのアンダルシアは総合争いに関わることはなかったものの、その調子が悪いわけでは決してないことを証明してみせた。
この日、注目の走りを見せたのはフンダシオン・エウスカディ所属のセルジオ・イギータ。すでにバレンシア1周レースで新人賞を獲得するなど才能を発揮し始めていた選手だが、このクイーンステージで先頭集団に喰らいつき、最後はスプリントで集団先頭を取るだけの足を残しているとは・・・。
ずっとスプリンターだと思っていたが、Jsportsの放送内ではクライマー認定されており、まあ冷静に考えれば確かに・・・と思わなくもないが、とにかく脚質は謎。将来的にはバルベルデのようなポジションに立てる存在と言えるかもしれない。
イギータについてはこれからも最大級の注目をもって見るべき存在。本当、若手の才能が次々と誕生し続けており、恐れ入る。
第5ステージ オトゥラ~アラウリン・デ・ラ・トレ 163.9km(丘陵)
アンダルシアは最後までピュアスプリンターのためのステージは用意されない。この日も、ラスト200mは結構な勾配で、ミッチェルトン・スコットのリードアウター(エドアルド・アッフィーニ??)も登りに入った瞬間に力つきた。
よって、第2ステージでも上位に入った登りに強いスプリンターたちが上位を占める結果に。そんな中であればトレンティンが最強なのは間違いないだろう。なんだかんだ、リードアウターが残り200mまで(一瞬、集団を突き放して独走態勢に入りそうな姿を見せて)先行したことで、トレンティンの前に位置していたライバルたちにきっちりと足を使わせたのは、大きかったとは思う。今回もトレンティンが最高のタイミングでスタートし、あとは誰一人、ついていくこともできない圧勝だった。
この日もサンスは強かった。ゴール後には悔しそうにハンドルを叩く姿が見られ、それだけ本人としても手ごたえがあったのだろうと感じられる。
そんな中、注目すべき走りを見せたのがラリー・UHCサイクリングのコリン・ジョイス。昨年はアークティックレース・オブ・ノルウェーで1勝したほか、ツール・ド・ヨークシャーでも上位に入るなど、やはりパンチャー向けレイアウトのスプリントで存在感を示す選手だ。
今年もこれらパンチャー向け1クラス/HCクラスレースでは上位入賞を期待していこう。
総合成績
初日の激坂フィニッシュ、そして個人TTで強さを見せつけて、今年もウェレンスが優勝か・・・と思った中で、戦前から注目されていたチーム力を活かして見事な勝利を成し遂げたアスタナ。第4ステージの波状攻撃は見事の一言であった。
このチーム力は昨年から見られるアスタナの強みであり、かつてグランツールを席巻していた時代を思い出させるものである。今年のグランツールで、この強さを再現してみせてほしい。
今回の総合上位陣の中で注目すべき選手として最後に挙げたいのは、総合8位に入ったロシア人のアレクサンドル・ウラソフ。昨年のU23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)総合優勝者であり、ツール・ド・ラヴニール総合4位。パヴェル・シヴァコフに次ぐ、ロシア期待の若手である。今回、もしも新人賞が設定されていれば、イギータに次ぐ新人賞2位となっている。
第3ステージの個人TTでも(それなりに引き離されてはいるけれど)10位に入り込み、クイーンステージでもトップ集団には置いていかれたものの、その後ろの大集団からは抜け出した形でゴールできており、エリート選手に混じっても十分に渡り合える足を見せてもいる。
昨年のトップレースでは目立つ走りはできなかった彼が、今年どれだけの進化を見せられるか。楽しみに見ていきたい。
HCクラスとはいえ激熱な展開の連続で予想以上に楽しめた今年のアンダルシア。
各ステージで若手を中心にワールドツアー以外の選手たちも上位に入り込む姿も見られ、来年以降も楽しみにしていきたいレースである。