マチュー・ファンデルポールが3年連続となるヨーロッパ王者に輝き、オランダ王者・欧州王者・世界王者の3枚のジャージを独占する事態となった。
結局、「怪物」は強すぎたのか。
いや、今回の展開を見ていくと、彼が誰からも届くことのない無敵な存在であるかどうかは、まだ何とも言えない。
ゴールに飛び込むマチューの背後に、わずか3秒差で迫るエリ・イゼールビットの姿が、その事実を物語っている。
マチューは確かに強かったが、彼だけが強いわけではない。
エリ・イゼールビットは前回のスーパープレスティージュ第4戦ロッデルヴォールデよりも着実に進化しており、それを支えるベルギーチームの結束も、怪物を確かに抑え込んでいた。
今回の「3秒」はベルギーの希望なのか、それとも、それでも届かない絶対的な壁なのか。
今回は、マチューvsイゼールビットの「新・頂上決戦」の第2幕を振り返っていく。
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ヨーロッパ選手権の「3秒」の意味
今年で5回目を迎える、シクロクロスヨーロッパ選手権。
オランダ、フランス、チェコ、オランダときて今年はヴェネト州シルヴェッレを舞台とした初のイタリア開催。
男子エリートでは昨シーズンのUCIランキングの最高位で34位(国別では9番目)という決して「強国」ではないイタリアでの開催だったが、女子エリートではエヴァ・レヒナが銀メダルを獲得するなど、母国になんとか錦を飾った。
そんなイタリアでの欧州選手権は、2日前まで降り注いだ大雨の影響で深刻な泥の中での戦いが予想されたが、週末の2日間だけ奇跡的に晴れ渡った結果、比較的乾いた路面での戦いとなった。
それでも泥は厚く、足は容易に取られる。13のヘアピンカーブを特徴とするテクニカルなコースで、最初にリードを奪ったのはベルギーのクインテン・ヘルマンスであった。
しかし1周目の途中から、いきなりファンデルポールがペースアップ。いつもの独走態勢を生み出しかねないその加速に、ベルギー人によって固められた第2集団は色めき立つが、まだファンデルポールはここで決め切れるほどの足を見せることはなかった。
1周目は、先頭のファンデルポールから遅れること5秒でイゼールビットとヘルマンスが通過した。
ファンデルポールの次なる攻撃は第3週に繰り出された。しかしここでも、イゼールビットと、そして彼の普段のチームメートであるマイケル・ファントーレンハウトとが食らいつき、逃がさない。
そうして追いつかれたファンデルポールは牽制に入り、一時はイゼールビットとファントーレンハウトが先行する場面も。
「ジャージには満足しているが、フィーリングにはそれほど満足できていない」とレース後に語ったファンデルポールは、まだシクロシーズン突入1週間目でしかなく、調子が上がりきれていない様子は確かにあったようだ。
それでも、それ以上に、彼に抑えた走りを強いる形となったベルギーの「数の作戦」は実にうまくいっていたように思える。
とくにファントーレンハウトが4周目・5周目を先頭で通過し、ファンデルポールをヘルマンスが追いかける中、イゼールビットがこの中盤のセクションでしっかりと足を貯められていたのは大きかった。
ロッデルヴォールデでは序盤に怪物に食らいつき過ぎた結果最後には足を残せずに終わった彼が、その失敗を乗り越え、チームメートたちの助けを借りて、6周目には再びファンデルポールの後輪を捉えたのである。
そして、最終周回となる第7周目。
ここで、ファンデルポールは最後のスパートをかけた。ここまでで最高の加速。溜め込んでいたパワーをすべて吐き出すようなアタックであった。
最初はこれになおも食い下がり続けたイゼールビット。この最終局面でなお、これほどの力を残していた彼は、確かに1週間前よりはずっと強くなっていた。
だが、ラスト半周。ファンデルポールの、トドメを刺す一撃。
これにより、ついにイゼールビットは引き離された。最後は3秒。これがイゼールビットが、ベルギーが、ファンデルポールに届かない距離だった。
今回、ファンデルポールは確かに実力を出し切れていなかった。
ゴールしたあとのイゼールビットも、ファンデルポールが加速の力において十分ではなかったことに触れ、それでもなお勝てなかったことに「チャンスを逃した」と感想を述べている。
しかし一方で、翌日の「ヤーマルクトクロス」では相変わらずの無双ぶりを発揮し、2位のローレンス・スウィークに1分20秒という大差をつけて圧勝しているファンデルポール。
そのことを考えれば、今回のベルギーチームが、この「怪物」をよく抑え込んだと評価することはできるだろう。
今回は敗北したベルギー、そしてイゼールビット。
だが、彼らの最大の目標は2月の世界選手権。ワウト・ファンアールトの不在は大きな痛手ではあるものの、そのうえでなお、アルカンシェルジャージの奪還に向けて、その走りに期待していきたい。
そしてエリ・イゼールビットの、さらなる成長にも。
おまけ1:ファンデルポールの2020年ロードのスケジュール
今年は2クラスのトルコのレースからロードレースシーズンを開始し、3月のグランプリ・ド・ドナンから本格参戦。ドワースドール・フラーンデレンやアムステルゴールドレースで衝撃的な勝利を果たし、わずか31日の出場で世界ランキング12位という恐るべき結果を叩き出したファンデルポール。
そんな彼の、2020年の暫定スケジュールが発表された。
上記記事によると、2020年のファンデルポールは、まずはストラーデ・ビアンケに初出場する予定だという。
過去2年、ワウト・ファンアールトが3位に食い込んでいるこのレースで、ファンデルポールはどんな結果を出してしまうのか。
いきなり優勝してしまっても、何も驚くべきことはないだろう。
その後、ティレーノ~アドリアティコとミラノ~サンレモにそれぞれ初出場。ミラノ~サンレモとか、フィリップ・ジルベールあたりが泣いて叫びそう。
続いてヘント~ウェヴェルヘムやドワースドール・フラーンデレン、ロンド・ファン・フラーンデレンといった今年と同じレースに出場しつつ、今年はあえてパスしたパリ~ルーベにも出場予定だという。
今年、衝撃的な結末を生み出したアムステルゴールドレースに再び挑戦するかどうかは定かではない。いずれにせよ、5月から始まるマウンテンバイクのワールドカップに向け、一旦の休息に入る必要がある。
2020年のマチュー・ファンデルポールの最大の目標は、このマウンテンバイク・クロスカントリーなのだから。
そしてまた、「グランドツアーは大きな新しいチャレンジだ。ブエルタ・ア・エスパーニャに行ってみたい」というファンデルポール。
もちろん、上記のスケジュールを本当に実行するためには、そもそもそれらのワイルドカードを手に入れる必要がある。
ただ、本当にこのスケジュールが実現したとしたら、それはもう、かなり楽しみなスケジュールであると言える。
おまけ2:もう1人の「怪物」
今回のヨーロッパ選手権では、もう1人の「怪物」の萌芽とも言えそうな存在が表れている。
それが男子ジュニアを優勝したティボー・ネイス(ベルギー、17歳)。かの、シクロクロス界の「カニバル(人喰い)」ことスヴェン・ネイスの息子である。
すでに才能を発揮しつつある彼は、ジュニア1年目の昨年にすでにこのヨーロッパ選手権で3位に輝いている。
今年は2年目にして早くもリベンジ達成。昨年は4位に終わった世界選手権でも、同様に頂点を目指したい。
すでにして、イヴェネプールの「次」を見据えるような若い才能の登場に胸を膨らませる。
今後のシクロクロスは、彼の活躍からも目を離せなさそうだ。
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